「手術は成功・・・・後は、リハビリだけね」




半年後、ようやく手術の日が来て・・・・数時間の結果、成功を収めた。
私は病室で、常葉さんと話ながら窓の外を見ていた。





「さぁ・・・リハビリ、頑張りましょうね」
「えっ・・・・あ、はい」
「あら、随分嬉しくなさそうね。頑張りましょう・・・貴女のために」
「わ・・・私のために」





にこやかに微笑んだ常葉さんに、私はただ頷くしかなかった。

















手術から数日後、私はようやく自宅に帰ることが出来た。
迎えには沙依兄が来てくれて、家に帰ると佳兄と母さんが待っていた。







「おかえり、。よく頑張ったな」
「おかえりなさい、
「ただいま、佳兄、母さん」







私は車椅子に座ったままだが、二人は私を温かく迎えてくれた。

足の痛みはないのだが、立ち上がったりの動作は今は出来ないみたいだ。







「お前・・・・しばらくは、車椅子なのか?」





すると、沙依兄が車椅子を引きながら私に問いかけた。





「うん。2週間は車椅子だって・・・常葉さんが言ってた」
「でも、・・・お前の部屋、2階だぞ」
「あ」









佳兄の言葉で、自分の部屋が2階であるということに気づかされる。
まさか、自分が車椅子の状態になるとは想像もしていなかった。







「しょうがないなぁ〜・・・俺が抱っこして行ってやるよ」
「沙依兄」
「もち、お姫様抱っこで!」
「やめろ、変態」
「沙依兄」






一瞬、この兄が頼りになると思った私が馬鹿だった。
沙依兄はこういう人なんだと、つくづく呆れてしまう。











・・・」
「母さん」





すると、ふいに母さんに話しかけられる。
私は顔を上げ、母さんの顔を見る。








「大丈夫・・・もう、心配しなくてもいいのよ。母さんも佳兎も沙依も、常葉さんだって
此処には居るんだから、一人で抱え込まなくていいのよ」
「母さん」







少し、その言葉に戸惑った。
此処には、家族が居る・・・信頼できる人も居る。
でも、確信の返事が出来ない。








--------それは--------。








まだ、彼のことが心の奥底に残っているから。



























それから、数日が経った。
私は自分の部屋の窓の外を眺めていた。
ふと、日本の皆のことを思い出す。





「電話・・・してみようかな・・・」








近くにあった携帯電話を取り、メモリから電話番号を出す。







今ならきっと大丈夫・・・アイツは居ない。







そう、自分に言い聞かせ、発信のボタンを押した。



























---------------PRRRRRR・・・・PRRRRRR・・・・ガチャッ!









「はい、大石です」
『・・・・・』
「もしもし?」






丁度、両親が不在の中電話がかかってきた。
しかし、電話に出るなり応答がない。
まさかいたずら電話か?







「あの・・・どちら様でしょうか?」
『・・・・ぁ、悪い。喋るの忘れてた』
「っ!?・・・ぉ、お前・・・か?!」










ようやく聞こえてきた声は、半年前に突然別れを告げた幼馴染だった。








「元気か?」
『うん・・・元気。むしろ、快適・・・母さんや兄貴たちも居るし、手術・・・終わった』
「どうだった?」
『とりあえず、成功。後はリハビリで頑張れって・・・今は、療養中ってやつかな?』







半年振りに聞くの声は元気だった。
手術もどうにか成功したということを聞いて安心した。



でも・・・・。











「お前、手塚と話してみないか?」
『え?』






一番の気がかりは、手塚とのことだった。







手塚は冷静で毎日、練習に励んでいたが
アイツが一番脆いと知っているのは、俺とだけだ。








「今、アイツ2階に居るからさ・・・すぐにでも呼んで話を・・・」
『ちょっ、ちょっと待って!・・・私は、アイツと話す事なんか・・・ないの。呼ぶ必要もないから』





電話元のの声が震えて聞こえてきた。





『お願い・・・秀一郎・・・。手塚を呼ばないで・・・・』
「・・・






はそっと、吐息を交えながら声を出した。




























「大石遅いにゃ〜・・・」
「しょうがないよ、大石・・・今ご両親居ないんだから」





今日は3年レギュラーだけが集まり、今後の進路のことなどで
話し合うために大石の家に来ていた。






「でも・・・確かに、遅いよな」
「うむ。彼女と話している確率は極めて低いとして・・・・」




河村と乾の会話を聞いて、俺は立ち上がる。








「手塚・・・?」
「俺が見てこよう。何かあったのかもしれない」








そう言って、俺は部屋を出て階段を1段ずつゆっくりと降りる。











「・・・・でも、あれは・・・・」










すると、大石の声が聞こえてきた。
まだ電話をしているということが窺えた。








「だけど、それはお前が思っているだけで・・・アイツはお前の苦しみを分かってくれる。」








相談でも受けているのか・・・?
もしかしたら、長谷部さんかもしれないな・・・。


俺はもうすぐ1階の廊下に脚をつけようとした。














「・・・・頼む、アイツのためにも・・・そして、・・・お前のためにも・・・・」
















ドクン!!

















----------













頭の中で、今までの記憶がフラッシュバックで蘇ってくる。













『・・・・・手塚・・・・・』












そう、呼ばれた時の の表情が分からない。

今、がどんな顔をして俺を呼んだのか見えない。


笑っているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。



それとも





泣 い て い る の か ・・・・ ?











気づけば、俺は大石から受話器を奪っていた。






























「もう、これ以上・・・手塚に迷惑かけたくないの」
『・・・






私が居れば、きっとアイツは自分のことを投げ出してまで
また無理をするに違いない。




「関東大会の時・・・そう、思った。手塚は自分の腕を犠牲にしてまでチームのために、戦った。私の約束まで破って・・・・」
『・・・でも、あれは・・・』





分かってる、分かってるよ・・・。



あれは、ただ自分の不甲斐なさに腹立たしくもあったから・・・でも・・・・。





「私にまで、あんな風になってほしくない・・・元気で居てほしいの。だから、これ以上迷惑かけたくない」
『だけど、それはお前が思っているだけで・・・アイツはお前の苦しみを分かってくれる』
「でも、もう手塚には私はいらないの。私はもう・・・アイツの隣には居ない」






いちゃ、いけない。




これ以上、私は手塚の隣にいちゃいけないんだ。







『嘘つけよ・・・お前は、本当は手塚と居たいって思ってる。もちろん、手塚だって・・・そう、思ってるはずだ』
「秀一郎・・・」
『・・・頼む、アイツのためにも・・・、お前のためにも・・・』











すると、突然秀一郎の声が途切れた。







「秀一郎・・・?」






私は通話が途切れたのかと思い、受話器を耳から離すが
通話時間は動いている。
私は再び、受話器を耳に当てた。













『  ! 』













-------ドクン!!















突然聞こえてきた声に心臓が動く。

声の主は、もう聞くことがないと思っていた声・・・・。








(手塚・・・!!)










聞こえているか?・・・俺だ。どうして、何も言わず俺から離れた?』





それは、貴方に迷惑をかけてしまうから。





『どうして、一言も病気のことを話してくれなかったんだ?』





貴方にこれ以上心配してほしくなかった。








『どうして・・・どうして・・・・』























『 俺 を 見 捨 て た ん だ ?』

















違う・・・見捨てたんじゃない。





これ以上、貴方を困らせたくなかったの・・・気を遣ってほしくなかったの。







幸せに、なってほしかった。





私とは違う、誰かと・・・幸せに・・・なって・・・ほしかった。









・・・答えてくれ・・・。俺はまだ・・・お前を・・・・』

















『 
愛 し て る 』














ドクン・・・!!













ダメッ・・・ダメだよ・・・もう、私を愛しちゃ・・・ダメ。






・・・・・・・答えて・・・くれ・・・』






切って・・・電話を切らなきゃ・・・これ以上・・・。・









私 を 苦 し め な い で 。



















----------Pi・・・・プー、プー、プー・・・・












私は、震える手で発信を切断した。
握られた携帯は、手から滑り落ち床に落ちた。
頬には温かい涙が止めどころなく零れていく。












、どうした!?」
「・・・・よ、し・・・兄・・・」





携帯が落ちた音に驚いた佳兄が私の部屋に入ってきた。




上手く・・・呼吸・・・できない・・・・。








「・・・・ょ、し・・・兄・・・私・・・・っ」
ッ!!」












上手く呼吸が出来ないせいで、私は佳兄に倒れこんだ。




私はそのまま、気を失ってしまった・・・・心の中に彼の姿と・・・












『 愛 し て る 』











の言葉を残しながら。






-あかし- 〜君とんだ跡〜
(お願いどうか・・・・・・もう私を愛さないでください)







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