嫌いにならないで。
貴方が嫌がるところは全部直すから。
ねぇ、私はどうしたら・・・いいの?
春休みが明けて、私たちは進級した。
そして・・・いっそう、テニス部の人気株は上昇を続けていた。
新入生も入ってきて、私はとても嬉しかったけど・・・一番不安になっていたのは・・・手塚のことだった。
春休みから何だかギクシャクしてて・・・話しかけるとすぐに避けられる。
「私・・・なんかしたかな・・・?」
「さん、此処手伝って〜!!」
「あ、はーい」
こうなったら、秀一郎に聞いたほうがいいかも・・・・。
そういえば・・・手塚、あの時も秀一郎の名前出した途端いきなり顔色変えた。
「まさか・・・ねぇ・・・」
秀一郎は幼馴染で、別に恋愛の対象でも何でもない。
手塚もそれは充分知ってるはず・・・・なのに、どこに私を避ける理由があるっていうんだ?
「もしかして・・・・私、嫌われた?」
確かに、私案外大雑把だし、突拍子もなく行動に起こしちゃうし。
女らしいところなんて・・・1つも見当たらないような気がしてきた。
「ま・・・まさか・・・本気で、嫌われてる?」
そうだとしても、あの手塚だ・・・絶対そういうことはちゃんと言うはず。
何も言わないで行動に起こしてることは・・・。
「・・・・嘘、私・・・本当に手塚に嫌われてる」
自分でたどり着いた答えがコレだ。
飽きたに決まってる・・・いや、正直私がいけないような気がしてきた。
でも嫌われてることは1つもしてない。
それに、自分にも思い当たる節がない・・・付き合ってケンカなんかしたことないし
そうだとしたら・・・私を避ける理由はひとつ。
「手塚・・・マジで、別に好きな人・・・できたんじゃ・・・」
導き出た答えがこれだ。
思わず、自分の顔が顔面蒼白になる。
血の気が引いて、何も考えられなくなった・・・・。
「・・・・そう、だよね。ま、私みたいな女飽きて当然か・・・」
どうにか肯定づけて自分を落ち着かせた。
そうだよ、始めっから私と手塚なんて釣り合うはずがないんだ。
もっと美人な子がたくさんいるのに、手塚が私を好きになるなんて・・・100%有り得ないし・・・飽きるよね、それは当然。
「そうだ。今度、別れ話でも切り出してみよう・・・絶対アイツ頷くぞ・・・」
笑いながら自分に言った。
でも、本当は心の中で、泣いてたんだ・・・好きだったのに。
抱きしめてくれる手とか温かいし、優しいし・・・笑ったら反則だけどカッコイイし。
「・・・・・もぅ、あー・・・最悪」
なるべく考えないようにしよう・・・・これ以上考えたら自分が辛くなるだけだから。
「え?!・・・コレを手塚、君・・・にですか?」
「そうだよ。な、・・・頼むよ、俺今から職員会議で渡せないんだよ」
とある日、私は職員室に呼ばれ何かと思えば
生徒会の担当の先生から生徒会室へのお使いを頼まれている最中だった。
しかも直接その書類を届けて欲しいと頼まれている。
「いや・・・何も、私じゃなくても・・・秀一ろ・・・じゃなくて、大石君がいるじゃないですか?」
「大石は今日は別のことで動いているから、今手を離せないんだよ。
「だからって・・・なんで私に?」
「いやぁ〜だって、手塚と仲が良かっただろ?丁度今、彼生徒会室にいるから行ってきてくれないか?」
「・・・・・で、でも・・・」
生徒会の担当の先生は、1年のときからお世話になってる先生で、嫌とも断れないし・・・・。
だからといって、此処で手塚に会ってしまうと・・・別れ話を切り出しそうで逆に怖い・・・。
どうしよ・・・どうしよと・・・考えているけど、結局・・・・・・。
「・・・・分かりました」
最後に勝ったのは、自分の頼まれたら断れない性格が祟った。
私は先生から書類を受け取り渋々、生徒会室に足を運んだ。
生徒会室の目の前に立つと、私は心臓が酷く。
鳴り響いて、ドアノブを捻る手が震えた。
あんまり逢いたくなかったのに、どうしても逢わなきゃいけない羽目になった。
----コンコン!
扉を叩いたけど、何の反応がなかったから私はゆっくりドアを開けた。
すると、綺麗に整理された部屋に、椅子に腰掛けている手塚が正しい寝息を立てながら寝ていた。
「・・・よかった、寝てる」
私は安心しきって、そっと渡された書類を机の上に置いた。
だが、此処で帰ればよかったと思えばいいのに・・・・・・。
「(でも、この書類が何処から回ってきたのか起きた手塚が分からないよね・・・先生から渡されたって・・・手紙でも、置いていったほうが・・・)」
私は、いらないお節介をやいてしまった。
そして私は首を振りながら書くものと紙を探したが・・・結局なかった。
私は仕方なく、生徒会室に置かれた手塚が座っている場所とは別の場所に置かれている
机の椅子に座り込み、手塚が起きるのを待つことにした。
手塚の寝顔を眺めながら私は心の中で呟いた。
「(綺麗な顔で、寝やがって・・・ホント・・・羨ましい。いろんな人が惚れるのも、分かる気がする・・・私も
結局捨て駒の1つなのかな・・・ま、でも、それも今日でおしまいだ。手塚が・・・起きたら・・・話そ・・・・)」
手塚を待っているはずなのに、何故だろうか・・・?
生徒会室が日当たりがいいのか、あまりにポカポカしているので私はそこで眠ってしまったのだった・・・・。
・・・・あれ?私は眠っちゃった・・・?
でも、何か・・・私、椅子に倒れ込んでない?
何で・・・?
「んっ・・・」
「起きたのか?」
「・・・・・!?・・・て、手塚!?!?!?」
私はあまりの気持ちよさに、眠ったらしく
しかも私は頭を手塚の肩に置いてるじゃあ〜りませんか!!!
「て・・・手塚、いつの間に!?!?」
「起きたらお前が居た。お前もウトウトしてるみたいだから、そのまま床に倒れるんじゃないかと思って
お前の頭を支えたんだ。・・・よかったな、床に頭をぶつけなくて」
「う!?・・・うるさいな!!」
あまりのことで、私は慌てて手塚の肩から頭を離そうとしたが・・・・・・。
「待ってくれ・・・もう少し、このままでいてくれ」
手塚の左手が私の頭を押さえ、肩に頭を戻された。
心臓がバクバクと音を立てて、何を話したらいいのか分からなくなっていた。
コイツのこの優しさが・・・私を傷つけて、私を嫌な女にしていくんだ。
離れなきゃ・・離れなきゃ・・・。
「・・・?」
「え?」
「・・・何故、泣いている?」
「ぁ」
手塚から言われると、私は涙を流していた。
抑えていた思いが一気に込み上げてきて、私は涙を流して泣いていた。
「・・・、どうした・・・?何か気に障ることでも・・・」
「気に障ること・・・?アンタ充分してるじゃない!!そんなのにも気づかないの!!!」
「?」
私は思わず半ば泣きながら手塚に強く言い放った。
「あったまきた・・・・・春休みからよ、手塚が全然話しかけなくて・・・私のこと避けてたじゃない!!」
「そ、それは」
「私がどれだけ悩んだか、アンタ分かるの?不安だったのよ、もしかしたら嫌われてるんじゃないかって!!」
「・・・・」
私が一方的に話すけど、手塚は何も言わない。
でも、私の気持ちも、とうに爆発していた。
「ねぇ、もし・・・私のどこか嫌いなところがあるんだったら言って・・・頑張って直すから、直すからね・・・お願い・・・」
嫌 い に な ら な い で 。
「・・・、落ち着け・・・」
「いや・・・ぃやっ・・・離して・・・っ・・・やっ・・・!」
「」
「ヤッ・・・んっ・・・!?」
すると、手塚が私にキスをしてきた。
数秒間だけど、手塚の唇と私の唇が触れ合った。
あまりのことで、私は慌てると同時に落ち着き、唇を離すと、手塚との距離が近い。
「手塚・・・どうして・・・」
「俺は、どうやら思い違いをしていたみたいだ」
「え?」
手塚の発言に、私は目が点になった。
「俺は・・・お前がいつも、都合が悪くなると大石の名前が出てくるから・・・もしかしたら俺は
利用されてるんじゃないかと思ったんだ・・・だからどうお前に接したらいいのか・・・ずっと、お前を避けていた」
「手塚・・・」
「だが、それが返ってお前を不安にさせていたなんてな・・・・すまない」
「馬鹿ね・・・私があのバカ、好きになるわけないじゃない」
「」
手塚は私を強く抱きしめた。
彼の胸の内を聞けて、私は内心ホッとした。
「だが・・・どうして、俺のことは、・・・その、名前で・・・呼ばないんだ?」
「えっ!?・・・・あ、いや・・・その・・・」
いきなりの手塚の質問に、私は戸惑った・・・しかも手塚の顔が近い・・・。
「いや・・・その・・・あのね・・・喋るけど、笑わないでよ」
「あぁ」
「あの・・・・私、その・・・好きな人の名前・・・恥ずかしくて・・・呼べないの・・・」
「どうしてだ?」
「だ・・・だって・・・そんな・・・私、できないよ・・・手塚のこと・・・名前で呼ぶなんて・・・恥ずかしくて・・・」
そう・・・・。
わたしはどうやら、好きな人の名前はうまく言葉に出来ないらしい。
特に付き合っている手塚なら尚更・・・恥ずかしくて、口から出すことすらできない。
「フッ・・・そんなことだったのか」
「なっ!?い、今笑ったでしょ!!!笑わないって言ったじゃん!!手塚のバカー!!!」
「ホント、俺も思い違いをしていた・・・お前には迷惑をかけた」
「べ、別に・・・そんなこと・・・」
すると、手塚が私の頬に触れてきた。
その手はとても温かくて、私の大好きな手塚の手だった。
でも、手塚は触れるだけで言葉も何も言ってこない。
「手塚・・・?」
「いつか・・・・」
「ん?」
「いつか・・・俺のことを名前で呼んでくれるか?」
「・・・・いや、一生無理だと思う」
「それは・・・どうだろうな」
「えっ」
あ・・・っ。
「手塚・・・さっき、西門先生が・・・アレ、も居たんだ・・・・」
「大石か・・・どうした?」
「うん、さっき西門先生がに書類を預けたんだけど・・・」
「ゎ・・・私、帰るね!!」
バタバタバタ・・・・バタン!!
「・・・・?手塚、の奴どうしたんだ?えらく慌ててたみたいだけど・・・。」
「・・・さぁな。ところで書類がどうしたんだ?」
「あぁ、そうだった。書類のことなんだけど・・・・」
私は思いっきり、生徒会室を飛び出した。
大石が来る手前、私はまた手塚にキスされたんだが、キスする前の手塚の顔が・・・。
まるでいつかそう言わせてやるぞと言わんばかりの余裕さで
でも、何処か悪魔的なトコを帯びた笑みで私に笑って見せキスをした。
「・・・・反則だよ、アレ」
私は顔を真っ赤にしながら、廊下をバタバタと走った。
初めて彼のああいう悪魔的なところを見た。
そう、彼は独占欲が強いんだ・・・そして、きっと掴んだら離してくれないだろう。
「もぅ・・・国光の・・・バカ・・・」
絶対に聞こえないように、私は呟いた。
口にはまだ彼から貰った熱が残って、体中が火照っていった・・・。
1つ学年を重ねた、私と彼。
どんどん距離が近づいて・・・・これから、どうなるかなんて・・・・私は想像もしたくなかった。
想像しただけで、また恥ずかしくて、何も出来なくなるから。
証-あかし- 〜君と歩んだ軌跡〜
(春が来ました。不安が溶けて、元の私と彼に戻りました)