12月。
街は、普段よりも華やかに彩られていた。
「早いわね、もう12月」
「そうだねぇ」
学校の帰り。
カリーナと街を歩きながらそんな話をしていた。
1ヶ月というのはあっという間に過ぎていき
1年というのは気付いた時に迎えている。
そして今は12月。
この前まで11月だったのが嘘のようで
しかも、街中豪華に彩られていた。
「12月といえばクリスマスだよね」
「会社近くのコンビニ、11月の終わりぐらいからクリスマスソング流してたわよ」
「それこそ気が早いよ〜」
街がこうやって彩られているには訳がある。
何を隠そう12月最大のイベント・・・クリスマスがやってくるからだ。
街中が赤や緑、むしろ様々な色で飾り付けられている。
もちろん、ケーキショップではクリスマスのケーキの
予約販売も行われていたりと、至るところがクリスマス一色になっていた。
「今年は雪降るかなぁ〜?」
「狙うはホワイトクリスマスってわけね。恋人達の聖夜にはピッタリなシチュエーションよね?」
「や、やめてよカリーナ」
「別に誰もアンタ達のこと言ってないわよ」
そう言いながらもカリーナの言葉は明らかに私に向けての言葉に聞こえた。
私は顔を赤らめながら彼女を見てため息を零す。
「せっかくのクリスマスなんだし、一緒に過ごせば?ていうか、私がこう言わなくてもバーナビーの方から
”、今年はクリスマス一緒に過ごしましょうね“とかデレデレした表情で言ってくるんでしょうよ」
「バニーならそれ言いそう」
「あら、其処否定しないの?いつもなら恥ずかしがるところじゃない?」
確かにカリーナの言葉にいつもの私なら恥ずかしがって「やめてよ!」なんて言う。
だけど、バニーの事を考えたらそれは言えない。
言えない、というよりむしろ・・・多分、彼は言わない。
「クリスマスは・・・バニーにとって、忘れられない日だから」
「そっか。クリスマス、っていうか・・・クリスマスイブよね」
「うん」
クリスマスは、彼にとって忘れたくても忘れられない日。
もとい、それは前日のイブなのだが・・・それでも前の日に傷ついた痛みは次の日になり
ずっと取れることのない痛みへと変わっていた。
クリスマスイブは・・・バニーの、パパとママの命日になる。
「バニーのご両親の命日だし、多分バニーは何も言わないかな」
「じゃあ言う言葉は、一緒にお墓参りに行きませんか?かもね。
ねぇ・・・寂しいならバーナビーに言えば?クリスマス一緒に居てって」
「え?・・・私別に、寂しく」
「此処2年連絡取ってなかったけど・・・知ってるんだからね、アンタがどんな思いでクリスマス過ごしてたか」
「・・・・・・」
彼女の言葉に「寂しくない」と言うはずの言葉を失い
首に巻いていたマフラーの中に口を埋めた。
何も言わないと分かったのか、カリーナはため息を零した。
目で分かるように吐息が寒さのせいで白い。
「父親も母親も居ない家で一人で寂しくツリー見上げてるアンタの姿、忘れたくても忘れられないわよ」
「よく覚えてるね」
「覚えてるわよ。家に行ったら私に泣きついてきたの、忘れた?」
「その節はお世話になりました」
苦笑しながら私はカリーナに言う。
今となってはなくなった私の家。
其処に毎年クリスマスにはママからプレゼントだけが贈られてきていた。
ママは帰ってくることなく、ただ綺麗な箱だけが私のもとにやって来ていた。
パパが死んで、ママが居なくなったあの家で
私は一人ツリーを飾り、それを見上げ・・・・・・――――泣いていた。
寂しいと、声を漏らし泣いていた聖夜。
それが何年も何年も続いた・・・家を失い、バニーの所に住まう日までは。
「ちょっとくらいワガママ言っても大丈夫よ。一緒に居たいってバーナビーに言ったら
それこそアイツが喜ぶに決まってるんだから」
「うん・・・でも・・・バニーにはお墓参り行って欲しいし」
「だったらアンタも付いて行けばいいじゃない」
「連れてってなんて言えないよ。その日くらい、家族の側に居て欲しいし、いつも私の側に居るから
そういう日は大事にして欲しいよ」
「だからって」
「いいの。一人のクリスマスはイブの時から慣れっ子だから」
そう、カリーナの前で・・・強がってみた。
寂しいのが慣れっ子なんて、嘘。
本当はクリスマスの日、どれほどママに帰ってきて欲しかったことか。
だけど私を育てるために出張ばかりしているママにワガママなんて言えない。
ましてやバニーにも言えるわけがない。
私を愛してくれている。
私を側においてくれている。
だからこそ、言えないのだ・・・一緒にいて、なんて。
彼から十分すぎる愛を受け取っているから・・・ワガママなんて言えない。
言ってしまえばそれこそ・・・バチが、当たってしまうから。
ふと、クリスマスソングが何処からともなく流れてくる。
しかも・・・昔から、聴きなれている、曲。
「カリーナ・・・ごめん用事思い出したから」
「え?ちょっと、!?」
耳に入るクリスマスソングが痛いほど胸に滲み始め
私は其処に居づらくなりカリーナにそそくさと別れを告げ、マンションへと駆けた。
まるで、その音楽から逃げるように。
「ハァ・・・ハァ・・・つ、疲れた・・・」
マンションの部屋に着いた頃には私の息は上がっていた。
でも、音はもう聴こえない。
あのクリスマスソングを聴くだけで、胸が締め付けられるくらい痛い。
苦しい思いをするよりか、走って疲れたほうがまだマシかな・・・と思いながら
私は部屋の中へと入る。
「ただいま」
「あぁおかえりなさい」
「バニー帰ってたの?」
リビングに顔を出すと、いつも居ないはずのバニーが居た。
彼は私を出迎えれたのか笑みを浮かべながらこちらへ近付いてくる。
「次の仕事まで時間があるので。それよりも、髪が乱れてますよ。
せっかくの髪型が台無しです」
「走って、来たから」
バニーは私の走って乱れた髪を手櫛で丁寧に整えてくれた。
長くしなやかな指が髪に触れ、終わりを告げる口付けが頭に降ってくる。
「珍しいですね、君が走って帰ってくるなんて」
「私だってそういう日があるの」
「そうでしたか」
彼は理由を尋ねることなく笑いながら
頭に降らせていた口付けを、頬へと場所を変える。
バニーの笑った顔を見て少し安心した。
12月でご両親の命日があるから落ち込んでいると思っていたが
私の考えすぎだったのだろう。
「も、もうバニー・・・キスしすぎ」
「を充電中です。すぐ終わりますから」
「く、くすぐったいってば」
くすぐったく触れてくるバニーの唇に私は笑いながら
体を引き離そうとする。
すると、つけっ放しにされていたテレビの画面から聞こえてくる・・・あの、曲。
思わず体が強張り、震える。
「?・・・、どうかしましたか?」
「ぃや・・・いや・・・私・・・わたし、この曲・・・嫌い・・・っ」
「え?」
震えが止まらず、続くように涙が零れ落ちる。
「・・・もう大丈夫ですよ。テレビは消しましたから」
バニーはそんな私の声にすぐさまテレビを消し、優しく抱きしめてた。
寂しさを紛らわすために聴いていた、明るい曲なのに・・・聴くたびに寂しさを思い出してしまう。
聴きなれたクリスマスソング
(それは寂しさを思い出させる曲でもあった)