いつものようにジョンとの散歩。
街はクリスマス一色で、心も晴れやかになる。
街中にあるクリスマスツリーのオーナメントを見ていると
自分の家もこれくらい晴れやかにしたいものだな、等とそんな気持ちになる。
街ゆく人達の中をジョンと共に歩いていると―――――。
「あ、キースさん」
「ん?・・・やぁ君じゃないか!」
大きな紙袋を抱えた君と出くわした。
ジョンは彼女に出会えて嬉しいのか、尻尾を大きく振り喜びを表現している。
「ジョンのお散歩ですか?」
「あぁ。君は・・・買い物かな?」
「えぇ、ちょっと必要な物がたくさんあったので」
私の問いに彼女は笑いながら答える。
しかし、必要な物がたくさん・・・と言うだけの量はある。
私と出くわす直前も何だか足元がふらついていた。
「荷物、重そうだね・・・私が持とう」
「え?・・・いいですよ、キースさん。これくらいの量、いつもしてるんで」
「だったら君もたまには楽をしたらどうだい?さぁ、荷物を持とう。
バーナビー君のマンションの近くまで送るよ」
そう言うと君は「じゃあお言葉に甘えて」と言って荷物を渡してきた。
しかし、流石にコレはジョンのリードを持ったままの
片手の状態では少し重く感じる。
いくら鍛えている、と言っても流石に・・・重い。
これでジョンに引っ張られでもしたら確実に彼女の荷物が地面に落ち溢れる。
「すまないが、ジョンのリードを」
「あ、そうですよね。すいません」
君にジョンのリードを預け、左手で右に持った荷物を支えた。
これならば落ちる心配もないだろう。
「よし!では、バーナビー君のマンションの近くまで出発だ」
「はい」
「ワン!」
そう言って二人と一匹で、目的の場所へと歩き出すのだった。
その間他愛もない話で盛り上がり、私は笑い、彼女も笑みを零す。
ふと、目線を落とし背の低い彼女を見た。
自分より年下で、身長も小さく、愛らしい。
バーナビー君と道を歩いている姿をあまり見たことはないけれど
並んだ姿は見たことがある。
小さいなぁと、傍から見たらそんな感じだったが・・・実際側で見たら、本当に小さい。
小さくて、愛らしい、女の子。
あどけなく笑う姿に目を奪われ、心を奪われる。
ふと、お店のウィンドウ越しに・・・私達二人の姿が映る。
彼女の荷物を持っている私。
愛犬のリードを離さず、私の隣を歩く君。
「(まるで、恋人・・・みたいだな)」
そんな風に見えた。
叶わぬ恋をしていると自分自身でも分かっている。
彼女には、心から愛する人が居るのだから。
でも、今・・・街を、肩を並べ歩いている私達の姿は
誰の目にも「恋人同士」だと思わせるほどに違いない。
「(きっと、神様が私にくれたプレゼント・・・だな)」
そう思えたら、何だか頬が赤くなり恥ずかしくなる。
ふと、視線が私の方に向けられる。
「キースさん、顔赤いですよ?大丈夫ですか?」
「え?!あ・・・あぁ、大丈夫だ。寒さで顔が赤いだけだよ」
本当は、君の側に居ることが恥ずかしくもあり、そして嬉しくもある・・・だなんて
口が裂けても言えない。
並んで、歩いて、ほんの少しの間だけ
君との恋人気分を味合わせてくれて、神に感謝しよう。
ありがとう、そしてありがとう・・・と。
「はぁ・・・いい気分だ」
君をバーナビー君のマンションの近くまで送り届け
自宅へと戻ってきた。
何だか胸の中が幸せな気分で満ち溢れ、今にも宙に浮いてしまいそうになる。
「ワン!」
「どうしたジョン?・・・・・・ん?」
突然、ジョンが一つ吠えた。
どうしたのか、と問いかけたところ彼の足元に置かれた・・・まつぼっくり。
私はそれを拾い上げる。
一瞬、さっきの散歩の時に拾ってきたものか?と思ったが
まつぼっくりの先端が白い。それが人工的に付けられたものだとすぐに分かった。
「まさか、ジョン・・・お前・・・」
もしかしたら、君の荷物の中の物が零れ落ち
ジョンはそれを拾って持って帰ってきたのかもしれない。
床に置かれたまつぼっくりを拾い上げ、見て頭を掻いた。
ふと、先程の肩を並べて歩いた光景が頭の中を過る。
手のひらの中にある、まつぼっくり。
「もう少しだけ、この余韻に浸っていたいな」
並んで歩いたあの時間を、思い出すかのように
私はまつぼっくりを、愛おしく握り・・・恋人気分を味わった余韻に浸っていた。
並んで歩けば恋人気分
(あの時間を、私は一生忘れないだろう)