「ふぅ、やっと買い揃えたわ」
アレから2日経った。
アレからというのは、バニーが私を襲う寸前で出動要請が入って出ていった日。
だが、彼がそう簡単に諦めるわけがない。
結局帰ってきたら、お風呂から上がった私をベッドに強制連行。
まぁ大人しく待っていようが、寝ていようが多分彼はベッドに連れて行くつもりだっただろう。
おかげで昨日の学校は遅刻ギリギリだ。
そして本日は学校が休みというので
この間買えなかった物を買い揃えるために出かけていた。
「そういえば、バニー・・・今日も少し遅くなるって言ってたなぁ」
此処のところ、バニーは帰りが少し遅い。
別に出動要請ではないのだが、最近は帰りが遅かったりする。
まぁ彼の帰宅が遅いのは日常茶飯事なのだが
何かやましいことでもしてるんじゃないの?と問いかけたところ―――――。
「実は、君の事をある人に話そうと思っているんです」
「え?誰に?」
「ケーキを持ち帰ってきましたよねこの前。そのケーキを焼いてくれた人です」
「昔バニーのお家に居たメイドさん?」
「はい。その人にの事を話そうと思っているんですよ」
そういえばバニーには家族が居ない。
お父さんもお母さんも彼が幼い頃に殺されて亡くなっている。
だから彼が家族として心を許しているのは、そのメイドさんだけということ。
「でも、何で?」
「一応、建前というか・・・」
「うん」
「もし、結婚をするなら僕はとの結婚を考えているんです」
「へぇ・・・・・・えぇえええ!?」
バニーの口から零れた言葉に私は驚いた。
いや、待って!!!
け、けっ、結婚なんて・・・っ。
「わ、私まだ18だよ!?それに、バニーと歳が・・・っ」
「確かに、僕が成人しているとはいえ君はまだ10代だし、歳は6つも離れている。でも
僕としては結婚をするならとしか考えられないんです」
「バニー」
何か、今現在気が早いプロポーズをされているような・・・・・・。
その言葉を聴いただけで私は顔が赤く染まった。
引き取られてまだ日が浅いかもしれない。
でも、彼の隣に居る時間はタイガーさんには負けるけど、その次に長いと思う。
だからこそ、バニーのその言葉が心に響いてきた。
「ですから、君と付き合って一緒に住んでいるとその人に話さなくてはいけないんですが」
「どうしたの?」
するとバニーは少し困った顔をしながら頭を掻いた。
「なかなかタイミングが無くて。というか、いつもその人のペースに巻き込まれて
結局のこと話せずじまいで、今現在に至っているというわけです」
「なる、ほど」
「いい加減話さなきゃいけないのに。僕ととの関係は、虎徹さんたちは知っているし。
あと知らないといえば、その人だけになるんですよ。今までお世話してきてくださった人ですし
何も言わず、君と結婚してしまえば・・・その人のことを裏切ってしまうことになる。それだけは避けたいんです」
「だから、話すの?」
「はい。すいません。・・・こんな大事なこと、一人で勝手に進めて。
でも出来ることならその人に話を通してから、君に会わせるのが筋かと思いまして。だから最近帰りが遅くなってるんです」
「そうだったんだ」
何か、私の知らないところで
彼が一生懸命奔走してると思うと嬉しいし、何より―――――。
「バニーが私との結婚を考えてたのがびっくりだよ」
バニーがそんなことを考えていたのが驚きだった。
「が20歳になったら、僕はそのつもりです」
「バニー」
「」
「あ」
名前を呼ばれ、バニーは私を抱きしめた。
あったかい、彼の腕のぬくもり。
大好きなバニーの匂いが鼻を掠める。
「は僕が必ず幸せにします。そのためにも段階を踏むことは重要なんです」
「うん」
「だから、もう少し待っててください。必ずの事話しますから」
「頑張ってねバニー」
私が彼をそう励ますと――――。
「君がそう言ってくれるだけで頑張れる気がします。ありがとうございます」
微笑んで、優しくキスをしてくれた。
まぁそれは今朝の出来事なんですけど。
彼が仕事に出た後。
私は買い物を済ませるつもりで町に出た。
とにかく、バニーがその人に話をするまでは私も下手に動けない。
彼が紹介していいサインが出れば私だって、頑張って挑みたいと思う。
だって、バニーが私のことをこんなに愛してくれているんだから
彼が頑張っている分、その時が来たら私も頑張らなきゃと思っていた。
「(とにかく今日こそ話しに行くって意気込んでたから、遅くなるだろうなぁバニー)」
「あら、あの時の」
「え?・・・あぁ、どうも」
1人考え込んでいると、突然背後から話しかけられた。
振り返ると其処にはこの前のご婦人だった。
今日はどうやら軽めの荷物を彼女は持っていた。
「今日もお買い物?」
「えぇ。この前結局帰るだけで精一杯で買えなかった物を」
「まぁそうでしたの。ごめんなさいね、あの時は」
「いえ、いいんですよ大丈夫です」
ご婦人が謝ってきたので、私は気にしないよう大丈夫と促した。
「今日はお時間あるんですか?」
「え?・・・えぇ、まぁ」
バニーが帰ってくるのは遅いし、夕飯は冷蔵庫にある物でと考えていたところ。
だからそれなりに時間はある。
「ウチにいらしてください。先日パウンドケーキを焼いたんですよ、よろしければ食べていってください」
「え?で、でもお邪魔じゃないですか?」
「大丈夫ですわ。さぁ、行きましょう」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
少しの時間なら大丈夫だし、それにご婦人の言う「坊ちゃん」は来ない感じだ。
ならばと思い、私はご婦人の家に付いて行く事にした。
「あー・・・風船引っかかっちゃった」
「取れないよ〜」
歩いていると、木の下に子供が二人困っていた。
上を見上げると風船が木の枝に引っかかっていた。
あれくらいなら、取れそう。
「あの、ちょっと此処で待っててもらえますか?」
「え?えぇ」
私はご婦人をその場に待たせ、子供達のところに駆け寄った。
「どうしたの?」
「木に風船引っかかったんだ」
「風さんが風船、木にふっ付けちゃったんだよ」
「そう。ちょっと待っててね」
私は空いてる手を木に伸ばし、能力を発動させた。
すると木に引っかかっていた風船が私の手に吸い寄せられてきた。
大きなものはまだ動かしたり色んなことは(まぁ興奮して大人1人は吹き飛ばせる)出来るけど
小さいものを念力で使えるのは大分慣れてきたところ。
だから木に引っかかった風船を取るのは簡単だ。
風船はゆらゆらと揺れながら、私の手元にやってきて
私は風船の垂れている糸を掴んで、子供に渡した。
「はい、どうぞ」
「うわぁ〜ありがとう!」
「お姉ちゃん凄いね!!ありがとう!!」
「どういたしまして。次は離しちゃダメだからね」
「「はーい」」
風船を渡すと子供達は嬉しそうに去っていき
私もご婦人を待たせた場所へと戻った。
「す、すいません。お待たせして」
「いいえ。それにしても貴女、NEXTだったんですね・・・驚きました」
「あ、は、はい」
そりゃあ驚くでしょうね。
NEXTなんて能力を使わないなら普通の人間となんら変わりがないのだから。
「でも、私はつい最近力に目醒めたばかりなので・・・まだああいった小さなことしかできなくて。
大きな力を使おうとすると、腕を痛めたりしてまだ全然なんです」
「そうですか。そうそう坊ちゃんもNEXTなんですよ」
「へぇそうなんですね」
出ました、ご婦人の口から『坊ちゃん』。
良い所のご子息の上、更にはNEXTと来たか。
そこまでなると、ちょっと見てみたい気もする。
(逢わなくていいから写真か何かで見てみたい。)
いや、ご婦人の家に行けば・・・あるのよね、写真くらい。
写真を見てから会うかどうかは判断しよう。
紹介されても私は断るけど(だってバニーが居るし。)
「どうかなさいましたか?」
「え?・・・い、いえ何にも」
「じゃあ行きましょうか」
「あ、はい。お荷物は大丈夫ですか?」
「今日は比較的に軽く買い物を済ませたので大丈夫ですよ」
「それはよかったです」
そして、私はご婦人と他愛もない話をしながら彼女の家へと向かった。
「お荷物はソファーに置いて構いませんよ」
「す、すいませんありがとうございます」
ご婦人の家に着くと、荷物はソファーに置いていいと促され
私は自分の持っていた物を置いた。
「ケーキとお茶の準備をしますから、ちょっと待っててくださいね」
「え?・・・あ、ありがとうございます」
そう言われ、私は待っている間部屋の中を見渡す。
そう目的はただ1つ!
例の「坊ちゃん」の写真を見つけること!!
良い所のご子息で加えてNEXT。
さぞ今も良い暮らしをしているに違いないだろう。
この人が溺愛してるくらいだ、どんな顔をしているのだろうと思うところは其処だ。
棚に置かれている調度品を見るフリをして、ふと写真立てを発見。
「(これが坊ちゃん?)」
写真立てに写っていたのは、小さな男の子。
大きな目の色はエメラルドグリーンで
柔らかい髪で、毛先は外へと跳ねていた。
「(あれ?・・・この顔、どこかで・・・?)」
見覚えのある顔だった。
しかし、何処で見たのだろうか・・・思い出せない。
何処で見たんだろう・・・何処かで見たことがある顔だ。
「それが、坊ちゃんですよ」
「え!?・・・へ、へぇ・・・この男の子が」
すると、ご婦人がティーセットとケーキの乗ったお皿を持ってやって来た。
しかし写真を凝視している私は突然声を掛けられたので、慌てて返事を返す。
ご婦人はティーカップに紅茶を注ぎいれていた。
ふと、目に止まったお皿の上に乗ったケーキ。
「(あれ?このケーキ・・・この前、バニーが持って帰ってきてくれたケーキだ)」
ケーキの形に見覚えがあった。
バニーが以前自分の家のメイドさんが焼いてくれたケーキ。
それと、今目の前にあるケーキがそっくりだった。
「どうかなさいましたか?」
「え?あぁ、いいえ。ケーキ、とても美味しそうですね」
「ありがとうございます。よろしければ、作り方のレシピお教えしましょうか?」
「本当ですか!わぁ〜ありがとうございます・・・・えーっと」
ケーキのレシピをもらえると思ってお礼を言おうとしたが
そういえば、私・・・このご婦人の名前、聞いてなかった。
「あぁ、申し遅れました。サマンサ・・・サマンサ・テイラーと申します」
「私、・です。サマンサおば様ありがとうございます」
「いいえこちらこそ。じゃあちょっとレシピを持ってきますね」
「はい」
そう言ってサマンサおば様は部屋を後にした。
誰も居ない部屋で、私は紅茶を飲んでケーキを頬張った。
美味しいと感じたそのケーキ、レシピを貰ったらバニーにも作ってあげようと私は顔を綻ばせていた。
---------------PRRRRRR・・・ガチャッ。
『どうかしましたかサマンサおばさん?』
「坊ちゃん。今すぐ私のお家にお越しください」
『え?あの、おばさんどういう?』
「今、丁度この前お会いしたお嬢さんをウチで引き止めております。
お帰りになる前に車を飛ばしていらしてください」
『え?あ、あのサマンサおばさん?』
「いいですね。必ず今すぐお越しください、坊ちゃんが来るまでこのサマンサが引き止めておきますから」
『ちょっ、おばさ』
ガチャッ-------------P-P-P-・・・。
「さぁて・・・レシピを探そうかしらね。ウフフ、お二人が会うの楽しみだわ」
Opportunity seldom knocks twice.
(意味は”好機は二度訪れない“。だからコレを逃してはいけませんのよ)