「あ、白石や。白石ーっ!!」
「おぉ、金ちゃん」
四天宝寺中学テニス部に超新星が入部した。
遠山金太郎。
野生児のごとく、アクティブなプレイスタイルで皆を圧倒し
1年でレギュラーの座を獲得した。
そんな金太郎が話しかけたのは、テニス部部長
【四天宝寺の聖書(バイブル)】と呼ばれる男、白石蔵ノ介だった。
「なぁなぁ、今日の練習な!」
「おうおう、どうした」
「蔵」
「お、。クラス離れすぎてホンマ毎時間寂しいで。小春やユウジに何もされへんかったか?」
「いや、何もされてないし。むしろ小春ちゃんとはめちゃくちゃ話し盛り上がって、ユウジに睨まれっ放しだけどね」
「何やと!?ユウジ・・・俺のにガン飛ばし・・・えぇ度胸やであのアホ。今日の練習で倍返しや」
「いや、絶対に違うから」
「しーらーいーしぃー・・・」
会話に参加できない(というかさっぱり理解不能な)金太郎は
痺れを切らし、白石に声を飛ばした。
「あ、ごめんなー金ちゃん」
「誰?この子」
「我がテニス部の超新星、遠山金太郎や。あ、金ちゃん・・・この子、俺の彼女」
「え!?白石、彼女おったん!?」
白石の紹介に、金太郎は思わず驚く。
「何やのその反応は」
「別にー。・・・へぇ〜ねーちゃん、白石の彼女なん?」
金太郎はジロジロとを見る。
まるでものめずらしい生物を見られているようで
360度、を見て回る。
瞬間―――。
ガシッ!
「ふぎゃっ!?」
「ちょっ・・・?!」
「ちょっとは落ち着きなさいよサル。人を見回すのは勝手だけど、落ち着きなさい。
それから、目上の人に対して呼び捨ては大変失礼よ、そんぐらいも分からないんじゃ幼稚園からやりなおせ」
あまりジロジロと人を見られるのと
金太郎の態度にイラついたのか、は金太郎の頭を
鷲掴みして、動きを止めて説教を始めた。
「今日はコレくらいにしてあげるけど、中学1年生になったんだから少しくらい自覚を」
「なぁ、白石。あの、ねーちゃんの何処に惚れたん?メッチャ怖いわ」
「あの怖さと可愛さのギャップがたまらんねん。俺と二人っきりのときは超デレデレや。めっちゃ可愛ぇえねんで」
「くーらー・・・ウチに出禁にするよ」
「アカン!それは堪忍してや!!!と愛を感じる場所がなくなるのはいやや!」
「公衆の面前で平然と言うなエロ関西人がっ!!!!」
そう言っては白石の腹を殴る。
その場でうずくまる白石・・・哀れなり。
「なぁ・・・ねーちゃん」
「何?」
白石がうずくまっている間、金太郎がに話しかける。
「ねーちゃん、白石の毒手・・・効かへんのん?」
「は?どく、しゅ?」
「ちょっ、金ちゃん?!」
金太郎の言葉に、はポカンとしていた。
初めて聞くその言葉に、小春と張るほどのの秀才頭脳の回転が止まる。
「な、何それ?・・・え?ていうか、蔵に毒手って何?」
「えーー!!!ねーちゃん知らんのん?毒手。
焼けた砂と毒を交互に手に染みこませて、2週間苦しみ続けてできる・・・・・こわーいアレや。
それに触れられし者は死に至るちゅうのが毒手や!」
「・・・・・・いや、まぁそれ・・・マンガか何かに書いてあったわね」
「それが、白石の左腕にあんねん!!怖いわぁ〜」
金太郎はおぞましそうな顔で白石の左腕を指差す。
はいまだ地面にへばっている白石を見る。
白石の左手の包帯・・・実は、3年新学期早々
自転車に乗り、四天宝寺中学校の神聖な場所として有名な【掴みの正門】で
見事なるボケをかましたのはよかったが
その代償として、左腕・・・手首から肘にかけて大きな擦り傷を作ってしまった。
それを知っているのは、彼の彼女であるだけ。
「・・・金ちゃん、実はねあの左腕の包帯ね」
「そーやねん金ちゃん。には、俺の毒手は効かへんねん!」
「んぐっ?!」
瞬間、白石は立ち上がり、を後ろから抱きしめ口を塞いだ。
「えー!!!何でなん?!」
「にはなぁ・・・俺の毒手の効果を無効化する力があんねん。せやから、俺の毒手はには効かへんねや」
「ホンマにー!!!」
「(んらっ(蔵っ)!?)」
「(今は大人しゅうしといて。後でちゃんと説明したるから)」
耳元でそっと囁かれ、は思わず背筋がゾクッとした。
わざとの耳元で囁くことで白石は会話の主導権を握る。
「せやで。せやから、俺よりものほうがめっちゃ強いねん。ホンマ、このお姫様には敵わへんのや」
「マジで!?・・・白石よりも強いんや、ねーちゃん」
「(もう、好きにして)」
「俺の毒手よりも強力な毒持っとるから、怒らせたらアカンで」
「うぅ、わ、分かったわ」
「えぇ子やで。あぁ、ホレ・・・向こうに謙也おるで、行ってきぃ」
「ホンマや!!けーんやぁぁあ!」
白石の上手い誘導に、金太郎はどこかへと走って行った。
金太郎の姿が見えなくなると、白石はの口から手を離した。
「堪忍な、」
「・・・何が毒手よ。思いっきりのズッコケかまして、出来た擦り傷でしょうがそれは」
「・・・は、はぃ。せやけど、ああでもせんとあのゴンタクレは言うこと聞かへんねん」
「そうね。まぁ確かに手のかかる野生児ね」
「納得してくれたん?」
「多少は。・・・・・・ていうか、何よ・・・毒手の無効化って。もう少しいい嘘つけないの?」
あまりにも幼稚すぎる嘘に、はあきれ返る。
もちろん、それを鵜呑みにする金太郎にも呆れていた。
「毒ちゅうたらやっぱり無効化やろ」
「なんでもなおしか、私は」
「お、それポケ○ンネタやな。山田くーん、座布団一枚や」
「笑○ネタやめて。ったく・・・ていうか、何で私がアンタの毒の無効化なのよ」
「毒を持って毒を制す。俺の毒をは更に強力な毒に変えて俺に返してんねんで」
白石の意味不明すぎる言葉には
もう脳を回転させるのも面倒になってきていた。
「は?」
「あら?秀才お嬢様には分かりにくい言葉やったん?」
「えぇ、かなり。すいませんね、単細胞な脳みそしてないから」
「それって俺が単細胞っちゅう話しかいな」
「お、よく分かったね。偉いぞー」
「その毒づきも俺への愛やな。うん、そうやコレも愛やな」
「自己完結するのやめて、虚しく聞こえる」
「が俺に好き言うてくれへんからやろ?ホンマ素直になるんはベッドのなk」
「公衆の面前でやめてって言ってるでしょ。デリカシーくらい考えろエロ関西人」
後ろから抱きしめられた体を振り向かせ
は白石の両頬を引っ張る。
「アンタの毒の無効化なんて真っ平ゴメンよ。ふざけたこと抜かして」
「へやかへ、しゃーなぃわん。ひじつなんひゃから(せやかて、しゃーないやん。事実なんやから)」
「どういう意味よ」
頬をつねっていても、白石の言葉が理解できたのか
手を離してまともに喋れるようにした。
「俺の毒で侵そうとしても、逆に倍返しに遭ってまう。しかもかなり強力な感じで返ってくるんやで」
「??」
「まだ分からへんのん?」
「ようするに、何が言いたいの?」
「ホンマに・・・恋愛にはメッチャ疎いねんな、。俺、いつも言うてるやん」
「は?」
瞬間、学校のチャイムが鳴る。
と、同時に白石はの耳元でそっと囁く。
「のことめっちゃ好きになっていくんや。心も体も、全部な」
「っ!!」
「そんくらい、の毒は強力ちゅうワケや。俺の毒手でも負えんくらいな」
「バ、バカ蔵」
「お、顔真っ赤や。リンゴちゃんみたいで可愛えぇわ」
「し、知らない!お前なんか・・・お前なんか・・・っ」
「何なん?」
は白石の胸を叩こうとした手を握られ、引き寄せられた。
校内にチャイムが鳴り響き
互いに離れたクラスの席に、二人の姿はなかった。
毒リンゴが効かない白雪姫
(でも僕が齧れば君の毒に侵されて死んでしまう)