明日は遂に・・・あの日がやってくる。







クリスマスイブ。






街を車で駆け抜ければ本番目前と言わんばかりの
彩りが街を更に明るくしていた。


そして僕は
に墓参りを一緒に行こうという誘いの言葉も
言えないまま問題の日の、前日を迎えてしまった。



車を運転させながら1人ため息を零す。







「もう、いい加減言わなきゃ」






明日は両親の命日。

2人の墓前に、と花を添えて
大切な人が出来たという報告をしなければならない。

大事なことだというに、僕は未だ彼女に墓参りの事を言い出せずに居た。



言わなきゃ何も始まらない・・・自分の中では分かっているのに
口から言葉が上手いように出てこない。


いつもなら、いつもの僕ならちゃんと言えるのに。








「でも・・・言えないよな、そんな事」







信号機が赤に変わり、停車。

それと同時に言葉が漏れた。





言いたいのに、言えない。


言ってしまえばきっとの気分まで下げてしまう。
唯でさえ、にだって苦く寂しい思い出がある。


いくら僕が側にいるからといって、それが取り払われる・・・というわけではない。






墓参り、一緒に来て欲しい。



だけど、の事を考えたらそれが言えない。





気持ちが交錯し過ぎて自分の中で
「付いて来て欲しい」のか「付いて来て欲しいのを言わないほうがいい」のか
という判断が出来なくなっていた。

もう頭の中がゴチャゴチャし過ぎて
明日を迎えるのが億劫にすらなりそうだ。



それでも、墓参りには行かなければならない・・・。



両親の眠る、あの墓地に。








「はぁ〜・・・僕は一体、どうすれば・・・」







停車の赤が未だ発進の青に切り替わらず
僕はため息を零し、窓の外を見た。


街行く人達は、明日の準備に忙しそうに歩いている。
忙しくてもその表情は楽しげだ。


僕はちっとも、楽しくもないし・・・気分も上がらない、むしろ下がり続ける一方。



せめて、に言えるきっかけでもあれば・・・と思っていたら
ジュエリーショップのウィンドウにある写真に目が止まった。









「あ」







ふと、頭の中で一筋の光が走り出した瞬間
後ろから威勢よくクラクションを鳴らされる。


目の前を見たら停車の赤はいつの間にか、発進の青にと切り替わっていた。


僕は慌ててブレーキからアクセルへと踏み変え車を発進させる。


サイドミラーで先程の店を確認。
僕が居る車線の反対側の歩道に、その店は位置していた。












「確か、あと数mで車線変更出来たはず」









すると僕の予想通り車線変更の標識を見つけた。



僕はウィンカーを出し、すぐさま車線変更。
そして、Uターンをして反対車線へと入り込み元の場所へと車を進めた。



先程止まった信号機で再び停車。そして赤から青に切り替わり発進。

僕はジュエリーショップ専用の駐車場に車を止め
車を降り、店の中へと入るのだった。



僕が店の中に入ると、店員はおろか
店の中に居た女性客までも僕の突然の来店に少し騒ぎ出す。

しかし、今の僕にはそういったのは全く眼中に無く
むしろ探していた・・・きっかけを作る、モノを。











「あ、あの・・・っ」


「はい」









すると、ある店員が緊張した面持ちで僕に声をかけてきた。








「何か、お、お探しですか?」



「え?・・・えぇ、まぁ」



「ど、どういったのをお探しでしょうか?」



「そうですね・・・」








どういったの・・・と尋ねられても僕自身勢いでこの店に来たようなものだ。

に話すきっかけが欲しいモノを探していたら
目に止まったウィンドウに映る写真の・・・・・・―――――。








「あの」



「は、はい!何でございましょうか?」



「ウィンドウに飾ってある、写真の女性が付けている同じデザインのネックレスってありますか?」



「え?・・・あ、た、只今お持ちしますね」







僕の言葉に店員がそそくさと奥の方へと引っ込むもすぐさま戻ってきた。


小さな板に乗った、ハートのネックレスを持って。







「こちら新作のデザインで、つい先週に出たばかりです。
ピンクゴールドと、ゴールドの2色になっております。ウィンドウに飾ってある写真のモデルがしてたモノは
この、ピンクゴールドのハートのネックレスですね」



「じゃあ、そのピンクの方をください」



「かしこまりました。プレゼントか何かでしょうか?」



「母へのプレゼントです。いつも母には世話になっているので」



「あ、そ、そうですよね。では、すぐに包装致しますのでしばらくお待ち下さい。
ではあちらでお会計を」


「はい」






僕の言葉を完全に真に受けたのか
店員だけではなく、周囲の女性客達もホッとした様なため息を零した。

上手い事言葉を取り繕わないと
「バーナビー・ブルックスJrに年下の恋人発覚!?」なんて騒ぎが起きかねない。
出来る事ならの存在は公にはしたくない。

公にしてしまえばそれこそ、僕じゃなくに色んな意味で迷惑をかけてしまうことになる。




お互いハイリスクな恋をしていることは重々承知の上。




僕はヒーロー。


は一般人。



繋がりなんて何処にあるだろうかと
変に探られてしまう事も有り得なくはない。





だから此処は敢えて「母親へのプレゼント」と言葉を作ったのだ。





全てはと両親の墓参りをするきっかけを作るために。








「(ホント、つくづく僕もの事ばっかりだな)」







考えて思わず笑みが零れた。



会計を済ませ、数分足らずで選んだネックレスは
綺麗な箱に入り、そして綺麗な袋に入れられ僕の目の前に戻ってきた。


感謝の礼を言ってその場を去ろうとしたら
お店の人にサインをせがまれ、僕は快くサインをしてその店を去った。



車に戻り袋を助手席に置く。


そっと袋を指でなぞるとの優しい微笑みが目に浮かんだ。




この微笑みを明日という日、側でもっと感じたい。


その為にも今日という日を乗り越えなければならない。









「よし、言うぞ」








だから、今日こそ言うんだ。








−両親の墓参り、一緒に来て欲しい−








その、一言を。



そして、渡そう・・・僕から、君へのクリスマスプレゼントを。


















「ただいま」


「おかえりバニー」







マンションに帰り、リビングに顔を出すとが笑顔で出迎えてくれた。


明日の準備も兼ねて
車の中、助手席に今日買ったプレゼントを置いてきた。

何故其処に置いてきたか。
もちろん、サプライズな意味を込めてだ。
助手席の扉を開けた時の、の反応見たさに。







「お腹空いてない?」


「ちょっと空いてます」


「じゃあ少しお皿に入れて持ってくるね」





は僕の横を通り過ぎキッチンへと向かう。












「ん?なに?」





横を通り過ぎたを呼び止める。

すると彼女は振り返り不思議そうな顔で僕を見つめた。



プレゼントの準備は出来た。
あのネックレスは好みのモノ。きっと喜んでくれるはず。


あとは、そう・・・あの言葉を言うだけ。






「大事な、話があります」



「・・・偶然だね。わ、私もあるの・・・大事な話」



「え?」






僕だけかと思ったら、どうやらも僕に話したいことがあるみたいだった。






「じゃあから、どうぞ」


「え?い、いいよバニーから」


「いえ、此処はでもレディーファーストで」


「わ、私のは大したのじゃないから・・・そのバニーからどうぞ」


「ですが・・・っ」






お互い譲り合いをして、コレではキリがない。






「分かりました。じゃあ、僕から言います」


「なら私のはその後ね」






譲り合いをしていても始まらない。

ならば此処は僕から男らしく告げよう。


一旦深呼吸をして、真っ直ぐな眼差しでを見た。









「あの、・・・あ、明日のことなんですけど」




「ぅ、ぅん」




「その、明日・・・あの・・・僕と」










-----------!・・・!・・・!・・・!








肝心な部分を言おうとした矢先の、PDAからのエマージェンシーコール。

空気を読まなさすぎるコールには苦笑を浮かべながら
「出ていいよ」と促し、僕は謝罪の言葉を漏らして、コールに出た。








『ボンジュールヒーロー・・・悪いけど、長丁場になる大仕事なの今すぐ来て』


「・・・・分かりました、すぐ行きます」






コールを切って目の前のを見た。







「すいません。行かなきゃいけないみたいです」



「分かってるよ、気をつけてね」



「本当にすいません。では行ってきます」








そう言って僕はすぐさま部屋に彼女を一人残し後にした。


車に乗り込んでキーを差し込む。
ふと、目に飛び込んできた助手席に準備しておいたへのサプライズプレゼント。







「あー・・・もう!」






アニエスさんからのコールで「長丁場」と言っていた。
確実に日付は越えそうだし、下手したら僕が帰り着いた頃にははもう眠りに就いている頃。

またしても言うタイミングを逃してしまい、僕は肩を落として
プレゼントを車のグローブボックスの中へと入れ、車を発進させ現場へと向かった。




きみ好みの贈り物をあげる・・・はずだった、明日。

それで全て上手く行くはずだった。



なのに、僕自身結局肝心なことを言い出せず全てがご破算。



時計の針は無常にも進み続け、止まることなく明日
クリスマスイブ・・・そして、両親の命日を迎えることになった。




きみ好みの贈り物をあげる
(そのつもりで選んだのに、どうして僕は言えなかったんだ?)
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