本当はもっと、その唇に触れたい。
「え?一日一回?」
「はい。キスは、一日一回にしようかと」
と初めて唇を重ね合わせた次の日。
僕はとある決意を胸に彼女へと言葉を放った。
とのキスは一日一回。
そう言うと、は首を傾げ僕を見ていた。
「でも、何で一日一回?」
「いや、あの・・・僕達の関係は、正直な所まだ始まったばかりですし。
別に性急に事を進めようというつもりもありません。その、徐々にと僕はふれあっていければ
それでいい、というか・・・何というか」
上手いこと言葉を選んだつもりだ。
でも、こんな言葉は僕の本心とは全く逆の事を述べている。
正直な話・・・一日一回だけじゃ足りない。
何度も何度も、とキスをしたい。あの薄桃色した柔らかな唇に
自分のを重ねて、たっぷりの愛情を込めてやりたい。
だがしかし、そんな事をしてしまえば
恋に初めてな彼女を戸惑わせてしまうばかりだと思った。
一緒に暮らし始めて、距離が以前よりグンと縮まった。
側に居る時間も長くなった。
近づき過ぎる距離は時に恐怖を生む。
今まで以上に2人でいる時間が長くなったのだ。
を戸惑い、そして怖がらせてしまえば元も子もない。
だったら何処かで何かしらのモノをセーブする必要がある。
そこで僕が取った手段が「キスは一日一回」という事だった。
「一日一回・・・か」
「あの、別に君とキスするのが嫌とかそういうワケじゃないんですよ。
やっぱり何かしらの段階、というか順序は踏んでいかなければなりませんから」
本当はそれだけじゃ満足しない。
いや、満足できるわけもない。
だけど、を怖がらせたり失ったりしたくはない。
自分の中の矛盾する気持ちを戦わせた結果が一日一回という結論だった。
「まぁ、バニーがそういうなら」
「すみません。でも、その一回でも僕は君にたくさんの愛情を込めてするつもりです」
「えっ!?あ・・・ありが、とう」
僕の言葉に彼女は顔を真っ赤にし、目を泳がせながら言葉を返した。
嗚呼、可愛い。
嗚呼、なんて愛らしいんだ。
本当は一回だけじゃ収まりきれない衝動に駆られてばかりだ。
でも何処かで抑制をしておかなければ
に嫌われてしまうかもしれない。ああ、それだけは避けなければ。
に嫌われてしまったら、多分僕は死んでしまいそうになる。
「じゃあ、キスは一日一回ね」
「はい。あ、そろそろ仕事に行かなきゃ・・・じゃあ行ってきます」
そう言って僕は立ち上がり、彼女のおでこに唇を落とす。
ふと、我に返る。
目の前の彼女は目を何度も瞬きさせながら不思議そうな表情で僕を見ていた。
「バニー・・・コレもカウントするの?」
「えー・・・えーっと」
思わずやってしまったことだが
実のところ、既に一回・・・彼女の唇にしている。
だが、思わずおでこにやってしまい、彼女に問いかけられた。
この軽いキスもカウントするのか、と。
「・・・すいません、今のは無かったことに」
「う、うん」
「じゃあ・・・行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
愛らしい声で見送られ、僕は部屋を出て、その場に座り込む。
「・・・はぁ〜・・・頑張るしか、ないか」
自分の思っている事とは裏腹で、体はやっぱりいつでも彼女を求めているようだった。
しかし、体に好き勝手動かれてしまっては確実に抑制の意味が無い。
嫌われたくない。
嫌われたくない。
だったら、我慢しよう。頑張るしか無い。
「・・・・・・仕事行こ」
とにかく今は何があっても「キスは一日一回」という自分の中の決め事を
破らないよう精進するしか無いと自分に言い聞かせ、僕は足を進めるのであった。
キスは、一日一回
(とは言うものの、足りないのが本音だ)