「先輩」
「おぉ、どうした光?」
「出雲って知ってますかぁ?」
「出雲?あぁ・・・島根県のことでしょ?どうしたの、其処が」
「ほな、ぜんざい食べに行きませんか?」
「は?」
全ては此処から始まった。
「唐突過ぎやしないか、光」
「と言いつつ、来た先輩もおかしな人ですわ」
とある日のこと。
俺と先輩は島根県にやってきた。
俺の唐突な一言「ぜんざいが食べたい」と声で
コレが現実となった。
最初は呆れて「は?」とか言いはった先輩。
せやけどノコノコと空港まで来て、今現在俺と同じ場所に立ってる。
「女子は甘いものが好きなの。それにぜんざいは出雲発祥だからね、本場を味わってみたいじゃない」
「何や、先輩もテレビ観てたんですか?」
「は?何の話?・・・私は本とか読んで知ってるのよ」
「よかった」
「え?何か言ったか光?」
「何でもないですわ」
そう、俺は丁度テレビを見て
出雲=ぜんざいというので突発的に食べたなった。
最初は一人で行こう、考えたけど
一人で行っても面白みないし、テニ部のメンバーで行くとやかましい。
それに出雲には、特別な神様が居る・・・らしい。
それやったら先輩がえぇ。と俺はすぐさま判断し
かの人を誘った。
が、しかし――――。
「白石部長には何て言うたんですかぁ?」
「は?あぁ・・・蔵には幼馴染と出雲に行ってくるって言ってきた。
前にも謙也と出掛けるって言ったらアイツ、めちゃくちゃ反対してきたからね。
ホントたまにイヤになるわアイツの私依存」
そう、この人は白石部長とお付き合いしてる。
それに白石部長が一番に溺愛する人。
あの部長がウザイほど先輩にはベタベタしてはる。
ホンマ、見てて「イラッ」ってするくらい。
あの人は・・・先輩を独占して、誰にも渡さんようしてる。
あぁホンマ、イラッってするわぁ・・・あの人。
「まぁたまにはね、後輩の相手をしてあげるのも先輩の役目ですから」
「完璧上目線ですね、先輩」
「当たり前でしょ。アンタよりも1つしか学年変わらないけど、先輩は先輩だからね。
まぁ今日は、光君・・・私にたっぷり甘えたまえ」
そう言って先輩は俺の頭を背伸びして、手先で撫でた。
「やめて欲しいっすわ、先輩」
「アハハ、光はこういうのイヤそうだもんね。まぁ時期部長の財前光君に今日は特別
私がぜんざいをご馳走しちゃおうじゃない」
「誘ったの、俺なんすけど」
「細かい事気にしない。ほら、行くよ」
先輩は笑顔で俺の前を歩く。
ふと、先ほど撫でられた頭に自分の手を置く。
初めて、あの人に頭・・・撫でてもろた。
嬉しくて、俺は小さく笑った。
先輩はいつも、白石部長の隣に居るから
俺とか絶対に眼中にないんやろうなぁって思てたけど
こうやって、先輩の優しさに触れられると思うと・・・それだけで嬉しいし、心が弾む。
「光ーっ、行くよー!」
「先輩歩くの早いっすわ」
いつの間にか、ちょっと小さくなった先輩の姿に
俺は急いで先輩の隣へと向かうのだった。
「お待たせしました、こちらが出雲ぜんざいになります」
「わぁ!本場のぜんざい」
「へぇ結構シンプルっすね」
出雲に来て早々、ぜんざいを食べるのは流石にムードとして
アカンと俺は判断し、先に名物である出雲大社へと足を運び
二人で出雲大社をグルグル回った後、出雲ぜんざいを振舞う店にとやってきた。
しばらくして、店員が両手にお盆2つ持って
俺らの席へと、それを置いて引っ込んだ。
「紅白餅なんだねぇ〜」
「白い餅しか俺、知らなかったっすわ」
「赤が入ると何か可愛い。ほら、食べよう光」
「先輩、先食べて良いっすわ」
「バーカ、私がご馳走するんだから光が先に食べなさい」
多分俺が此処で反抗(?)しても
この人の言葉には俺は絶対に勝てへんような気ぃするから
大人しくぜんざいの入った器を持ち、食べる。
「どう?」
「美味いっすわ」
「どれどれ、私も。いただきまーす」
俺が「美味い」と言うと先輩は嬉しそうにぜんざいを頬張り始めた。
何や、えらい幸せそうな顔してる。
ホンマに女子って甘いもん、好きやねんなぁ。
「それにしても、先輩・・・色々知ってはるんですね」
「ん?あぁ、ほとんど本とか読んで入れた知識だから。ちょっと今とは違うかもしれないけどさ」
此処に来る前、出雲大社に寄った俺と先輩。
そこで先輩は俺に出雲大社の歴史とか、めちゃくちゃ詳しい事を教えてくれた。
ホンマ・・・金色先輩と張るだけの頭してへんわ。
と、俺はこの時この人の凄さを思い知った。
「旅行とかで来てると思てました」
「旅行では2回しか来てないから。後は全部本だよ。
ぜんざいもね、元々は神在(じんざい)って言われてたんだよ」
「ジンザイ?何ですのそれ?」
「さっき行った出雲大社。あそこでね神在祭っていう神事が執り行われるのよ。
その御祭りの際に振舞われるのが神在餅(じんざいもち)って言うの。
それが出雲弁で鈍って、ずんざいから・・・今私達が言う”ぜんざい“になったの。
まぁぜんざいになった頃に、京都のほうに伝えられてたんだけどね」
「へぇ〜」
「ほら、よくさ国語で覚えされられなかった?睦月、如月、弥生〜って」
「あぁ・・・はい」
「あれの10月が神無月(かんなづき)って、言うけど。出雲地方じゃ神在月(かみありづき)って言うのよ。
全国の神様が1年の事を集まって話し合うために、出雲大社に集まるのよ。
それで他の地方の神様達は居なくなるの。
だから、他の地方じゃ神様が居なくなるから神無月(かんなづき)。
出雲地方に地方の神様が集まってくるから、神在月(かみありづき)って言うのよ。
まぁコレって色々諸説あるから、どれが有力って言いにくいんだけどね」
そう言って先輩は、ぜんざいのおわんを持って
スプーンで小豆を掬い上げ、口に頬張る。
俺は思わず口が開きっぱなしになる。
「ん?どうした、光?」
「いや、ホンマ・・・・・先輩、凄いっすわ。ただのお嬢様やなかったんですね」
「あのね・・・お嬢様だからって世間知らずと思われちゃ困るのよ。まったく、お前も蔵と同じ事言うな。
ホント現部長と時期部長揃って同じ事言うんだから、アンタ達性格上似てなくても何か同じよね」
「あの人と一緒にして欲しくないっすわ」
「まぁそれもそうね」
しばらく二人でそこでのんびりした。
出る際、お勘定しよう思たら先輩に伝票を奪われ
「ご馳走するって言ったでしょ?」と笑顔で言われてしまい
俺はそれに甘えてしもた。
せっかく、デート・・・誘ったんに。
此処は意地でも俺が払うべきやったんやなぁと
そこら辺・・・多分俺、白石部長との差があんねんと思てしもた。
「んで、次は何処行くの?」
「俺、行きたいところあるんですけど・・・えぇですか?」
「うん、何処?」
「ちょっとこっから遠くなんですけど、まぁ行きが飛行機やったんで
次の場所空港から近いといえば近いですわ」
「へぇ〜・・・じゃあ行こう!」
俺がそう言うと先輩は楽しそうに俺に言う。
今日、一日だけ・・・この人の隣、歩ける俺って・・・幸せモンやなぁって思た。
まぁ白石部長にバレたときは、本気で逃げよ。と心の中で誓う。
「八重垣神社?・・・知らない名前の神社」
「先輩にも分からんものってあるんっすね」
「うん、此処知らない。何の神社?」
「秘密っすわ」
そう、俺はぜんざいと・・・此処に先輩と来たくて、誘った。
まぁ偶然テレビで出雲の色んなところ放送してたっちゅうのもあるんやけど
俺は此処に・・・先輩と来たかった。
境内や本殿を回っていると、先輩の足が止まる。
「先輩、どないしたんすか?」
「稲田姫命(いなだひめのみこと)?ん?・・・どっかで見たことあるぞこの名前」
先輩の言葉に俺はドキッとする。
てか、気づくの早いっすわ先輩。
「八重垣神社・・・稲田姫命・・・・・・・・・あ」
ヤバイ。
「光・・・此処・・・・・・縁結びで有名な神社じゃなかったっけ?」
先輩は無表情でそれを俺に言い放つ。
当たりっすわ。
ホンマ頭良いのはえぇけど・・・此処まで回転早いと
黙って連れてきた意味ないわ。
何処となく、この秀才がこういうときに強い事が分かった
多分、白石部長もある意味この人のこういうところには勝てんと思た。
「縁結びか〜。もしかして、光・・・お前、好きな子でも居るの!?」
「いや・・・まぁ・・・」
先輩は驚きながら俺に言う。
てか、先輩の事言うてるんですけど。
「可愛いなぁ、光〜。よしよし、じゃあちょっと待ってなさい」
「あ、先輩何処に・・・って、人の話聞いてへんし」
そう言って先輩は俺の隣を離れ、境内にへと走って行った。
自分でもちょっとかっこ悪いことしてる思た。
別に神さんに頼まんと、白石部長に正々堂々と勝負挑めば済む話。
なんやけど、何か・・・・・それ、出来ひん。
先輩の事考えたら・・・何か、出来ひん。
あの人はあの人で、何だかんだ言うても白石部長の事好きやし。
それ考えて、俺が白石部長傷つけたら・・・・・先輩、きっと泣く。
いつも無表情で、でも時々笑ってくれる表情見てたら
俺・・・足が止まって、何も言えんくなる。
「おまたせー。・・・はい、光にコレ」
「え?」
すると、先輩の手にお守り。
俺はゆっくりとそれを受け取る。
「縁結びのお守り。ホントは此処の奥の院の鏡の池で縁占いするほうがいいんだけど
光、何かそういう柄じゃないでしょ?むしろ恥ずかしがってしなさそうだし」
「よ、余計なお世話っすわ先輩」
「アハハハ・・・だからお守り。これ、持っておきなさい・・・きっと、光の好きな子に
繋いでくれると思うから・・・しっかり持っておくのよ」
そう言って先輩は俺に深い赤をした、俺の好きそうな色のお守りを渡した。
すると、ちらっと左手に青のお守り。
「あれ?先輩も、お守り」
すると、先輩の左手に俺のとは色違いのお守りが握られとった。
「え?あぁ・・・そうそう、光と色違い。あれ?イヤだった?」
「・・・い、いえ」
先輩と色違いって・・・何や嬉しいかも。
俺は貰ったお守りをジッと見つめる。
「せっかく出雲まで来たんだし、こういうのは記念ね。手ぶらで帰るとか、楽しんだ記憶なくなるじゃない」
「・・・・・・・・・」
「私と色違いでいらないとか思って捨てたら、罰当たりになるからね。それだけはやめなさい・・・いいわね」
「・・・・・・はぃ」
「あら、やけに素直ね。まいっか・・・明日も学校だから帰ろうか」
「あの、先輩・・・一つ、えぇですか?」
「ん?何?」
「手・・・繋いでもえぇですか?」
今日だけ、もし、ワガママが言えるとしたら
多くは望まん。
小さな望みから、少しずつ・・・繋げていきたい。
俺の想い、きっと、いつか・・・アナタの心に届くよう。
「珍しい。まぁそういう光もたまにはいいよね、いいよ・・・はい」
「どうも、です」
差し出された手に俺は自分の手を重ねる。
初めて握った、先輩の手。
いつも独占されて、何も出来なくて届かなかったぬくもり。
左手に、大好きな人の手。
右手に、繋がれと望み託したお守り。
「先輩の手、ぬくいっすわ」
「よく子供体温って言われる。冬場は抱きついたら温かいわよ〜」
「ほな、俺の人間湯たんぽになってください」
「だめ家族限定だから」
「酷いっすわ、先輩」
そう言って二人で、他愛もない話をして
神さんたちが集う場所から、また人一番やかましい場所へと戻るのやった。
−次の日−
「白石部長」
「おぉ、光やんか。どないした?」
次の日、俺は白石部長の前に立つ。
平然と相変わらず爽やか過ぎる顔。
この顔からすると、昨日の事知らんようやな。
ふと、目に飛び込んできた緑色の小さな色の袋。
「白石部長、それ」
「ん?あぁ、コレな。朝からが俺にやる言うてな、貰たんや。
昨日、幼馴染さんと出雲行った言うから・・・お守りやって。ホンマ可愛らしい事してくれるでお嬢様。
何のお守りか、教えてくれへんかったけど・・・きっと縁起のえぇお守りなんやろうな〜って」
「あ、そっすか」
「もうちょっとツッコミ入れれや、光」
そう言いながら白石部長は俺に
先輩から貰った緑色のお守りを俺に見せびらかす。
先輩、昨日あんなん持ってなかった。
多分出雲大社に行ったときにでも買うたんやろうな。と思た。
先輩が白石部長に何も買って帰らんワケない。
多分アレも・・・・・・縁結び。
出雲大社もそういう縁起物の売ってたし。
でも、俺が持ってるのは・・・一番効くねん。
それに、先輩とお揃いやもん。
出雲大社の神さんよりも、めっちゃ縁起のエェとこの神さんなんですよ。
と、心の中敵対心をむき出してみた。
「で、俺に何か用か?」
「あの俺・・・部長に負けんようします」
「アハハ、何や急に。そういうのは、俺らが卒業するときに」
「俺!・・・・・・俺、部長に絶対に負けません。これから先ずっと」
「・・・ひ、光?」
「負けませんよ、絶対に。いつか部長を追い抜いて」
あの人
―先輩、貰いますわ―
「追い抜いて、部長の鼻・・・へし折ります」
「・・・へぇ・・・おもろい事言うな、光。まぁ楽しみにしてるで」
「それだけですわ。失礼します」
俺はとりあえず、頭を下げてその場を去る。
最後の言葉、俺の考えが分かったのか何なのか分からん。
たまにあの人自分の胸の内、隠すからムカつくわ。
でも、でも俺・・・きっと頑張れる。
俺は立ち止まり、ポケットに手を入れ・・・再び出す。
昨日先輩に貰た、縁結びの赤色のお守り。
『きっと、光の好きな子に繋いでくれると思うから・・・しっかり持っておくのよ』
もちろん、ずっと持っときますよ。
だって俺の好きな子は・・・・・・先輩、自分なんすから。
先輩とずっと繋がっておれるなら・・・絶対にコレ、手離したりしません。
せやから、待っててください。
あの人に追いついて、負かしたとき
そのときは、俺の気持ち・・・聞いてください。
『俺・・・先輩の事・・・好きっすわ』
(しっかり持っときます。せやから、神さん俺にちゃんと味方してくれや)