エイプリルフールを終えた次の日。


結局前日、僕はと仲直りが出来なかった。
むしろ彼女から避けられてしまい、謝るきっかけを作ることが出来なかった。


本当は僕のミス。

エイプリルフールという軽いイベントに気付かなかった事が原因で
を思いっきり傷つけてしまった。







「話・・・聞いてくれるだろうか」





仕事から一旦戻った僕。

そして今現在マンションの自分の部屋の扉の前。
僕は指認証を終える前に、そんな事を呟いた。


傷つけるつもりはなかった。

いや、むしろ本気と捉えていた自分が一番情けない。

冗談でも言っていい事と悪い事があるのだろうけれど、あの時どうしての話を
聞いてあげなかったのだろうと、昨日からずっと後悔と落胆を繰り返していた。








「何とか、話を聞いてもらおう。僕が悪いわけだし」






考えたらはちょっとからかうだけだったのかもしれない。
むしろこんな事を言い出したのは多分ライアンだ。

多分彼のことだろうから、僕に恥をかかせる名目でを誘ったに違いない。


今日は彼を見ていないから、明日にでも彼を見つけ出して
それなりの報復はさせてもらおう、と心に誓う。


しかし、その前にと仲直りをするのが先決だ。


そう心の中で自分を奮い立たせ、暗証番号を入れ、指認証を終えて扉を開ける。


足をリビングに進め、扉を開ける。







「ただいま」



「お、おかえり」








扉が開くと、が座って待ち構えていた。
しかも何やら緊張している様子。

無理もないだろう。

僕は昨日、エイプリルフールと知らず彼女を傷つけてしまったのだから。









「あの、・・・話が」



「バニー、座って」



「え?」



「い、いいから座って!」



「あ、は、はい」







話を切り出そうとしたらに強く言われ、僕は驚きながらも
言われるがまま、彼女の目の前に腰を下ろした。

僕が座ると、は僕の方に近づいてくる。


近くで見て分かったことだが、頬がほんのりと赤く染まっていて目も何だか泳いでいる。









「あ、あの・・・わ、私、け、結婚するならね、や、やっぱり・・・バニーがいいの」



「え?」







予想外の言葉がの口から放たれて、驚きが隠せない。







「こ、コレはね嘘じゃないよ。昨日のは、なんて言うか、ちょっとふざけてやっただけで本気じゃないの」










もう分かっていることなのに彼女は敢えて自分から謝罪をし始める。








「だから、その・・・・・・わ、私の結婚相手は誰がなんて言おうとバニーなの!
バニーじゃなきゃダメなの!バニーは私の運命の人だから!だから・・・だから・・・っ」







謝罪を通り越して、これはもう半ばプロポーズだ。

普段、慣れない言葉を言っているは顔だけではなく耳まで赤く染めて
しどろもどろに僕に一生懸命、伝えようとしている。


その姿が愛らしく、そして愛おしい。





「だから、あの・・・バニーッ」



「もういいですよ、分かってます」



「ふぇ?」






の見るに耐えない姿に僕は彼女の頬を包み込んで目線を合わせ
おでこを重ねた。


間近で見て更に気付く。


嗚呼、目を潤ませて可愛い。


嗚呼、頬を林檎のように真っ赤に染めて可愛い。







「知ってます。君が僕に夢中なことくらい」



「バニー」



「僕だって結婚するならだし、運命の相手はだと自負しています。もちろんコレは嘘偽り一切ありません。
君も、その言葉に嘘偽りはありませんか?」



「ないよ。だって、私には、バニー・・・だけだもん」










『僕だけだから』

その言葉を耳に入れた瞬間、胸の中の愛しさが溢れ出て
と唇を重ねた。

優しく重ねるつもりだったのに、溢れ出た愛情は留まる所を知らず
荒々しく、だけどたくさんの愛情を込めながら、舌を絡め唾液を混ぜ合わせる。


唇を一旦離し、の顔を見る。


更に目を潤ませ、甘い吐息が口から零れている。






「でも、君からのプロポーズなんてビックリですよ」



「なんかね・・・ライアンさんから聞いたんだけど。
とある国じゃトゥルーエイプリルって日があって、真実しか言っちゃダメな日があるんだって。
それが今日だからね・・・だから・・・その・・・」



「トゥルーエイプリル・・・・・・・・・成る程」



「バニー?」





から聞かされた言葉に、少し考え納得した。




「じゃあ昨日のは、嘘って事でいいんですね?」


「ぅん」


「なら、嘘をついた罰くらい受けますか?まぁ、僕も謝りたいですしね。
君に酷いことを言ってしまったので」



「ぃ、いいよ。だって、バニー・・・だもん」



「途中で待ったなんて、かけないでくださいね」



「ぅん」






返事が聞こえると、僕はそのままをその場に押し倒し
嘘偽り一切ない愛情を彼女に何度も注いだのだった。


























「トゥルーエイプリルなんて、それこそ嘘ですよね」


「あ?」




家を出て、しばらく歩いていたら
噴水の縁に座っているライアンを
見つけた僕は、すぐさま彼に近づき言葉を放った。


僕の顔を見るなりライアンはため息を零す。






「んだよ。エイプリルフール知らなかったクセに、そーいうのは知ってんだなジュニア君」



「知らなかったんじゃないんです。忘れてただけなんです」



「どっちにしろ変わんねぇよ」







僕の言葉にライアンは素っ気ない態度で答えた。


そもそもトゥルーエイプリル自体エイプリルフールの時に出来た嘘のネタだ。
それをから聞いた瞬間、彼女も騙されていた。








「でも、嬢ちゃんとは仲直りできたんだろ」



「出来ましたけど・・・・ありがとう、と言って欲しいんですか?」



「アホくさ。俺ぁ嬢ちゃんのためにやっただけだ。
あの後、隣でメソメソされながら『バニー』って言われるのも嫌だからな。
それにトゥルーエイプリル自体、んなの嘘に入らねぇだろ」





そう言いながらライアンは立ち上がる。





「でも、嘘は嘘です」



「なら謝れってか?」



「一応僕、昨日騙されたので」



「はぁ〜・・・・・・The end justifies the means.」



「は?」



「意味言わなくても分かんだろ?そーいうことにしといてくれや」





そう言ってライアンは手を振りながら、去っていった。

何がしたかったのかよく分からないけれど
彼は彼なりに悪いと思っているのだろう(主にに対して)。







「『The end justifies the means.』か。今回だけは大目に見るとしますよライアン」






でも、次は無いことは理解してください。




The end justifies the means.
(”嘘も方便“物事を良い方向に向かわせるために付いた彼の嘘。今回は大目に見るとします) inserted by FC2 system

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