胸の中がモヤモヤと、嫌な気持ちで溢れていた。
取材が終わりマンションへと向かう途中、信号待ちをしていた。
華やかに彩られた街の中を窓越しに見ていたら・・・の姿を見つけた。
偶然か奇跡か、なんて思いながら
携帯を取り出し彼女を呼び止めようとした。
だが、の隣には・・・スカイハイさんの姿があった。
2人は楽しそうに何かを喋りながら肩を並べ歩いている。
傍から見れば、その光景は間違いなく「恋人同士」のように思えた。
ジッと2人の姿を見ていると
後ろからクラクションを鳴らされ我に返る。
信号は停止の赤から発進の青に切り替わり
自分の周囲の車は走り出していた。
ブレーキからアクセルへとペダルを踏み変え自分の車を発進させる。
横目で、サイドミラーで、2人の姿を見ながら。
車を走らせながら思っていた。
が浮気・・・?なんて、そんな事が頭の中を過る。
確かに僕自身、取材や何やらで忙しく
とデートらしいデートを此処しばらくしていない。
そのせいなのか?
そのせいで、彼女は僕じゃなくて別の誰かで楽しみを補おうとしているのか?
いつから?
いつから、彼女は僕じゃない別の誰かと楽しみを共有するようになったんだ?
考えが段々、マイナス方向へと動き始め
何処かで「がそんな事」と否定し続ける声が聞こえるも
「じゃあさっきの光景は何だったのか」と思わせるようにとスカイハイさんが
肩を並べて歩く姿を嫌というほど頭の中で再生されていく。
「違う。・・・・に限って、そんな事・・・っ」
思わずアクセルを踏む力が強まりスピードが上がっていく。
に限って僕を裏切るような事は絶対にない。
絶対にないはずなのに・・・確信が何処にも見当たらない。
せっかく・・・両親の墓参り、一緒に行こうと誘うつもりだった。
そうすれば、1人で味わっていた苦い日も
が居てくれればきっとそれも緩和されると思っていた。
それを言おうとした矢先の出来事。
「・・・・・・ッ」
まるで、今まで彼女を野放しにしていた罰だと言わんばかりの仕打ちに
耐え切れず僕はスピードを上げ、苛立つ気持ちを抑え込んでいたのだった。
「・・・ただいま」
玄関で帰宅の声を上げる。
苛立つ気持ちを抑えこむためにスピードを上げた結果
法定速度違反、つまりスピード違反で僕は警察から指摘を受ける羽目になった。
だが警察も「まぁヒーローでもスピード出して忘れたい事とかあるでしょうから」と
言ってくれたものの「でも違反は違反ですから」と言われた。
思わず、何をやってんだか・・・・と心の中でため息混じりで言葉を表に出さず零した。
「あ、おかえりなさいバニー」
「え・・・あぁ、はい」
リビングに顔を出すと、が座って僕を出迎えた。
いつもなら「ただいま」ともう一度返すところだけれど
先ほどの光景があり、しかもまだ気持ちの整理すら出来ていないから
曖昧な返事しか返せなかった。
「バニー・・・どうしたの、何か変だよ?」
「え・・・あ、いや、何でもないです」
僕の異変に気付いたのかはカーペットの床から立ち上がり、僕の元へとやってきた。
近付いて来たの顔を直接見ることができず
僕は彼女から顔を背けた。
「バニー、お仕事で何かあったの?」
「いえ、別に」
仕事じゃない、プライベートだ。
「だったら顔見てよ。バニー、何かあった時すぐ顔逸らすんだから」
「別に何でもないです」
何でもないわけがない。
君が僕とは違う別の誰かと歩いているところを見たんだ。
「嘘つかないで。ねぇ、何かあったんでしょ?」
「だから何でもないって言ってるじゃないですか」
嘘をついているのはどっちだ?
僕じゃない君の方だ。
信じていた、僕だけを君が一番愛してくれているって思っていた。
「バニー・・・私の顔見て」
「何でもありません。、気にし過ぎです」
愛してくれていると思っていた。
思っていたからこそ、君を両親の墓参りに誘おうと決めていた。
亡くなった2人に君を会わせてあげようと思っていた。
暗い日も、がいれば怖くないって・・・そう思っていたのに。
「ねぇ、バニー。お願いだから私の話を聞いて」
今更聞く話なんて・・・・・・・・・。
「いい加減にしろ!放っといてくれ!!」
ようやくの顔を見た。
しかし気持ちは、苛立ちは頂点に達していて
彼女の顔を見たと同時に、怒気を強めて言葉を放った。
だが、外にそれらを吐き出したのか
一気に気持ちがクールダウンしていく。
それと同時に我に返った。
「あっ・・・・、あの」
「ご、ごめん・・・。バニー、仕事でイライラしてたのに私ったらそういうの気付いてあげれなくて」
我に返って、僕自身が気付いた。
焦り、不安、苛立ち。
負の要素が混ざりに混ざって、に全部当ててしまった。
彼女はただ、心配してくれていただけなのに。
目の前のは泣くのを必死に堪えながら
体を震えさせていた。
「ごめんね、バニー。ごめんなさい」
「、違うんです。あの、これは・・・っ」
「ホント・・・ごめんなさい」
謝罪の言葉を何度も漏らしながら、彼女は僕の前から去り
寝室へと向かった。
1人残ったリビングで、僕は―――――。
「・・・・・・クソッ」
自分自身に腹を立てていた。
あんな光景を見なければこんな事にはならなかったのか?
でも見たところで・・・こんな気持ちならないわけがない。
だって僕はを愛しているから。
愛しているからこそ・・・裏切りが怖い。
離れていくのが・・・怖い。
失うのが・・・怖い。
「一体、どうすれば・・・っ」
墓前に、綺麗な花を添えて。
愛すべき彼女と2人肩を並べ参るつもりだったのに。
2人に、を・・・僕が世界で一番愛する人を紹介するはずだったのに。
暗い日を、少しだけ明るくしてくれるはずだったのに。
「父さん・・・母さん・・・・俺はどうしたらいいんだ」
誰も居ないリビングで1人、天国にいる両親に問いかけた。
だけど答えが返ってくるわけもなく
其処はずっと沈黙だけが続いていた。
聖ニコラオスの小さな過ち
(サンタクロースもプレゼント-事情-を間違えることはある)