「が無事でよかったわ」
「ホントだよ。よく戻ってきたな」
「すいません。皆さんにご迷惑をおかけして」
部屋に戻り、は着替えを済ませて寝室に居た所
僕がアニエスさんやヒーロー全員に連絡を入れて彼らがゾロゾロとマンションへとやってきた。
ベッドで体を半分起き上がらせているを取り囲むように
全員がの無事に安堵していた。
「しかし、よく逃げ出してこれたな」
「え?」
「今までお前の姿どころか、手がかりすらなかったのによぉ」
虎徹さんの言葉に誰もが頷く。
確かに逃げ出してきたことにはある意味奇跡に近いものを感じる。
あれだけ何の手がかりもなかったのに、途端目撃証言が出て
遂には探していた本人が現れるという始末だ。
「ぁ、あの・・・それは・・・っ」
虎徹さんの言葉に途端が口ごもり始める。
目を泳がせ、言葉を選んでいる素振り。
「皆さん。とりあえずが見つかったことですし祝杯を上げませんか?」
言葉を探しているに僕は助け舟を出した。
違う。言い方を変えれば・・・逃してやった、という方が正しい。
「あーそれもそうだな」
「いいわ。じゃあ今日は私がご馳走してあげる」
「アニエスさんの奢り!?」
「あ、明日雨降るの!?」
「ドラゴンキッド言うな!」
僕の誘導が良かったのか、皆がワイワイとしながらリビングに足を進めていく。
ふと、ため息を零していたら背後から引力を感じた。
首を後ろにと向けると、が僕の服の裾を引っ張って見上げていた。
その表情は今にも泣きそうな顔。
「バニー」
彼女の口から零れた名前に
僕は服に握られた手を解き、指ごと絡め握り返した。
目線の高さを合わせ、を見つめる。
「今は何も言わなくていいです。体を休めて下さい」
「でも、でもバニーッ」
「これ以上、ブルーローズさんに迷惑かけるつもりですか?彼女、君が居なくて毎日寂しそうにしてたんですよ?」
「バニー」
言いたい言葉を敢えて違うもので僕は塞いだ。
本当はの話を聞いてやりたいところだが、今のところ彼女には休息が何よりも重要だ。
恐怖のあまり食事もままならなかった様子の体つきをしているのだから
今は何も考えず休ませるのが先決。
「僕らにこれ以上迷惑をかけたくないと言うのなら少し、休んで下さい。あと僕達も少し休ませて下さい」
「・・・うん」
そう言う説得が通じたのか、は少し微笑んだ。
今はだけじゃない、僕達も少し休むべきだ。
違う。
次の事に備えておかなければならない。
が監禁場所から逃げ出したということは
彼女の母親の怒りを買うことは必須だろう。
血眼になってあの人は自分の娘を探すはず。
だったら・・・今度こそ僕はを守らなければならない。
たとえ自分の命と引き換えになろうとも。だけは守りきってみせる。
そう自分の心に、新たな誓いを立てたのだった。
夜も更けて、祝杯を終えた部屋は静まり返っていた。
各々が帰路へと着き、僕もまた寝室で眠っていた。
「・・・んっ・・・・・・?」
眠っていて、ふと目が覚めた。
隣を見ると今まで其処にあったはずのぬくもりが無くなっていた事に気づく。
が居ない。
僕はベッドから飛び起き、寝室を離れ部屋をくまなく探す。
コレが夢だったなんて嘘だと思いたい。
が戻ってきたことも、皆で楽しく食事をしたことも。
全部が全部・・・それが夢だなんて思いたくない。
夢だと信じたくないから部屋の隅々、彼女を探す。
「!」
「バニー」
すると、リビング。
大声で彼女の名前を呼ぶと、が窓際に立っていた。
僕は安堵の溜息を零しながら彼女の側にと向かう。
「何処に行ったのかと思って・・・心配しました」
「ごめん。此処から見る風景が何だか懐かしくて」
僕の言葉には苦笑を浮かべながら答えた。
切なげに街を見るの眼差しに胸が痛む。
「もう何処にも行かないで下さい」
「え?」
「黙って居なくならないで下さい。君の居ない日々に僕は耐えられません」
包帯の巻かれた手を握りしめ、切実な思いを口から零した。
窓に何度も手をぶつけても、不甲斐ない僕の手はを救うことが出来なかった。
包帯の巻かれた手の上に重ねた自分の手。
すると、其処にが自分の手を更に重ねる。
「バニー・・・この手。気になってたから聞かなかったけど」
「これは君を救えなかった不甲斐ない自分への罰です」
「こんなこと、しなくても」
「こうでもしないと・・・君を失い続けた日々をどう過ごせばいいのか、僕には分からなくて」
「バニー・・・ごめんなさい」
そう言っては僕の体に抱きついてきた。
更に華奢になってしまった体が羽のように思えて、軽い。
軽くなった体は自分の体が揺れること無く、容易く手の支えもなく受け止められた。
「居なくならないよ。もう黙って、何処にも行かないから」
「」
見上げられた顔。
彼女の頬に伝っている一筋の涙。
指で拭って、瞼に唇を落とし・・・そのままゆっくりと柔らかな唇と重なる。
啄(ついば)むように、愛しさをこめながら。
呼吸すらままならないほど、熱をこめながら。
唇を、舌を、唾液を絡めていく。
十分に絡めあった唇を離し、見つめ合う。
「体」
「え?」
「体がまだ冷たいですね。雨に打たれたのが余程体に来たんでしょう」
「バニー」
華奢になりすぎた体を抱きしめ、服の上から体中を手で這う。
あたたかいはずなのに、今日はとても冷たく感じるの体。
「温めてあげたい。それは僕の、ワガママでしょうか?」
「うぅん。寒いの・・・お願い、あたためて」
「温めてあげますよ。熱になる程のモノを君にあげましょう」
冷たい体をあたためるように、体を重ね、熱を残す。
失い続けた空白を取り戻すように。
静寂な暗闇の中で聞こえるのは、互いの息遣いと甘い声だけだった。
Hold
(抱きしめて、もう二度と離さない)