早まった事をしてしまった。


挨拶を返すだけが・・・俺は何て言った?
俺は何と言って、と会話をした?
















『今日から俺様の召使いになれ。俺様の言葉には絶対に従え、いいな!』













「(もう少し、マシな言葉はなかったのか?)」








自分で言っておきながら酷く後悔している。


違う。俺はただ・・・喋りたかっただけなんだ。
挨拶を返す方法を見つけたかっただけだ。


それなのに・・・選んだ言葉が・・・アレとは・・・・・・。









「(我ながら、あほなことしたな・・・・・俺は)」







口から零れるのは重いため息ばかり。


召使いとか・・・まぁ、下僕って言わなかっただけでマシか。
いや、でも表現的にはそれに近いわけだし。




今更訂正なんて、到底無理な話だ。
しかもアレを言った後のは・・・・・・・・・―――――。









『えーっと・・・・つまり、私は跡部くんの言う事を聞けばいいの?』




『あぁ』




『それだけ?』




『他に何がある?』




『・・・うーん・・・』




『とにかく、俺様の言う事は絶対に従え。いいな』




『う・・・うん。跡部くんがそう言うなら』









否定もせず、のヤツは俺のあの言葉に首を縦に振った。


普通なら「嫌だ」とか言うだろ?
だが、は少し戸惑いながらも承諾。



アイツには、一切の得もない・・・・何故嫌がったりしなかったんだ。




自分でも何故こんな事を言ってしまったのか分かっている。







があの・・・テニス部の部長だった男と
仲良くしていたところを目撃したのが、こんな発言のきっかけに繋がった。






俺はあの男に勝った。あの男を打ち負かした。


だから皆・・・・・そんな敗者を良しとはしない。
誰もが勝者であるこの俺に視線を向けるはずだ。そんなの誰だって
観れば分かることだろ?


勝者と敗者とでは・・・扱いは歴然としている。




それなのに・・・それなのに、の視線の先には・・・・・・あの、男。









こみ上げてきたのは・・・・わけの分からない胸の痛みと
激しい何処にもやりようのない怒りだった。













「・・・・・・これからどうしろってんだよ」





「何1人で悶々としてんの?」





「うわっ?!、ビックリしさせんじゃねぇよ」







すると、いつの間にか俺の背後にが立っていた。

あまりに突然の事で、口から心臓が飛び出そうだった。
ていうかマジでいつの間にコイツ俺の背後に居たんだよ!?









「人を化け物扱いしないでくれる?」




「誰もしてねぇよ。つか、お前いつから居た?」




「アンタが色々と悶々と考えてるとき。跡部が重いため息零すとか珍しいって思って」









そんな前からは俺の背後にいて、俺の行動を見ていたのか。





そう考えたら・・・・・・・・・恥ずかしいぞ。








「何してたの?」




「別に何でもねぇよ」




「・・・・・・あっそ」






俺の言葉には深くツッコミを入れてはこなかった。
いつもならこう、何か言ってくるはずなのに・・・今日は多分コイツのそんな
ツッコミを入れる気分じゃないのだろう。







「お前・・・・・何しに来た?」




「え?」





此処に、俺の側にが居るのは珍しくはない。


だが、あまり自分から来る事をしないから
此処にが居るのが驚きだ。

俺の問いには逆に驚いていた。



ふと、目を泳がせ・・・―――。











「別に・・・何でも、ない」








嘘つけ。


俺に何かあるから此処に来たくせに。


何て正直言えたものじゃない。



あんまりの事に首を突っ込むと、コイツの心の問題にも
触れてしまうから、俺は「そうか」とだけ答えた。



大抵が目を泳がせながら「何でもない」と答える時は
の暗闇の部分に触れる事になるから、俺は極力其処には触れないようにしている。



はいまだ、顔を伏せている。俺はため息を零し――――。















「無理して喋んなくていい」




「え?」




の頭に手を置き、優しく叩いた。






「喋りたくなければそれでいい。お前が良い時にでも俺は聞いてやる」



「跡部。・・・・・・うん」






が小さく返事をして、それを耳に入れ頭から手を離した。







「俺は学校に戻る。何かあったら携帯に連絡を入れろ」



「分かった」






そう言って、俺は学校へと戻る。




さて・・・・・これから、どうしようか。と俺は車の中で再び悩むのだった。
















でも、時間は簡単に過ぎていって・・・・・――――。











「これを、先生に渡して、印鑑貰って戻ってくれば良いの?」


「あぁ。それから、途中書いてある場所に寄って、持てるだけのモンを持って来い」


「全部じゃなくて良いの?」


「数はお前に任せる。だが1個はやめろ。最低でも2個以上は持って来い」


「分かった。行ってきまーす」








そう言っては部室を後にした。




最初の頃とは大違いなくらい、と喋る量が増えた。
今じゃ・・・「おはよう跡部くん」と言われても「あぁ」と、返せるほどになった。


でも、喋る量が増えたからと言って・・・基本的に事務的なことばかり。





事務じゃねぇ・・・・・・雑務だ。





氷帝テニス部は部員200人以上を誇る部活に変わり
それらのメニュー管理を俺1人でこなしている。


だから、俺が動けない分その他の雑務を全部に頼りっぱなしだった。









「最近、跡部・・・・あの女子お気に入りだよな」



「他の奴等が嫉妬に駆られてんじゃねぇの?」



「それありそうだC〜」








「向日、宍戸、ジロー・・・お前らグラウンド20周して来い」






俺がパソコンで部員のメニューを練っている最中。
まるで人をバカ(?)にしたような言い方をした向日、宍戸、ジローの3人に
グラウンドを走ってくるように罰則を与える。






「ばっ!?ちょっ、待てよ跡部」



「おいおい、20周とか」



「ありえないC〜、跡部鬼ぃ〜」



「追加してやってもいいんだぞ」





『行ってきます』





そう言って3人は声を揃えて部室から外へと出て行った。
俺はため息を零すと、フッと息の漏れる声がした。




視線の先に・・・・・・―――――忍足。





その声は先ほどの3人とは違い・・・あからさま、完全にバカにしたような声。

そして、その表情は口元が笑みで釣りあがっていた。



俺はそんな忍足を睨みつけた。







「何だ、忍足。お前も20周してくるか?」



「堪忍してくれ」



「なら笑うのやめろ。お前には倍走ってもらう予定にしてるんだが」



「はいはい、訂正しますわ。すんませんでした」





忍足は両手を挙げて、謝罪をしてきた。
だが、その声はまったく心が篭ってない・・・本気で40周くらい行ってもらおうとか考えている。





「でも、何や跡部・・・・・えらい、楽しそうやなぁって思って」



「あ〜ん?どういう意味だ?」






忍足の言葉に俺はその言葉の真意を尋ねた。





「あのっちゅう子と、ご主人様と召使いの関係になってから
跡部、えらい楽しそうに見えてんねん。それまで、むっちゃ退屈そうな顔しとったのに。
どういう心境の変化やろうなぁって思て」




「別に・・・そんなんじゃねぇし・・・」







心境の変化なんて、ありえない。



確かにと主従関係なモノになった。
俺の言葉には「NO」とは絶対に言わず、笑顔で「YES」と返す。

傍から見れば、はパシられてるも同然。

可哀想と思われるのが自然。・・・でもアイツは決して嫌な顔1つせず、俺の言葉に素直に答えている。







「自分・・・他の女に夢中になるんはえぇけど・・・」


「別に夢中じゃねぇし」







「まぁ傍から見ればそう見えんねん」と忍足は半分は呆れながら
その言葉を付け足した。








っちゅう婚約者おんねんから・・・そこんトコ、理解せな。まだのヤツには
知られてへんように思うけど、あんまり他の女にうつつ抜かしてたら・・・アカンで、跡部。
後で痛い目見たりすんのは自分やし、かて、辛いと思うで」




「てめぇに言われなくても、分かってるっつーの」




忍足の言葉に俺は強く言った。




大丈夫だ、そこらへん俺はわきまえてるし、区別がついてる。




は俺の婚約者、は俺の・・・俺の・・・・・・。




心で思った事を、俺は首を振って否定した。


大丈夫だ・・・俺はを裏切ることなんか・・・しねぇよ。








そう心の中で言ってはいるけど・・・俺の言葉が、徐々にそれとは裏腹になり始めて







言葉が逆へと進んで・・・気持ちが、独りでに走り始めようとしていた頃だった。








帝王の歯車狂い始める
(思っていた言葉と想っていた気持ちが、ずれ始めようとしていた)


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