それからしばらくして、私は沙依兄と共に日本に戻ってきた。
沙依兄の友達が
マンションの一室を貸してくれ、私と沙依兄は其処に
3ヶ月住む事になった。
「では、こちらの書類に記入して郵送していただけましたら、再度ご連絡いたします」
「分かりました。ありがとうございます」
アメリカから持ってきた荷物も
まともに解かないまま、青春学園大学に
体験入学の手続きを私と沙依兄は行った。
学園側には佳兎兄の知り合いが居たらしく
その人に話を通してもらったらしい。
「日本は嫌いだ」という佳兎兄だが友達は何だかんだで居るらしい。
学園側から書類を受け取り
私と沙依兄は会議室みたいな部屋を出て、校門に向かい歩く。
「あ、やべぇ」
「どうしたの、沙依兄?」
すると、叔母さんの息子さんから借りて乗ってきたバイクのキーを振り回しながら
沙依兄が何やら思い出したような声を出した。
「ゴメン、。お前先帰っててくんね?・・・俺、今から仕事行かなきゃ。あ、ていうかバイク、二ケツ(二人乗り)してきたんだよなぁ〜」
「いいよ。他の土地じゃないんだから・・・マンションまで帰れる」
「マジで?ほっつんとゴメン!!!歩かせて悪い!」
「もう大丈夫だって。それにこれも”リハビリ“みたいなものだから」
私はにっこりと沙依兄に笑ってみせた。
沙依兄は「マジでゴメンな!」と言いながら
ヘルメットを被って、バイクに跨る。
「なるべく早く帰ってくるな。飯は・・・・」
「私作っておく。遅くなりそうだったらまた電話して、先食べとくから」
「おう。でもお兄ちゃんはお前のために早く帰ってくるぞ!じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
そう言って沙依兄は、アクセルを思いっきり捻り
すごい速さで学園の門をバイクで抜けていった。
私はため息を零し、家路に向かおうとした。
「あれ??」
「え?」
すると、声を掛けられ
私は足を止めた。振り返ると、其処には―――。
「?」
「やっぱりだ!!うわぁ〜超懐かしい〜!!え、何なにこっちに帰って来たの?」
腐れ縁の長谷部だった。
中学時代と全然性格は変わってない。
最後に会ったのは、そうか・・・中学か。
高校生のとき、会おうとしたら結局会わずに私はアメリカに戻ったのだから。
「うん。と、言っても3ヶ月こっちに居るだけ」
「え?何で?・・・あ、此処で立ち話もなんだしテラス行こう!せっかくの再会、奢ってあげる」
「うん、ありがとう」
そう言っては
私の手を引っ張り、学内のカフェテラスへと連れて行くのだった。
「それにしても、懐かしい〜。向こうはどう?元気にしてた?」
テラスでジュースを飲みながら、私とは久々の会話をしていた。
メールや電話では何度か話していたが、国際電話になるとお金がかかるので
あまり頻繁には行っていなかった。
それに、私もリハビリや通院でほぼ病院と家の往復。
時々アメリカの学校に向かうという生活をしていた。
「うん。向こうは兄貴達や母さんも居るしね」
「そっか。手術後どうだったの?秀一郎君からは手術成功したって聞いたけど」
の口から、幼馴染の大石秀一郎の名前が出てきた。
そういえば、手術が成功したという電話をして以降連絡を途絶えさせた。
だが、その秀一郎と目の前のは付き合っている。
いつから付き合っているのか知らないが、まったくそれが一番の驚きだった。
「この通り、歩けますよ〜」
「そっか、じゃあ」
「でもね」
「もう走れないの、私」
「え?」
私の言葉に、嬉しい表情を浮かべていたの顔が
一瞬にして固まった。
私はゆっくりと言葉を放った。
「手術は成功した。歩くことは出来るようになった、だけど・・・・・・もう、走れない」
「走れないって」
「正確には、限界が近いの。走っても、すぐ痛みが出てきて・・・全力疾走も、もう出来ない」
手術は成功した。
その後のリハビリも頑張った。
だけど、私の足はもう走ることをしない。
走ってしまえば、痛みが出てきてしまい倒れる。
もう何度、何度同じことをしても
精一杯走っても、結果は同じだった。
「もう、私の足はね・・・・・走れないんだ。走ることに疲れちゃったみたい」
「」
「それでもいいの。歩ければ、歩ければ・・・・・・それでいいの」
この足で、地を踏んで足を進めて・・・歩ければ
走れなくたって・・・生きていける。
歩けないよりか、ずっとマシ。
「辛いこと聞いちゃったね、ゴメン」
「いいって。話さなかった私が悪いんだし、気にしないで」
「うん。あ、学校いつから来るの?明日?」
「今日、書類書いて郵送する。近いうちに学校には来るよ」
「そっか!何でも聞いて!私案内するし、が受けてみたいって言う授業、一緒に出てあげる」
「ありがとう、」
つくづく私はいい友達を持った。
離れても、友達は友達だ。
彼との関係も”友達“というラインで終わっていればよかったのに。
ふと、そんなことを私は思ってしまった。
「大石、ホラ・・・ちゃんじゃない?」
「え?」
ちゃんに会いに来たのだが
不二とばったり会って歩きながら
テラスの横を通っていると、彼が何かに気づいた。
俺がその方向を見ると、確かにちゃんが居た。
でも、目の前に誰か座っている。
彼女が親しげに話す子はたくさん居る、だけど・・・あんなに嬉しそうな顔は見た事なかった。
「もしかして・・・目の前に座ってるの、ちゃんじゃ?」
「え?」
不二の言葉に、俺は再び二人を見る。
そしてちゃんの目の前に座る子を目を凝らして見る。
見覚えのある、笑った表情や仕草・・・・・忘れるわけない、アレは―――。
「だ。アイツ・・・こっちに戻ってきたのか?」
「分からないけど、此処に居るって事はそうじゃないの?」
「俺、ちょっと知らせて」
「待って、大石」
俺が体を動かそうとすると、不二が肩を掴んで動きを止めた。
「もう、いいよ」
「だけどっ!」
「ちゃん、あんな楽しそうに笑ってるじゃない。僕たちがどうしたって、もうダメなんだよ」
「・・・・・・」
不二の言葉で、俺は動こうとした体が止まった。
本当に、ムリなのか?
お前と、アイツが元に戻ることは。
「ねぇ、この授業どう?」
「あ、面白そう。・・・ちょっと待って」
と授業のことで話していると
私はポケットにしまった携帯がバイブで私に何かを知らせている。
電話だ。
会話を一旦中断して、携帯に出る。
「もしもし?」
『日本に戻ってきたんなら連絡くらい寄越せ』
「アンタねぇ」
電話の主は、アメリカで偶然出会った跡部だった。
アレ以降、私と跡部はちょくちょく連絡を取るようになった。
でも本気で付き合うとかそういうのはしていない。
”ただのお友達“。
本当に、跡部とはそういう関係だ。
「何で戻ってきていちいちアンタに連絡しなきゃいけないのよ」
『帰国祝いと引っ越し祝いに何か奢ってやるって言ってんのに。テメェは俺様の好意を無駄にする気か?』
「それならそうと、はっきり言えばいいじゃん。ていうか私だってドタバタしてこっちに戻ってきたんだから」
『だがな、連絡くらい寄越せって言ってんだよ。それにもう少し連絡したらこっちで色々手配してやったのに』
グダグダと跡部は愚痴を吐き始めた。
まったく自分の都合通りに行かないとすぐグチグチ言い始めるんだから
成人してんだからいい加減それ直せって言ってやりたい気分だ。
私は席の近くでウロウロしながら、跡部と会話を続ける。
『とにかく戻ってきてんだな』
「えーそうですが」
『お前、今青大に居るんだろ?そっちに迎えに行く、一緒に飯食うぞ』
「横暴。今日はマンション帰って、夕飯の準備しなきゃいけないんだから・・・それに」
突然、私は言葉が止まった。
いや、正確には何も言葉が出なくなった。
『おい。おい、どうした?・・・!・・・』
電話先の跡部の声が聞こえないほど、私は固まってしまったのだ。
携帯を握る手が徐々に緩んでいく。
「なん、で」
「、なのか?」
目の前に、手塚が居た。
その事実を目の当たりにしただけで
私は目の前が真っ暗になりそうだった。
証-あかし- 〜君と歩んだ軌跡〜
(居ないと思っていたのに、アナタは其処にやっぱり居たんだね)