「じゃあ、僕はそろそろ帰ります」
「あら、そうですか」
サマンサおばさんの家に来て、色々話したが
気づいたらもう夜。
あまり遅くなるとが心配しかねないと思い、僕は席を立ち上がった。
ふとテーブルに置かれたケーキに目が留まり―――――。
「おばさん。このケーキ貰っていってもいいですか?」
「え?・・・えぇいいですよ。ちょっとお待ちください、何か入れ物を準備しますね」
「すいません。ありがとうございます」
そう言ってサマンサおばさんはキッチンへと向かった。
少し遅くなったお詫び、とまでは行かないけれど
手ぶらで帰るのはに申し訳ない。
はケーキが好きだから、きっと喜んでくれるだろう。
考えているとおばさんがキッチンから入れ物と布を持って
テーブルに置かれたケーキを入れ物の中へと入れていく。
「珍しいですね。坊ちゃんがケーキを持ち帰るなんて」
「え?・・・あぁ。せっかく作ってもらったものですし、残すのは申し訳ないですから」
「そうですか。ありがとうございます坊ちゃん」
本当は、って言う子にあげるもの・・・なんて、言える訳がない。
むしろ僕はいつ、サマンサおばさんにの事を話してあげればいいのやら。
というかタイミングがなかなか掴めない。
おばさんにの事を話す目的でこうやって、度々足を運んでいるのに
いつもおばさんの話のペースに巻き込まれてしまい、結局話していない状態。
というか、許されるだろうか・・・同棲している上、6つも歳が離れている子の事。
僕は成人しているが、彼女はまだ未成年。
そこからして違法、多分今まで面倒を見ていてくれたおばさんもそこはさすがに怒るかもしれない。
天国の両親も実際のところ許してくれているのかどうか。
「さぁ、できましたよ坊ちゃん。・・・・・・坊ちゃん?」
「え?あぁ、あ・・・ありがとうございます」
渡されたケーキの入った入れ物を僕は受け取る。
「じゃあ、また来ます」
「えぇ。お気をつけて・・・あ、そうそう坊ちゃん」
「はい?」
サマンサおばさんの家を後にしようとしたら、呼び止められた。
踵を返し家を出ようと足を進めるつもりだったが、それも出来なくなり振り返る。
「今度、お見合いしてみてはいかがですか?」
「おばさん。さっきも話しましたけど、僕はまだいいですから」
「しかし。・・・・あ、それか今日私がお会いしたお嬢さんでも」
「その話はまた今度にしましょうサマンサおばさん。じゃあ失礼します」
「坊ちゃん!」
これ以上話を引き伸ばされると何を言い出すか分からない。
とにかく僕は今のところ結婚は考えていないし、むしろ結婚するならじゃなきゃ嫌だ。
半ば慌てておばさんの家を出て、僕は車に乗り込み
大きなため息を零した。
「の話は、また今度か・・・・・。とりあえず帰ろう」
そう呟いて、車を発進させマンションへと戻るのだった。
「ただいま」
「バニー、おかえりなさい」
「遅くなってすいません」
「大丈夫だよ」
マンションに帰るとが笑顔で出迎えてくれた。
ふとテーブルに目線を寄越すと、一人分の食事にラップがしてある。
それに気づいたのかは慌ててラップを剥がす。
「あ、ご、ごめんね。本当は一緒に食べるつもりだったけど、私お腹空いちゃってて先に食べちゃった」
「いや、元は僕が遅くなったのが悪いんですから。先に食べててもいいんですよ」
「そ、そう?怒ってない?」
「怒ってませんよ。むしろそれを聞きたいのは僕のほうですから」
「え?」
呆然とした表情では僕を見る。
「君がお腹を空かせてまで待たせたんですから。怒ってないかと問いかけるのは僕のほうです」
「大丈夫。だって帰ってくる途中にバニーの出動要請が入ったりとかするし平気だよ。それにちゃんと
バニーが此処に帰ってきてくれたのが何よりもホッとしてるから」
「」
は笑顔で言った。
その表情を見た僕は彼女を引き寄せ腕の中へと収めた。
小さくて、腕のスペースが有り余るほどまだ少し幼い少女。
やっぱり結婚を考えるなら、が一番だ。
「バニー?どうしたの?」
「いえ。あ、そうだ・・・これ」
「ん?何?」
僕はサマンサおばさんの家から持って帰ってきたケーキの箱をの前に差し出す。
「以前、僕の家のメイドをしていた人が焼いたケーキです。
とても美味しいのでにもと思って持って帰ってきたんです。デザートに食べてください」
「わぁ〜ホント!ありがとうバニー」
「どういたしまして。じゃあ僕もの作ったものいただきますね」
「うん。あ、温め直そうか?」
「いえ、大丈夫です。はケーキをご馳走になってください」
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言っては箱を持ってキッチンへと走り、僕は椅子に腰掛け
の作ってくれた食事を食べるのだった。
「はいコーヒー」
「ありがとうございます」
食事を終え、が僕にコーヒーを持ってきてくれた。
「ケーキはどうでしたか?」
「うん、とっても美味しかったよ!その人に今度会ったらケーキ美味しかったですって伝えててね」
「え?・・・えぇ、伝えておきます」
どう伝えろと?
いまだ目の前ののことすら話していないのに
サマンサおばさんにどう伝えればいいのやら・・・と、僕は悩みながらコーヒーを口に含んだ。
ふとに目線を寄越すと何やら嬉しそうだ。
「・・・今日はやけに嬉しそうですね。何か良いことでも?」
「え?あぁ・・・あのね、今日買い物してて帰る途中スーパーの前でおばあさんが膝を痛めてたから
私が荷物を持ってそのおばあさんのお家まで運んであげたの。そしたらその人、とっても喜んでたんだ。
これならヒーローじゃなくてもできることだから」
「。・・・そうですね、今日のは良い事をしましたね」
「うん!」
僕がの頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに返事をした。
「困ってる人が居たら助けなさいってタイガーさんがよく言ってたの。
明日タイガーさんに言ったら褒めてくれるかなぁ?」
「・・・・・・・・・」
頭を撫でる手が止まった。
あれ?僕も褒めたよね?
僕もを褒めたというのに、何故そこで虎徹さんの名前を出したんだ?
むしろなんとなく言葉的に「僕」じゃなくて「虎徹さん」に褒めてほしい感じがした。
「バニー?」
「僕が褒めなくてもよかったじゃないですか、そんな言い方されたら」
「え?・・・あ、違うよ。そういうつもりで言ったんじゃ」
「じゃあどういうつもりで言ったんですか?」
「そ、それは・・・っ」
僕はコーヒーの入ったカップをテーブルに置き、床に座るに近づく。
「僕は、君の口から他の人の話をされるのが嫌なんです」
「バニー・・・それ、ヤキモチ」
「えぇヤキモチですよ。それが何か?」
相変わらずは無自覚だから僕はすぐヤキモチを妬いてしまう。
の口から、虎徹さんの名前が出ても・・・それも嫉妬の対象。
彼女はずっと僕だけを見つめててほしい。
「物分りの悪い子にはお仕置きが必要のようですね」
「え?・・・・きゃっ!?」
そう言ってを床に押し倒し、その上に覆いかぶさるようにした。
完全に逃げ場を失わせた状態だ。
「バ、バニーッ・・・私、まだシャワー浴びてないよっ」
「シャワーなんて後から浴びればいいです。いい加減、君は誰のものかという自覚をしてください」
「自覚って言ったって・・・っ」
「君は僕の、僕だけのモノなんですよ。心も、その体でさえも全部・・・全部」
の首筋に顔を埋め、唇を当て強く吸い上げ赤いキスの花を咲かせた。
腕に添えられた彼女の手の力が徐々に抜けていくのを感じる。
首にキスを終え、頬に・・・そして顔を上げ、目線を合わせた。
目を潤ませて、僕を見ている。
その瞳に映っているのは、僕だけ。
「は、僕のモノです」
「バニー・・・ッ」
「愛してますよ」
愛を囁き、唇を重ねようとした――――――瞬間。
――――♪〜♪♪
ムードを台無しにするような、出動要請の着信。
とキスをする顔を床にと逸らし
盛大なため息を零しながら、体を起こして着信に出る。
「はい」
『ボンジュール、ヒーロー。出動よ、今すぐ来て』
「・・・・・・・・・分かりました」
アニエスさんからの着信を切り、僕は立ち上がる。
「し、仕事?」
「えぇ。ちょっと出てきますが・・・帰ってくるまでに、はシャワーを済ませておいてください」
「え?」
僕の言葉には少し驚いた声を出す。
「マッハで片付けてきます。帰ってきたら、寝ないで待っているように」
「え〜!?」
「もし寝てたら・・・・・・どうなるか、分かってますよね?」
笑顔で僕がそう言うとの表情が固まっていた。
ああなんだか、その顔も可愛い。
「じゃあ行ってきます」
「い、行ってらっしゃい」
部屋を出て僕はすぐさま現場へと向かう。
マッハで終わらせよう。
じゃないとが待ちくたびれて寝てしまうかもしれない。
まぁそれでも、僕はやりたいことを中途半端で投げ出しているんだ。
例えが寝ていたとしても、お預けなんて僕はしない。むしろさせない。
「ホント・・・こんなのだから、おばさんにも話せないのかもしれないな」
そんな苦笑いを浮かべ、僕は夜の街へと駆けていくのだった。
任された厄介ごとを片付けるために。
そして僕のお姫様が眠りに就く前には戻らなくてはならないと心に思いながら。
Use the means and God will give the blessing
(意味は”人事を尽くして天命を待つ“やることはやって、後は神様に任せるか?)