「もう落ち着いたみたいですね」
「うん。ごめんねバニー」
「いいですよ」
突然泣きだした私が落ち着いたのか彼は
ホッとしたような表情で私を見ていた。
「クリスマスソング、嫌いですか?」
「え?・・・ぅん、何て言うか・・・ホラ、聴きすぎてね」
「まぁこの時期になると同じ曲ばかりですからね、それは分かります」
言葉を上手い事取り繕い本当の理由から遠ざけた。
本当は寂しいのを思い出す、なんて言ってしまえば
それこそバニーを余計心配させてることになる。
上手い言葉を選んだのは正解で
彼も苦笑を浮かべながら、その言葉に乗ってくれた。
「僕はもう仕事に戻りますけど。極力テレビは点けないように」
「え?」
「嫌なものは見たり聴いたりしない方がいいですよ」
「バニー」
「出動が無い限り、なるべく早く帰ってきます。それまでテレビ点けちゃダメですよ」
「うん、分かった」
バニーは私の頭を撫で「じゃあ行きますね」と言葉を残し去っていった。
彼は彼なりに私のことを考えてくれての言葉だった。
やっぱり彼は強いな・・・なんて思ったけれど
強いフリの皮を被っているだけで、本当の所落ち着かないのだろう。
何せ自分の親の命日が刻一刻と迫っているのだから。
こんな時こそ、私がしっかりしなくては・・・。
「クリスマスソングが嫌い、とか言ってられない。しっかりして」
バニーはきっと無理をしている。
私の前で毅然とした態度で居ようとしている。
私がこんな状態では、きっとバニーに無理をさせてしまうかもしれない。
自分の頬を軽く叩いて気合を入れる。
「よし!」
十分な気合が体に入ったのか、携帯を開きカレンダーを見る。
クリスマスまでまだ少し時間はある。
イブの日は彼の大事な日だから、其処は省いて
大事なのは25日・・・どうするか、が問題になってきた。
きっとバニーの事だから、半分抜け殻状態かもしれない。
「こういう時はパーティとかしてあげたほうがいいのよねきっと」
元気づける目的でパーティをしよう、と心の中で決まった。
生憎と私には彼をデートに誘う度胸もなければ、お金もない。
持ち合わせている金額だけでパーティを行うとなると・・・やっぱり二人用のサイズ分になってしまう。
二人分でも、バニーはいつだって喜んでくれる。
誕生日をするにも、何をするにしても・・・私が計画して実行したものは
バニーは本当に嬉しそうにしてくれる。
いつも彼は私を喜ばせてくれる。
私に幸せを与えてくれる。
私を心から愛してくれる。
少しでも、彼の力になれたら。
少しでも、彼の心を癒してあげれたら。
「うん、そうと決まれば」
ちゃんのクリスマスのサプライズパーティ作戦。
ツリーを準備し、ケーキにこんがり焼いた七面鳥とクリスマスプレゼント。
大好きなロゼも大人の誰かに買ってもらってテーブルに並べる。
予定は完璧。
後はバニーに内緒で動くことを忘れずに。
聴きなれた嫌いなクリスマスソングも
きっと少しは気持ちを晴れやかにしてくれるだろう。
とにかくまずは準備が肝心、と思い
私はメモ用紙に色々と必要な物を書きだしていくのだった。
「バニー・・・パソコン借りてもいい?」
「え?いいですけど・・・どうしたんです、急に?」
その日、バニーが出動も何もなく帰宅してきた。
外食をしようと思っていたが時間的にも遅かったので
私が「なにか作ろうか?」と言ったところ「たまには手を抜いてください」と
バニーはテイクアウトの物を買ってきてくれた。
ある程度食事を終え、お風呂へと向かう彼にひとまず私は
パソコンを貸してほしいという許可をもらう。
「が、学校で調べるの忘れたの・・・授業の資料」
「そうでしたか。それならいいですよ」
「ありがとう。あ、履歴はちゃんと消しておくね」
「別に其処までしなくてもいいですよ、見たりしませんから」
そう言って彼はバスルームへと向かい、私は急いでテーブルに座りパソコンを起動。
授業の資料なんて真っ赤なウソ。
調べるのはもちろん・・・クリスマス用品。
特にツリーともなると・・・いくらサイズが小さくても
此処まで運んでくるには目立ちすぎる。
自分の予算と相談しながら、手頃なツリーを通販サイトから購入する事にした。
こうすれば自分で運ぶこともせず、此処まで届けてくれる。
「調べたら履歴消しとかなきゃ。何調べてたかバレる」
彼は「見ない」と言っていたが100%見ないという根拠はない。
ましてやパソコンは彼の所有物。
私が何を調べていたか、という足あとを残せば初っ端から計画が水の泡になってしまう。
通販サイトを検索し、メモ用紙に
手頃で目ぼしいツリーの金額を書いていく。
ツリー本体を安くして、飾り付けのものを買えばそれでも安上がりになる。
『・・・上がりましたよ。お風呂入ってください』
「(バニー、いつもより上がるの早い!?)」
すると、お風呂を上がり終えバニーがリビングへと戻ってくる。
いつもより早く上がってきた彼に驚きながらも
私は慌てて検索履歴を消去、パソコンを落としメモ用紙を学校のノートに挟んだ。
「お風呂」
「い、今から入るよ。パソコンありがとう」
「え?もういいんですか?」
「うん、大分調べ終わったから」
私はノートを持ちバニーと入れ替わるようにリビングを出る。
すると突然ポケットに入れていた携帯が
バイブレーションで何かを伝える。
其処に手に入れ取り出すと、着信。
「はい」
『あー俺だ俺、虎徹だ』
「タイガーさん」
着信の主はタイガーさんだった。
「どうかしましたか?バニー今お風呂から上がったんですけど」
もしかしたら、お風呂に入っている間
バニーに連絡を入れたのかも?と思い、とりあえずバニーへと繋げようと促す。
『いや、バニーじゃなくてお前に用があるんだよ』
「え?私、ですか?」
『そう。、お前』
バニーかと思いきや、どうやら用件の相手は私だった。
後ろに振り返るとちょっと不機嫌そうな顔でバニーが私を見ている。
バニーは「いくら相手が虎徹さんでも僕は嫉妬するんです」と以前彼から聞かされたことがある。
多分不機嫌な理由は、私がタイガーさんと話している、という所なのだろう。
早く電話を切らないとバニーがますます機嫌を悪くしてしまう。
「あの、それで」
『いや、実はさ。ちょっとお前に頼みたいことあるんだよ』
「私に?」
『明日暇か?』
「特に予定はないです」
『なら、11時過ぎくらいにアポロンメディアに来てくれねぇか?
俺と、ロックバイソンが立ってたら分かるだろ?』
「アントニオさんもですか?」
タイガーさんだけ、かと思いきやかの人の親友のアントニオさんまで居るから驚きだ。
『アイツも行くって聞かなくてよぉ』
「それで何をするんですか?」
『なーに、ちょっとクリスマスプレゼント選びだよ。
俺は楓に、ロックバイソンはアニエスに・・・だからが必要なんだよ。
それにほら・・・バニーにもやるんだろ?クリスマスプレゼント』
「あ」
ふと思い出し振り返りバニーを見る。
少し不機嫌そうな顔をしてまだこちらを見ているも、視線が合うと少し驚いた表情をした。
そんな彼の表情を見て笑みを浮かべ―――――。
「えぇ、じゃあ明日。アポロンメディアで」
クリスマスプレゼント選びを始めるのだった。
ソリに乗った私。
それを引っ張るトナカイはすでにクリスマスに向けて走り出していた。
ノエルに向かって走りだしたソリ
(トナカイはノエル(クリスマス)へと誘うソリを引く)