偶然とは、怖いものである。










「夕飯はこれくらいで。後、何買わなきゃいけなかったかな?」






ある日の休日。

私は夕飯の買出しやら生活用品の買い足しなどで街に繰り出していた。
部屋の主であるバニーが居ない間は、私が部屋を任されているから
家にないものは一緒に住まわせてもらっている私の役目。


そして夕飯の買出しでスーパーを出ると
1人のおばあさん?が膝を抱えて座り込んでいた。






「あの、どうかしましたか?」


「え?」





私は野菜やら色んなものを入れた紙袋を片手で持ち
すぐさまおばあさんの方へ駆け寄った。

私が声を掛けると、その人は少し驚いた表情をしていたが
すぐに柔和な表情になった。






「いいえ。ただ、少し買い物をしすぎて荷物が重かったのかしら。膝が少し痛くて」





その人の話を聞いて、隣に置いてある私が入っていた
スーパーの紙袋を見ると確かに少し年老いた人が持つには多い量だった。




「じゃあ、私が持ちましょうか?」


「え?でも、貴女もお荷物が」


「これくらい大丈夫です、いつもしてますから。それに膝が痛いままこの荷物持ったら
余計痛めてしまいますしお家まで運びます」


「そ、そうなの。じゃあお言葉に甘えて」


「はい」



そう言って私はまずおばあさんの支えになって立ち上がらせ、それが終わると
私はその人が持っていた紙袋を空いてる手で抱えた。

見た目重いように見えたが、案外軽い。







「あの、重くないですか?」


「いえそれほど重くないですし大丈夫です。じゃあ行きましょうか」


「すいません。ありがとうござます」







物腰柔らかにおばあさんは私にお礼を言った。

何か、こういうところ営業スマイル全開してるバニーみたい、なんて思ってしまったが
まぁ私の前でも大抵こんな感じだよね。なんて考えてしまった。






















「へぇ。じゃあ以前は家政婦さんだったんですか?」


「えぇ、とても立派なお宅で。旦那様も奥様もとても素敵な方でした」





二人で歩いていると、おばあさんが自分の昔の事を話してくれた。


そりゃあ、何でも出来そうよね。この人の雰囲気的に。
あれ?でも「でした」って。








「今は引退されてるんですか?」


「引退、というか・・・其処のお宅で色々ありまして」


「あ、ご、ごめんなさい。失礼なことを聞いて」










おばあさんも働けるお年ではないし、引退しているのかもと思っていたが
何だか立ち入ってはいけないような話に踏み込んでしまい私は申し訳なく思う。







「いいんですよ。でも、そこのご子息とは今でも連絡をとりあったり。
そうそう誕生日には毎年、ケーキを焼いて贈っているんですよ。坊ちゃんは私のケーキが大好きでしたから」



「とてもいい、ご子息さんなんですね」



「えぇとてもお優しくて、賢くて、努力家で。さすが旦那様と奥様のお子ですわ」



「なんだか、まるでご自分のお子さんのようにおっしゃるんですね」



「え?」



「だってその人の話をすると、とてもお優しい表情をなさっているんで。
そういう人が居てくれるだけでご子息さんが少し羨ましいと思っちゃいました」









羨ましい。


私はママはいつでも出張でどこに居るかもわからない。

パパは小さい頃に亡くなって、ママが連れてきた義理の父親は最低最悪。
挙句あの日、恐怖のあまりに私自身能力が覚醒して、怖い毎日。


だから、少し羨ましいとおばあさんの話を聞いて思っていた。






「坊ちゃんは、今まで苦労ばかりで。私がしてあげれる事と言えば、それくらいのことしか。
私のしていることが坊ちゃんの支えになっているかどうか、分かりません」



「そんなことないですよ」



「え?」



「連絡をとりあってるから、ご子息さんにとってはおば様が大切なんですよ。
いつも影で支えてくれているからこそ、電話したり、顔を見せたりしてくれるんですよ」







私だって、バニーの側に居て彼のために何かしてあげたいと思う毎日。

だけど出来ることはちっぽけっていうか、限られている。
でも、出来る範囲精一杯彼のためにしてあげたいと思う。








「大切な人のためにしてあげることは例えちっぽけなことでも、その人にとっては
とても大きなことなんです。だから自分の出来る範囲で精一杯してあげることが一番いいんです。
無理をしようとすると、かえってその人に迷惑を掛けてしまうかもしれないんで」



「・・・・そうですね。何だか貴女の言葉を聞いてホッとしました、ありがとうございます」



「え?・・・あ、いいえとんでもないです」









思ったことを言ったまでだったが
何だかそうお礼を言われたら恥ずかしい。


私が無理をするとバニーが悲しそうな顔をする。


そう思ったら自分の出来る範囲でやることはやろうと
彼と同じ部屋、同じ空間同じ時間を過ごしていて分かった。








「あ、此処までくればもう大丈夫ですわ。お荷物ありがとうございました」


「え?・・・あ、は、はい」





するとおばあさんの自宅に近いのか、手を差し出して
私が持っていた荷物を優しく取り上げた。







「そうだわ。今日坊ちゃんが会いに来てくれるんですよ。よろしければ・・・」



「え?あ、いえ・・・私はまだやることがあるんで、いいです」



「でも、貴女みたいな人。きっと坊ちゃんも気に入ると思うんですが」



「お話だけでもしておいてください。これから帰って夕飯の支度とかしなきゃいけないんで」








おばあさんに誘われたが私は丁寧に断った。


冗談抜きで、その「坊ちゃん」とやらに気に入られたら
バニーになんと言い訳したらいいのか分からない。

今日は寄る所があるけれど、遅くはならないと彼は言っていた。
だが、私が遅くなってしまうとバニーが心配するし、もし知らない男の人に気に入られでもしたら
彼の”お仕置き“という名の”ベッドに強制連行“が待っている。

あぁ見えて、私に関するよからぬ察知は早い。


此処は丁寧に断ったほうが無難だ。










「そうですか。残念です」


「また今度。何処かでお会いすることがあれば誘ってください」


「そうですね。じゃあまた今度」


「はい。では失礼します、お体に気をつけて」


「えぇ。今日は本当にありがとうございました」









一礼をして私はその場を立ち去った。



バニーが帰ってくる前に家に居なければ。
夕飯の買出しは終わったことだし、他の生活用品はまた別の日に改めよう。


とにかく早く帰らなければ。そう思い私はマンションへと足を進ませたのだった。




































「サマンサおばさん」



「あぁ、バーナビー坊ちゃん」



「またこんなに買い物をして。体を悪くしたらどうするんですか?」



「大丈夫ですよ。それに今日は素敵なお嬢さんに此処までお荷物を運んでいただいたので」



「素敵なお嬢さん?」



「えぇ。とても坊ちゃんにお似合いなお嬢さんだと思いましたわ。ご紹介したかったのに
用事があるといって先ほど帰られました」



「おばさん・・・その人を僕の結婚相手にしようとか考えてないですよね?」



「もちろんですよ!若いといえど、高をくくってはいけません坊ちゃん!今度は是非、あのお嬢さんにお会いしたら
このサマンサが引き止めておきますから逢いにいらしてください」



「そうですね・・・考えておきます(僕はいつこの人にの話をすればいいのだろうか?)」






Accident will happen
(意味は”事故は起こるもの“そうこれはちょっとした事故の始まり) inserted by FC2 system

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