「おい、お前」
「え?跡部、くん?」
「お前―――――」
「今日から俺様の召使いになれ。俺様の言葉には絶対に従え、いいな!」
「え?・・・・・えぇぇ?!」
挨拶から、何故こうなったのでしょうか・・・神様?
「最近、結城くんウチにご飯食べに来ないわね」
「え?・・・う、うん。そう、だね」
ある日の夜。
お母さんとそんな話をしていた。
私の家の近くに住んでいる結城さんはウチによくご飯を食べに来る。
結城さんのご両親は共働きで、帰ってくるのが遅い。
ちなみに私にはお父さんが居ない。
そう、母子家庭。お母さんとお父さんは私が小さい頃に別れたと、お母さんから聞いた。
お母さんが帰りが遅い時は、よく結城さんが私の家に来て
一緒にご飯を食べたりするのだが
最近結城さんがウチに来る事が減ってしまった。
今日はたまたまお母さんが早く帰ってきたから、2人でご飯を食べているが
いつもは・・・此処に結城さんが居るはずなのに。
「まぁ結城くんは、受験生だからね・・・お勉強で忙しいのかしら?」
「そ、そうかもね」
「あら?でも氷帝だから、高校にそのまま上がってもいいはずよね?、結城くんから
何か聞いてない?外部受験するとか?」
「う、うぅん・・・・聞いてないよ。今度聞いてみるね」
「結城くんが外部を受験するなら、また追っかけたりしちゃだめよ?結城くんの迷惑になるかもしれないんだから」
「ひょ、氷帝にいるから私は今度は追っかけたりしないもん」
私は何とか、お母さんにそう言ってこの話を終えた。
お母さんは結城さんが受験生で、受験勉強に追われていると勘違いしてくれているようだけど
結城さんが来ない理由を私は知っている。
それは、数日前のこと・・・・アレは、いつだったのだろうか?
酷く結城さんが落ち込んでいた、あの日。
『結城、さん?』
『か』
『あの、今日・・・晩御飯、どうします?ご両親、遅いんだったらウチに来てご飯を』
『悪い。しばらく、俺に構わないでくれ』
『え?』
『受験勉強とかもあるから、しばらくお前の家に行く事ないから悪い』
『結城さん・・・あの、何かあったんですか?』
『別に。・・・・・・すまない、しばらく俺に話しかけないでくれ』
『結城さん!』
そう言って、結城さんは私を避けるようになった。
「私、何か結城さんに失礼な事したかな?」って思ってしまったけど
思い当たる節がまったく見つからない。
じゃあ、どうして結城さんそんなこと言ったんだろう?って思ってしまった。
何かあったとしか思えないけど・・・理由を聞きたいのに
肝心の結城さんが私の声に耳を傾けてくれない。
今まで、こんなことなかったのに・・・小学校の時も、こんなことなかったのに。
突然の結城さんの態度の変わりように
自分自身、どうすればいいのかよく・・・分からないままで居た。
朝、クラスに行くとやっぱり隣に跡部くんが居る。
「跡部くん、おはよう」
私はそして、相変わらず彼に挨拶をする。
でも彼から「おはよう」等と返事が返ってくることはなかった。
多分、ビックリして返す言葉が見つからないのかもしれない。
それか「コイツおかしなヤツだな」って思われてて、それで彼が挨拶を返してくれないのかもしれない。
「(まぁ、何にせよ・・・別に、いいんだけど)」
必ずしも返ってくるなんて、そんなの浅はかな願いにしか過ぎない。
いちいち、私なんかの挨拶を返してくれるほど
跡部くんは暇じゃないし、挨拶が返ってこないのなら、それは仕方のないこと。
私が勝手にしている事だし、返事が返ってこないのは・・・・当たり前か。
朝、ただ彼に挨拶をして・・・それ以降の会話は一切ない。
ただでさえ、彼はきっと忙しいに違いない。
私が話しかけたりなんかしたら、余計疲れるに決まってる。
だから、ただ・・・挨拶だけを済ませて、それっきり。
本当は、もっと、お喋りしたいのに・・・・・・やっぱり、何処か彼に遠慮してしまう。
同い年なんだけどなぁ。
「(話す事とか・・・あれば、いいんだけど)」
跡部くんみたいな人に、普通の話を振ったとしても・・・何か、分からないとか言われて返ってきて
会話が終了してそう・・・・・・だめだ、意味がない。
色々と必死に考えるものの・・・やっぱり見つからないから・・・自分自身、苦戦をしていた。
そして、跡部くんのことと並行して悩んでいたのが・・・・・・結城さんのこと。
『しばらく、俺に話しかけないでくれ』
アレを言われて以来、私は結城さんと喋った記憶がない。
というか、結城さんが「話しかけないでくれ」っていうオーラをかもし出していた。
だから、私はなるべくそんな結城さんに話しかけるのをやめた。
いつも隣に結城さんが居たけど・・・・・・今は、何だか寂しい。
やっぱり、私・・・何かしたのかなぁ。と、思ってはみるものの
理由を今現在本人に聴く事もできないからどうしようもなかった。
クラスメイトの事と憧れの人の事。
どうすれば、このもどかしい気持ちが無くなるのか・・・もう、私は考えることすら、やめたい気持ちでいっぱいだった。
そんなある日の夜のこと。
私は一人家に居た。
今日はお母さんが帰ってくるのが遅いから、先にご飯を食べて
寝ようと考えていた。
---------------PRRRRRRR・・・!!!!
すると突然、電話が鳴った。
私はすぐさま受話器を上げ、電話に出る。
「もしもし、です」
『・・・・・・、か』
「結城さん」
電話の先の声は、結城さんだった。
あまりに突然の声に私の心臓が高鳴っていた。
受話器を握る手に力が入る。
「あの・・・・何ですか?」
『・・・・・・悪かった』
「え?」
電話から聞こえてきた結城さんの言葉は、謝罪の言葉だった。
『俺1人で、何ていうか・・・腹立ってて・・・。は別に悪くないんだけどさ
あの時は・・・ゴメン。俺、イライラしてて・・・・イライラした気持ち、お前にぶつけて・・・ホント、ゴメン』
「結城、さん」
『もう、俺・・・・怒ってないし、イライラしてないからさ・・・・・・その・・・・・・あの・・・・』
「結城さんが・・・・怒ってないのなら、いいです」
『』
電話先の結城さんの声に
私はすぐさまその人の声を塞ぐように優しく言った。
「人間、そういう時もありますから。気にしないでください」
『。・・・・・・・ホント、ゴメンな』
「私なら大丈夫ですよ」
あえて理由は聞かないでおこう。
だって、結城さんがいつもどおり私に話しかけてくれさえすれば・・・それでいい。
優しい結城さんの声聞いたら・・・理由なんて、聞かなくてもいいや。
「結城さん、ご飯食べました?」
『あ・・・いや、まだだけど。親父とおふくろ遅いから』
「じゃあ一緒に食べませんか?お母さん、今日遅いんで」
『お。じゃあすぐ行く』
「はい。玄関開けてるんで、勝手に入ってきてください」
『無用心だな。ちゃんと鍵くらい閉めとけよ』
「結城さんがいつでも入ってきていい様に開けてるんです。私準備しますんで、入ってきてくださいね」
『了解。じゃあすぐ行くわ』
そう言って通話が切れた。
私は受話器を置いて、すぐさまキッチンに夕飯の支度に取り掛かる。
数分もしないうちに玄関の扉が開いて
結城さんがやってきた。
これが・・・いつもどおりの、日常。
その、日常が続くはずだった。
結城さんと仲直りして、いつもどおり・・・お昼は一緒に。と決めていたので
今日は授業が早く終わり、私は結城さんとよく待ち合わせしている場所に来ていた。
いつもは結城さんの方が早くて、待たせてばっかりだったけれど
今日は私が早かった!
きっと、早く着た私に結城さんビックリするんじゃないかな?と思わず笑みを零していた。
「おい、お前」
「え?跡部、くん?」
すると、聞き慣れた声に呼ばれた。
私の目の前に、跡部くんが立ってる。
しかもその眼差しはなんだか鋭い。
わ、私何かした!?
自分の心の中で焦っていると・・・・・・・・・。
「お前―――――」
「今日から俺様の召使いになれ。俺様の言葉には絶対に従え、いいな!」
「え?・・・・えぇぇええ!?」
彼の口から出てきた言葉に、私はただ驚くしかなかった。
挨拶から一遍、何でこういうことになってしまったのでしょう?
神様、もしかしてこれは・・・・・・間違いですか?
神様が起こしたミステイク?
(間違いといえるのかどうかなんて、私には分からない!!)