「ねぇ、蔵は・・・母の日、お母さんに何あげてる?」
「いきなりなんやの?」
「いや、だって今日母の日だから」
の言葉に、白石は疑問の声を返した。
「おぉ、そういえばそやなぁ・・・忘れてたわ」
「せっかく産んでくれて、こんなイケメンに育ててもらったんだから母親に感謝したら?」
「別にイケメンに育ててもらった覚えないわ。しぜーんとこうなったんや」
「はいはい。で、私の質問に答えなさい」
白石の言葉に、はばっさりと切り捨て
すぐさま自分の持ち出した話題に戻す。
「いつものことや」と白石は心の中で言い聞かせ
咳を一つ、起こして―――。
「やっぱり、カーネーションが定番とちゃう?俺はよぉカーネーション、お母ちゃんにあげるで。
友香里や姉ちゃんは色々考えてお母ちゃんにあげるけどな」
「んー・・・カーネーションはお父さんがあげるから。私があげたらお母さんが困っちゃう」
「困る?何で、カーネーションやるだけでのお母ちゃんが困んねん?」
の言葉に、白石は小さく笑いながら尋ねる。
カーネーションをあげるだけというのに、それを貰って
何故に困るのだろうか・・・と。白石は心の中でそう思っていた。
「お父さん、毎年お母さんにカーネーションがあるんだけど」
「ど。・・・何やねん?」
「色とりどり、様々な種類のカーネーションをたっくさんお母さんにあげるの。赤に限らず、色々ね。
去年は赤だけだったけど、数が尋常じゃなかったなぁ・・・確か100はあった」
「カーネーション100本?」
「そう、カーネーション100本。今年、お手伝いさんたちがかなりバタバタ動き回ってるから
また多分色んなカーネーション取り揃えたんだろうなぁ」
は当たり前のようにそれを口にするが
一般家庭に育つ白石からしてみれば、お金持ちの世界が未だに分からない。
ナニワのおばちゃんでもケチるのに、お金持ちはやはりやることが全体的に派手である。
「お金持ちの考えてることが時々分からんわ」
「うるさいなぁ。ていうか困ってるのよ。毎年お父さんがカーネーションあげるから、私があげるものないの。
ほら、私の恋人なら知恵貸しなさいよ・・・その頭はテニスするだけの脳みそじゃないでしょ?」
「おーい。とりあえず大学行けてる脳みそなんやから人並みに知識も入ってます」
「ゴメン、ただのテニスバカにしか見えないから。つい口が滑った」
「知恵貸したらんぞ」
「それ言われたら元も子もないわ。ごめんなさい・・・・・・これでいい?」
「ま、まぁ・・・許したるわ」
まさか素直に謝ってくるとは
思ってなかった白石は思わず素直になったにドキッとするも
それを何とかオモテに出さず、胸の内に仕舞いこんだ。
「せやなぁ・・・・他の花は?バラとか、チューリップとか。この時期からすると
クレマチスに、ダリアに、マダガスカルジャスミン、それから胡蝶蘭くらいやな。
見栄え考えるんやったら、ホレ・・・えーっと、そうそう・・・アンスリューム。ハートの形してて可愛えぇで」
「・・・さすが伊達に植物図鑑読んでないわね」
白石の愛読書、植物図鑑がこの時役に立つとは・・・とは思った。
しかし此処まで記憶してる彼がある意味スゴ技である。
「毒草調べるついでに、色々と覚えんねん。まぁ俺のメインは毒草やけどな」
「蔵が言って並べた花もいいわね。ねぇ、食べ物とかはどうかな?」
「それでもえぇんとちゃう?のお母ちゃん、お酒とか飲まんのん?女性向けのワインとかあるやん」
「お母さんあんまり飲まない。飲める人だけど飲まないんだって」
「結構難しいなぁ。カーネーション、お父ちゃんに取られてたら困るなぁ」
「ホント毎年考えるの苦労するわよ」
は苦笑を浮かべながら、部屋の本棚から本を取り出し捲る。
ふと、白石は思う。
「ちゅうか、えらいこだわってるな」
「何が?」
「母の日。あんま、こういう記念日とか・・・こだわったりせぇへんやろ?
まぁ俺の誕生日は覚えててくれて嬉しいんやけど・・・・母の日とか、父の日とか・・・知らんかったらスルーやん?
毎年あげてるって言うから・・・珍しいなぁ思て」
白石の言葉に、は固まり・・・本を閉じた。
「?」
「生まれも分からない子供を、此処まで育てる親なんて・・・居ないわ。むしろ血が繋がってないから
育児放棄されてもおかしくないのよ・・・私みたいな子は」
はそう重々しく、口から言葉を零す。
「生まれも分からなければ、自分と血も繋がっていない子供を育てる人って
本当に、私にとっては嬉しいことなの・・・親の顔も知らない私にとってはね。だから、こだわってるのよ。
幼稚園、小学校、中学校、高校、大学・・・・・・此処まで大きくなれたのはお母さんのおかげだし。
もちろん、お父さんの力もそうだし。まだ一人立ちできない私には・・・こういう恩返しの仕方しかないの。
どう返していいのか、まだ分からないままだけど」
「そういう恩返しもえぇんとちゃうん。そうやってしてもらえるだけで
のお父ちゃんもお母ちゃんも幸せやと思うで。むしろ、せんかったら親不孝モンやな」
「・・・そうね」
白石の言葉に、は優しく彼に微笑みかけた。
瞬間、白石は手を叩き・・・重苦しい空気を払った。
「辛気臭い話はやめやめ。母の日のプレゼント考えようや」
「うん。・・・・・・でも、ホント何がいいかなぁ」
「あ、一つだけ・・・絶対、のお母ちゃんが喜びそうなモン思いついたわ」
「え?何それ?」
突然の白石の発言に、は目を丸くして彼を見る。
すると彼は笑みを浮かべながら、手招きをする。
その手招きに導かれるようには、白石の元へと行き――――。
「きゃっ?!・・・ちょっ、く、蔵?!」
腕を引っ張られ、抱きしめられる。
「俺らが」
「な、何?」
「早よぉ孫の顔見せたればえぇねん」
「はぁ!?ちょっ、な、何言ってんの!!」
白石の爆弾発言(?)には思わず慌てる。
「喜ぶ方法って言うたらもうこれしかないやん。子供出来たーって言うたら、のお母ちゃん絶対喜ぶで」
「バカなこと言ってんじゃないわよ・・・って、服の中に手を入れるな!」
「お母ちゃんはな、子供出来たら次に望むんは孫やで。俺らもえぇ年頃やし」
「まだ大学生です!」
「早いうちの結婚はえぇこっちゃで。自分トコのお父ちゃんとお母ちゃんいくつで結婚したん?」
「えーっと、26だったかなぁ〜・・・って言わせないで!!それとこれとは話が違う!!」
は何とか白石の説得をするも
白石はの声も耳に入れず、彼女の服の中に手を入れ
体中をまさぐる。
「やっ・・・やだっ・・・く、蔵っ」
「先に子供作ってしまえば・・・でき婚で、俺ら結婚できるで。んで子供も生まれて、ハッピーエンドや」
「ふざけるな」
「えぇやん・・・子供つくろうや、。んで、のお母ちゃん喜ばせたろ。
大丈夫や。俺と自分との間に出来た子供やし・・・俺はすぐに認知するで。もう即結婚ありやで」
「死ね、この毒草バカが・・・ちょっ、あっ・・・やめっ」
「ほな、今から頑張って子作り・・・しような、」
そう言って白石は満足そうに
を抱きかかえ、そのまま2人ベッドに沈んだ。
「お母さん・・・どうしたんだい?えらくニコニコしてるようだけど」
「奥様、いかがなされましたか?」
「旦那さんと孫の顔を見るのも近いかもしれないですよ」
「「は?」」
「ウフフ・・・母の日っていいですね」
「「は、はぁ」」
(それは赤いカーネーションにこめられた言葉)