君の声、君の香り、君の髪。

君の全てが俺の全てだった。

もっと君に触れたくて・・・だから・・・もっと君を知りたい。




















2年生の夏・・・雨が強い日・・・俺たちは・・・・・・・・・。



















「どひゃー・・・かなり雨、降ってきたね」
「あぁ、そうだな」






梅雨の時期がやってきた。
雨の日が毎日続き、外を使う運動部の練習が出来なくなっていた。
俺とは誰も来ない閉館前の図書室にいた。









「これじゃあ、テニス部も練習できないだろ?」
「それはお互い様だろう。テニス部も出来ないが、陸上部もできないことには変わりがない」
「アハハ、ごもっとも。室内も今日は野球とサッカーが使うし」










はため息をつきそんなことを言っていた。
俺は黙々と本を読んでいた。









「あ〜・・・しかし、失敗したな・・・」
「どうした、?」








すると、が窓の外を見ながらそんなことを呟いたので俺は顔を上げて、彼女を見た。
は振り返り俺を見て言う。













「え?あー・・・ホラ、だって・・・今朝晴れてただろ?雨降らないって思って、傘持ってきてないんだよ」
「昼から降水確率80%だっただろ、ちゃんと見てこい」
「いや〜・・・朝練、遅刻するかと思って・・・見てない。手塚は持ってきたの?」
「当たり前だ。出際に母さんに傘を渡されたからな」
「ウチのお母さんもそういうことしてくれたらいいのになぁ〜・・いいなぁ〜手塚のお母さん」











そんなことを呟きながらは再び窓の外を見る。
何やら小さな声で懐かしい歌を歌い始めたみたいだ・・・。

















『♪雨あめ降れふれ、母さんが・・・じゃのめでお迎え嬉しいな・・・・♪』













その声が愛しくて・・・俺は止めなかった。むしろずっと聴いていたい気分だった。
しかし・・・雨は一向に止む気配がない・・・ふと、思ったが・・・。















『ランランラン・・・♪』っと・・・何?」
「お前、帰りはどうするんだ?」
「そらぁ、走って帰るしかないでしょ。傘持ってきてないし・・・駅降りてすぐ走れば大丈夫だし」
「青春駅は確かに近いが、自分の目的の駅まで行ったら後は走るのか?」
「当たり前じゃん!陸上部のエースを舐めるな!!ま、この調子で振り続けると大分濡れるけどね」











は笑いながら俺にそう告げた。そしてまた、懐かしい歌を歌う。
すると、俺は頭の中で・・・考え込んだ。













彼女をこのまま帰していいのか?



もし、他の男の目に彼女が止まれば確実に危ない。



むしろ・・・あの体に触れていいのは俺だけだ。



もっと・・・ずっと、一緒に居たい。



















彼 女 が 欲 し い 。























「ん?」


















「ウチに来ないか?」

「ぇ?」

「今日は母さんも父さん遅い・・・祖父も旅行に行って帰ってこない」

「・・・・ぇ、ぇ?」

「当分雨も止みそうにない・・・いっそ泊まってもいい」

「ぁ・・・ぇ・・・・そぅ・・・」











俺は本を閉じて、に近づく。
は顔が赤くなり・・・・言葉が上手く出てこない。
上目遣いで俺を見つめる眼差しがとても愛しくてたまらない。











「・・・・ぃ、行って・・・ぃいの?」
「あぁ、かまわない。どうする・・・嫌か?」
「別に・・・嫌じゃ、ない」
「じゃあ、来い。このままお前を一人で帰すのは忍びない・・・濡れて帰られたら尚更な」
「なっ!?」










一気にの顔が赤くなる。
その顔を見て俺は微笑を浮かべた。
















『そろそろ閉館の時間になります。ご利用の生徒は退室をよろしくお願いします・・・・繰り返します・・・』

















「帰るか、
「・・・・手塚の反則」
「別に反則はしていない。むしろ、俺が望んでることだ」
「・・・・反則と変わらないよ」
「お前が可愛いから仕方がないだろ」
「ストレートでそんなこと言うな!!恥ずかしいだろ!!」















カバンを抱え、俺とは学校を出た。
1つの傘にお互いの体を寄せながら、雨の降る道を歩いた。

































「ちょっと、濡れたな」
「平気だよ、コレくらい」




家に着いて、すぐに俺の部屋に上がらせた。
何回もウチに来ている はすぐさま俺のベッドに座る。そして俺はの髪にそっと触れる






「・・・・綺麗な髪だな」
「そう?ありがとう」








会話を終えると、俺と は見つめあい
互いの唇を重ねた。徐々に深いものに変えて
名残惜しむように唇を離し、 の顔を見る。










「大丈夫だ・・・・怖がるな。俺が居る」
「・・・・て、づか・・・」
「ん?」
「・・・・い、痛く・・・しないでよ」

















そう彼女が呟くと・・・・。














「あぁ・・・努力しよう」












俺がそう告げ、深くベッドに身を沈めた。


















夏の雨の日・・・俺たちは大人の階段を登った。




































---------------ザァアアア・・・・












「(・・・・んっ、何時だ?)」





ふと目が覚めた。
いつの間にか眠っていたことに気づく。
隣では が正しい寝息を立てて眠っている。
俺は上半身を起こして、時計を見る。







「(・・・・9時か。・・・あまり夜中じゃなくて良かった・・・)」









時計を見ると、夜の9時を指していた
あまり夜中だと流石に寝すぎだと思ったが、9時と言う時間に多少ホッとした。
俺は再び を見る。










「(・・・・なんだか・・・不思議な感じだ)」











実際、不安だらけだった。
彼女が拒絶をするんじゃないかと思っていた、でも彼女は拒絶をするどころか
まるで分かりきっていたかのようにも思えた。




しかし、始めは痛みを伴っていたが・・・重ねるごとに、愛しくて、欲しくてたまらなかった。
柔らかい空気に包まれ、まだ終わらせたくないと思う。

俺はそんな不思議な感覚に襲われていた。
















「(・・・・ダメだな、俺も。 には敵わない)」











彼女の寝顔を見ながら俺は微笑を浮かべ
ベッドから離れ、洋服を若干中途半端に着こなし
居間へと足を運んだ。
















「アラ、国光さん帰ってたの?」
「!?・・・・か、母さん、お帰り」







居間に誰も居ないと思っていたが、母さんがいつの間にか
帰ってきていたことに気づく。







「いつ・・・帰ってきたんですか?」
「そうね・・・7時くらいかしら?・・・それにしても、国光さん」
「はい?」
























「ようやく、貴方も大人の階段を登ったのね。お母さん、嬉しいわ」
「・・・・・?!か・・・母さん」






母さんはニコニコしながら俺に言う。
あまりのことで俺は焦る。








「もう・・・国光さんがさんを好きな気持ち、充分に分かったわ」

「母さん」

「でも、出てくる時は流石にその格好はビックリするからちゃんとしておいた方がいいわよ」

「・・・・か、あさん」

「どうしましょ、赤飯でも炊いたほうがいいかしら?あ、お父さんとお爺さんには黙っておきますね。
特にお爺さんが聞いたらもうお怒りになるから」

「・・・・」








あまりのことで・・・俺は言い訳の仕様がない。

いや、正直・・・部屋で としているとき、周りの音やそんなのを
全くもって入れていない俺が一番悪い。
かなり俺はを目の前にすると抑制と言うものが効かないらしい。
俺は若干頭を抱えながら、部屋に戻った。














「・・・・はぁ」
「手塚?」
・・・起きたのか?」







部屋に戻ると、が起きていることに気づき
俺はすぐさまの隣に座り、頭を撫でる。









「・・・体は、大丈夫か?」
「ん〜ちょっと痛いかも。でも平気」
「すまない、俺が無理をさせてしまって」
「いや、いいんだよ別に・・・それに、何か幸せだな」
?」








がにっこりと笑って見せた。









「こうやって、手塚と・・・その、ひとつになれて・・・始め、怖かったけど・・・今は何か安心してすっごく幸せ」
「・・・・俺も、同じだ」









の額に唇を落とし、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
今・・・俺たちは1つ大人になった。














大人の階段を少しずつ、少しずつ

登って行く俺と彼女。

何も怖がることはない。

彼女が居れば・・・俺は、何もいらない。

怖がる必要など、ないのだから・・・。








-あかし- 〜君とんだ軌
(雨降る暑い夏の日、僕らは大人の階段を上りました)





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