何なん、この気持ち。


目の前に幸村くんが居って・・・その隣に
幸村くんと親しくする、女の子が居って・・・。






「精市さん、探したよ。此処に居たの?」


「ゴメンゴメン。朝水やりとか雑草抜くの忘れててね」







「精市さん」とか仲のえぇ呼び方してるやん。



先輩でもないし、完璧同い年に見えるけど・・・・・幸村くんに妹さん居るって
話は柳くんから聞いた事あんねんけど

年は離れてるって・・・聞いた。



目の前の女の子が妹とか・・・ありえへん。


あからさまに、あの子は・・・――――。









「あのね、話があるんだけど」


「え?・・・あぁ・・・えーっと・・・」





目の前の女の子が「話ある」って言うて幸村くんに尋ねる。
すると幸村くんは戸惑いながらの目線で私を見る。


アカン・・・私、お邪魔虫やんな。








、話はまたこん」



「大事な話やろ?私、もうクラス戻るわ!」



「え?・・・さん・・・あのっ」



「ほ、ほな!またな、幸村くん!!」







私はそう言うて、その場からそそくさと立ち去った。


何で?


何でこんなに胸痛いん?




幸村くんと仲えぇ女の子って、クラスやったら
いっぱい居るのとちゃうん?


それやのに・・・何で、こんなに胸が痛いんやろ?





走って、走って・・・胸の痛みを堪えるように走って・・・。






幸村くんと、あの女の子の姿を
一生懸命頭から消そうと努力してるんやけど

















なかなか、消えてくれへん。







私と喋るときと違う、幸村くんの表情。


幸村くん・・・あんな顔もするんやな、なんて思てたけど
それが何だが・・・もどかしい。


違う誰かを見とるみたいで・・・息が苦しい。



同じ人なんに・・・・違う人に見えて・・・。











「もう・・・・・・何やねん」









この、モヤモヤとした気持ちをどうすればえぇんか。


この、胸を突き刺さる痛みをどうすればえぇんか。


この、この・・・―――――。














今にも溢れ出そうな、涙の粒をどうすればえぇんか。














「どないせぇっちゅうねん・・・ホンマに・・・っ」












色んな気持ちに堪えきれず、私は泣いた。


こない泣いたのは、いつ振りや?
もう思い出したくもない・・・あの苦々しい、失恋したときや。


1年間、片想いしてた彼に・・・振られたあの日以来の、涙やった。






目から零れた涙が、口に入って来た瞬間・・・めっちゃしょっぱい味がした。





あの日と、同じ味。


でも、同じ味やけど・・・・・・今が一番しょっぱく感じるわ。




あの日と同じような涙流してんのに・・・何で、今一番・・・しょっぱいんやろ?
























・・・どうしたの?」


「冴子姉ちゃん」




夜。

下宿の主人(ちゅうか、ルームシェアな状態)で従姉の冴子姉ちゃんが
仕事から帰ってきて早々、私の顔を見て開口一番で言い放った。

キッチンに立って、夕飯を作る私の隣に冴子姉ちゃんが立つ。






「目ぇ真っ赤だよ?どうかしたの?」


「何でもない」


「何でもないわけないでしょ?そんなに目腫らして、立海でイジメにでも遭ったの?」


「そんなんやないって!・・・そんなんと、ちゃうわ」







冴子姉ちゃんは今は社会人やけど、前は立海大に居って
その前は立海大付属高校、もっと前は立海大付属中学と言った・・・立海の卒業生。

私が立海を受ける時も、冴子姉ちゃんは学校まで案内と送り迎えしてくれて
学校受かってからもお下がりで私に制服くれたり、お部屋も一緒に使おうとか言うてくれたり
色々よくしてもろてる。



それに女同士やからっちゅうので・・・話しやすいこともある。







「違うって言い切れるの、?アンタ、魚焦がしてるわよ」



「うわぁぁ!?あぁ、ご、ゴメン姉ちゃん!!」





姉ちゃんの言葉に、私は慌ててガスを落とした。
せやけどフライパンに乗せてた生魚は見事に丸焦げご臨終状態。


アカン・・・完全に、見抜かれてしもた。


冴子姉ちゃんはため息を零しながら、フライパンを持ちあげ
すぐさま水をかけて、丸焦げになった魚をフライパンから剥ぎ落とす。


私は姉ちゃんの後ろで、小さくなった。





「姉ちゃん・・・ごめんなさい」


「まぁ、いいけどさ。学校生活慣れないの?楽しくないの?」


「いや、あの・・・そんなんと、ちゃうねんけど」


「じゃあどうしたの?目ぇ真っ赤にさせるほどの事情って言ったら、何かあったとしか思わないわよ
私にも話づらいことなの?」





冴子姉ちゃんはフライパンをしばらく水に浸し
私のほうを見る。その表情は心配してる顔やった。


あんまり姉ちゃん心配させたら・・・アカンよな。


私はゆっくり口を開いた。







「友達に・・・」


「うん」


「彼女が居って」


「うん」


「ちゅうか、彼女かどうか分からんのやけど・・・彼女っぽい感じの子で。
私の友達・・・・・・その子と何やえらいいい感じで話とるから・・・何や、胸が・・・痛いっちゅうか、モヤモヤしてて」



「ちょっと待って」





ふと、冴子姉ちゃんが私の話を中断させた。






の友達ってさ・・・」



「うん」



「女の子じゃないの?」



「うぅん、男の子や。入学式ん時に仲良ぉなって・・・立海の中学に居ったから、色々教えてもらったりしてんねん」



「・・・で、その男友達に彼女らしい子が居る、と?」





姉ちゃんの言葉に、私は頷いた。





は、その男の子とは・・・友達、なんだよね?」



「せや。友達やで」



「で、その男の子には彼女らしい子が居る?」



「うん。彼女っちゅう感じやないけど・・・彼女っぽい感じ?名前で呼んでたし」



「親族じゃないのよね?」



「妹居るって聞いたけど、年離れてるって。私と同い年の子やったで、女の子」







私の言葉に、冴子姉ちゃんが考え込み・・・ふと、私を見て、笑みを浮かべる。

え?何?・・・・その何や、不敵な笑みは?

怖いで、冴子姉ちゃん。








「なるほど、そういうことか」



「え?どういうこと?」




瞬間、冴子姉ちゃんが指を差し―――――。





「ずばり!」



























は、ヤキモチ妬いてるでしょう!!」




「ヤ、ヤキモチ!?えぇ〜ウソや〜ん」







冴子姉ちゃんの言葉に、私は笑いながら否定した。


ありえへん、ありえへん。

私が?ヤキモチ?・・・幸村くんに?



そんなん、絶対にありえへんわ。







「姉ちゃん、そらぁないわ。友達やで?」



「友達でも、そういう感情あってもおかしくないんじゃない?」



「でもまだ出逢ってちょこっとしか経ってへんねんで?それやっちゅうのに・・・ヤキモチ、ありえへん」



「どうかしらね」






私の否定の言葉に、冴子姉ちゃんは笑みを浮かべとった。




幸村くんにヤキモチなんて・・・冗談きっついわ。



冗談・・・ホンマに、冗談やでそんなん。





幸村くんとは「えぇ友達」なんやねん。

友達感情でのヤキモチなんてありえる話やけど・・・・心のどっかで
「何かちゃうような気ぃすんねんけど」とか、声が聞こえてきよった。



友達感情のヤキモチや、こんなん。



ちょっと、幸村くん・・・綺麗な顔しとるし
女の子にモテてもおかしないわ。


幸村くんを「精市さん」って呼ぶなんて・・・他にもきっと居る・・・居るであの学校には。





そう、心の中で肯定付けたけど

ホンマは・・・「もし居ったら?」っちゅう複雑な気持ちが入り混じっとった。























『で、あるからして・・・・和歌集にも様々な様式があって、中でも日本古来の和歌集は・・・』





次の日の古典の授業中。
私は窓の外をふっと見続けとった。



昨日の今日で、私の頭の中はからっぽやった。

何も考えたないし・・・幸村くんにも合わせる顔ない。



未だに複雑な気持ちが入り混じってて・・・自分の心の中どう、整理したらえぇんか分からん。








・・・どうした?」



「え?」




すると、隣に座る柳くんが声をかけてきよった。
私はふと我に返り、彼を見る。






「”心此処にあらず“だぞ」



「何や、えらい今日ボーっとすんねん。あ、熱とちゃうから気にせんといて」



「そうか。しかし、物思いにふけって授業を疎かにしていたら、先生から注意されるからな気をつけろ」



「ご忠告おおきに。気ぃつけるわ」






そう言うて、私はノートと睨めっこ。

担当教師の声を聴きながら、ノートの上、ペンを走らせた。



教科書と一緒に開いた、古典の資料集。


ふと、目に止まる・・・見覚えのある花。








「(なんや、ナンバンギセルやんか。昔からこの花あったんやな)」







資料集の写真に映る、ナンバンギセルという花。

昔、南蛮人が使こてた煙管(キセル)の形に喩(たと)えられたっちゅう言われて
この花の名前が付いた。





私は、写真に映るナンバンギセルの花をペンでなぞる。







「(物思いにふける・・・・・・か。別に、そんなんと・・・ちゃうんやけどな)」






先ほどの柳くんの言葉に、私は自分の中でその言葉を打ち消した。

物思いにふけってはおらん。


ただ、考えてただけや。





これから、どう・・・幸村くんと、顔あわせたらえぇんか・・・とか。



もし、あの彼女らしき女の子がまた現れたら、私どうしたらえぇんやろ・・・とか。



幸村くんが・・・・あの子と、喋らんと、私とどうしたらもっと喋ってくれるやろうか・・・とか。





色々考えてたら・・・・ノートの上を走ってたペンが止まり、再び窓の外を見る。





空はこんなにも青々としとって綺麗なんやけど


私の心の中は何や全然晴れんし、モヤモヤした気持ちの煙だらけ。






まるで、ナンバンギセルから吐き出された不安の煙が充満したみたいに
私の心を曇らせ、モヤモヤとした気持ちを募らせとった。




この煙、どないしたら・・・・・・晴れるんやろか?








不安吐き出すナンバンギセル
(花言葉は物思い。思えば思うほど、不安が募り心が曇る)


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