「お、千歳だ」
「ん〜・・・か。どぎゃんしたと?」
とある日、四天宝寺中の裏山を
占拠?独占?している千歳千里の元に、白石蔵ノ介の彼女である
がやってきた。
珍客に草の上に寝転んでいた千歳が起き上がる。
「どうって・・・いや、サボり」
「え?!・・・がサボりね。かぁ〜珍しかこともあっとね」
「うるさいなぁ」
の言葉に千歳は驚きの声を上げる。
なぜなら成績優秀で、授業には確実に出るという真面目さ。
どんなことでも手を抜かず、テストでもほぼ上位に食い込むほど。
その優等生がサボりとは千歳としては珍しい事はない。
「やばってん、普通にサボるとかじゃなかとだろ?」
「うん。お腹痛いから保健室行っていいですか?って。休み時間だったら蔵があそこ占拠して
思うようにサボれないと思って」
「なるほどね。確かに白石、保健室によぉ行くって聞くね」
「だから、授業中が良いかと思って。まぁ次戻らないと確実に小春ちゃんとか心配するからこの時間だけでもサボろうかなぁ〜って」
「そぎゃんね。なら、ゆっくりしなっせ」
「そうさせていただきます」
そう言って千歳はニコニコしながら、を迎えた。
は返事をして、千歳と少し距離を離して座る。
「何ばそぎゃん、離れとっとね?」
「いや、何となく」
「何もせんよ。何かしたら俺が白石に怒らる。こっちに来んね・・お日様当たって気持ちよかばい」
「じゃ、じゃあ」
千歳の言葉に、は少しずつ千歳と距離を詰め
彼の隣にちょこんと座る。
190cmある千歳からしてみれば、はかなり小さい。
傍から見れば、兄妹と思われてもおかしくない風景だった。
「あ、ボールだ」
すると、座っていたが草むらに
転がっているボールを見つけ、立ち上がりそちらに駆ける。
「何のボールね?」
「ドッヂボールとかで使う普通のボール。何で此処に?」
「だっか飛ばしすぎて、此処に来たんじゃなかと?」
「ふーん」
千歳がそう言うと、はそれをつき始めた。
規則正しく動くボールに千歳は笑みを浮かべる。
「なーんか、懐かしかね」
「え?」
ボールを弾ませているに、千歳が言葉を零した。
「昔、よー・・・ボールで鞠つきばしよった。ミユキがボールばついて、俺が手まり歌歌って」
「手まり歌?そんなのあるの?」
「知らん?一時期こん歌でみんな遊ばんかったか?」
不思議がるに、千歳は口を開き――――。
「あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ、熊本さ・・・・・・って」
「あー・・・そう言えば、何か流行ったね。それって熊本のだったんだ」
「そぎゃんよ。って、歌詞に思いっきりそう書いてあるたい」
「確かに」
千歳の言葉に、は思わず納得。
「やばってん、物心ついた時からこん歌で遊びよったとよ?ボールばついて、歌ば歌って」
「へぇ〜。私あのゲームでしか知らないんだ。どうするの?」
「普通につけばよかと」
「テンポって言うのがあるでしょ?本場の人、やって見せて!」
がボールを持って、目をキラキラ輝かせながら千歳にボールを渡す。
千歳は「しゃんなかね」と苦笑いを浮かべつつも
草の上から立ち上がり、ボールを受け取る。
そして、ボールをポーン、ポーンと弾ませ―――――。
「あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ、熊本さ。
熊本どこさ、船場さ。船場山には狸がおってさ、それを猟師が鉄砲で撃ってさ。
煮てさ、焼いてさ、食ってさ・・・それを木の葉でちょいとかーぶせ!」
最後のフレーズの瞬間思いっきり、ボールを弾ませ
天高く上ってる最中、千歳は一回転をし、落ちてくるボールをキャッチした。
「こぎゃんたい」
「ふぇ〜・・・凄い。特に最後の、ボール思いっきり弾ませるて取るの」
「ミユキはこれに、足ばくぐらせながらすっとよ。まぁ上手か子は大抵そぎゃんことはすったいね」
「そうなんだぁ。私もやりたい!ねぇ千歳歌ってよ!!」
「歌詞ば教ゆっけん、自分で歌いなっせ。何か、恥ずかしか」
「さっきちゃんと歌ったからいいでしょ。ホーラ、歌って・・・私鞠つきするから」
がそう言うと、千歳は髪を少し掻きながら
「には勝てんねぇ」と言いながら、より少し距離を離して座り込んだ。
「よかか?」
「どうぞ」
そう言って、千歳は再び手まり歌を歌い始め
がボールをつき始める。
「あんたがたどこさ、肥後さ、肥後どこさ、熊本さ。
熊本どこさ、船場さ。船場山には狸がおってさ、それを猟師が鉄砲で撃ってさ。
煮てさ、焼いてさ、食ってさ・・・それを木の葉でちょいとかーぶせ!」
最後の部分、千歳を真似して
がボールを思いっきり弾ませ、天まで上げ
一回転をして同じように取ろうとしたが――――。
「あー・・・取れない」
千歳と同じようには行かず、ボールはの回転のキャッチを待たずして
地面にと落ち、小さく跳ねた。
「アハハハ・・・惜しかねぇ。もうあとちょっとたい」
「取るまでやる。歌詞、なんとなーく覚えてきたら自分でするわ」
「そうね」
はボールが取るまでやると言い始めた。
千歳はそれを見守るように見つめた。
「やばってん」
「ん?」
ボールを弾ませている最中、千歳はに話しかける。
彼女も耳をそちらに澄ませながら、ボールに集中する。
「は・・・鞠つきとか手まり歌とか知らんと?」
「何で?」
「俺は物心付いた時からある歌だけん・・・熊本ん人は誰でん知っとるとよ。
地方地方でも手まり歌って、あるはずばってんが、知らんって言っとったけんが
何でかなぁ〜って。やっぱりお嬢様だけん?それでも、親父さんやお袋さんの実家にはあっど?」
千歳の言葉に、は途中で思いっきりボールを弾ませ
落ちてくるボールを手にした。
「?」
「私は・・・千歳や、蔵みたいに・・・・・・故郷みたいなのが無いから。そういうの知らないの。
お父さんとお母さんも、関東の生まれの人だから・・・・・・よく、そういうの知らないし・・・あんまり聞かない」
「・・・・・そぎゃんね。すまん、何かわっか(悪い)こと聞いたね」
「うぅん」
あまりにも彼女の深すぎる過去の傷に
千歳は思わず触れてしまい、すぐさま謝る。
ただでさえ、白石でもその傷にはなるべく触れないようにしていると
千歳は謙也や小春から聞いていた。
考えもなしにそれを言ってしまった千歳は深く反省した。
「すまんな・・・ホント、すまん。感無しに言って」
「あーもう、いいって。ホントこういう話すると蔵もそうだけど、千歳も謝るんだからやめてよね。
別に気にして無いからいいよ」
「ばってん」
「いいから・・・もう昔の事だよ、大丈夫だから」
はボールを持ちながら笑みを浮かべる。
本当は、誰よりも彼女自身一番辛いはずなのに・・・と、千歳は心の中でそう思っていた。
「俺も、酷か男たい。九州男児が聞いて飽きるぅ」
「そう?別に酷くないよ・・・千歳は優しいよ。タンポポの綿毛みたいにフワフワしてて、優しいよ」
「そぎゃんこつは白石に言えばよかとに、なーんば俺に言いよっとね」
「蔵にそういうこと言うと「そないな事言うなや、惚れ直すやろ!・・・もう好きや!!」って言い出すから」
「あー・・・確かに。白石の愛情表現は・・・何か、見るに耐えんというか・・・」
「あれぞ熊本弁で言う”感無し“よ。盲目にも限度があるわ、アイツは限度超えて”感無し“」
「・・・たいね(すまん白石)」
−一方の白石(現在、数学の授業中)−
「へっくしゅ!」
「何や、白石くしゃみか?・・・保健室行って来るかぁ〜」
「いや、えぇですわ(誰や俺の噂してるんは?もしかして、!?俺の事でも考えてんのとちゃうんか?
やっぱり離れてても愛は続いてるんやなぁ〜。後で会いに行ったろ)」
「白石、俺の隣でニヤニヤすんな。キモいわ」
「やかましい謙也。俺の素敵な時間邪魔すんな」
「は?」
「ヤバイなんか寒気がしてきた」
「え?こぎゃん温ったかとに?」
「蔵が変なこと考えてニヤニヤしてるのが一瞬頭過ぎった」
「あー・・・そ、そうね」
は思わずブルブルと震えながらそう答え
千歳はその答えに思わず苦笑いを浮かべていた。
「千歳は酷い男じゃないよ。千歳は凄く優しいよ・・・だから、気にしないでいいから」
「ホント、すまんな。あ、今度熊本名産のデコポンゼリーばやる。ウチにたいぎゃな(たくさん)余っとるけんが、にやい」
「ホント!うわぁ〜それ食べてみたかったんだ、ありがとう千歳」
「罪滅ぼしたい」
「だからもういいってば!」
そう言いながら、は再びボールをつき始める。
「ホントは、好いとるけんが・・・何て、言えたい」
「何か言った、千歳?」
「なーんでんなか。出来たね、鞠つきは?」
「できなーい。歌いながらは難易度が高いわね・・・千歳歌って!」
「またね?・・・しゃんなかね、のためたい。今日は特別サービス」
「やったぁ!早く、早く」
に手招きをされ、千歳は再び立ち上がり
彼女の隣へと行く。
そして、の顔をじっと見つめる。
千歳の視線に気づいたのか彼に視線を向ける。
「何?」
「は」
「むぞらしかとか言いたいの?」
「ブッブー」
「え?・・・じゃあ何?」
そう言うと、千歳は彼女の耳元で――――。
「美しかとよ・・・は」
優しく呟いたのだった。
千歳とお嬢様と手まり歌
(そんなある日の事。彼の歌う手まり歌で鞠つきをするお嬢様)
感無し:<反転>考え無し・手加減無し。
「お前、やりすぎだよ!」の様に「行き過ぎた行動」等を表しているんです(笑)</反転>