「はぁ〜・・・」
僕は会社帰り。
街をとぼとぼと帰っていた。
突然会社の方に呼び出されたからなにかと思い言ってみると
上司から「スポンサーアピールは良好だけど、やっぱりヒーローだからね」と言われた。
物腰柔らかく言われたけれど
要するに「ポイントを獲得してヒーローとしての役目を全うしろ」って事なのだ。
僕としてもそれは頑張ってやっている。
だけど、どうしても空回りをしてしまい
上手く行かず結局はスポンサーアピールで終わってしまうのだ。
自分で思っていることを
いざ口にされると、精神的ダメージは計り知れない。
ふと、目線を街に移す。
辺りは一面クリスマスカラー一色。
人々は賑わいを見せ、楽しげにその日が来るのを待っている。
そんな騒がしい世界の隅っこで僕は1人肩を落とし歩いていた。
「イワン、さん?」
「え?あ・・・ど、ども」
突然声を掛けられ振り返ると、バーナビーさんの彼女が居た。
しかも手にはクリスマスプレゼントと思われる袋を手にさげて。
彼女は笑みを浮かべながらこちらにやってくる。
「何処か行かれてたんですか?」
「ちょっと会社に呼び出されてたんです。その帰りで」
「え?・・・会社で何かあったんですか?」
「へ?・・・あ、えっと・・・その・・・」
思わず口を滑らせてしまい、訂正しようとするも
時既に遅し。
彼女に話すべきことだろうか?
本当は話すべきことじゃないけれど
でも、目の前の人は心配そうな面持ちで僕を見ている。
だけど、いつまでもモヤモヤした気持ちを
中に溜めておくと余計後々の自分に響いて、失敗しかねない。
「あの・・・笑わないで、聞いてくれますか?」
「私で良ければ、お話聞きます」
僕の言葉に、彼女は優しい微笑みを浮かべながら答えてくれた。
そして彼女に会社で言われたことを
自分が溜め込んでいる気持ちを吐き出すのだった。
「そうだったんですね」
「僕自身、頑張ってはいるつもりです。でもどうしても空回りをしてしまって
上手くいかないっていうか・・・全然、ポイントにも繋がってないっていうか・・・そんな感じです」
ようやく話し終えて、少しスッキリは出来た。
だけど完全に心の中のモヤモヤとした気持ちが晴れたわけではない。
あくまでほんの少しと言っただけで
まだまだ、わだかまりが残っている状態ではある。
「でも、誰しも上手くいかないことだってありますよ。私だって、もちろんバニーだって」
「え?バ、バーナビーさんや君も?」
しっかり者の彼女に、ヒーローとしても完璧なバーナビーさん。
僕からしてみたら、そんな2人はお似合いだし
ましてや空回ったり、失敗したりしている姿が想像できない。
「私なんて、失敗ばっかりで・・・今だって、全然前に進んでなくてスタートラインに立ったままです。
上手く行くって自分には何度も言い聞かせているのに、いざそれを実行すると
なかなか上手く行かないし、余計空回りしちゃって結果墓穴掘っちゃいますから。
バニーに至っては、完璧に見えるけど・・・結構疎かにしてる部分ありすぎるし、上手く取り繕おうとしても
空回りして、全部がダメになるって時もありますから」
「そうなんですか」
「失敗しない人なんて、何処にも居ないと思います。失敗とか、挫折とか、そういうのがあって
人って成長していくもの・・・って、タイガーさんの受け売りですけどね。
でも、そういうの・・・あながち間違いじゃないって私は思います。あまり、悪い方にばかり考えないでください。
考えすぎたら余計自分の動きを鈍らせてしまうだけですから」
彼女の言葉に胸の中に溜まっていたわだかまりが取れた。
と、同時に一気にスッキリとした空気が自分の中を通り抜けていった。
「イワンさん!」
「へ?!あ、は、はい」
すると彼女が突然僕の手を握り、真剣な眼差しでこちらを見る。
その真っ直ぐな視線に思わず心臓が高鳴った。
「お互い、頑張りましょう」
「え?・・・はい!」
そう励まされ、僕は返事をした。
「あの、じゃあ私戻ってやることがあるんで」
「はい。あの、ありがとうございました」
「いいえ。じゃあ失礼します」
彼女はそう言って僕の前から小走りで去って行った。
去りゆく彼女の後ろ姿を僕は、見えなくなるまで見送る。
ふと、先程まで握られていた手を見る。
まだ握られていたぬくもりがかすかに残っており、先程までの言葉が蘇ってくる。
『お互い、頑張りましょう』
その言葉に、励まされた。
何だか今は、とても清々しい気分。
街を見渡すと楽しい気分になってくる。
それもこれも、みんなあの子のおかげ。
騒ぎ出した世界のすみっこで、蹲っていた僕に声をかけてくれた君。
そんな君に何かしてあげたい。
ふと、目に留まるいろんな店の、いろんな商品。
「クリスマスプレゼント、何かあげようかな」
ほんのささやかな、僕の感謝の気持ち。
聖なる日、君に贈りたい。
騒ぎ出した
世界のすみっこで
(僕に手を差し伸べてくれた君がいた)