が倒れた日から数日経ったある日。





「分かった、分かりましたよ!佳兎さん!!」





の見舞いで病院にやってきていた佳兎に常葉が駆け寄る。





「常葉。病院勤務者が院内で大声を上げるな・・・非常識極まりないぞ」
「すいません。・・・あ、分かったんです!!」
「何が?・・・というか、主語を言え」





相変わらずの毒舌に、常葉はめげずに言う。






「だーかーら・・私、ちゃんの彼氏の名前・・・思い出したんですよ!!」
「なんだって?!」























「昔、まだ私が日本で医師研修をしている間に診た患者さんで・・・肘を、痛めた人でした」
「それが・・・・」
「手塚国光」





すると、常葉は数枚の紙切れを机に並べた。





「以前のカルテを見せてもらうには、何とか保護法に引っ掛かりそうなので・・・素性だけでも大石さんに頼み込んで、送ってもらいました」
「さっすが、常葉さん!!」






沙依は、一枚ずつ紙に目を通していく。
佳兎も、一枚の紙を取り上げ見る。彼が取り上げたのは、写真つきの書類だった。






「彼が・・・手塚国光君です」
「コレが・・・手塚君・・・」
「どれどれ・・・?・・・・ふ〜ん、コイツが手塚君ね・・・・」





沙依も同じく写真を見る。
すると、佳兎は自分の持っていた書類を沙依に渡す。







「佳兎・・・さん?」
「彼が悪かろうが、が悪かろうが・・・両成敗だろうと思う。だけど・・・俺はこれ以上
自分の妹が悲しむ道を進んでほしくない・・・もうには、苦しんでほしくないんだ」
「佳兄」






沙依は佳兎の肩を優しく叩く。







「俺も一緒。もし、この手塚なんちゃら君が居たら俺、ゼッテェ殴ってるもん。やっぱ・・・俺はには笑ってほしいからさ」






沙依は佳兎に二カッと笑って見せた。





「沙依。・・・・やっぱり、ヘンな所で俺たちも妹バカだよな」
「俺はいつでも、妹バカだよ」





佳兎と沙依は笑いながら言い合った。
そして、急に2人とも真面目な表情に切り替わる。





「もうこれ以上・・・アイツに悲しんでほしくない」
「俺たちで・・・アイツを・・・を守ろう」










そして、彼のことを忘れさせたほうがいいんだ。



























------数ヵ月後




あれから何ヶ月経った。

きっと、春だ。


日本じゃ皆が進路を決めて、それぞれ・・・別々の高校や
青春学園の高等部に入ったに違いないだろう。


私は車椅子ともお別れし、今は自分の足で地を踏んでいるし
日常生活でも困らない程度に歩けるようになった。





、大分歩けるようになったな」
「沙依兄・・・うん、もう全然平気だよ」






私は、沙依兄に話しかけられ私は笑って見せた。

普通に歩けるようになって、母さんや佳兄も喜んでくれた。






「やっほ〜元気?」
「あ、常葉さん」







すると、常葉さんが突然やって来た。
今日は・・・・病院の日じゃないのに・・・・?










「あ、佳兄ですか?上の部屋で絵描いてますけど、呼びましょうか?」
「へ?あぁー違う、違う。今日はお嬢さんをドライブにお誘いしに来たの」






私を・・・ドライブに・・・?







「今の時期、よーやくこっちも咲き頃だからいつも頑張ってるお嬢さんにご褒美」
「咲き頃?」
「あー・・・とにかく、行ってこいよ
「えっ・・・でも、佳兄のご飯・・・」
「佳兄には、俺から与えておいてやるから・・・たまには行ってこい」






沙依兄は私の手に持たれた佳兄の朝食をとり
その代わりに、コートを私に渡した。






「沙依兄・・・・。じゃ、佳兄よろしくね。・・・行きましょうか、常葉さん」
「OK〜。じゃあ、妹君借りるね〜」




そう言って、私は常葉さんの車に乗り、何処かへと連れられて行った。





























車で連れていかれ、約数時間・・・・。
今だに何処に向かっているのか、想像つきません。







「あの・・・常葉さん、何処へ?」
「ん〜もうすぐ着くから・・・・お!あった、あった」









すると、駐車場らしきところに車を止める。
常葉さんはシートベルトを外して、車から出るので
私も急いで車から出た。









「と、常葉さんっ。も〜降りるなら、降りるって・・・言って・・・・」











車から降りた瞬間、私はあまりのことで開いた口が塞がらなかった。



川辺一帯に広がる桜並木、風が吹いて花びらが舞う。









「すごいっしょ?沙依くんが教えてくれたんだ」
「沙依兄が?」






すると、常葉さんの口から沙依兄の名前が出た。






「今の時期此処の桜並木が見頃でね・・・・沙依くん、毎年1人で来てるんだって言ってたんだ」
「へぇ〜・・・でも、何で沙依兄?」
「自分で連れてこなかったかって・・・?抱えてる仕事が多いし自分で連れて行けないから、常葉さん連れてってあげてって言われたの」
「アハハ〜沙依兄らしいや」











私は笑いながら桜の花びら舞う川辺を歩く。
アメリカでも桜が見れるとは思っても見なかったが、少しラッキーと思った。





自分の足で1歩1歩、歩む。
ふと、花びらが舞い落ちる中、私は目を閉じた。

















『・・・・手塚ッ!!』














---------えっ?












私は目を開け振り返る。







そこには・・・・昔の、私と・・・・手塚。
彼の腕にしがみついて、楽しそうに笑う私。
それを見て、優しく微笑む手塚。








『あまり急ぐと、こけるぞ?』
『こけても、手塚が支えてくれるでしょ?』






私が笑って見せると、彼は優しくまた微笑んだ。
あぁ・・・あれは、1年前の私と・・・手塚だ。






約束を誓った・・・・あの季節。



”無理はしないで“と、言った時からきっと全てがダメになり始めたんだ。







『行こう、手塚。・・・あっちの方が、たくさん咲いてる!』
『あぁ、分かった』


「ダメ・・・行っちゃダメ!・・・そっちに行けば、貴女は手塚と・・・・っ」







声が・・・出ない。


どうして、止めなきゃ・・・止めないと・・・・。



















も う 二 度 と 逢 え な く な る ん だ よ 。



















ちゃん!」
「っ!?・・・・ぁ、・・・と、常葉さんっ」





ふと声をかけられて、我に返る。
辺りを見渡すと、其処はアメリカの桜並木・・・・日本じゃない。






「どうしたの、ぼーっとして?」
「常葉・・・さん」





声をかけてきた常葉さんの顔を見た。







「ちょっ・・・!汗びっしょりじゃない?どうしたの?」
「えっ・・・あぁ、ちょっと・・・日本にいた時のこと思い出して」







あの時、約束なんかしなければ・・・・あの時、動きを止めていたら・・・。







「こんな思い・・・しなくてもよかったのに・・・・」
「・・・ちゃん」






自分から別れを告げたのに、目を閉じてしまえば
姿が見えて、恋しく思えてしまう。

貴方に逢いたいと思えば思うほど・・・・こんなにも辛いものはない。



























「ただいま〜」
「お帰り、
「あ、母さん」





常葉さんに家まで送ってもらい、私は中に入る。
すると、いつも帰りの遅い母さんがそこにいた。






「どうしたの、今日は早いね」
「うん。実はね・・・母さん、しばらく日本で仕事することになってね・・・・」
「えっ?」






母さんの突然の言葉に私は戸惑った。















「久々に、叔母さんにも挨拶したいし・・・も日本に帰ってみない?」













にこやかに、微笑む母さんの顔に
私はすぐさま返答することが出来なかった。






-あかし- 〜君とんだ跡〜
(恋しくて目を閉じれば・・・・・懐かしい記憶とともに涙が溢れてきた)





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