夏、あの闘いが・・・繰り広げられた。
「・・・・もしもし?」
『あ、・・・よかった、すぐに試合会場に来てくれないか?』
「どうしたの・・・・?」
秀一郎から電話を貰った。
どうにも落ち着かない声だった。
『実は・・・・手塚が・・・・』
「・・・・・え?」
どうして・・・どうして・・・・・・・?!
「約束破ったのよ・・・・手塚っ・・・・」
------ザッ・・・。
「秀一郎・・・!!」
「」
会場に着き、私はすぐに青学メンバーを探した。
試合は終わってたらしく、メンバー全員が集まっていた。
私はすぐさま秀一郎に駆け寄る。
「・・・容態は?・・・・それよりも、本人は?」
「・・・・・手塚なら」
秀一郎が後ろに目線をやると、メンバー全員が塞いでいた道を開け、奥を見ると・・・・。
手塚が一人座っていた。
私はゆっくりと、手塚に近づく。
「手、塚・・・・」
「か」
たくさんの汗をかいて長袖のジャージを上に羽織り
うなだれる様に、前屈みで座っている。
私の声で、ようやく顔を上げる。
どうして・・・・・どうして・・・・・。
----パァン!!
『!?』
「・・・?!」
「ちゃん?!」
「痛そ・・・」
私は思いっきり手塚の頬を引っ叩いた。
あまりの行為にその場に居たメンバー全員が驚きを隠せない。
「どうして、そんな風になるまで試合続けたの!!」
「・・・・」
「どうして、悪くなるって分かってて続けたの!!」
「・・・・」
「どうして・・・・どうして・・・・っ」
私は大声を上げ手塚に訴えた。
手塚は何も言わず、ただ黙って聞いていた。
「約束破ったのよ、手塚ぁ・・・・」
「、すまない・・・・」
そう言って、手塚は右手で優しく私を引き寄せ抱きしめた。
私は泣きながら彼の胸を叩く。
「何で・・・何で、約束したじゃない・・・・無理はしないって・・・・約束・・・・したじゃない・・・・」
「・・・・すまない」
「それだけで・・・済ませないでよ・・・・バカ・・・バカ・・・・」
「・・・泣くな、泣かないでくれ・・・・」
手塚の唇が、私の頬に触れる。
分かってる・・・・でも、認めたくなかったの・・・。
本当にみんなのために、貴方が犠牲になったのも
分かってる・・・・それでも・・・・何処か腹立たしかった。
「バカ・・・・手塚の・・・バカ・・・・」
「、すまない・・・・本当に、すまない」
約束を破ったことにも腹立たしかったけど
それよりも、きっと手塚が先に私から離れていくことに
不安を覚えていたんだろう・・・・。
「宮崎?!」
「あぁ、しばらく九州でリハビリ治療をすることになった」
「そうか・・・」
関東大会第1回戦数日後。
手塚の荷物を持って、駅で空港行きの電車を待っている最中だった。
どうやら九州には青春学園大付属病院があるらしい・・・・ていうかそんなところがあったことにびっくりなんだけど。
「いつ・・・帰ってくるの?」
「分からんが・・・全国に間に合うようにはするさ」
「そう」
結局、先に旅立つのは彼だった。
何も出来ず、ただ彼を見送ることしか出来ない。
私は手塚の右肩に頭を寄せた。
すると、手塚は私の手を握ってきた。私もその手を握り返した。
「それまで、秀一郎たちが頑張るよ・・・何たって、生意気ルーキーが居るんだから」
「そうだな。俺も治療に専念する・・・また、お前を受け止めれるように」
「・・・最後の最後で、そういう言葉サラッというのやめてね、本気で恥ずかしい」
手塚の発言に私は顔を少し赤らめた。
ホント、いつも手塚の発言にはドキドキするって言うか・・・恥ずかしいというか・・・・。
「ねぇ、出逢ってもう3年経つんだよ・・・・」
「そうだな・・・しかし、いきなりどうした?そんな話をして」
「何となく・・・・」
覚えてる・・・?
私達の出会いを・・・・そこから始まったんだよ?
「1年の夏だっけ?」
「あぁ、俺はそこでお前に一目惚れしたんだ」
「嘘ッ?・・・マジ」
「当たり前だ。お前はいつから俺が好きになったんだ?」
「え〜とね・・・1年の秋だったかな?手塚に図書室で迫られて・・・・ホントあれにはビックリだよ」
「あれは・・・その・・・それはだな・・・」
「はいはい、分かってるから」
手塚の照れる声なんて、初めてかも・・・・私は思わず小さく笑ってしまった。
「冬だったよね、手塚が告白してきたの」
「あぁ、これ以上お前を野放しにしておけばきっと誰かに取られてしまうって思った」
「そっか。ありがとう、手塚・・・・でも、2年になって凄くビックリしたよ?」
「何がだ?」
「まさか、秀一郎に嫉妬してるなんて・・・・手塚、バカね」
「仕方ないだろ、お前がいつも俺がダメだったら大石の名前ばかり呼ぶからお前にも否がある」
「ゴメン・・・・」
話すと、いろんな記憶が蘇ってくる。
出逢って、恋して、悩んで、泣いて、笑って・・・・。
「楽しかった・・・・ホント、楽しかったよ」
「何だ、。まるで、永遠の別れのような言い方だな・・・俺は必ず戻ってくるぞ」
「思い出を振り返るとふとそんな言葉が出て来るんだよ!べ、別に永遠の別れとか思ってないし」
「そうか・・・・」
ううん、きっとお別れなんだ・・・・これでバイバイなんだ。
『2番線、羽田空港行きの電車が入ります。
お乗りのお客様は黄色い線までお下がりください』
「電車が来る、行こう」
「うん」
放送で、手塚に手を引かれ私は立ち上がり、黄色の線まで立った。
すると、凄い速さで電車がホームの中へと入っていく。
扉が開き、手塚の手が離れていく・・・・。
「元気・・・・でね」
「手紙は書こう・・・メールは少し、苦手でな」
「うん。ちゃんと治して帰って来るんだよ」
「あぁ」
プルルルルルル・・・・・・!!!!!
----------ピシャ・・・!
扉が閉まった。
私は笑顔で手を振った。
泣いちゃダメ・・・・泣いちゃだめだよ、。
「手塚・・・・っ」
ダメだ・・・涙が溢れて止まらない。
別れってこうも辛いものなのかな?
お兄ちゃんたちと母さんの見送りの時は全然悲しくなかったのに、手塚と別れるのって・・・こんなに悲しいの?
言葉が出ない・・・・行かないで・・・行かないでと・・・・。
ドンドン!!
すると、目の前から叩く音。
顔を上げると・・・・手塚も悲しそうな顔してる。
電車が発車して、動こうとした瞬間・・・・・・・・。
「・・・・ぁ」
電車は加速して、いつの間にか見えなくなり・・・そして、空港へと向かった。
私はその場に座り込んで、大粒の涙を地面に零した。
最後に手塚が私に向けた言葉・・・・・・・。
『 愛 し て る 』
「何処までも・・・恥ずかしい奴・・・手塚・・・・ゴメン・・・・」
私はどうにか涙を拭い、立ち上がる。
さて、私も・・・・最後のお別れをしなきゃ。
----ゴォオオォオオ!!
「手塚ぁあ〜行って来いよ!!」
「手塚!!」
「手塚、頑張れよ」
「秀一郎」
数分遅れて、が空港にやって来た。
俺たちは飛行機を見届けるためにデッキに出ていた。
が俺の肩に並ぶように立つ。
「いいのか、お別れしなくて」
「もう、した。手塚が此処に来る駅で」
「・・・・そうか」
まるで晴れたような顔をして、彼女は空に飛んでいく飛行機を見つめた。
「秀一郎」
「ん、どうした?」
「私ね」
「アメリカに行くことにしたから」
「え?」
彼が飛び立って数分後
彼女から衝撃的な言葉が走った。
彼の別れじゃなく
コレが・・・
彼と彼女の・・・本当の別れだった。
証-あかし- 〜君と歩んだ軌跡〜
(あの暑い夏の日、激しい闘いの後・・・本当の別れがやってきた)