「どうだった、佳兄?」
「今、安心して眠ってる」
「よかった」





数時間後、常葉はを連れて佳兎達が待つ自宅へと帰った。

家に着くなり、はすぐさま自分の部屋で眠ってしまった。









「悪いな、常葉・・・・迷惑かける」
「いえ、いいんですよ。それにしても、ちゃん・・・相当日本で辛い思いしてたみたい」
「どういうことですか、常葉さん?」





常葉の言葉に沙依は疑問に思う。
すると、常葉は少し間を置き、口を開く。










「もしかしたらちゃん・・・・日本に彼氏がいるんじゃないの?」

















「それって・・・俺達が居ない間・・・青学に居る時か?」
「かもしれないですね」






常葉の言葉に、真剣に耳に聞き入れる2人。
さらに、常葉の考察は続く。






「それも、多分別れてきてるんじゃないかと・・・・」
「でも、それだったらきっぱりしてるはずでしょ?」
「コレはあくまで私の考察ですけど、きっと・・・彼のほうには何も言わず来たんじゃないのかと・・・・」
「あぁ、なるほど」









少し説得力のある言葉で、常葉は二人に説明した。
そして、三人は黙り込み、部屋に沈黙が漂う。









「しかし、俺の可愛い妹にまさか彼氏が出来てるとは・・・・」
「お前と違って、は一途だからな・・・」
「佳兄・・・今のかなり痛いダメージです」
「で、常葉。何でが泣いたのか分からないのか?」
「・・・・それが、さっぱり。ていうか、私、心理カウンセラーじゃないですから」







悪いと言葉を濁し、佳兎は常葉に謝る。

すると、沙依は座っていた席を立ち上がる。








「沙依?」
「・・・いや、ちょっと・・・・の様子が気になったから・・・見てくる」
「今は少しナーバスになってると思いますから、慎重にお願いしますよ・・・沙依くん」
「了解」







そう言って、沙依は部屋を離れ が休んでいる部屋へと向かう。

その場に残されたのは佳兎と常葉だった。常葉は大きなため息をつき、椅子に座る。







「・・・・ちゃん、大丈夫かな?」
「お前が落ち込んでどうする?今一番辛いのは、本人だ。わざわざ日本に彼氏を置いてきてるんだからな」
「凄く好きだったんでしょうね・・・・あの涙は本物ですよ」






常葉は苦笑いをしながら佳兎に言う。佳兎は何も言わず、常葉の目の前にコーヒーを出す。
彼女は、それを受け取り、両手で優しくカップを包んだ。







「私も同じ気持ちを味わった一人として・・・・彼女を元気付けてあげたい」
「常葉」
「大丈夫です、辛さは同じです。私も貴方を追いかけてちゃんと此処に居ますけど、 ちゃんの彼は此処には居ない。
それだけは、変えられない事実です。だから・・・・一番に彼女を理解できるのは私です」
「・・・・強くなったな、お前」
「日々、貴方の毒舌で鍛えられてますから」






常葉はにっこり笑って、コーヒーを口に含んだ。







「そういえば・・・・私、どこかで覚えがあるんですよね」
「何がだ?」






すると、常葉が突然飲んでいた動作を止めた。
その声に佳兎も不思議がる。








「いえ・・・・ちゃんがボソッと呟いた・・・」
「彼の名前か?」
「えぇ。・・・・何処だったかなぁ〜・・・・うーん・・・・大分前に聞いたことがあるんですけど・・・思い出せない」
「あんまり無理すんな、お前だって体は1つしかないんだから・・・・のことは俺たちも出来る限り元気付けるさ」
「佳兎さん・・・・もしかして、私のこと心配してます?」
「・・・・・さて、晩飯なんにするかな〜」
「ちょっ!?・・・・佳兎さん」





























--コンコン










「はい」
、入るぞ〜」
「沙依兄」




一方の沙依はの部屋に入り、ベッドに座っているの隣に座る。








「大丈夫か?・・・・佳兄も心配してたぞ?」
「うん、もう平気大丈夫だよ」









はにっこりと笑って見せると、沙依は優しくの頭を撫でる。








「沙依・・・兄?」
「目が真っ赤・・・そんなに、その彼が忘れられないのか?」
「?!」






沙依が核心を突くと、は驚いた表情になり
泣きそうな顔になる。







「私・・・今まで、何のために・・・誰のために病気と闘ってきたのか・・・・分からなかったの」

「・・・・・」

「でも、でも・・・・色んなこと考えたら・・・結局自分のためじゃなかった。・・・・アイツの、アイツのためだった・・・
必死で、忘れようとして・・・・別れたのに・・・・全然忘れられなくて・・・・こんなにも、辛いって思わなかった・・・・」

「・・・ 、もう泣くな・・・あんまり泣くと可愛い顔が台無しだぞ」

「・・・・沙、依兄っ・・・・」






は泣きながら、沙依に抱きつく。
そんな を沙依は優しく抱き返し、背中を優しく撫でる。







「病気の私がアイツの側にいたら、きっと迷惑をかけてしまう・・・きっと、嫌いになる。だから・・・・敢えて、離れたのに
全部を断ち切ってきたのに・・・・どうしても、心にはアイツの存在が大きくて・・・・忘れられないよ・・・・」

「・・・・









は大粒の涙を零し、沙依に泣きつく。
そんなを見た沙依は何も言わず、ただ優しく抱きしめることしか出来なかった。




























--ガチャ、バタン












「沙依、は?」
「佳兄・・・大丈夫、もう眠った。明日までは目は覚まさないだろ」





数分後、沙依は の部屋から出ると、様子を伺いに来た佳兎と鉢合わせになる。





「大分精神的に弱まってる・・・・アイツ、凄く日本に居る彼氏のこと好きなんだろうな」
「そうか・・・・」
「なぁ、佳兄」
「ん?どうした、沙依・・・・お前まで落ち込んで」






すると、沙依が落ち込んだ表情を見せたので
佳兎は少し呆れながら彼に言う。






「・・・・なんか、辛いな」
「え?」
「・・・・遠距離とか俺経験したことないからさ・・・恋愛にも執着しないし・・・でも、こうやって誰かを想ってる
見てるとさ・・・・何かしてあげたい・・・・でも、出来ないのが・・・歯痒い」
「・・・・沙依」






沙依の表情を見て、佳兎は背中を叩く。






「俺も、同じさ。アイツを悲しませてる時点で俺は相手の男を殴ってやりたいとか思ってるんだ・・・・お前だけじゃないさ」
「・・・・ぅん」
「今日はとことん付き合ってやるよ・・・お前ほど飲めはしないがな」
「佳兄・・・・ありがとう」






佳兎と沙依は2人肩を並べながら
階段を降りていったのだった。










































----日本














「あれ、大石・・・手塚、もう帰ったの?」
「不二・・・あぁ」





全国大会終了後、青学のテニスコートではいつもどおりに
練習が行われており、丁度練習が終わり全員が帰り支度をしている最中
手塚が居ないことに不二が気づき、そんな不二の言葉に大石が返答をした。







「最近、帰るの早くなったね・・・手塚のヤツ」
「それに、練習にも力が入ってるって言うか・・・・厳しいっすよね?」
「それは、桃先輩がちゃんとしないだけっスよ」
「毎日、何処かに通っている様子だが・・・・誰か心当たりはないか?」
『(何処で調べてんだ、乾!?)』




乾の言葉に、全員が驚いていたが
大石は、深くため息をついた。









「まぁ、乾の言っていることも当たらずとも遠からずだけど・・・・」








ふと、大石は空を見上げ、ボソリと呟いた。


















-アイツは今もあの場所で待っているんだよ・・・帰りを-























「・・・・・








練習後、手塚が向かう先は の住んでいたアパート。

少し残された家具だけが其処にはあり
ポツンと一人、家の真ん中で手塚が座っていた。







「・・・・・帰ってきてくれ・・・・・・」








手塚の手に握られた携帯は繋がらず、机にはあの日に開いた別れの手紙。

くしゃくしゃのまま、その場に置かれていた。









「あの時、俺が・・・お前の異変に気づいてやれたら・・・・、すまない・・・・すまない・・・だから・・・」






















俺 の 元 へ 帰 っ て き て く れ 。


















・・・・お前は・・・何処に居るんだ・・・・・・・」















届かぬ思いだけが、部屋に響いた。

日本で待ち続ける彼は、ただ涙を流していた。























-半年後-







ちゃん、準備は良いかしら?」
「はい」







半年が過ぎたある日。

は病院に居た・・・そして、今日が手術の日でもある。






「出来る限りはする。だから、貴女も頑張るのよ」
「・・・・はい」








そうして、ゆっくりは目を閉じ深い眠りへと就くのだった。























運命の歯車はただ、無情に狂い

互いの再会も変えるほど

戻れぬところまで、来てしまった。

深い眠りに就いた、彼女を

彼はただ、あの場所で待ち続けていた。






-あかし- 〜君とんだ跡〜
(待っても、待っても・・・あとどれだけ待てば君は戻ってくるのだろうか?)



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