「あ、蔵だ」
「何や、珍しいもん見つけたような言い方やな」
「珍しいものじゃないの?」
「酷っ!」
とある日のこと。
3年8組に在籍のは、廊下を歩いていると
3年2組在籍で彼女の恋人であり、四天宝寺中テニス部部長の白石蔵ノ介と遭遇した。
「酷いわぁ。・・・昨日、あんだけ愛を囁k」
「それ以上言ってみなさい。其処の窓から突き落としてあげる」
「か、堪忍してや」
「白石、誰ね?」
すると、白石の隣に彼よりもさらに長身の男子生徒が立っていた。
178cmある白石よりも高いので、は見上げるのも首が痛くなるほどだった。
「あぁ、千歳。この子は俺の彼女や」
「へぇ〜んなこつね。たいぎゃむぞらしかたい」
「は?・・・ち、千歳。何言うてんの?」
「いや、其処まで言われるほどじゃないし」
「ちょっ、?!」
千歳の独特の口調に白石は困惑するも
一方のはまったくいつもと変わらない応対をする。
「ち、千歳の言葉・・・分かるん?」
「まぁ。2ヶ月くらい熊本にいたし・・・ていうか、熊本であってる?」
「おぉ!熊本弁分かっとね!こっち来たら誰一人として分からんけん、よかったばい」
「だそうです」
「はぁ・・・そうなんや。あ、せやったな・・・千歳は熊本出身やったな」
「そうたい。俺、千歳千里・・・よろしくな、えーっと・・・」
「一応蔵の彼女してます、」
「一応ちゃうやろ。正式な彼女やんか」
そう言って、千歳とは挨拶をして握手を交わす。
「せやけど、さっきの・・・む、”むぞらしか“ってなんなん?」
「熊本弁で”めちゃくちゃ可愛い“って意味たい。ほんなこつ、はむぞらしかね〜」
「いや、だから言われるほどじゃないから」
「待ちぃ!俺のや!千歳には渡さへんで!!」
白石はの身の危険?を感じたのか
彼女を後ろから抱きしめた。
「ちょっ、やめて蔵!・・・抱きしめんな!!」
「アカン!千歳が色目使こぉて、を誘惑してんねん。離さへんで」
「アハハハ・・・面白かねぇ〜白石。しっかし、は何で熊本弁知っととと?」
千歳は笑いながら、白石に抱きしめられているに問いかける。
は白石を剥がしながら、千歳の質問に答える。
「ま、前・・・熊本に、旅行に・・・行って・・・蔵離れろっ・・・2ヶ月居たから」
「アカン、離さへん」
「離れろ・・・変態」
「ふぅーん、何処におったと?」
「阿蘇の・・・黒川、温泉・・・ってトコ・・・死ね、エロ・・関西人がっ」
「それ褒め言葉やで」
「気持ち悪っ!恋人やめていい?」
「アカンて!」
「黒川温泉か!あそこの湯、良かね。全国でも有名ったい」
「そうよね。父親の、仕事で付いて行ったんだけど・・・素敵ね、熊本。もう好きにすれば」
「じゃあ抱きしめとくわ。あー、今日も髪からえぇ匂いするなぁ〜」
「やめろ。シャンプーの匂い変態フェチ」
千歳と会話をしながら、は白石を剥がそうとしたが
相手のほうが力は何枚も上手(うわて)なので、は剥ぎ取るのを諦めた。
「向こうで他に何ばしたと?」
「草千里ってトコに行ったわ、綺麗ねあそこ。乗馬も出来たからびっくりしちゃった」
「ほぉほぉ。他は?」
「後は熊本城に行った。巻物や昔の資料をベースに、御殿を復元させたってニュースで聞いたから」
「あぁ、二の丸御殿たい。まだ行った事なかばってんが・・・凄かったと?」
「うん、圧倒されちゃった。昔の資料だけで此処まで復元できるんだって。・・・あ、一口城主にもなってきたわ」
「んなこつね!?アレ高っかけん、俺はなりきらんたい。1万はキツか〜」
「って言っても私もお母さんに出してもらったんだけどね。たくさんの人が一口城主になってるのね。
城主の札見てビックリしちゃった」
千歳とは軽快に会話をする。
だが、一方の白石としては気分が悪い。
「なぁ・・・〜」
「ねぇ、熊本っておいしい食べ物何?」
「ん〜・・・やっぱり馬刺したい!」
「ばさし?」
「馬の肉。馬の鬣(たてがみ)とか・・・精ばつける時にはアレが一番良かとよ」
「あ、食べたかも。他には?」
「なー、〜」
「んー・・・おやつにはやっぱりいきなり団子たいね」
「あ、知ってる!お芋とあんこを牛皮で包んだアレでしょ?」
「お、知っとるね。それから晩白柚(ばんぺいゆ)」
「それ知らない。何それ?」
「でかかミカン?・・・ん?柚か?・・・スイカサイズの柚たいね。アレはうまかよ〜」
「今度取り寄せてみる。晩白柚ね・・・他h」
「俺仲間はずれかいな!」
「あ、蔵居たの?」
「ずっと抱きしめてたやんか!」
「悪い悪い。あんまり地元んこと話す相手おらんかったけんが、ついな。悪い白石」
痺れを切らした白石が声を上げる。
話題についていけない彼を気遣ってか千歳は謝る。
「酷いわ、〜。俺もと旅行したいわぁ〜」
「やめてよ。でかい図体で擦り寄らないで」
「アハハハ。ほんなこつ、白石はのこと好いとっとね。そぎゃんなら、お邪魔虫はおらんがよかね」
そう言って、千歳は笑いながらその場を去る。
彼が居なくなるとはため息を零す。
「何ぐれてんのよ」
「ぐれるわ。えぇ気分はせんど・・・好きな子が他の男と話してんのは」
「アンタの友達でしょうが」
「友達かて、えぇ気分はせぇへん。異性は別や」
そう言いながら白石は、の体を自分のほうへと向ける。
「は俺のやぞ。・・・他の男見んといてぇな、嫌やわ。正直胸クソ悪いっちゅーねん」
「あーよするに嫉妬してるんですね蔵ノ介くんは」
「当たり前やん。俺のことめっちゃ好きなんやって・・・俺だけ見てぇーな」
「・・・・・・」
「?」
すると、突然の言葉が止む。
白石が彼女の顔を見ると、は顔を俯かせていた。
「どなんしたん?」
「ぁ、あのさ」
「何なん?」
「そう、ストレートに・・・嫉妬してるって言われると、反応困るんだけど」
「へ?」
の言葉に白石は驚いていた。
ふと、彼女の耳を見ると真っ赤になっていた。
そんな彼女を見てか、白石は笑みを浮かべる。
「・・・耳真っ赤やで。照れてるん?」
「う、うっさい!変態毒草マニアの健康オタクが」
「アホォ。毒草にもえぇ魅力あんねんぞ・・・が知らんだけや。今度俺がみっちり毒草の魅力教えたるわ」
「いやいい。むしろ毒草食って死んで」
「ホンマ、はツンデレやなぁ。まぁ其処が可愛くてたまらんけどな」
「お前はおっさんか・・・いや、見た目中学生に見えないからそうよね。立海の真田とレベル同じじゃない」
「酷っ!真田クンと一緒にせんといてな!!あっちは次元がちゃう!!・・・って話逸れてるやんか!」
話が飛び飛びになり、白石は本題から逸れていることに気づき
何とか軌道修正を行う。
「上手く流されるところやったで」
「チッ、上手く行ってたのに」
「コラコラ。えぇムードやったのに・・・何、話逸らしてんねん。ちゅうか、嫉妬したらあかんのん?
好きな子が他の男と話すんは、彼氏としてめっちゃ嫌なことやねんぞ」
「別に意識して話してないからいいじゃん」
「それでもアカンねん、俺は嫌や。俺は、のことが好きで好きでメッチャ好きやねんぞ。
そんじょそこらの男と一緒にせんといて」
「・・・・・・ゎ、分かった」
「うん、分かればえぇねん。好きや〜」
そう言って白石は満足したのかを抱きしめた。
「今日も髪の毛、えぇ匂いしてるな」
「お前が魅力を感じるのは其処か。シャンプーの匂いフェチが」
「髪の毛もそうやけど・・・髪の毛だけやのぅて、目も口も、鼻も声も・・・自分の全部に俺は魅力を感じるで」
「だから、そうストレートに言うの止めて。本気で恥ずかしい」
「こうでも言わんと伝わらへんやん。だってのこと好きなんやから・・・彼氏として当然ことしてるだけや」
「・・・・・・ヘンなの。あ、元からヘンだったね」
「コラコラ」
何とか軌道修正が出来たのか、白石は満足げだった。
「蔵、もういいでしょ。離して」
「あと5分」
「小春ちゃんが心配するから帰りたい」
「ほなあと10分」
「増やしてどうすんのよ。ホラ、離れなさいってば」
「いーやーや、と離れとぉない。謙也と変わって、が俺のクラス来てぇな」
「知らないわよそんなの。先生達が決めたんだから仕方ないでしょ?今更グダグダ言わないで。
・・・・・・私だって、出来たらそうしたいわよ」
「ん?何か言うた?」
「別に」
白石に聞こえないように
は小声でボソッと本音を呟いた。
彼に聞かれたが彼女はすぐさまいつもの切り返しをした。
「嘘、聞こえてたで。・・・・・・ホンマはもそうしたいんやろ?」
「うっ?!・・・・・・うるさい!!」
「おぉ、顔真っ赤。超可愛えぇわ〜、デレタイムやな。いくらでも俺にデレデレしたってぇーな」
「離れろバカ!私は小春ちゃんにデレデレしたいの!!お前は謙也にでもデレデレしてろ!!」
「キモッ!!嫌や、あんなスピードバカにデレるんは。ちゅうか、男にデレるとかキモイで!!!ユウジやんか」
「ユウジ2号って呼んであげるよ、その時は」
「嫌やっ!俺はが好きなんや!!俺は自分にデレて欲しいねん」
そう言いながら、白石はをクラスに返さないように
ガッチリと抱きしめて離さない。
小柄なには、長身かつ体力が上な白石の腕を振り解くことは出来ない。
若干白石本人のイメージダウンも甚だしい。
まぁさほど変わりはないとは思うが。
「く、蔵っ・・・痛い、苦しっ」
「あ、スマン。力入れすぎたわ、大丈夫か?」
「私・・・お前のそういうところ嫌い」
「うっ・・・すんません」
息苦しい声に白石は彼女を放した。
が、その後返ってきたの言葉のストレートパンチに白石の心に100万のダメージ。
その言葉に白石は反省で顔を伏せる。
「抱きしめるの良いけど、アンタと私の体型考えなさいよ」
「・・・・・・はぃ」
「それから」
「?」
ふと、白石は顔を上げての顔を見る。
は腕を組んで、顔を横に向けていた。
「私が何で毎時間、此処まで来てると思ってるのよ」
「へ?」
「少しくらい気づきなさいよ、単細胞」
「・・・・・・俺に、会いにきてくれてるん?」
「小春ちゃんに”行かんといてよ〜“って止められるけど、それ振りほどいて来てるんだから」
「・・・・・・・・何や、嬉しいなぁ。へへへ」
「ったく。・・・・・・今回だけだからね」
「は?」
瞬間、白石の頬に何か触れた。
「じゃ、帰る!」
そう言ってはすぐさま離れた自分のクラスに慌てて帰っていった。
白石はというと、あまりのことで硬直。
ふと、自分の頬に触れる。
「(・・・・・・初めて、からほっぺにチューされたわ)」
去り際、は白石の頬にキスをした。
身長差があるせいか、本当に触れた程度になってしまったが
普段のを知っている白石としては、あまりに突然かつ滅多にないことだったので
驚きを隠せない。
「アカン・・・・・・ホンマ、惚れこむやろ。あんなんされたら」
そう言って、白石は顔を真っ赤にしてその場に屈んで
顔を下に俯かせるのだった。
「あいつ等って仲えぇんか悪いんか分からんわ」
「仲が良かとよ。まぁ白石の愛情表現が酷かばってんが」
「恋愛のバイブルちゅーのはアイツの中にはないんやろうな。度が過ぎてるわ」
「見てて面白かけん、よかたい」
「まぁ、えぇか。おもろいしな・・・あんなん白石とか絶対普段見られへんから」
聖書(バイブル)の中の恋愛
(聖書を引いても、恋愛は変動して・・・君を愛する答えが見つけられない!)