「ったく。アンタ達ねぇ・・・」
「ごめんねカリーナ」
「すいません。しばらくの間だけなんで」
と離れることを決めた数日後。
僕は彼女を連れてブルーローズさんのお宅へとやって来た。
もちろん前もって連絡は入れておいたけれど、ブルーローズさんは
呆れた表情で僕等を見ていた。
「パパとママには一応言っておいたけれど、しばらくの間預かるだけよ?」
「もちろんです。事が済み次第、必ずは連れて帰りますから」
「ホント、ごめんねカリーナ」
僕の言う作戦。
それは別々に離れる事だった。
だが、単に”離れる“というのなら
アニエスさんの所に預けても良かったが、同い年のブルーローズさんの所に
預けておけば何かあった時にすぐに駆けつけることが出来る。
それに―――――。
「まぁ別に・・・私は、が自分の見える範囲に居てくれるからいいんだけど」
「カリーナ」
この人はこの人で、を大事に想っている。
だから悪いようにもしなければ、逆にに近付く悪い虫を追い払ってもくれる。
そう考えたら僕としても安心してを任せられる。
「では、。カリーナさんやカリーナさんのご両親にご迷惑にならないように」
「うん、分かってる」
「なるべく早く事の収拾に当たります。それまで」
「大丈夫待ってるよ」
は笑顔で答えた。
本来なら離れることもなかったけれど、数日前と同じような状況が
起こってしまえば今度こそ僕としても突き通す自信はない。
自分で撒いた種は、自分で何とかする。
それまでは、お互い赤の他人のフリをするしかない。
他人のフリをして、サマンサおばさんを騙すのは
少々心苦しいものがあるけれど・・・はっきりとした事を
話すまでは、こうするしか方法が見当たらない。
「僕はこれから、行くところがあるので行きます。それではよろしくお願いします」
「分かってるわよ」
「バニー行ってらっしゃい」
が明るく僕を見送り、僕はそれに手を振って答え車へと入る。
あの笑顔を守るため・・・少しの間だけ、頑張ろう。
「・・・・よし」
気合を入れ直して、僕は車のエンジンをかけ
ある場所へと走らせるのだった。
「まぁ・・・さんと」
「えぇ。彼女はとてもイイ子ですよ」
「オホホ。私の目に狂いはなかったですね」
僕の向かった先。
それはサマンサおばさんの家だった。
何故此処に来たのかというと・・・と良い関係になったことの報告だった。
数日前思わず口を滑らせてしまったが、僕と彼女の関係が良好なのは変わっていない。
だが、あの日を境におばさんとの連絡を途絶えさせてしまっていたので
流石に電話越しで言うのも申し訳なくなり、直接やってきたのだ。
「マンションに伺ったあの日を境に坊ちゃんからの連絡がなくなったので
私が余計な真似をしてしまったのではないかと、思っていたんですよ」
「とんでもないですよ、おばさん。素敵な女性に巡り逢えて僕としては嬉しいです」
「まぁ坊ちゃんったら」
おばさんは嬉々としているが
とはおばさんが紹介する以前から出逢っていたし
ましてや関係が進み過ぎて・・・僕個人としては結婚するならと、まで
考えていたほどなのだ。
「嬉しいですわ。坊ちゃんがさんと連絡を取り合っているなんて」
「僕も忙しいですが、そういった事も理解してくれていますし
ファン・・・と言っても僕を一人の人間として見てくれているから、本当にああいう人は理想です」
「さんは神様が決めて下さった、坊ちゃんの最高の相手なのですね。
私もまだまだ目は衰えていないことが分かりましたわ」
「そ、そうですねおばさん」
なるべくおばさんのペースに巻き込まれないように
上手く自分を取り繕っている。
ペースに巻き込まれ、流されてしまえば
のアレやコレやと、喋ってしまいそうで危ない。
平然を装わなければ墓穴を掘る。
此処はあくまで・・・とは、赤の他人同士・・・知り合って間もない間柄で居なくては。
僕は一旦自分を落ち着かせるため
サマンサおばさんが出してくれた温かい紅茶を口に運ぶ。
「ところで、坊ちゃん・・・・さんはおいくつでしょうか?」
「!?・・・ゴホッゴホッ!!」
落ち着かせるために飲んだ紅茶を
ものの見事に喉に詰まらせ咳き込んだ。
熱くなった喉が余計熱くなったし、ましてやの年齢について聞かれ動揺。
咳き込みつつも「落ち着け、落ち着くんだバーナビー」と
心の中で自分に言い聞かせていた。
「ぼ、坊ちゃん大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。・・・さんは、18・・・まだ高校生です」
「え?・・・あ、あらやだ私ったら。大人っぽい方だったから
坊ちゃんと然程変わりないかと思って居たんですが・・・まだ18歳だったなんて・・・っ」
僕が25で、が18・・・歳の差7つときたら、驚くのも無理はない。
しかし・・・おばさんにまで大人っぽいと思わせている辺り
は時々幼い部分を隠しているから、僕としても理性を保つのは苦労する。
10代特有のあどけなさや愛らしさを残しつつ
時に美しさと妖艶さ、そして大人の色香を漂わせる。
は、本当に僕にとって・・・罪作りな子だ。
「ぼ、坊ちゃん・・・申し訳ございません。ちゃんとさんのお歳を聞いておくべきでした」
「え?」
の年齢を教えた途端、おばさんの表情が曇る。
何だか嫌な予感がし背中を冷や汗が伝い落ちる。
「流石に・・・10代の、それも高校生の方とお付き合いされるのは、世間的に危ないですよね」
「え?あ、いや、あの・・・別に、僕は」
嫌な予感が当たった。
20代の僕と、10代のの交際が初っ端から危険信号発令。
の年齢をバカ正直に教えたのが間違いか、と思いながらも
ただでさえ「既に付き合っていて、同棲している」という事実を覆い隠し、嘘をついているのだから
コレ以上の嘘を重ねることは出来ないとの判断だったが・・・少しくらいの年齢を
サバよんでも良かったように思えた。
でも、今更言い直す事は出来もしない。
だが、このままでは何となくおばさんが「やはり歳相応の女性が」とか言い出したら
いきなりの破談にもなってしまう。
それだけは、避けなければ・・・!!
「お、おばさん。別に僕は年齢とか世間体とかそんなの全く気にしてません」
「ですが・・・っ」
「大事なのは”自分をどう思ってくれているか“という事です。さんとはまだ会って間もないですが
彼女は彼女なりに僕をヒーローとしてではなく、一人の人間として見てくれて・・・僕はそれだけで嬉しいんです」
「坊ちゃん」
「だから気に病まないでください。僕はさんという、素敵な女性に出逢えたこと・・・おばさんに感謝しているんです」
「そう言ってくださるだけで・・・私も嬉しいですわ」
僕の言葉におばさんは安堵の表情を浮かべた。
破談は免れたな・・・と心の中で一安心。
「坊ちゃんが少々危険な恋に走ることになりましたが・・・このサマンサ、全力で応援させて頂きます!」
「あ、ありがとうございます」
応援してくれるのは嬉しいのだが
その”少々危険な恋“は随分と前から走り出しているし
それも今もなお、継続中だから正直なところひた隠しにするのは苦労する。
大っぴらで腕を組んで歩けもしないし、出掛けるにも日中だと人が多すぎてバレる。
婚約宣言あたりしたいところだが・・・如何せんがまだ10代。
せめて彼女が20歳になるまでは、と自分の中で押し留めている。
「そうと決まれば坊ちゃん。さんと親睦をもっと深めましょう」
「へ?」
おばさんの発言に僕は素っ頓狂な声が出て、目が点になる。
「今度さんを呼んで、三人でお食事をしましょう。坊ちゃんの都合の良い日と
さんの都合の良い日を合わせてくだされば、私もその日に合わせて、とっておきのお店を用意しますわ」
「あの、おば、さ」
「坊ちゃんが危険な恋を恐れないというのなら、このサマンサ何処までもお手伝いしますわ!!」
「・・・・・・あ、ありがとう、ござい、ます」
自分で撒いた種は、自分で何とかする。
そう思ったけれど・・・一番の原因は「どうしてこの人に早くの事を話さなかったのか」という
自分の生きてきた中で両親の死の次に来るほどの重大ミスだと思った。
『アハハハハ・・・バニーでもそんな事あるのね』
「笑い事じゃないですよ。冷や汗流しすぎておばさんの家を出た後
マンションに戻って着替えたくらいなんですから」
『ウフフ・・・ご苦労様でした』
夜。
テレビ電話を介して、と話をしていた。
昼間の事を話すとは僕を笑うけれど
本当にあの場に居た僕は冷や汗を流しながら何とか乗り越えてきたのだ。
『それで?』
「何がですか?」
『いつおば様と食事をするの?私はバニーの空いている日に合わせるけど?』
「それが、しばらくは無理っぽいんですよね。取材やら何やらでスケジュールがみっちりなんで」
三人で食事をする、と分かったけれど・・・如何せん、僕のスケジュールが
みっちりと組まれており、当分は和気藹々と机を囲んでの食事は出来ない・・・と結論に至った。
「どうにか、スケジュールは空けます」
『無理しなくていいよ?』
「いいえ。君の居ないこの部屋で過ごすのは結構耐え難いんで」
『私と会うまで一人だったのに?』
「君に会ってから僕の生活リズムとか、そういうのが変わったんです」
テレビ電話越しのはクスクスと笑いながら「そう」とだけ答えた。
「ですので、ロイズさんに頼んでスケジュールを」
『バニー』
「はい?」
『焦りすぎ』
「え?」
画面上のは心配そうな面持ちで僕を見ていた。
そんな彼女の表情に言葉を失う。
『焦ったら失敗しちゃう。早く私をマンションに戻したい気持ちも分かるし
私だってそれはバニーとおんなじ気持ちなんだよ』
「」
『落ち着いてバニー。焦らなくていいから、少しずつ2人で解決して行きましょう。
スケジュール通りお仕事はこなして。おば様との食事は本当にバニーのスケジュールが空いた日でいいから』
「・・・・・・すいません」
『一人で抱え込むと辛いだけなんだから・・・私に頼ってくれたっていいの。気にしてないから』
は優しい笑顔で僕を見つめていた。
そんな表情をされると、余計焦ってしまう・・・だけど少し冷静にならなければ
また墓穴を掘ってしまう。
『〜そろそろ寝るよ』
『うん。・・・じゃあね、バニー・・・また電話しよ』
「えぇ。おやすみなさい」
『おやすみなさい・・・バーナビー』
最後の最後、の反則技で通話を切断した。
優しい笑みを浮かべ僕の名前をちゃんと呼ぶ。
こんな風に、僕の余裕を失わせるのは君だって言うのを教えてあげたい。
早くを此処に取り戻したい気持ちが焦り出す反面
慎重に動かなければ、と思うから・・・・結局は空回りし始めるから
自分もまだまだ修行が足りないな、なんて思うのだった。
Cross a shallow river as if it were deep.
(意味は”浅い川も深く渡れ“。油断大敵!慎重に動くのも大事!)