「く、蔵っ!?皆、見て」
「このアホ!」
「え?」
白石に突然抱きしめられ、は慌てて
離れるよう促そうとしたが、逆に怒鳴られてしまった。
「何で俺の言う事聞かんかったん。ちゃんと理由話さんかった俺も悪い、其処は謝る。
せやけど、自分のこと・・・心配なんや。心配やったから、行くな言うたんや」
「蔵・・・ゴメン・・・ごめんなさい」
「謝るのは俺もや・・・スマンかった。怖かったやろ?・・・あ、怪我ないか?
金ちゃんが派手に暴れよったし」
「平気。でも、ちょっと怖かった・・・ありがとう、助けてくれ」
そう言って万里は白石を見上げる。
「大切な彼女やぞ、助けるのは当然や」
「ねぇ、どうして・・・心斎橋に行くなって私に行ったの?別に変わったところもないし」
「あー・・・引かんと聞いてくれるか?」
「ぅ、ぅん」
すると、白石は渋そうな顔をして――――。
「此処な・・・別名、ひっかけ橋言うんや」
「ひっかけ、橋?」
白石の口から零れた言葉に、は繰り返すように言う。
「もっと分かりやすく言えば、ナンパ橋」
「え?!」
「此処、人ぎょーさん通るからナンパするには丁度えぇ場所なんよ。せやから皆此処の事
ひっかけ橋って言うんや」
「じゃ、じゃあ・・・蔵が、しきりに行くなって言ったのは」
万里の言葉に、白石は少し頬を染める。
「じ、自分がナンパされるんとちゃうんか思もて。彼氏として嫌や・・・彼女がナンパされるとか。
想像するだけでゾッとするし・・・もしかして、俺嫌われたんとちゃうんか?とか思うわ」
「・・・そ、そう、だったんだ」
「堪忍な。最初っから話しとけばよかったんや・・・ホンマ、ゴメンな」
「ぅ、ぅうん。私だって・・・忠告聞かなかったし、蔵に酷い事言ったし」
「あぁ、俺も自分に酷い事言うたな。・・・なぁ、今からこの前分のと一緒に埋め合わせで・・・デートせぇへん?」
「え?・・・で、でも」
白石の突然の言葉に、は焦る。
何せ彼女は今からクラスの子と大阪をぶらつく予定なのだから。
「わ、私今からクラスの子と」
「その子から、連絡あってな。電車乗り遅れたけど、その電車が人身事故に遭うて・・・大分遅くなるんやて。
せやから俺代打ちゅうわけや。・・・俺のエスコートじゃ不満か?」
「・・・べ、別に、そうじゃ」
「ほな決まりやな。此処な色んな店がぎょうさん並んでるから、見ごたえあるで。
欲しいモンとかあるんやったら俺が買うたるわ」
「え?・・・い、いいよ!ちゃんと自分でお金も持ってきたし」
「えぇから。埋め合わせ・・・けどな」
「え?」
すると、白石がの耳元に唇を寄せ
吐息交じりに囁く。
「もちろん、夜のアレも込みでの埋め合わせデートやで」
「なっ!?く、蔵っ!!」
「ハハハハ。ちゅうわけやから・・・ホレ、行くで」
は顔を赤らめながらも、差し出された包帯の手に自分の手を重ね
恋人同士の甘いひと時を過ごすのだった。
(さぁ、君の手を握り・・・甘い時間をすごそうじゃないか)