「はぁ〜・・・あと1週間かぁ・・・」
私は街を歩きながらそんな事を呟いた。
クリスマスまであと僅かとなり
準備は着々と出来ていた。
数日前まで彼を苛立たせてしまいギクシャクした空気が
流れていたけれど、それもどうにか取り除かれいつも通りの関係に戻った。
戻ったまでは良かった。
クリスマスをギクシャクしたまま過ごすこともなく
むしろ「恋人たちのクリスマス」という名に相応しいくらい関係は良くなっている。
本当に此処までは問題なく進んでいる。
だが現実問題、進んでいるのは私達2人の関係だけで
私自身その他のことは何一つとして進んでいなかった。
「まだ全然スタートラインから動けてないし」
クリスマスの準備は出来ていた。
料理も考えて、ツリーも買って、オーナメントも買い揃えて。
色々な準備はできている。
出来ているのに、私はまだスタートライン立っている。
そうまだ進んでいないのだ・・・何もかも。
ツリーを一緒に飾りつけよう、と誘う言葉も言い出せず
ましてや彼に贈るプレゼントすら未だに決めていない。
準備だけ終えて、一番肝心なことを明らかに疎かにしている証拠だった。
「今日こそ、今日こそ言おう。よし!今日は絶対に言うんだから」
ツリーを一緒に飾り付けることを今日こそバニーに告げる心の準備をして
私は彩り鮮やかな街を見渡す・・・そう、彼へと贈るプレゼントを決めるために。
色んな人に聞いてみたけれど
どれも有力な情報、とは行かず。
肝心のバニーに至っては「が居れば他に何もいりません」という始末。
当の本人がこうも物欲が薄く、欲しいものが(私以外)何もないというのは
プレゼントを贈る側としては完全にお手上げ状態だ。
「もう・・・どうしたらいいの・・・」
頭を抱え悩み、ふと雑貨屋のウィンドウを見る。
「うわぁ〜・・・綺麗」
ウィンドウに並んでいたものに私は目を奪われた。
其処にあったのは、たくさんのスノードーム。
今はただ置かれているだけだが、コレを少し振ると
中で雪が舞うみたいな感じになるし、ライトを当てれば更に美しさは増す。
「綺麗だなぁ・・・。そういえば、バニーの部屋って何か物足りないんだよね」
彼の部屋はシンプルに出来ている。
テーブルと、その上にあるブリキのおもちゃに幼い頃の写真。
壁紙はハイビスカス、と言ったモノ。
それ以外のものはまったく置いていない。
以前、他に何か置かないの?と彼に尋ねたら
「色々考えた結果がこうなりました」とだけ言っていた。
無理もないだろう。
彼は復讐に生き、それを成し遂げるまで何も目に入らなかったのだから。
タイガーさんから聞いた話。
復讐を終えた彼は清々しいような表情をして
まるで安心したかのような、そんな風・・・とまで言っていた。
だから彼の部屋には、必要最低限のものしか無いのだ。
「バニー・・・スノードーム、とか喜んでくれるかな」
私がいれば何もいらない、と彼は口癖のように言っている。
だけど、やっぱり何かしてあげたい気持ちはある。
むしろこんな時でしか私は彼に何かを返してあげることが出来ない。
いつも考えているけれど、結局何も思いつかず
こうやってイベント事を迎えてしまう。
だからせめて
ツリーを一緒に飾り付けをしたい、切なく苦しい日を少しでも和らげてあげたい。
そして、教えてあげたい。
この世界には、もっとたくさん、美しく輝かしいものがあるということを。
「決めた」
私はウィンドウから離れ、お店の中に入る。
棚に並んだ、色とりどりのスノードーム。
どれが良い?とか何が綺麗とか、どの商品が一番人気とかよく分からない。
でも私の目に映るモノはどれも綺麗で、全部一番に見えてくる。
「うーん・・・迷うなぁ・・・」
「アレ〜?じゃん」
「あ、ホントだ」
「エミリー・・・ジェーン」
1人、スノードームの棚の前で悩んでいると
カリーナの友人であるエミリーとジェーンが声をかけてきた。
「眉間にシワなんか寄せて、何悩んでんの?」
「クリスマスプレゼント」
「さては、バニーさんへの?」
「うん。スノードーム、あげようかなぁって思って」
私がそれがバニーへのクリスマスプレゼントと答えると
彼女たちは目を開かせ驚いていた。
そんな反応に、私は首を傾げる。
「え?何その顔?」
「えらく子供じみてるなぁ〜って・・・ねぇ」
「スノードームって、子供っぽくない?ていうか、バニーさんいくつよ?」
「に、25だけど」
「成人半分越えた大人に、スノードームって。・・・もうちょっとマシなプレゼント思いつかないの?」
「例えば時計とか、男物のブレスレットとか」
確かに、それは考えた。
バニーは私からしたら大人の男の人。
だから時計をあげたり、男物のブレスレットあげたり・・・一般男性が好みそうなものを
一旦は私も考えた時間はあった。
でも、「大人」として彼はそれを上手く取り繕っているように見えるだけ。
バニーは心の何処かに、子供っぽさを隠している。
幼い頃、受けるはずだった愛情を私にだけ見せている。
甘えたり、嫉妬したり、独占したり・・・それは全部バニーが求めていた、望んでいたモノだから。
だからいつも彼は「私以外何もいらない」というのだと。
「バニーは、小さい頃子供らしい事が出来なかったの。普通に遊ぶことも、何もかも。
だからね・・・教えてあげたいの。この世には、綺麗なものがいっぱいあって、身近にあるんだよって」
『私』という存在で、彼の全てが満たされているというのなら
私の手から渡される贈り物で、淀んだ記憶に一筋の光を当てることができるはず。
教えてあげたい。
見せてあげたい。
この世には、輝かしい物がありふれていることを。
「純粋っていうか、純愛っていうか」
「の場合、どっちもよね」
「いいんじゃない、スノードームあげるってのも。女が男にあげるっていう逆転の発想もアリかも」
「うん!、一番綺麗なの選んで渡すんだよ!」
「ジェーン、エミリー・・・うん、ありがと」
そう言って2人は店を後にした。
彼女たちに励まされ、私は自分の目に止まった一番綺麗なスノードームを選び
レジへと進み綺麗に包装してもらった。
愛らしくラッピングされたスノードームの入った箱を持ち外に出る。
手に持った彼へ贈るプレゼント。
バニーは喜んでくれるだろうか?
子供じみてる、とか言って笑わないだろうか?
でも、いつも私が「ごめんね子供じみてて」なんて言うと
バニーは笑って「いいえ。が僕のために選んできてくれたのでとても嬉しいです」と答えてくれる。
このスノードームを見て、彼はどんな表情をするだろうか?
「バニー・・・どんな顔するのかな」
少し、そういう反応を見るのも自分としては一つの楽しみかもしれない。
プレゼントも準備は出来た。
準備は整えた・・・まだ私はスタートラインに立ち尽くしたまま。
ピストルが鳴り走りだすのは、彼にあの言葉を告げてから。
『イブの日、クリスマスツリー・・・一緒に飾り付けしよう』
苦く切ない日に、少しでも温かい灯火を。
樅の木に色々な装飾を施し
頂上のお星様は二人一緒に飾って。
笑い合って、綺麗だね・・・と言葉を交わし合いたい。
暗く濁った、あの日を過ごす貴方に
私は少しでも温かい光を注いであげたい。
私の光で、愛すべき貴方を・・・包み込んで、あげたい。
聖母マリアの愛は光そのもの
(私の愛-ヒカリ-は貴方を包み込む)