季節を追うごとに
僕らは恋をしていく。
だんだん、君を好きになっていく。
中学1年の秋・・・私は彼に惹かれ、密かな想いを抱いていました。
「キャ〜・・・見て、みて手塚君!カッコイイよね〜!!」
「うんうん。不二君もいいよね〜」
「待ってよ、菊丸君だって」
「やっぱり大石君でしょ!!」
1年の秋頃、テニス部の人気株は上昇中。
手塚君のほかに、凄い個性派なメンバーが揃っていた。
天才と呼ばれる不二周介、アクロバットプレイが得意な菊丸英二、パワープレイでお人よしの河村隆
データと収集して先読みをする乾貞治・・・そして毬栗頭の幼馴染大石秀一郎
ていうか、中学生と思えないプレイスタイルで圧倒されている。
「ね〜、テニス部観に行こう。今日くらい」
「お前、そんな事言って部活サボる気だろ?そうはさせないよ」
「チッ・・・お見通しか。ねぇ〜いいでしょ、今日くらい」
「ダメだ。ホラ、いくぞ」
「エ〜ン、の意地悪ぅ〜」
「何とでも言えば。言われても痛くも痒くもないし・・・」
放課後、クラスの女子や上級生といった女の子たちは
皆テニス部の見学に行った。
どこがいいんだか・・・ワケが分かりません。
私はウォーミングアップをしながら、呆れていた。
「まったく、何処がいいんだか?」
「手塚君たちも、人気者だね〜」
「部長・・・あの観客たちどうにかなりませんかね?」
ウォーミングアップをしていると、女子陸上部の部長
加瀬千早先輩が話しかけてきた。
「ま、今まで冴えない男共、いや大和はまだましか・・・そんなテニス部に可愛い男の子が入部したとなると、コレは女子も食らいつくわよ」
「私・・・分かりませんけど」
「は男兄弟なの?」
「えぇ、上に兄が2人です。幼馴染に大石秀一郎がいますけど・・・」
「そらぁ、ダメだわね。ま、お前にもいずれ分かるさ・・・人を好きになる気持ちとか」
「千早部長・・・もしかして、テニス部の部長と付き合ってるんですか?」
「・・・・・、今日はみっちりしごいてやる」
「ええぇえ!?(地雷を踏んでしまった!!)」
部長の秘密はさておき!
私はそんな気持ちが分からなかった。
女子のそう思う気持ちが・・・・。
いずれ分かるなんて・・・・そんなの私には分からなかった。
---ガラッ
「あ、手塚君」
「さん」
とある日、私は見たい本があったので図書室にやってきた。
すると、そこには手塚君がのんびりと読書をしていた。
さすが図書室、外の廊下と違って静かだ。
手塚君も少し落ち着いてる。
「珍しいね、手塚君が図書室にいるなんて」
「そうか?僕はよく来るよ」
「私も来てるよ、君以上に来てるかも」
「時間が違うから鉢合わないんだよ、きっと」
「あ〜なるほど」
私は手塚君との会話を終了すると、自分が読みたい本の並ぶ棚に行く。
すると、後ろから気配を感じた。
私が振り返ると・・・・・其処には手塚君が立っていた。
「・・・・何か?」
「いや、本を戻そうとしたんだが・・・・気に障ったんだら、謝る」
「あ、いいよ・・・別に、気にしてないから」
足音も立てないで私に近づいてきたので、あまりのことで、私は驚いた。
さっきから、心臓がうるさいけど・・・何なんだろう?
「(うわぁ〜心臓がうるさいな・・・ま、本でも読んで・・・)あっ」
「さん、どうしたの?」
「いや・・・本が、届かない」
私が見上げると、読みたい本が本棚の一番上のすぐ下の段。
前から身長が小さい私からしてみたら、届かないこと間違いなし・・・土台を持ってこないと・・・・。
「どの本?」
「え?・・・左から、5番目・・・いいよ、土台持ってくるから」
「平気だよ、コレくらい僕でも取れる」
「え?」
すると、私に覆いかぶさるように彼は少し背伸びをして本棚の本を取る。
中学生男子、さすが・・・身長が伸びるのが早い・・・。
多分、160前後だろうな。
ドクン・・・!
心臓が・・・うるさい。
ドクン・・・!
ただ、本を取ってもらってるだけなのに・・・なんでこんなに距離が近いの?
ドクン・・・。
何で、こんなに胸が痛いの・・・?
「手塚く・・・っ」
「もう少し待って」
『手塚君・・・いるかな?』
『多分いるよ。探してみよ』
「!!・・・ごめん、さん」
「えっ!?」
すると、手塚君の動きが止まる。
手で私の行く手を阻んで、私の頭の横に顔を隠す。
彼に背を向けたまま、彼の吐息が私の耳に吹きかかる。
「て、手塚・・く・・・」
「少しの間だけ・・・すぐ、済むから」
私は動けず、心臓が酷く鳴り響く。
彼がこんなにも近い距離にいて、私を動けなくしている。
逃げようと思えば逃げれるのに・・・どうしても、それが出来ない・・・。
『あ〜あ、いないね。今日は帰ったのかな?』
『そうかも。私たちも帰ろう』
すると、手塚君を探していた女子二人組みが図書室を出て行く。
私もようやく手塚君の束縛から解放された。
だけど・・・どうしても振り返れない。
「すまない、さん・・・君をこんなことに使って・・・」
「ぃ・・いや・・・別に・・・お役に立てて・・・よかったよ」
「どうした?耳が・・・赤いけど」
「え?・・・な、なんでもない・・・ごめん!!」
いきなり図星を突いてきたので、私は思わず、その場から逃げ出してしまった。
私はそのまま屋上まで走った。
勢いよく扉を開けると、秋の晴れた空が続いていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・う、嘘でしょ・・・」
自分がいつの間にか、こんな風に彼を見ていたなんて・・・。
いや、興味がなかった・・・興味がなかったんだ。
それなのに・・・どうして・・・?
秀一郎と手塚君が楽しげに話してるから私も、それに加わってその話に参加してる。
テニス部が人気になったから、ちょっと嫉妬してるけど・・・何気に彼に目が行ってしまう。
他の子が彼の話をすると、どうしてだろうか胸が痛くなって・・・心臓が高鳴る。
コレって・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・私・・・・・手塚君のこと・・・好きなんだ」
気づかれないように隠していた自分の本当の想い。
きっとさっきのアレがスイッチだ・・・核心をついた・・・確実に彼が好きだと気づいた瞬間だった。
でも、もし・・・彼に他の誰か好きな人がいたら?
怖い・・・怖い・・・嫌われるのが、もう彼と話せなくなるのが・・・怖い。
「好きだよ・・・手塚君」
今までひた隠してきた己の想い、誰にも、気づかれたくない。
少しずつ冷たくなっていく風に当たりながら、私は彼の名前をぼそりと呟いた。
秋空の下、気づかれないように秘めていた思いを胸に抱いて・・・。
中学1年の冬・・・俺は彼女に近づきたくて、触れたくて、閉じ込めていた想いを告げた。
「ねぇ、手塚君・・・生徒会長をやってみない?」
1年の終わりごろ、3年生の生徒会長から俺にそんな話が舞い込んできた。
もちろん、来年には生徒会長の選挙戦がある・・・現生徒会長がこんな話をしてくるのがびっくりなほど。
悩んだ俺はそれを大石に相談した。
「え!?生徒会長!!・・・す、凄いじゃないか手塚!!」
「でも、悩んでる。俺がやっていいのかどうか」
「大丈夫だ、手塚まとめるの上手いし、学級委員長だってしてるし」
「でも今度は規模が大きい・・・俺に務まるか」
「大丈夫!手塚ならできるよ!!何かあったら俺やも手伝うし・・・」
大石の口から、さんの名前が出てきた。
あの日以来、俺はさんとまともな会話らしい会話をしていない。
「大石・・・」
「ん、どうした手塚?」
「さん・・・どうしている?」
「?・・・いつもどおり、俺を殴ってるぞ」
「そうか・・・」
大石の言うことは多分、正しいんだろう。
さんがそう、元気ならそれでいんだ・・・。
「でも・・・・・・」
「どうした、大石?」
すると、大石の意味深な言葉に俺は疑問の声を上げた。
「アイツ、最近お前のことばっかり心配してるんだよな」
「・・・俺の、こと?」
あまりのことで、俺は驚いた顔で大石の顔を見ていた。
「何ていうか、『手塚は元気か〜?』とか、『手塚は練習してるか?』とか・・お前の心配ばっかりだよ」
「さんが・・・俺の心配を・・・?」
「まったく、俺を通して言うんじゃなくて本人に言えばいいのに・・・何してんだかの奴」
彼女が俺の心配を・・・・。
俺は数ヶ月前、彼女を目の前にして・・・抱きしめることを自制した。
女子たちから逃げている素振りで・・・彼女を目の前にして・・・卑怯な手を使って彼女に近づいた自分が憎い。
俺らしくない・・・俺らしく・・・・・・。
そう思った瞬間、俺は振り返り走った。
「手塚、何処行くんだ!?」
「すぐに戻る」
俺はすぐさま廊下を駆けた。
今・・・彼女に逢わなければいけないと思ったからだ。
確かに俺は卑怯な手みたいな感じで
彼女に近づいた・・・そして、彼女のかすかなぬくもりを感じた。
俺の想いは募るばかりで・・・どうすることもできない。
でも、これは彼女が側に居れば・・・断ち切れる。
そしてこれは・・・俺の嫌いな項目の1つになった。
俺が一番嫌なのは・・・自分に嘘をつくことと・・・・・・・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・見つけた」
「・・・手塚君?」
「あれ、一年の手塚国光だね」
君が他の誰かに取られることだ。
俺の目の前には、さんと上級生と思われる男子生徒。
楽しげに会話をしていた様子が窺える。
俺は呼吸を整えながら、二人の間に割り入り、彼女の手を握った。
「君に・・・話したい事がある」
「・・・・ゎ、私?」
「そうだ・・・付いて来て欲しい・・・」
「だ、だけど・・・」
「そうだよ、彼女とは俺が今話してたんだ。早々他の人にやるなんて・・・」
男子生徒が話に割り込んできたが俺は言葉も出さず、目線で彼を睨みつけた。
俺の目線に気づいたのか男子生徒は黙り込んだ。
「付いて来てくれ・・・」
「あっ、て・・・手塚君!?」
そう言って、俺は半ば強引にさんの手を握って、屋上へと連れてきた。
「て、手塚君・・・な、何?何で屋上なんか・・・・・・」
「俺は・・・来年、生徒会長戦に出ることにした」
「す、凄いね」
「でも・・・・その前に、君に・・・に伝えることがある」
「え?」
急に俺がのことを名前で呼んだので、彼女は驚いた顔をする。
俺は顔色一つ変えず、彼女の顔をまっすぐに見つめ言う。
「俺は・・・君が好きだ」
「えっ・・・?」
「夏ごろから・・・君を意識していた。でも、どうしても伝えきれなかった・・・俺は君に相応しい男なのかって・・・悩んだ」
「・・・・手塚君」
「でも・・・そんなこと言ってる場合じゃない。俺は君が他の男に持っていかれるのが一番嫌だと気づいた。
もちろん、上級生に負けるつもりもない。・・・・・俺には君が必要なんだ」
「・・・・は、反則だよ」
俺はを給水塔の壁まで追い詰め、数ヶ月前と同じ体勢に入った。
でも、今度はちゃんと・・・の顔が見える。
の顔は真っ赤に染め上がる・・・その姿がとても愛らしくて仕方がない。
「酷いよ・・・手塚君、私・・・悩んだ意味ないじゃん」
「?」
「私だって・・・同じだったのよ、でも言えなかった。貴方にはこの世にたくさん相応しい人がいるんだって・・・
そう自分に言い聞かせた・・・自分じゃ無理だって、でもコレは反則だよ・・・手塚君」
「・・・・、すまない」
は泣きながら、俺に自分の想いを話した。
俺はそんなの顔を包み込んで、目から流れ落ちる涙にキスをした。
「私・・・手塚君が、好きで、いいの?」
「もちろんだ」
「よかった・・・ありがとう、手塚君」
「いつまでも君付けは止めてくれないか・・・好きなように呼んでくれ」
「じゃあ、手塚・・・・これじゃ、ダメ?」
「かまわない・・・」
俺と彼女は笑いながら、額を重ねあった。
もうすぐ春がやってくる、雪が解けて、また春が来る。
1年の冬が・・・終わりを告げようとしていた・・・・。
「ねぇ〜手塚、宿題見せて?」
「駄目だ」
俺とが付き合い始めて、3ヶ月・・・来月で2年生になろうとしていた。
進級に備えて、が俺の家で勉強をしていた。
春休みも後僅かと言うところ・・・は宿題を見せてとせがんできたのだ。
「だって、この数学の部分分かんないんだもん・・・来年もするかもしれないじゃん!ね、お願い!」
「駄目だ・・・自力で解け。無事に進級できたからといって安心しすぎだ」
「・・・・手塚のケチ」
「何か言ったか?」
「何でもございませ〜ん。・・・・もういい!秀一郎に見せてもらうから」
「!!」
また、その名前・・・いい加減、大石の名前を呼ぶのは止めて欲しい。
いつも都合が悪くなると、大石の名前が出てくる。
確かに幼馴染なのは分かるが・・・正直腹立たしい・・・。
何かとあれば『秀一郎』。
何かと大石の名前が出てくる。
何故こんなにも俺はイライラして仕方がないんだ。
俺は・・・・・・・・・・・・・。
彼 女 に 好 か れ て い る の だ ろ う か ?
もしかしたら・・・・大石のことが好きなのか?
いや、それだったらとっくの昔に・・・でも、それが出来ないから。
俺に近づいた・・・・?
それに、俺は今でも名前で呼ばれたことがない・・・他の奴は名前で呼んでもらってるのに。
俺だけはまだ・・・苗字のまま。
俺は・・・・もしかして・・・・・・・・・・・・。
利用されている・・・・?
「手塚・・・?どうしたの・・・?」
「・・・・ぃ、いや・・・何でもない」
もし、そうだとしたら・・・俺はこれから彼女にどう接すればいい?
もうすぐ、2年生に上がる手前。
俺は、酷い嫉妬と落胆に襲われていた。
証-あかし- 〜君と歩んだ軌跡〜
(秋が来て、冬が来て・・・僕らはようやく結ばれた。でもまた春が来て・・・不安が生まれた)