目の前に現れた人物に、ようやく
写真立てに写った男の子が誰なのかを思い出した。
「さん、こちら・・・私が以前勤めていたお家のご子息。バーナビー・ブルックスJrさんです。
ご存知ですよね、あのキング・オブ・ヒーローなんですよバーナビー坊ちゃんは」
そう、バニーだった。
写真立ての男の子・・・何処かで見覚えがあると思ったら
彼のマンションだ。いつもテーブルの上に置かれている・・・写真立て。
その写真に写っている幼少期のバニー。
ここに置いてある写真は、幼少期のバニーだった・・・。
ちょっと待って。
もしかして、バニーが私の事を話さなきゃいけない相手って・・・サマンサおば様?
バニーは「以前自分の家に勤めていたメイド」って言ってた。
サマンサおば様も「以前私が勤めていたお家のご子息」って。
その言葉を理解すれば・・・辻褄が合う。
じゃあもしかして、おば様が私に逢わせたがっていた相手って・・・・・・バニー!??!
「さん」
「え?あ、はい」
1人考え込んでいるとサマンサおば様が少し
心配そうな面持ちで私を見ていた。
「どうかなさったんですか?もしかして、あのヒーローのバーナビーさんだから緊張をしてるのかしら?」
「え?・・・えーっと・・・」
私は目を泳がせながら、ふとバニーと目が合う。
しかしどうやら彼も困惑しているようで目線を逸らされた。
此処は・・・もう―――――。
「そ、そうなんですよ!まさかサマンサおば様のおっしゃってた”坊ちゃん“って
バーナビーさんのことだったんですね!凄い偶然、ビックリしちゃいました」
「そうでしょ、ウフフフフ」
演技で切り抜けた私。
すると、サマンサおば様が一方的に喋り始めた。
ふと私の言葉に冷静さを取り戻したのか、バニーが少し驚いた表情で私を見ていた。
「バ、バーナビーさん初めまして・・・・・です。私、バーナビーさんのファンなんです」
「え?・・・あ、あの・・・」
私が手を差し出し握手を求める、フリをするも
バニーは再び困惑し始める。私の手を握る彼の手も躊躇っている。
「もう坊ちゃん!さんがせっかくご挨拶してるんですから、握手なさってください」
「で、でも・・・おばさん、あの、僕は・・・」
「あー!!お、おば様っ!!ケーキのレシピを探しているんじゃなかったんですか?
わ、私早くレシピを見たいんですよ!!」
とにかく困惑しているバニーをまずは宥めなきゃと思い
彼と2人っきりになるには、サマンサおば様を離さなきゃいけないと知恵を絞って出たのがコレ。
「あ、そ・・・そうですね。じゃあ坊ちゃんとさん、少しお待ちくださいね」
すると、私の誘導がよかったのかおば様はそそくさとどこかへ小走りで去って行った。
「・・・どうして」
おば様が居なくなると、躊躇いがちな態度をしていたバニーが
小声で私に話しかけてきた。
「それはこっちのセリフよバニー・・・まさか、貴方だったなんて」
「驚いたのはお互い様でしょう。おばさんが紹介したい子がだったなんて。それになんであんな事を?
僕は、君の事を話すために此処に来たのに・・・他人のフリをするなんて」
「ダ、ダメだよ・・・・あんな優しいおば様に、いきなり私のこと話しちゃうなんて。
それに私と貴方の繋がりはどうするの?バニーは私からしたら手の届くような相手じゃないんだよ。
簡単に会えるような相手じゃないし、ましてや一緒に暮らしているとなると・・・おば様が驚いて倒れちゃうよ」
「・・・そんなに考えて、あんな行動を」
いきなり話してしまえば、びっくりして倒れる可能性は高い。
色々考えたら、他人のフリをするのが一番の策しかなかった。
「お願いバニー・・・おば様の前では他人のフリしよう。そうじゃなくても、おば様がバニーのこと大切に思ってるし
私のこと、何だか気に入ってくれてるみたいだから・・・最初からそんな、優しい人のこと裏切れないよ。
バニーだって・・・そう思うでしょ?」
「確かに君の言うことには一理あります。嘘はよくないと思いますけど、サマンサおばさんを傷つけないためにも
こうするしか方法はありませんね」
「バニー」
私の言葉にバニーは納得してくれたのか、気持ちを切り替え笑みを浮かべた。
「あったわ。さん、はいケーキのレシピ」
「あ、おば様ありがとうございます」
タイミングが良かったのか、私が誘導してその場から居なくなった
サマンサおば様が手に紙切れを持って戻ってきた。
私は笑顔でそれを受け取り、お礼を言う。
「わ、私そろそろ帰らなきゃ」
「アラ?もう少しゆっくりしていってもいいんですよ、せっかく坊ちゃんもいらしたことだし。ねぇ坊ちゃん」
「え?あ・・・いえ、ぼ、僕は・・・」
私が帰ると言うと、サマンサおば様は引きとめようとする。
そしてバニーにも私を引き止めるよう話を振るけれど、バニー・・・こういうのには慣れていないのか
どう対応していいのかまだ頭の中で整理が出来ていないみたいだ。
「いえ。私・・・お家に帰ってやることがあるんで」
「あら、そうなの?じゃあ仕方ありませんね」
「すいません、おば様」
そう言って、私はリビングに置いた自分の荷物に向かう。
とにかく今はこの場を離れるしか方法はない。
じゃないと、これ以上・・・どんな話振られるか分からないから。
私は貰ったレシピを折りたたんで、荷物の中に入れ持ち上げようとする。
「僕が持ちます」
「え?」
すると、玄関先に居たバニーがリビングにやってきて
私が持ってきた荷物を持ち上げた。
「え・・・あ、で、でもっ」
「大丈夫ですよこれくらい」
「ありがとう・・・ございますバ、バーナビーさん」
「どういたしまして」
思わず普通に「ありがとうバニー」と言いそうになったが
場所が場所でそんなことを口にしてしまえば、大変なことになる。
私は少し戸惑いながらもバニーにお礼を言うと
荷物を持ってくれた彼は笑みを浮かべ玄関先へと戻る。
私も遅れないように彼の後ろを歩いた。
「おばさん。・・・さんは僕が送っていきます」
「そうですね、少ないとはいえ荷物は多いですから。さん、坊ちゃんが送ってくださるそうです」
「え・・・あ、はぁ・・・ありがとう、ございます」
サマンサおば様は笑みを浮かべて、私の肩に手を置いた。
此処で断ったら怪しまれると思い私は戸惑いながら彼にお礼を言う。
本当は1人で帰るつもりだったが、多分車の中ならバニーは話しやすいと思っているんだろう。
だからこんなことを持ちかけてきたに違いない。
「じゃあ先に出てますね」
バニーは先に外に出て、私の荷物を車の後部座席に乗せていた。
「車の中で色々話されてくださいね」
「え・・・えぇ」
サマンサおば様は笑顔で私にそう言った。
そうですね、色々話させていただきます・・・・今後の作戦を。
「さん・・・どうぞ乗って下さい」
「え?」
すると、バニーが助手席の扉を開けて待っていた。
私は顔を少し赤らめながら、車の助手席に乗りこみバニーを見上げた。
「閉めますよ?」
「あ・・・は、はい」
笑顔でそう言われて、恥ずかしがりながらも私は返事をした。
車の扉が閉まり、バニーは運転席に乗り込んだ。
エンジンをつけて、助手席側の窓を開ける。
「すいませんおば様」
「いいんですよ。坊ちゃん、しっかりさんを送り届けてください」
「はい。じゃあさん・・・道案内してくださいね」
「え?・・・はい」
道案内も何も、貴方のマンションに帰るだけですけど。
と心の中で笑いながらツッコミ。
「じゃあおば様失礼します」
「さようなら」
別れの挨拶を交わすと、バニーがアクセルを踏んで車を発進させた。
何とか難を逃れられたみたいではあったけれど、まだ何か起こりそうな予感がしていた。
「はぁ・・・」
マンションに帰る道。
バニーが運転をしながらため息を零した。
「珍しいバニーがため息零した」
「ホッとしてるんですよ」
「だよね。私もホッとした」
お互い、どうやら緊張の糸が切れて安堵した。
「これから色々と作戦が必要ですね」
「うん。まずはお家に戻ろうよ・・・疲れちゃった」
「そうですね・・・僕も疲れました」
まずは帰って作戦を練る・・・前に、お互い体に感じる疲労を取ろうと言いながら
ゴールドステージにある彼のマンションへと戻るのだった。
「ウフフフ。お2人とも、いい感じだわ。・・・それにしても、坊ちゃん・・・私に何か話したいことがあると
言っていたけれど・・・何だったのかしらね?」
God only knows what may happen.
(意味は”鬼が出るか蛇が出るか”。さてこれからどんな運命が待ち構えてる?)