-------コンコン!
『ーっ、俺や〜』
「蔵。すぐ開ける」
とある日。
部屋で読書をしていると、扉をノックする音。
どうやら蔵が遊びに来たみたいだ。
私はすぐさま扉の元に行き、扉を開ける。
「来るならメールか電話くらい・・・ってアンタ、何その桜の花びらまみれは」
扉を開けるとビックリ。
蔵の髪から、体にまで桜の花びらが大量に付いていた。
ついにコイツの無意識フェロモンは
桜の花びらまでも呼び寄せるようになったかと思ってしまった。
「此処に来る途中、近くの公園で桜見つけて散歩してたら、風がめっちゃ吹いてな・・・それで」
「入るときに払ってから来なさいよ。掃除するの私じゃないけど、お手伝いさんたちが大変なんだから」
「うーん。でも」
「何よ?」
「桜味の白石蔵ノ介くんでも味わってみぃひん?」
「帰れ」
「嘘やんか!扉閉めんといてぇな!!」
蔵のあほらしい発言に付き合いきれず
私は扉を閉める・・・も、彼も必死に抵抗する。
私は諦めて、力を緩め彼を部屋の中に入れる。
「嘘に決まってるやんか」
「目がマジに見えた」
「もうお嬢様は冗談が通じひんから困るわぁ」
「マジで帰ってくんない?」
「すんません、もう言いません。俺が悪かったですわ」
私の言葉に、蔵は素直に謝る。
そして、私は自分の机の椅子に、彼は私のベッドと
いつもどおりの定位置に着いた。
「アンタと言い、千歳と言い、今日はやたらと桜まみれの奴がウチに来るわね」
「千歳、此処来たんか?」
「あんたが来る1時間前にね。まぁその時私、ちょうど庭に出てて
やたらとカランコロン鳴るし、外うるさいなぁって門の外覗いたら千歳がウロウロしてた」
「アイツ何処でも放浪するからなぁ」
そう、蔵が来る1時間前。
千歳が門の外・・・正確にはウチの近所をウロウロしていた。
「千歳!」
「ん?・・・おぉ、。あぁ、の家は此処たいね」
「アンタ・・・桜まみれ。どうしたの?」
「さっき、其処ん公園ば散歩しとって・・・いきなし風がブワーッ吹いて。体が桜の花びらだらけたい」
「アンタが桜まみれだと・・・怪物みたい」
「ヒドかね〜」
そういえば近所の公園には、桜の木がたくさん植わってる。
何でも公園を管理する役所の人の中に、お金持ちがいて
その人が桜が凄く好きだからという理由で、公園にもたくさんの桜を植えたとか。
魁さんが近所の人たちから聞いていた。
「でも、何でウロウロしてたの?花見に来たの?」
「まぁな。熊本の、桜のキレか(綺麗)所ば思い出しとったと。熊本の桜は夜桜がたいぎゃキレかとよ。
其処ん桜ば思い出しとったとよ」
「へぇ」
「やばってん。ちぃさか公園に桜の木があぎゃん(あんなに)あっと、うったまぐぅ」
「う、うったま?・・・その熊本弁知らない」
「うったまぐぅは驚くってこったい。にも分からん言葉あったね」
「次まで学習しとく」
「おぉ。唯一俺ん言葉ば理解すっけんね・・ガンバんなっせ。そぎゃんに、ホイ」
「風で折れた桜の木の枝貰ったの」
「ほぉーん」
千歳から「風で折れた奴ば拾ってきたと。にやい」というので
それを私に渡した千歳はまた何処かへとフラフラしていった。
桜の花びらを体に纏いながら、風に吹かれ何処かへと。
私は家の中に戻り、キッチンに置いてあった
ビンに水を入れて、一輪差しのように桜の木の枝をその中に入れて
部屋の机の上に飾った。
「アイツ、折ったんとちゃうんか?アイツの身長ならやりかねん」
「さぁ。でも本人が風で折れたのを拾ったって言うからそうなんじゃないの?
ていうか、普通に折ったら捕まるわよ・・・一応公園に植わってるものだし」
「それくらい千歳も理解はしてるな」
「千歳も花だらけで、アンタも花だらけとか・・・ホント」
「何?」
「花もあんた達のフェロモンで寄ってくるのね」
「そういうオチかいな!」
蔵のツッコミに私は笑みを浮かべる。
「あ、桜で思い出した。今日椿堂の桜餅おやつであるよ。食べる?」
「椿堂?あぁ、北田辺の吉田菓舗のことかいな。何や桜繋がりやな。小腹空いてるし、頂きますわ」
「うん、じゃあ持ってくる」
そう彼に言い残し、私は部屋を出てキッチンへと向かう。
あ、千歳にも桜餅、あげればよかった・・・とか今頃になって思った。
「千歳、ごめん!」と心の中で謝っておこう。
「蔵、ごめん遅くなった。新茶が届いたばっかりで・・・それの・・・・・・」
部屋に戻るのが遅くなった。
キッチンに桜餅を貰いに向うと、あと5分ほど待てば
新茶が届くのでと言われて、それだったら・・・というので私は
5分ほど、新茶が届くのを待ち・・・新茶を淹れてもらい
お盆に桜餅と新茶の入ったお茶を持って部屋に戻った。
が、部屋に戻ると・・・・・・蔵が私のベッドで熟睡。
慌てて来た意味ないじゃない。と心の中で呟きながら
私は彼を起こさないように、扉をゆっくり閉め
机の上に、お盆に乗せたお菓子を置き
ベッドを占領している桜の花びらまみれ人間の横に行く。
そして、彼の髪についた桜の花びらを一枚取る。
「ホント・・・憎たらしいくらい綺麗な顔して」
男のクセに、ホント綺麗な顔。
その綺麗に相応しいまでの完璧主義者(パーフェクター)。
だが、そのクセ・・・逆ナンは嫌いで、毒草マニアの健康オタク。
後者はホント、顔との相性ミスマッチ過ぎる。
それに睫毛長いし、筋肉とか・・・ホント付いてるところに付いてる。
まぁ其処はね・・・テニス部だし。
唇も形が良い。
まるで西洋人形(ビスクドール)でも見てるみたいだ。
まぁアレはね・・・目の色青だけど。
和製人形よりも、蔵の場合表現、西洋人形に近い。
その形の良い唇から零れる声は、男の子って言う・・・いやむしろ
中学生と思えないほど、耳に残る低い声。
下手すれば成人男性にも聞こえる。
男の子の成長って早いってよく聞くけど・・・昔は可愛かったんだろうなぁ。
「いや、遺伝子の構造上・・・そうでしょ。こんな憎たらしい綺麗な顔してんだから
昔は絶対可愛かったんだと思うわ。・・・昔絶対コイツ・・・可愛い呼び名で呼ばれたわね。
って今でも妹さんからクーちゃんって呼ばれてんのよね、コイツ」
そういえば行きつけのお好み焼き屋のオジさんも
コイツのこと”クーちゃん“って呼んでた。
ホント・・・顔とか名前に似合わず、可愛い名前で呼ばれてること。
「・・・クーちゃん」
起きる気配がないのか私は思わず彼の可愛い呼び名を零す。
どうせ起きないんだし、いいじゃない。
「クーちゃん・・・おやつあるよ」
自分の心臓が少し高鳴ってる。
いつ起きてもおかしくない状況だから、緊張してる。
でも彼も部活のことや、色々なことで疲れている。
多分起きない。
だから少しずつ調子に乗ってみる。
起きたら?そうね・・・何とか上手くごまかしてみせる!
「クーちゃん・・・クーちゃん」
私の部屋に、2人の人間がいるのに、其処に響いているのは私の声だけ。
フカフカのベッドを占領しているのは
愛しい私の彼氏様(ただいま熟睡中)。
ふと、呼ぶのも少しずつ飽きてきた。
目線が寝ている彼の・・・唇に行く。
『桜味の白石蔵ノ介くんでも味わってみぃひん?』
何が桜味よ。
そういうのはお香とかアロマオイルで充分なのよ。
あ、でも桜緑茶とかあるわよね?
ってそれと違うから!
「やだ。私、何でノリツッコミしてるの」
少し考えて、再び彼の寝姿に目が行く。
時々、蔵におねだりされて自分から彼にキスをするときがある。
自分から進んでするのなんて・・・恥ずかしすぎて、片方の指超えたことない。
「今なら・・・寝てるし。バレ、ないわよね」
うん、アレだけ”クーちゃん“って呼んで
起きないんだから、寝てるわね・・・よし!
私はとりあえず辺りを見渡し(する必要はまったくないんだけど)
ゆっくり寝ている彼に近づき――――。
「クーちゃん・・・・好きだよ」
優しく、唇を重ねた。
10秒ほど、唇を重ね離れた。
桜味か・・・うん、分かんなかった。
でも、何か良い匂いはした・・・多分桜の匂いね。
それとも彼の優しい匂い?・・・まぁどっちかよねきっと。
「もう、起きなさいよ。・・・・・・せっかくの、お茶・・・・・・台無しじゃない」
なんだか人が寝てると、こっちまで眠たくなってきた。
私はベッドで眠る彼を見るように、ゆっくりと目が閉じていく。
こうなったら・・・後で蔵にいっぱいわがまま言って困らせてやる!と
そう心に誓いながら・・・・・・春の優しい光を浴びながら眠った。
「・・・・・・はぁ」
ようやく眠ったか?
顔を少し上げると、はスリープモードに入ったことを確認できた。
俺は上げていた顔をベッドに戻し天井を見る
「・・・・・やりすぎやで、」
すんません・・・寝たフリしてました。
がお茶持ってくるーって言うて
中々帰ってけぇへんから、目でも閉じとこ思て
でも5分程度寝とったわ。
が戻ってくる音には気ぃついた。
此処はがどんな行動を起こすか寝たフリしとこと思い
俺はしばらく寝たフリをしとった。
頬でもつねたら目、クワッ!って光らせて起きたろと思ったが
予想だにしない行動をはとりよった。
「アカンやろ・・・クーちゃんって言うんは」
まさか彼女からそう呼ばれる日が来るなんて思てへんかった。
大抵お母ちゃんや、妹の友香里・・・それからまぁある程度
顔見知った人たちから俺はそう呼ばれとる。
に「いっぺんでえぇからクーちゃん呼んで」って言うたら
「バカ蔵ノ介だったら呼べる」と毒舌で返された。
だが、まさかこんなときに呼ばれるとは。
「それで好きとか言いなや。ホンマそのまま心臓止まりそうやったで」
いや、止まってもえぇ勢いやった。
クーちゃん呼びのシメに・・・それ呼びで好きっちゅうのは
かなり反則技・・・俺一発でKO。
『クーちゃん・・・・好きだよ』
「ヤバイ・・・思い出しただけで、体熱いわ」
優しく言われた言葉に、重なった柔らかい彼女の唇。
桜の花びらの味すら分からんくらい・・・・・・体が、唇が熱い。
「アカン・・・俺、コイツ起きたときまともに顔見れへんかも」
愛しい彼女が起きたとき
俺は絶対、さっきのことを思い出して顔が見れへん。と思う。
だから起きるまで・・・何としてでも
この気持ちバレない様に・・・落ち着かせたらなアカンやん。
「ホンマ・・・後で倍返しさせてもらうで、」
こんな気持ちにしたのは自分のせいや。
起きたら、めいいっぱい・・・・・・愛で倍返し、させてもらうで。
(桜が咲いた。花びらヒラヒラ、僕はキミにクラクラ)