「母さん、どういうことだよ・・・を日本に連れて行くって・・・・」




その日の夜、沙依は母さんに言い寄る。




「いいじゃない、だって日本人よ。たまには故郷に帰らなきゃ」
「俺も佳兎兄さんも日本人だ・・・。俺は、反対だよ・・・絶対に、を日本へは行かせないから」




沙依は怒りながら、自分の部屋へと戻って行った。
















沙依がリビングを出て行った後、其処は沈黙に包まれていた。





「はぁ・・・・あの子の妹ラブっぷりには負けるわ」
「母さん、ゴメン。後で俺から沙依には言っておくよ」







俺は母さんにホットコーヒーを出して、目の前に座った。





「いいのよ、佳兎。沙依が言うことは・・・母さんもよく分かるから」
「俺も、本当は反対だよ・・・。だって、これ以上・・・には苦しんでほしくない」
「そうね。でも、それであの子は幸せになれるのかしら?」
「えっ?」





母さんはにこやかに俺に笑って見せた。





「あの子は今、充分に悩んでるし、苦しんでる。今のままじゃあの子は自分を苦しめたまま
生き続けるの・・・いっその事、その想いを吹っ切るためには今あの子を日本に連れて行くのが無難なの。
それに、母さんだってもうが泣いたり、落ち込んでる姿・・・・正直見たくないわ」

「母さん・・・」







母さんは母さんなりに考えてるんだ。
俺たちはただ、漠然と”守ればいい“とばかり思っていた。
でも、それはが深く傷つくだけなのに・・・。







「でも、母さんやだけじゃ危ないから俺が付いていく」
「佳兎」
「それでいいだろ、沙依」
「え?」











すると、しまっていた扉が開く。

そこには、先ほど出て行った沙依の姿があった。








「沙依」
「母さんの考え聞いて・・・・俺、頭ごなしに反対してた。ゴメン・・・家のことはさ、気にしなくていいから。俺一人でも大丈夫だし」
「だってよ・・・・のことは、俺がずっと一緒に居るから・・・大丈夫」












俺がを守ればいいんだ。

いや、あいつの本当の想いを見届ければいいんだ。
そう思いながら、夜は更けた。





















数日して、佳兄の説得で私は日本に行くことを決め、今現在飛行機の中で暗くなった外を見ていた。





「・・・・、眠れないのか?」
「佳兄・・・うん、ちょっと。起こしたね・・・ごめん」







隣に座り、眠っていた佳兄が起きてしまい、私は謝る。







「気にするな・・・それより、少し眠れないと日本に着いた時きついぞ」
「分かってる・・・もう寝るよ」







そう言って、貰った毛布を肩まで引き上げる。
隣にいる佳兄はそんな私を見て微笑んだ。








「ねぇ、佳兄」
「ん?」
「・・・・1人じゃ、怖いからずっと側に居てね」
「あぁ、大丈夫・・・ずっとの側に居るよ。・・・・だから、ゆっくりおやすみ」
「ぅん」










佳兄は私の頭を優しく撫でてくれた。
あまりの優しさに、私はいつの間にか深い眠りについていた。
























長いフライトを終え、半年振りに日本に帰ってきた。
帰ってきて早々、私たちはアパートを借りていた叔母さんの家へと向かった。










「姉さん、佳兎くん、久しぶりね」
「お久しぶりです、ご無沙汰してます叔母さん」
「元気にしてたかしら?」
「もう元気も元気よ。・・・・あら、ちゃんお帰りなさい」
「・・・・た、ただいま・・・叔母さん」







叔母さんは、私の顔を見るなりにっこり笑ってくれたので
何故か私は少し照れくさくなってしまった。










「まだ、泊まるところとか決まってないんだったら・・・ウチに泊まっていきなさいよ。久々に色んな話、聞きたいわ」
「あら、そう?じゃあお言葉に甘えましょうかね」







そう言って、叔母さんは私たちを自分の家に招きいれた。
いそいそと荷物を持ち、中へ運んでいると・・・・・。











ちゃん」
「どうしたんです、叔母さん?」






突然、叔母さんに呼ばれたので作業をしていた手を止め、駆け寄った。







「あのね・・・・ちゃんがいた部屋ね・・・・」
「はい。・・・・ってもしかして、ゴキブリが出たとか!?」
「違うの。・・・・実は、つい最近まで、男の子が出入りしてたの」
「えっ?」







叔母さんの言葉を聞いた瞬間、私は固まった。









私の部屋に自由に出入りが出来て


あの部屋に家具が残ってることを知っていて


ましてや、それが男の子・・・・。






間違えない・・・・手塚だ。











「入居者に、あんな男の子居なかったから聞いてみたのよ・・・・そしたら、
その部屋の住人から鍵を貰ったものでって・・・ちゃん、何か知ってる?・・・・ちゃん?」








まさか・・・・まだ、私のこと・・・想ってるの・・・・?



だから、私の部屋に出入りしてるの・・・・?



私との思い出を忘れたくないから・・・他の人を好きになれないの?







やめて・・・・やめてよ・・・・。














ちゃん・・・?」
っ!・・・、しっかりしろ!!」






私のせいで、他の人を好きになれないなんて・・・・やめてよ・・・・。

























コ レ 以 上 私 ヲ 苦 シ メ ナ イ デ 。
















!!」
「!?・・・・よ、佳兄・・・・」






辺りを見ると、母さんや叔母さんは心配そうな顔をしてる。
目の前には、佳兄がいた。
ふと、力が抜けて・・・・私は佳兄の体に倒れこんだ。
























「・・・・・ぅ・・・・」
「目が覚めたか、
「佳・・・・兄・・・」









何時間眠っていたのか分からない。
だけど外を見ると、今が夜だということが窺える。













「長いフライトが体に響いたんだろ。少し疲れてるみたいだから・・・今日はゆっくり休め」
「佳兄」





私は思わず、佳兄の服のすそを掴んだ。






「ん?」
「あ・・・ご、ごめん・・・何でも、ない」
「そうか。・・・・おやすみ」
「おやすみなさい」








そう言って、佳兄は襖を閉めた。


さっき、どうして私は佳兄の服の裾を掴んだんだろう?












「きっと・・・1人になりたくなかったのかな?」












1人になれば思い出してしまうから。



だから、私は佳兄の服を掴んだんだ。




ねぇ、手塚・・・・貴方はいつまで、私を苦しめればいいの・・・?

































ちゃんに、逢いたい?」
「そう。ねぇ、いいでしょ佳兄〜」




日本に来て数日経った。
母さんの仕事も終わり、明日にはアメリカに帰るというとき、私は突然に逢いたくなった。





「明日、どーせアメリカに戻るんだったら友達には逢いたいじゃない。佳兄は逢いたくないの?」
「いや、俺あんまり日本にいい印象もってないから。正直逢わなくていい」










相変わらずの毒舌に私は苦笑した。
すると、佳兄は私の頭を撫でた。








「逢いたいなら、連絡してごらん」
「佳兄」
「ただし、その時は俺も一緒に行くからな」





佳兄の了解を得て、私は顔を綻ばせながらにメールを打った。


















♪〜♪♪〜♪〜・・・・・











「誰かな?」
「どうしたの、 ちゃん?」
「・・・・・秀一郎くん・・・手塚くんに連絡して・・・・」
「えっ?」
が・・・・が日本に帰ってきてる・・・!!」
「何だって・・・!?」




























「ハァ・・・ハァ・・・・ハァ・・・・」








大石から電話を貰って、俺は急いで足を動かした。








「もしもし・・・?」
『手塚・・・急げ!』






最初は何のことだから分からずにいた。





が・・・日本に帰ってきてる!!連れ戻すなら今しかない!!場所は・・・・』








が・・・日本に戻ってきてる。






連れ戻すのは、コレが最初で最後のチャンスかもしれない。






もし、コレがダメだったら・・・すべてを諦めるしか・・・もう道がない。









諦められるのか・・・?







いや、出来る訳がない・・・・を忘れるなんて・・・・。















『場所は・・・の家の桜並木・・・アイツは其処に居る』















--------ザッ・・・。















忘れることなんて・・・出来やしない。









「・・・・
「・・・て、づか・・・」



















- ま だ お 前 を 
愛 し て る ん だ か ら -



























聞き覚えのある声に振り返ると・・・其処には、手塚が居た。




どうして・・・・どうして・・・アイツがここに?




考えたいのに・・・頭が働かない・・・体が震えて、動かない。











・・・っ・・・・」








来ないで・・・来ないで・・・・!!












----バキッ!!・・・ドサッ

















鈍い音と共に、私の目の前に佳兄の姿があった。







「・・・・よ・・・し・・・に・・・」
「痛ぇ〜・・・。人を殴るなんて、何年ぶりだろうな。・・・なぁ、少年・・・俺は平和主義者だから此処で止めるが、本当はもう一発殴ってるんだぞ。」








あまりの光景に、私は固まって動かなくなっていた。
目の前には、佳兄に殴られ尻餅をついている手塚の姿・・・・。








「行くぞ、。お前はちゃんに逢いに来たんだろ・・・彼に逢いに来たわけじゃない」







ふいに、佳兄に手を握られた。
でも・・・・でも・・・・・。







「でも、佳兄・・・手塚が・・・っ」
!!」
「!?」







突然大きな声で佳兄が私の名前を呼んだので、私は驚いた。









「よく考えろ・・・・お前はいつまで引きずってるんだ?」
「えっ?」
「今、此処で彼との思いを引きずったままじゃ・・・お前は前にも進めない。
決めるんだ・・・彼と同じ、この日本に住むか・・・それとも、彼から離れて暮らすか」









日本に残るか・・・・。




アメリカで暮らすか・・・・。











私は横目で手塚を見る・・・・彼はじっと私を見ている。


とても、悲しそうな眼差しで・・・私を見ている。















そんな瞳で見ないで・・・・そんな瞳をしないで・・・・。


もう、これ以上・・・私のせいで苦しんでる表情(カオ)しないで・・・・。
















「佳兄、帰ろう・・・・母さんと、叔母さんが心配するから・・・・」
・・・」







私は佳兄の腕を引っ張り、叔母さんの家に帰ろうとした。










「待ってくれ、・・・!」







すると、手塚が私の名前を呼んだ。
あまりのことで私は一瞬ドキッとする。







「待ってくれ・・・俺の話を・・・」
「貴方と話すことなんてないわ。もう・・・忘れて・・・・私のことなんか」
「忘れる・・・?俺には出来ない!お前を忘れることなんて」
「出来るよ!!」









私は彼に背を向けたまま、大きな声をあげた。

隣に居る佳兄は驚いた顔をしている。きっと、手塚も、同じ顔・・・してるんだろうな。









「出来るよ・・・忘れれるよ・・・・私のことなんて・・・・」

「出来ない!俺は・・・・を忘れるなんて・・・・」

「うぅん、出来るんだよ・・・・もう、私は・・・忘れてる」

「・・・・







お願い・・・忘れて・・・・。






「嘘・・・だ」





嘘に決まってるじゃない・・・これ以上、私のせいで苦しまないで。






「本当よ。アメリカに居れば、日本に居たことも忘れてた・・・手塚・・・貴方のことも・・・・」

「!?・・・






私のせいで、他の人を好きになれない貴方にはこの言葉で。





私から離れて・・・・。







これ以上、近付いちゃダメ。







「だから、貴方も忘れて・・・私が出来て、貴方にできないことはないの」








精一杯の嘘をついた。



これで・・・本当にさよなら。










「さよなら、手塚・・・・貴方に逢えて・・・本当に良かった」











そう言って私は佳兄と共に家に戻った。



彼は追ってこない。

もうダメだと確信したんだ・・・だって、手塚頭いいもん。








「・・・・
「っ・・・うっ・・・・」








涙が溢れてきた。

拭っても、溢れてくる。



すると、佳兄が私を引き寄せ頭を優しく撫でた。









・・・よく頑張ったな」
「うっ・・・ふぅ・・・うぅ・・・・」











ごめん、ごめんね手塚。



こんな嘘ついて・・・貴方を引き離して・・・・。



でも、こうするしかなかったの・・・・こうでもしなきゃ、貴方を不幸にしてしまうだけ。




本当は、まだ私も貴方を愛してる。







愛してるよ・・・だから、心の中で貴方を想わせて。




貴方が別の人を好きになって、愛しても。





心の中で・・・私に貴方を・・・・愛させて・・・・。















「・・・・さよなら・・・・手塚・・・・」















さよなら、愛しい人。




もう、これで永遠の別離(わかれ)。




さよなら・・・さよなら・・・・







私の愛した記憶と・・・・貴方・・・・。






-あかし- 〜君とんだ跡〜
(さようなら、さようなら・・・私の愛した記憶と貴方・・・これで永遠の別離だよ)

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