に俺の愛のカタチ、届けるんや!
なーんて、大口叩いたけど、いきなりピアノ弾くとなると
俺には譜面すら読めんわけやし。
ほんならどうするかって言うたら・・・作った人を
まずは知る事が重要や。
家に音楽関連(特にクラシック)の本なんかあるわけない。
俺は学校の図書室で音楽史の本を漁っていた。
「確か、はモーツァルト言うてたなぁ」
『モーツァルトの2台ピアノのためのソナタよ』
俺は本棚を指で辿り、目的の人物の本を見つけた。
棚から取り出すと、少々分厚い・・・音楽史って面白いんか?
音楽とか、俺トランスしか聴かへんし・・・クラシックとか無理や。
曲調も違えば、雰囲気も違う・・・内容だってそうやで。
「(って、最初っから偏見持ってどないすんねん。まずは知る事が重要や。
譜面解読とか、その次やその次)」
そう心の中で呟きながら、俺は手に取った音楽史のページをめくり
モーツァルトのページを開き、の言うとった【2台ピアノのためのソナタ】を探す。
すると、しばらくページをめくると
探していた項目に付いて書かれていた文章を見つけ、目でそれを追い始めた。
「・・・・・な、何やこれ・・・」
其処に書いてあった文章を見て、俺は思わず声が出てしもた。
明るい曲調とは裏腹に、作曲家・・・天才音楽家の考えてる事って
こんなもんなんか?むしろ酷くないか?とか心の中で思ってしまった反面
その由来も知らずに、あの2人はあの曲を楽しそうに弾いてたと思うと――――。
「何や・・・ムカつく」
「あ、白石やんか」
「ホンマや、蔵リンや」
すると、俺が立ち尽くしている所に、ユウジと小春の二人が現れた。
俺は慌てて持っていた本を閉じた。
「ユ、ユウジ、小春っ・・・お、お前ら・・・何や?!」
「それはコッチのセリフや、白石」
「珍しいなぁ〜。蔵リンがこないな所で本読んでるとか、何読んでたん?」
「べ、別に何でもないわ」
これ以上、何を読んで何を知ったのかを悟られたらアカンと踏んだ俺は
持っていた本をそそくさと本棚に戻し、図書室を後にした。
思わず廊下を早歩きで、自分の教室に戻る。
その際、先ほど見てしまった文章が脳裏を過ぎった。
【モーツァルトの2台ピアノのためのソナタ】。
モーツァルトには優れた弟子がおった。
名前はアウエルンハンマーという女性や。
彼の数ある弟子の中でも、彼女の才能を高く評価しとったし
貴重な時間を2時間も、彼女のためのレッスンへと費やしとった。
さらには何度か共演したり、彼女のために曲を書いたりしとったらしい。
せやけど、その一方でモーツァルトに好意を寄せとったアウエルンハンマーの
厚かましい言動に、彼は父親の手紙にこう書き残しとったという。
『もし画家が悪魔をありのままに描こうと思ったら、彼女の顔を頼りにするにちがいありません。
彼女は田舎娘のようにデブで、汗っかきで、吐き気を催すほどです』
あまりにも酷すぎる手紙の内容に、俺は本気で
その本を焼き捨ててしまおうなどと考えとった(いや、実際したらアカンねんけど)。
弟子にや、才能ある弟子に・・・そないな風に父親に伝えるとか。
正直人間としてどうかと思うし、そんなんやったら最初から教えんほうがえぇやんか。
吐き気催すほどとか・・・見るのもイヤやったんなら・・・最初からすんなや。
それを考えたら、とあのピアノの男(先生)を考えたら
あの男、の事そない風に見てたんか?!
それやったら、が楽しそうにピアノ弾いてるとき、あの男の腹ん中は
まさしく「吐き気を催すほど」な女の子やったんか?
「・・・何や、ムカつく・・・、そない風にあの男に見られてたとか思たら・・・腹立ってきた」
ピアノ弾くどころの問題やない。
ちゅうか、読むんやなかったと今更ながら後悔した。
読まんと、普通に譜面嫌がらんとちゃんと弾いとけばよかったんや。
それやったら、俺こないなこと知らんでもよかったのに。
「はぁ〜・・・もう、どないせぇっちゅうねん」
ピアノ、一緒に弾けるようなったら
きっと俺の愛のカタチ、にちゃんと伝わるとか考えた。
それやっちゅうのに、何や余計なこと知ってしもて・・・譜面見るどころか
ピアノの姿かたちすら、見たないわ。
それから教室に戻って、窓の外を眺める。
午後の授業はやたら、日差し良くて眠くなるわ。
俺は授業を聞くフリをして、窓の外を見た。
「(あ、8組体育や。・・・お、みっけ)」
外で体育をしてるクラスを見つけた。
せやけど、普通やったら分からんやろ?何組が体育の授業とか。
8組にはやたら目立つアホ二人がおるからなぁ〜・・・一発で8組って分かるわ。
の姿を見つけ、その姿を見つめる。
何や2〜3人の女子と話してるみたいや。
しかも、雰囲気的に楽しそうな空気流れてる・・・可愛えぇな、。
「白石、隣でニヤニヤすんな・・・キモいわ」
「やかましいわ、謙也。俺のハッピータイム邪魔せんといて」
「は?」
すると、顔が綻んでいたのか
隣の席に座っとる謙也が俺に「ニヤニヤすんな」と声をかけてきた。
だが、俺はというと邪魔されて気分が少々落ちた。
せっかく(滅多に笑いもせぇへん)を窓の外から眺めてんのに、邪魔されたら不愉快や。
「何や、外で8組体育でもしてんのか?」
「可愛えぇ俺のお嬢様が、クラスの女子と戯れてんねん。えぇ眺めや」
「言葉が変態臭いで白石」
「うるさいわボケ」
そう謙也にツッコミを入れて、俺は再び窓の外を見る。
相変わらずはクラスの女子とお喋り・・・時々微笑んだりして
あぁ、俺それ見てるだけで・・・んんーっ、絶頂。
せやけど、俺にピアノは無理って十分理解した。
むしろ、あの事実さえ知らんかったら弾いてたに違いないわ。
俺の愛のカタチって、にどうやったら伝わるんやろ?
今多分、テニスの次にこれ本気で考えてる事やわ・・・進路とかそっちのけでな。
体全体じゃ表現しきれん。
俺のに対する愛のカタチって
宇宙みたいで、分子のようで、でも空気になってな形をコロコロ変えるんや。
の仕草一つ一つに反応するたびに
そうやって、形変えていくねん。
の表情にはな、それが溢れてんねん。
俺にはそう見える。
の愛のカタチが俺にはちゃんと見えてる。
せやけど、には俺の愛のカタチ、全然見えてないように思える。
「これがそうや!」ってに渡せたら、きっと上手いこといけるんやけどなぁ。
「俺の愛は・・・地球からはみ出すくらい、誰にも負けへんのになぁ」
「お前、頭大丈夫か?」
「何で、俺の愛見えへんのや〜」
「アカン、コイツあほすぎる」
俺のへの愛は、地球はみ出すくらい誰にも負けへん思いや。
言葉にならんくらいの思いやから、見えた方が一番えぇねん。
でもな、悲しいときは涙に変わっていくほど・・・ちっさいちっさいカタチなんやねん。
強そうで、その反面弱い。
ピアノで伝えれるほどのものやないって、最初から知っとった。
せやけど、口で表現出来ひんから・・・何とかして伝えたかったんや。
「俺の愛ー・・・に届けー」
「白石・・・お前、いっぺん病院行って見てもらってこいや」
なぁ、どうやったら俺の愛のカタチ・・・自分に届ける事、できるん?
(どう表現していいのか分からないほど、僕の愛はキミで溢れている)