「うわっ、どないしたん!?その左目」





ある日の廊下。

相変わらず毎時間の休み時間・・・俺のところにやって来る
を迎えた。


だが、1時間目の休み時間・・・迎えた彼女の
左目には目を隠すほどの眼帯があった。





「あぁ、コレ?ものもらいしちゃってね」


「もの?・・・あぁ、めばちこやな」


「め、めば?・・・・・・な、何それ?」


「ものもらいのこと。大阪で”めばちこ“言うねん」





俺がそう言うと、はポカーンとした表情で俺を見ていた。

ちゅうか、眼帯してる可愛いなぁ。
なんちゅうか・・・ちっちゃい女の子みたいで
ついつい一緒に行動したくなるわ。


と、俺は心の中で惚気を零した。





「そういえば、侑士もそんなこと言ってたわね」

「謙也のイトコやな。・・・ちゅうか、大丈夫なんか?めばちこ・・・痛たない?」

「別に痛くはないけど・・・あのさ、その”めばちこ“って言うのやめてくれない?何かヤダ」




俺がを心配していると
彼女は突如として「めばちこって言うのやめろ」と言い出した。






「何で?」


「何かヤダ」


「えぇやん。めばちこは、めばちこや」


「そりゃあそうだけど・・・出来たらものもらいって言って欲しい。めばちこはヤダ」


「そっちの、もの・・・なんちゃらのほうがしっくりけぇへん。めばちこがえぇ」


「あーヤダヤダ。もう耳塞ぎたくなってきた」





俺がめばちこと連呼すると
は耳を塞ぎ始める。

何やねん・・・何がイヤで、そないなことすんねん。


ちょっと関西人としてのプライドが傷つくわ。








「おー、白石にたい」


「あ、千歳だ」

「よぉ。今日は学校来てんねんな」




すると、珍しく千歳が学校に姿を現し
俺らの前にやって来た。




「たまには顔ば出さんとね」


「いや、毎日来ようよ」
の言うことはもっともやで、千歳」


「よかとよかと。・・・ん?、お前さんどぎゃんかしたと?」




千歳もの左目の眼帯を見て、すぐさま問いかけた。





「ものもらい、出来ちゃって」


「あぁ、おひめさんが出来たとね?」


「ホラ、こっちのほうが聞こえが良い」


「えぇええ!?」




千歳の口から零れた言葉に
は指を差しながら、俺を見る。




「な、何ね?」


「いや・・・ものもらいのことを、大阪じゃ”めばちこ“って言うらしくて」


「熊本じゃ”おひめさん“あと、”おひめさま“って言いよったい。大阪じゃ・・・め、めばちこって言うとね?」


「せや。地方によって言い方がちゃうねんな・・・初めて知ったわ」


「そうみたい。できたら”おひめさん“が良い・・・そっちの方が聞こえが良い」




はそう言いながら千歳を見上げる。

すると、千歳はの視線に気づいたのか
にっこりと笑いながら、彼女の頭に手を置く。





「まぁ、はキレ(綺麗)かけんが”おひめさん“って言っても良かかんしれんね」


「理解者が居た。千歳は分かるねぇ〜」


「おーい、自分の彼氏こっちやぞ。別にえぇやんか・・・病気は一緒なんやから」


「でも、女子としては”めばちこ“よりも”おひめさん“って言われたほうがまだ良い。だってそっちのほうが可愛いもん」


「お嬢様・・・ヘンなトコでワガママやな」


「うるさいなぁ・・・いいでしょ、別に」





俺がそう言うと、はそっぽ向いた。

あ、アカン・・・ご機嫌ななめモードに入ってしもた。






「まぁ、どっちにしろ・・・早よ治さんばね」


「うん、ありがとう千歳」





俺に対してご機嫌ななめモードに入ったやけど
千歳が頭を撫でながら言うと、は素直にそれを受け入れる。


温度・・・温度差を感じるで。


自分の彼氏、俺やぞ!!!


俺が嫉妬の眼差しを千歳に向けると
千歳はそれに気づいたんか、すぐさまの頭から手を離す。






「じゃ、じゃあ・・・俺、行くけん」


「ドコに?」

「お前・・・また授業サボる気か?」


「1時間出れば充分たい・・・んなね(じゃあね)!」






そう言って千歳は、自分の教室とは逆の方向に歩いて行った。
ホンマ・・・アイツの放浪癖、誰かどうにかしたれよ・・・と心の中で思た。






「じゃあ、私も教室に戻る」

「えぇけど・・・大丈夫なんか?その目で」





一通り、話しが終わるとも自分の教室に戻ると言う。


戻るんは仕方ないことやけど
左目隠れてて、まともに歩けるんか?と俺は心の中で呟いた。







「8組の教室から此処まで来れたんだから、大丈夫」


「んー、でも心配や。俺が教室まで送ったるわ」


「平気だって。蔵が授業に遅れるわよ」


「かまへん。大事な彼女、怪我させたらアカンやろ?」


「別に怪我しないし」


「えぇから。ほら、行くで」


「あっ、ちょっ・・・ちょっと、蔵っ!?」






拒否るの言葉を振り切り
俺は彼女の手を握って、引っ張りながら8組の教室へと向かう。







「別にいいってば」


「アーカーン。さっきも言うたけど、転んだりしたらどないすんねん」


「だから、別に」


「気ぃついてないと思いなや。左の膝・・・赤こぉなってるで。どっかの壁にぶつけたんやろ?」


「・・・そ、それは・・・」





気づいてない振りしとったけど
が2組の教室来る前・・・膝が少し赤くなってるのが見えた。

多分、距離感掴めんで壁に足ぶつけた跡やと思う。





「無理して来んでもえぇし、メールしてくれたら俺が8組まで行ったんに・・・何でせぇへんねん」


「大したことじゃないし」


「足ぶつけといて、大したことやないですませんな。コレで済んだからえぇけど
階段から滑り落ちたりしたらどないすんねん。それこそ大怪我モンやで?」


「・・す、すいません」


「素直でよろしい」




そうこう話しているうちに
8組の教室間近になる。

近い距離までやったらもうえぇやろ・・・というので
俺は握っていたの手を離した。





「次の時間からは俺が此処来る、動いたらアカンで」


「はい」


「ホンマに・・・病気してるときだけ素直やな


「うるさい。隙だらけになるから、大人しくしてるだけよ」






まぁ、そういう隙だらけ過ぎるのも
こっちとしては若干困りモンではあるんやけどな・・・・なんて言うたら
確実にご機嫌ななめから、お怒りモードに突入しかねんから、言わんとこ。






「ま、えぇか。・・・・お、せや忘れるところやったわ」


「は?何が?」


「エェ事や」


「え?」






”エェ事“と言葉を濁し、俺はの左目の眼帯上からキスを落とした。





「ちょっ!?な、何すんの!!感染(うつ)ったらどうすんのよ!!」


「感染(うつ)らんように眼帯してんねやろ?」


「ま、そりゃそう・・・って、そうじゃない!!・・・何で、キ、キス」


「口が良かったか?」


「ぶっ飛ばすわよ」


「勘弁してくれ」





冗談やんか・・・まぁ半分、本気やけど。


眼帯に落としたキスにはものごっつ顔を真っ赤に染めた。





「ほれ、おまじないや・・・おまじない」


「おまじ、ない?」


「せやで。・・・早く治ってや・・・おひめさんって願いこめたんや。じゃ、俺教室戻るな」


「あ・・・あっ、あのさ蔵!」


「ん?何や、?」




教室に戻ろうとした瞬間、が俺を呼びとめる。











「どっちの”おひめさん“?」


「・・・・・・さぁ、どっちやろうなぁ〜・・・自分で考えてみ。ほなな!」


「あっ、ちょっと!!」





質問を俺は中途半端に答え、その場を去った。

多分、めっちゃ悔しそうな顔してるか・・・それとも
顔真っ赤にして其処に立ち尽くしてるかのどっちかやろうなぁ・・・なんて、俺はそう思た。










「おひめさんなぁ〜・・・。んんーっ・・・絶頂(エクスタシー)な響きでコレもえぇなぁ」










左目に隠れた小さなおひめさま・・・それが完全に癒えた頃には
麗しい、俺だけを映す・・・お姫様の眼(まなこ)が姿を現すに違いないな。





(じゃあ、今度から”めばちこ“やのぅて”おひめさん“言うたるわ。愛込みでな)

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