去年の冬、タイムが伸び悩んでがむしゃらに走った結果
また足の痛みが悪化し、その場に倒れこんでしまった。
そして、しばらくの入院が余儀なくされ、始業式を私は病室で迎えることになった。
「、具合は?」
「秀一郎・・・もう、大分。あと1週間もすれば退院できるってさ」
始業式から数日。
病院に秀一郎が見舞いに来た。
私は笑顔で彼を迎えた
秀一郎は近くに置いてあったパイプ椅子に座る。
「・・・手塚には話したのか?」
秀一郎は急に真剣な声で私に話す。
私はしばらく間を置いて返す。
「ねぇ、秀一郎・・・病気のことは、手塚に黙ってて・・・・」
「何でだよ!お前と、手塚は恋人だろ!!何でそこまでして病気のことを隠すんだよ!!」
「お願い!・・・お願いだよ・・・秀一郎・・・黙ってて・・・」
私は必死に頼み込んだ。
目には涙が溢れていた。
「これ以上・・・誰も悲しませたくないよ。・・・秀一郎も、手塚も・・・皆・・・・」
「」
「時が来たら、必ず手塚には話す。そのときまで・・・お願い」
「わかったよ・・・だけど、ちゃんとその時は話せよ。大丈夫、手塚は分かってくれるさ」
「・・・・・・ぅん」
本当は、ずっと隠し続けるつもりだ。
例え、この足の病気が治ったとしても
きっと・・・・私は、彼に真相を打ち明けるつもりはない。
「・・・・手塚・・・?」
「、起きたのか?」
「・・・ぅん。」
退院して、しばらくして私は手塚の家に泊まりに来ていた。
体を重ねて、私はしばらく眠っていたが
突然目を覚ました。
隣にはもちろん、手塚が本を読んでいた。
「ねぇ、寝なくていいの?明日、練習なんじゃない?」
「さっき充分寝たから大丈夫だ」
「そっか」
手塚の枕を奪い、抱き枕代わりにする。
そして、私は再びベッドに身を沈め
本を読んでいる手塚の顔を見る。
しなやかな指でめくられるページ、ふと左手を見て思い出す。
そういえば、手塚の左腕・・・・・。
「なぁ、手塚」
「どうした?」
私は少し起き上がり、手塚の肩に頭を置く。
「左腕・・・どう?」
「大石の叔父さんは大丈夫だと言ってくれた」
「そうか・・・・」
秀一郎の叔父さんが言うんだったら間違えないだろうな。
少し安心して私はホッと肩を撫で下ろした。
「だが、まだ安静の段階・・・・油断は禁物だがな」
手塚は横目で私を見て、少し笑ってくれた。
そうだよね、無理して使えば今度こそ危うい・・・・・・・・・・。
私に・・・何かできないのだろうか・・・?
1つだけ・・・・ある。
私は手塚の左手を握り、自分の頬に当てた。
「じゃあ、私が『早く、手塚の左腕が治りますよーに』ってお願いしておく」
ただ、祈ることしか出来ないけど
自分のことよりも私は何よりも手塚の心配をしていた。
だって、好きな人だもん・・・自分のことを投げ出してまでも居てほしい。
「あ、・・・いや、あの、でもこれは・・・あくまで、念であって・・・実際これで治るってわけじゃないし!」
「・・・・お前には、迷惑ばかりかけているな・・・・すまない」
「いやいや、そんなこと」
迷惑をかけているのは、きっと私だと思う。いまだに病気のことを話せていないし・・・。
「本当にありがとう」
すると、手塚は私を引き寄せ抱きしめた。
こんなことするから・・・話しづらいんだよ・・・。
「手塚」
「何だ?」
私はゆっくりと手塚から離れた。
「1つだけ・・・約束して」
「・・・・あぁ、何だ?」
「絶対に、無理はしないで。・・・せっかく治ってんのにさ、また無理したら・・・完璧に動けなくなるよ」
その辛さは今、一番私がわかってる。
もう、立てないかもしれない。
もう、動けなくなるかもしれない。
もう・・・・。
今 と 同 じ ぬ く も り を 感 じ る こ と が 出 来 な い か も し れ な い 。
涙が溢れた。
そう思うと辛くて、同じ思いはしてほしくない。
「だから・・・・!!」
「泣くな・・・ 」
すると、手塚は優しく私の瞼にキスをしてくれた。
私は手塚を見る。
「手、塚・・・」
「分かった・・・・約束しよう」
無理はしない・・・・必ず守ろう。
果たして・・・俺は、守れるのか・・・・?
ギシッ・・・ギシッ・・・
「あっ・・・は、・・・ぁ」
もし・・・破ってしまえば・・・・。
「ふっ・・・ぁ・・・はぁ・・・」
目に大粒の涙をため、それは曲線を描いて、頬から流れ落ちる。
そんな顔で、泣きつかれるかもしれないな・・・・。
「・・・」
「あっ!?・・・あぁんっ」
深く重なり合う体。
もう、痛みもない・・・ただ、互いを感じる快楽しかない。
腕を痛めたらもう、体を重ねることすら出来なくなるのだろうな・・・・。
すると、が手を伸ばしてきた。
俺は何事かと思い、少し距離を置いた。
「どうした?」
「手・・・塚・・・・」
「ん?」
「腕・・・痛くないか?・・・もし、痛かったら・・・やめていいから・・・」
どうして、彼女はこんな風に俺を心配してくれるのだろう。
だから、愛しくてならないんだ。
「大丈夫だ・・・・」
だから、どんなに腕を痛めて失ったとしても・・・・。
を離したりはしない。
「ンっ!・・・ふぅ・・・んンッ・・・」
深く唇を重ね、深く体を重ね
何も考えたくない。
彼女を離すなんて
彼女から離れるなんて
俺には出来ない。
愛 し て い る か ら
神がいるなら、願いたい。
この腕がどうなろうと
「俺から彼女を離さないで・・・永遠に結ばれたままでいさせて下さい」と。
いつまでも、側にいさせて下さい。
また春が来ても、夏が来ても、秋が、冬が来ても・・・ずっとずっと・・・。
春、ただ願うことしか出来なかった。
桜の花びらは風に散り
笑いながら過ごす日がもう残り少ないと
俺は思いもしなかった。
誓った約束も、なくなることも・・・・。
証-あかし- 〜君と歩んだ軌跡〜
(春の暖かい日、僕らは誓った・・・それなのに、どうしてああなってしまったのだろう)