あれから時間が進んでいって
アメリカでの生活が慣れてしまった。
私は向こうの大学に入学しようと考えていた。
でも、私がその決断をしたのは
日本で言う大学2年生の頃の時期にあたる。
とりあえず大学の説明会に参加した帰り、門をくぐり
家に帰ろうとしていた。
「・・・おい」
「はい?」
すると、突然日本語で呼び止められた。
ここ数年、家族以外とは日本語の会話をしたことがなかったので
私は他人と、日本語で話すが久々だった。
呼び止められ、振り返ると其処には―――。
「?・・・どちら様ですか?」
「お前・・・・確か、関東大会で」
「は?」
すると、突然脳裏に・・・中学時代のことが蘇る。
関東大会・・・関東大会って・・・・・・――――。
「氷帝学園の跡、部?」
「お前・・・確か、手塚の女だろ」
そう、目の前にいるのは
中学時代手塚と死闘を繰り広げた、氷帝学園の跡部が其処にいた。
向こうは笑いながら私を見ているが
私はというと――――。
「もう、私は手塚の女じゃないわよ」
「あ〜ん?どういうことだ?」
「お坊ちゃんがそんなのも分からないの?・・・私が此処にいるってことはどういうことか把握しなさいよ」
「・・・・・・」
すると、跡部は何かを考え込んで私に向かって笑う。
「別れたのか、お前等」
「私が一方的に振っただけ。アメリカに来るときにそんな感情まで持ってきたら邪魔になるの」
「へぇ、あの時はあんだけ泣きついてたヤツがな」
「うっさい」
あの時は、あの時は
手塚が勝手に私との約束を破ったのがいけない。
そもそも、あんな約束さえしなければ・・・・・・。
「お前、こっちの大学に行くのか?」
「へ?」
すると、突然目の前の跡部が私にそう問いかけてきた。
「決めてない。ていうか、何で?」
「いや。もし、お前が日本に戻ってくるなら氷帝の大学部にでもと思ったんだがな」
「ていうか、何で日本に戻ってくる前提なのよ。まだ決めてないって言ってるじゃない」
「決めたら連絡入れろ。俺様はしばらくこっちに滞在してるからな・・・ホラよ」
そう言って跡部は私に、小さな紙切れを渡していった。
本当にお金持ちってどうしてこんなに自分勝手なのかしら?
私がそれを開いてみると、彼の番号とアドレスが書いてあった。
何がしたいんだか。
とにかく私は家に戻るべく、紙切れを
大学側から貰ったクリアファイルの中に入れ、自宅へと戻った。
「日本で仕事?」
「そう!向こうで仕事任されちゃってよ」
夕食時、母さんは仕事で帰ってきていないので
佳兎兄と沙依兄と3人で、夕食をとっているとき
沙依兄がそんなことを言ってきた。
「戻るのか、向こうに?」
「戻るって言うか、3ヶ月仕事任されただけ。それ終わったらこっち帰ってくるし」
「大変だね、ウエディングプランナーも」
「だろ?俺、何でこの仕事してるんだろ?」
「好きだからしてるんだろ。そうだ、」
「何?」
すると佳兎兄が私を呼ぶ。
私はすぐさま返事をした。
「お前、大学決まったか?」
「え?・・・うーん、それがまだ」
「そうか。一度お前、日本に戻れ」
「は?」
突然佳兎兄はそんな言葉を投げてきた。
あまりに突然すぎて、返す言葉が見つからない。
「佳兎お兄様、何故に?」
「日本の大学に3ヶ月通ってみて、こっちの大学と比べてから決めればいい。その方がいいだろ?
無理してアメリカの大学に編入しなくていいから」
「それいい考え!なぁどうだ?俺と日本に戻るか?」
沙依兄は目を若干潤ませながら、私に言い寄る。
この人の場合、誰かが付いていってあげなければ確実に私生活が大変なことになる。
自分でもその性格は承知しているのだろう。
「じゃあ、3ヶ月だけ」
「よし!決まり!!じゃあ、日本の大学・・・どこがいいんだ?」
「此処は青大だろ」
「え?」
青大。
つまり、青春学園大学のこと。
「青学に居たんだ・・・以前在籍してたのなら、ちょっと書類書くだけで入れてくれるだろ」
「うんうん。よし、じゃあ青大で3ヶ月体験入学・・・OK?・・・・・・?」
沙依兄の声で私はハッとする。
「え?」
「青大でいいか?それとも他の大学にいくか?」
佳兎兄が私に問いかける。
確かに、青大・・・いいかもしれない。
以前中等部に在籍してたし、他の大学に
体験入学するよりも、そっちのほうがいいかもしれない。
だけど、気がかりなのは――――手塚のこと。
もし、もし青大に手塚が居たら?
手塚がいたらどうしよう・・・と私は考えてしまった。
だが、もう大学生。
それに手塚は頭がいい、他の大学に入学してもおかしくない。
青大にはきっと居ない。
「青大でいいよ。その方が兄さん達に迷惑かけなくていいしね」
私は笑って、二人に答えた。
「悪いな。大学決めるのお前なのに」
「いいって!学費出してもらって文句は言えないよ」
「お前、良い子に育ったな」
「沙依兄が脇道逸れ過ぎたから、私がうまく修正してるだけ」
「ヒドッ!」
大丈夫、大丈夫だよね。
きっと、手塚は居ない。
もう私のこと、きっと忘れてる。
新しい人、好きになってるはずだから。
『俺だ』
「あぁ、跡部・・・だったけ?」
『何だお前か。確かとか言ったか?』
夜、自分の部屋で
昼間出くわした跡部に私は電話を入れた。
「アンタ、氷帝の大学に行くの?」
『正確には行ってるだ。何だ、お前も氷帝の大学に来るか?』
「いや、私青大にしばらく体験入学することになったから。日本の大学とアメリカの大学で比べて
それで決めていいって家族が言ってくれた」
『ほぉ、青大にか』
「何よ?」
電話元の跡部は意味深な言葉を投げかけてきた。
『お前、それで手塚が青大に居たらどうするんだ?』
「馬鹿ね。手塚は頭がいいのよ、青大に居るわけないって」
『薄っぺらい根拠だな。まぁいいさ・・・それで青大に飽きたら氷帝の大学に来い。それとも
俺がお前の新しい恋人とかになってやろうか?』
「人を二度と好きになりたくないから、お断りさせていただきます」
もう、誰も好きになりたくない。
あんな辛い思い、したくない。
誰かを好きになったら、きっと離れなきゃいけない。
そんな気持ちになるくらいなら
好きにならないほうがいい。
『まぁ、いい。気が向いたらまた連絡寄越せ、話し相手くらいにはなってやるよ』
「へぇ、案外優しいんだ」
『俺様をなんだと思ってんだ』
「俺様自己中?違う?」
『ったく。俺もヘンなのに引っかかったな。まぁ楽しめそうだ・・・じゃあな』
「うん」
そう言って、私は通話を切断した。
きっと、あの人はいない。
私は、あの人の隣にいない。
そう、それで・・・・・・よかったんだよね。
「よかったんだよね、手塚。コレで、よかったんだよね」
そう言って、アメリカの空を見た。
星が見えるか分からない空を見上げた。
日本の空は、晴れてますか?
日本の空は、星が見えてますか?
日本の――――。
アナタの隣に私はまだ居ますか?
証-あかし- 〜君と歩んだ軌跡〜
(最後の別れから時が過ぎて、私の目に貴方の姿が映らなくなりました)