不安に思っていると、その日はすぐに訪れた。


謙也の話から数日後。蔵がやる気のない声で私の所にやってきた。
まるでお腹を空かせた猫のように。


今こそ!今こそ私は今までの不審行動+音信不通の理由を聞くべきだ!という気合を入れて
彼に問いかけようとした途端だった。






〜・・・俺、もう涙止まらへん・・・っ』





急に泣き出すじゃない!

ちょっと泣き出したところが可愛いとか思ってしまったのは置いといて!


私やっぱり酷い言い方をしてしまったのじゃないかと
思いっきり焦った。
でも蔵は「違う」と答えた。


じゃあ何で泣いてるのよ?とか思ってもキリがない。
とにかく理由を聞くべく、彼の背を押してベッドへと座らせ私も彼と向かい合うように座り
理由を聞いたのだった。























「いつまで手握ってるのよ」


「えーやん、別に。好きや〜」




理由を聞いたら、どうやら彼は私に愛されてるのかどうか不安だったらしい。
しかもこの悩む発端となったきっかけは、数週間前のピアノからだった。


今では私に愛されてると知ってか、蔵は手を握ったまま離してくれない。
しかも目の前の男は手を握って、終始笑顔。

くそ・・・その笑顔が眩しい。

あまりの笑顔の眩しさに、私は恥ずかしくて顔を逸らした。




「照れんでえぇやん、


「照れてない。ていうか、手離してよ」


「いーやーや。もうちょっとの手ぇ握ってたいねん」


「離してってば」


「今日だけ甘えてもえぇんやろ?なら手ぇ握ってたかてえぇやん」





あー・・・腹立つ。

ちょっと隙見せたらすぐこれだ。四六時中甘えたがる。
別に嫌じゃないけど、恥ずかしい事この上ない。






〜」


「今度は何よ」


「ちゅーしよ」





いきなり何を言い出すのかと思えば・・・完全に調子に乗り始めた。





「その美顔、ぶっ飛ばされたいの?」


「えぇやろ、ちゅーくらい。なぁちゅーしよ?」


「丁重にお断りさせていただき・・・きゃっ!?」





私の言葉を遮るように、蔵は握っていた手から私を引き寄せ
自分の胸へと引き寄せてきた。

蔵の腕の中、完全に逃げ場が無い。






、顔真っ赤や」


「うっ、うるさい!離しなさいよ蔵っ」


「ちゅーしたらな」





すると、徐々に蔵の顔が私の顔に近づいてくる。
心臓が張り裂けそうなほど、鼓動してる・・・苦しい・・・熱い・・・。


唇が触れ・・・・・・――――。




























お嬢様、魁です。お車の準備が出来ましたのでお迎えに上がりました』






「わぁああぁぁぁあああ!!」





-----------ドンッ!




「がはっ!?」






「お嬢様!?いかがなさいまし・・・・・」



「さ、魁さん・・・あの、いえ、なんでもないです!」





魁さんの声に私は思わず蔵をベッドの外へと押し飛ばした。
私の叫び声?に魁さんは慌てて入ってきてくれたけど、部屋の光景に
言葉が出なくなっていた。





「し、白石様は?」


「だ、大丈夫です!蔵なら全然、いつもの事ですから!!」


「は、はぁ。あの、お車の準備が出来ましたので」


「あぁ、す、すぐ行きます!はい、すぐに!!」




私は慌てて言うと、魁さんは笑みを浮かべて「では、下でお待ちしております」と言って部屋を去った。
それを確認して私はホッと肩を撫で下ろし、ベッドから突き飛ばした蔵を見る。




「生きてる?」


「頭思いっきりぶつけたわ」


「アンタが悪いのよ」


「せっかくえぇムードやったんに、運転手さんも空気読んでほしいわ」


「いいムードだったのはアンタだけでしょうが」




少しは反省しろ、と心の中で思いながらベッド下に転げ落とした蔵に
私は心の中でそう呟いた。

すると、蔵が体勢を元に戻して、転んだ体勢から立ち上がった。





「今からどっか行くん?」


「え?あぁ・・・この前のピアノの先生のコンサート会場。お花を届けに行こうと思って」


「俺も行ってえぇ?ちゅうか行く」


「アンタね・・・まだヤキモチやいてんの?」


「えぇやん。には俺っちゅう無駄のないカッコえぇ彼氏がおるんや!って見せつけたんねん」





ちょっと私が男の人と仲良くしてたらこれだ。
すぐヤキモチ・・・・・・まぁでも、そういうの嫌いじゃない・・・むしろ、嬉しい。

やっぱり「私、この人に愛されてるんだなぁ」とか自惚れてしまう。







「付いてくるならご自由に」


「ほな、行くー」




結局、拒む事も私はせず蔵を連れてコンサート会場へと向かった。















「えらい人やなぁ」

「そうね。先生最近デビューって言ってたけど、案外人多いわね」





会場に着いて、私は花束を抱えてあたりを見渡していた。




ちゃん!」


「森原先生」



すると、私を呼ぶ声がした。
声の先には、以前私のピアノの講師をしていた森原清隆先生がやってきた。

かの人が現れると、辺りに居る女性客からは黄色の声が上がる。






「やぁ、来てくれたんだ」


「遅くなりましたけど・・・プロデビューおめでとうございます。コンサートも盛況みたいですし」





私は持っていた花束を先生に渡した。





「うん、ありがとう。そちらの彼は、確か・・・」


の彼氏の白石蔵ノ介です」


「ちょっと、蔵っ」





森原先生が蔵の存在に気づくと、蔵は思いっきり「彼氏」という部分を強調した。
あまりにも低レベルな敵意識に恥ずかしくなる。




「そう。ちゃんの彼氏だったんだね」


「は、はい」


「よかった〜君にそういう人が出来て、僕も嬉し」













「清隆さん!」


「明日香」





森原先生と私の会話に、甲高い女性の声が割りこんできた。
女性の人はすぐさま森原先生の隣に笑顔で駆け寄る。





「清隆さん、もうすぐリハーサルよ」


「分かってる今行く」


「じゃあ、すぐ来てね」





軽く会話をして、女性の人は去って行った。




「じゃあ、ちゃん。お花ありがとう」


「はい。では、コンサート頑張ってくださいね」


「うん」





そう言って、先生は早足で会場へと戻って行ったのだった。






「帰るわよ、蔵」


「え?アレだけなん?」


「そうよ。ほら、車待たせてるんだから行くわよ」


「お、おん」





私は蔵の服を引っ張って、彼に動くよう促し車へと戻る。





「な、なぁ・・・ホンマにあれだけでえぇのん?」


「アンタ、何妄想してるのか知らないけど・・・森原先生は来月結婚するのよ」


「は?う、え・・・マジ?」


「そうよ。さっき呼びにきた人・・・あの人と来月結婚するんだって。ウチにこの前来たのは
その結婚するって言う報告をしに来ただけ。ピアノはただついでのお遊びだったの」


「そ、そうなんや」






私が説明した限りに・・・やはり、コイツ・・・其処から嫉妬してたか。


つまり、私に「愛されてない」だの何だのかんだの言う発端は、此処から始まってたわけか。







「ちなみに、アンタの頭ん中予想してあげようか?」


「え?」


「モーツァルトの2台ピアノのためのソナタ。モーツァルトと弟子のアウエルンハンマーの共演作で。
モーツァルトは彼女のために貴重な時間を割いてまで彼女とのレッスンに注いだ。でもアウエルンハンマーは
彼に好意を寄せていて、厚かましい彼女の言動にモーツァルトは父親に
女性に言うにはとても失礼な手紙を送って彼女の事を教えた―――で。アンタもそう思ったんじゃないの?」



「・・・・・・・・・」





やっぱり。





「言っとくけど。森原先生は私を教えてる頃からあの人と付き合ってたの」


「え!?そうなん!?で、でも何でこの曲チョイスやねん!」


「あの頃は連弾するにはまだ早かったし、でも難しい曲には挑戦してみたかったから
じゃあこれがいいでしょうってことで。テンポも良いし、明るいし」


「それ、早よ言うてや〜」


「何でアンタにそういうこと言わなきゃいけないのよ。はぁ、脳みそ本当にすっからかんなんだから」





私はため息を零して、踵を返し車へと歩く。
すると蔵が後ろから慌てて私を追って、手を握ってきた。







「何?」


「やっぱり、には俺が一番えぇっちゅうこっちゃ」


「・・・あっ、そ」


「照れんでえぇて」


「照れてませんけど」


「ほっぺ赤いで?可愛えぇな





そう言いながら私と蔵は、車へと戻るのだった。





でも、あの手紙確かに酷いとは思うけど、私はモーツァルトの手紙をこう捉えた。





『言葉では軽く言い放っていたけれど

彼女は優秀で才ある、ピアニスト。

誰よりも美しく誰よりも華麗にピアノを、音楽を

そして、この私を愛してくれているのだとそう思っている』




きっとモーツァルトの照れ隠しなのだろうとか、勝手に想像してる。







だから、私も――――。





「蔵」



「ん?」



「好き」



「えっ?」





誰よりも彼を愛しています。





(これが私の愛のカタチ。きっと、貴方にも見えているかな?)

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