「はぁ〜・・・最悪だ」
トレーニングルームで僕は1人ため息を零し落ち込んでいた。
原因は分かっている。
僕の何気ない焦り、不安、苛立ちが招いた事態だった。
がスカイハイさんと街を歩いていたことに
最近彼女を野放しにしていたことに焦りを感じ。
楽しげに肩を並べて歩く姿に
もしかしたらが浮気をしているんじゃないかと不安になり。
両親の墓参りに誘おうとした矢先に目撃したというのに
彼女は何くわぬ顔で僕に近付くから苛立った、結果―――――。
『いい加減にしろ!放っといてくれ!!』
に酷く当たってしまった。
あんな事言うはずじゃなかった。
あんなに強く言うつもりじゃなかった。
負の要素が入り混じりすぎて、僕自身制御出来ず
傷つけるつもりはなかった。それだというのに、僕は彼女を傷つけた。
もう、あまり日にちが無いという時に
僕はに対して何てことをしてしまったのだろう、と後悔ばかりが頭の中を過る。
もちろん、彼女が何故スカイハイさんと一緒に歩いていたのかも気になっていた。
でも、に限って「浮気をする」という事は絶対に有り得ない。
本当にそれだけは神に誓ってもいい・・・断言できる。
あの子はそんな真似をするような子じゃない・・・誰よりも側で見ている時間が長いから
そんな大それた事はしないのは分かっている。
分かっているのに・・・どうして僕は・・・・・・。
考えれば考えるほど、結局は堂々巡り。
頭を伏せ深いため息を零した。
「どうしたバニー?元気ねぇぞ?」
「虎徹さん」
僕が落ち込んでいると虎徹さんが話しかけてきた。
相談に乗ってほしいけれど・・・何だかちゃんと喋れる自信がない。
むしろもう頭の中がいろんな事でパンクして、整理できていない。
「どうした?何かあったのか?」
「あの・・・その・・・実は」
「バーナビー君」
虎徹さんに話そうとした瞬間だった。
またもや会話への介入者が現れる。
しかも、あの日あの時の隣を歩いていた――――スカイハイさん、彼だった。
もやもやとした不安が
一瞬にして、苛立ちに変わる。
「何ですか?」
苛立ちに変わった途端、冷たい僕が顔を出す。
目は彼を鋭く睨みつけ、声は今までとは違う声色で出した。
僕の変化に気付いたのか「お、おいバニー」と
近くに立っている虎徹さんが落ち着くよう声を出す。
だが生憎と、今の僕にはスカイハイさんを前にして
冷静さも何も無くなり・・・逆に現れたのは、苛立ちを露わにした冷たい人間だった。
「どうしたんだいバーナビー君?何か怒ってないか?」
「別に。あの、用がないなら僕は失礼します」
僕は立ち上がりその場を去ろうとする。
今この人の近くに居たら、苛立ちがまた募りそうだ。
そして蘇ってくる。
あの日傷つけてしまったの表情が。
傷つけてしまったばかりに
彼女は酷く僕に怯え、目も合わせてくれなければ、言葉を交わしてもくれない。
誰のせいでこんな事に、と本当なら怒りを向けて当たりたいところだ。
だが、人の良いスカイハイさんの事だから僕が怒ったところで
「そうか、すまなかった」と素直に謝ってくるから、怒ったこっちが悪者のように思われてしまう。
「いや、用があるんだ。君に渡してほしいものがあってね」
「は?」
この人は僕を本気で怒らせたいのか?
よくもぬけぬけとの恋人である僕に”渡してほしいものがある“と言えたものだ。
今なら本気でハンドレッドパワーを発動して
この人を殴ってやりたい気分になった。
「実は、コレを・・・」
「へ?」
何が出てくるかと思ったら、僕が想像してたものとはかけ離れたものだった。
あまりにも現実のモノと想像のモノが違いすぎて
僕は目が点になり素っ頓狂な声が口から出てきた。
「スカイハイ、それって・・・まつぼっくり?」
「あぁ、そうなんだよ」
スカイハイさんの手から出てきたもの。
それは先端を白くコーティングされた・・・まつぼっくりだった。
明らかに僕が想像していたものとは随分、いやかなり違っていた。
この、まつぼっくりと・・・一体どういう関係があって、更に言うなら
どういう関連性があってこの人がコレをに渡してほしいのかが、分からなかった。
いや、もう僕の頭の中はまつぼっくりを差し出された時点でメチャクチャになっていた。
「実はこの前ジョンの散歩の途中、偶然街で君と会ってね。
彼女が大きな袋に入った荷物を抱えて歩いていたから
私が彼女の荷物を持って君のマンションの近くまで送ってあげたんだ。
しかし、何かの拍子に荷物からまつぼっくりが落ちて、それをジョンが咥えて家まで持って帰ってきてしまったんだ」
「それで、バニーに?」
「バーナビー君と君は同居しているし、だったらバーナビー君に渡した方が早いと思ってね。
私が君に直接渡すとなると、時間が合わなくなって彼女が困ると思ったんだ」
「なるほどなぁ〜。おいバニー、受け取れよ」
「え?・・・あ、は、はい」
虎徹さんに言われ我に返る。
そして、スカイハイさんの手のひらに乗ったまつぼっくりを自分の手の中に収めた。
「君にすまなかった、と伝えておいてくれ」
「わ、分かりました」
「話はそれだけだ。じゃあ私は失礼するよ!」
話を終えたのか、スカイハイさんは笑顔でその場を去っていった。
そして残る・・・僕と虎徹さんと、手のひらに乗ったまつぼっくり。
「しっかし、まつぼっくりって・・・のヤツ、何に使うんだよ、なぁバニー。・・・バニー?」
「僕、間違ってました」
「は?え?え?な、何が?」
スカイハイさんの話を聞いて、僕は自らの過ちに気付いた。
僕は間違っていたんだ・・・最初から。
とスカイハイさんがどうして肩を並べ歩いていたのか。
彼はの荷物を持っていただけなんだ。
別に浮気とか、そういう疚しいのではない。
ただそれは僕が思い込んでいた事。
自分が側にいてあげれないばかりに
思い込んで、1人で突っ走って、不安や焦り、苛立ちからを傷つけてしまった。
に当たる事自体が、もう、僕は間違っていたのだ。
「おいバニー・・・何が間違ってたっていうんだよ?」
「僕は色々と間違っていたんです。誤解してたんです、何もかも」
「は?言ってる意味分かんねぇんだけど」
「こっちの事です。虎徹さんは気にしなくていいですよ」
今まで抱えていた負の要素が一気に取り除かれ
僕は笑みを浮かべた。そして、手の中に収まったまつぼっくりを見る。
スカイハイさんは、素直に「すまなかった」と言っていた。
もちろん、僕に対してではなくそれはに対しての言葉。
荷物を持っていたにも関わらず、何かの拍子で落としてしまい、愛犬が咥えて持ち帰ってしまったのだから。
だから、彼は間接的ではあるが素直に謝罪してきた。
彼が謝罪したのだから・・・それを伝えて、僕も謝ろう。
たった一言「すいませんでした」と謝ろう。
それで許されるとは思ってはいない。
いくら自分の都合とはいえ、彼女を傷つけてしまったことに変わりはない。
僕の誤解も、君の行動も、全部理解した。
僕から謝ろう。
謝って、そして、伝えよう・・・あの日の、事を。
パインコーンが教えてくれた事
(まつぼっくりが過ちを犯した僕に全てを教えてくれた)