それは、きっと、天使がくれた幸せの石。
「おい、あれの家の黒塗りベンツとちゃうん?」
「あ、ホンマや」
部活が終わったある日。
テニスコートから俺らはバッグを担いで出ると
校門に、のお迎えの黒塗りベンツが止まってた。
でも、おかしい。
「あれ?今日早よう帰ったんとちゃうん?」
「せや。アイツもう帰ったはずや。俺見送ったの覚えてる」
そう、は先に帰った。
何でも用事がある言うて、そそくさと帰って行った。
その時に黒塗りベンツまで見送ったのは覚えてる。それだというのに
何故またこんな時間に、この車が此処にあるのかが謎でたまらん。
すると、黒塗りベンツの後部座席の窓が開く。
「白石く〜ん」
「あ、のお母ちゃん」
後部座席の窓が開くと、そこからのお母ちゃんが顔を出して
俺を呼び、そして手招きをしとった。
え?つまり俺に来いっちゅうことか?
俺はとりあえず、メンバーと別れて黒塗りベンツの元へと急ぐ。
「どうも、こんばんわ」
「えぇこんばんわ。白石君、これから帰り?」
「そうですけど。あの何か?」
未だに分からん。
何でこの人がこないな所に居るのかが。
すると突然後部座席の扉が開いた。
「乗って」
「へ?」
「いいから乗って白石君」
「いや、あのでも・・・」
「白石様、失礼いたします」
「へ?・・・ちょっ、どわっ!?」
すると、突然後ろから押されて車内に。
体が全部車の中に入ると、ドアが勝手に閉まった。
運転手さんに、無理矢理押された。
そして、俺は車の中に押し込まれたっちゅーわけや。
「魁、出して」
「かしこまりました奥様」
わけも分からず突然車は走り出した。
ちゅうか、押し込まれたときに思いっきり座席に鼻ぶつけた。
めっちゃ痛い。
いやいや、今はそれを痛がってる場合とちゃう。
俺はぶつけた鼻をさすりながら、のお母ちゃんを見上げる。
「あ、あの・・・一体、何処に?」
「そうね、とりあえずその格好じゃなんだから、スーツを買いに行こうかしら?それから〜」
「ちょっ、ちょっちょっ、待ってください!」
「どうしたの白石君?」
俺は思わずのお母ちゃんの話を中断した。
待て、何故でそうなるんや?
この格好って・・・そらぁ制服やからしゃあないねんけど
何でそれでスーツ?しかも買うとか・・・。
「あの、どういうことなんですの?スーツとか」
「今日はね〜ウチでパーティをするのよ、ちゃんのお誕生日会」
「へぇ、のお誕生日会・・・・・・・・・・・・え?」
のお誕生日、会?
え?てか、アイツ・・・今日、誕生日なん?
それを知った瞬間、俺の全身の血の気が引いた。
「あら?白石君、もしかして・・・知らなかった?」
「え?!・・・あっ、あのっ・・・そ、の・・・・・・・・・すんません」
「そうよねぇ〜知らなくて当然かもね。ちゃんあんまり自分から言う子じゃないし。
何せ私達がちゃんのお誕生日知ったのは、小学校5年生のときだから」
「そ、そうなんですか?」
俺は押し込まれた体勢(つまり倒れてる体勢や)から
ようやく体を起き上がらせ、のお母ちゃんと目線を合わせるように
座席に座った。
「いつ生まれたとか、よく知らなくてね。それでちゃんが5年生の頃に
施設から届いたバースデイカードを見てこの子が今日誕生日って知ったの。ワケを聞いたら
”何となく言い出すタイミングが無かった“って。そのときの私達の忙しさとかを見たらきっと
ちゃん言い出せなかったのよね。それ以降かしら、誕生日にはねお客さんたーくさん呼んで
パーティしましょうって決めてるの。それで今回は何かサプライズが欲しくて、白石君を呼んじゃいましょうって
主人と言ってたのよ」
「なるほど、それで・・・スーツ」
ようやく話しが掴めた。
俺はどうやらの誕生日のサプライズゲストらしい。
まぁ俺自身、今日がの誕生日ってのが一番のサプライズやったけどな。
「あ、それやったら家に一回寄らせてください。父親のスーツとかあるし」
「あーん、もう行きつけのお店に着いちゃうから無理。新しく買ってあげるわ」
「いや、えぇですよそんな!てか、買ってもらったりなんかしたら悪いですって」
「だって、白石君はちゃんの未来のお婿さんだもん、何でもしてあげたくなっちゃうの」
「あの、せやけど・・・何や、悪いですってホンマに」
「いいの。これくらいしか、私も主人もできないのよ。ちゃんにしてあげれることって」
すると、のお母ちゃんは目を閉じてゆっくりと喋る。
「ちゃんを元気にしてくれたのは白石君だから。お礼がしたいの。それにきっと白石君が
サプライズで来てくれたってだけで、ちゃん驚くし、きっと喜ぶと思うの。だからお願い」
「す、すんません・・・ホンマ、ありがとう、ございます」
「こちらこそ、ありがとうね。これからもちゃんと仲良くしてね」
そう言って、車が止まる。
どうやら、お店に着いたらしい。
あ、此処の店、何やテレビで観たことあるで。
めっちゃ高い店やんなぁ。
車が止まり、後部座席の扉が運転手さんの手によって開かれ
俺とのお母ちゃんは外に出た。
「あ。今日がちゃんの誕生日って、白石君知ったのよね」
「え?・・・えぇ、まぁ」
のお母ちゃんと肩を並べながら、お店の中に入って行く。
「じゃあ、着替えたらちょっと行くところあるから行きましょうか」
「え?・・・えぇ、あぁ・・・はい」
そう言われ、俺は返事をした。
はぁ〜・・・こんなことなら、早めに俺、から誕生日聞いとくべきやった。
そしたらちゃんとプレゼント用意出来たんに。
俺の誕生日の時も、・・・誕生日プレゼントくれた。
それやっちゅうのに、肝心の俺はプレゼントも何も用意できてないとか・・・マジ彼氏失格や。
こうなりゃ「アホ」とか「バカ」とか言われてもえぇから
「プレゼントは俺や!」とかでも言うとくか・・・・・・・・・やめとこ、何や別れ切り出されそうで怖いわ。
素直に、用意出来ひんかった・・・って言えば・・・、許してくれるかな?
「(アカン、ますます俺不安になってきた)」
「白石君、何してるの?早くこっちにいらっしゃい」
「あ、は、はい」
のお母ちゃんに呼ばれ、俺はすぐさま駆ける。
はぁ、俺・・・あいつに最高の誕生日を祝ってやれるのか自体・・・心配でたまらんわ。
せやけど、この気持ちが30分後には見事に打ち砕けた。
『本日は、私の愛娘の誕生日のために皆様お越しくださってありがとうございます。
娘もこの通り元気に育ち、今もこのようにすくすくと育っておりますので・・・・・・』
ホンマにパーティ会場に連れてこられた俺。
しかもスーツも着せられて、髪の毛もムースで固められて、挙句香水も少しかけられた。
確実に俺が中学生と思うヤツは此処には居らん。
分かってたとしても、のお父ちゃんとお母ちゃん、そして。
後はの家の人たちくらいや。
せやけど、視線が痛いわ。
今にも声掛けられそうや・・・・あー、とお喋りしたいわ。
何て、壁に寄りかかりながらオレンジジュースを口に含み
そないなことを心の中で呟いた。
周りがようやく動き出した。
のお父ちゃんもお母ちゃんも、今日が主役であるも
ステージ上から下りてきた。
俺が今近づいていったら、めっちゃ驚くかなぁ?とか
思いながら俺は壁に預けていた体を起こし、飲んでいたジュースを
近くのテーブルに置いて、のところへと行く。
が。
「なっ!?」
は1人、お父ちゃんとお母ちゃんから離れどっかに行く。
おいおい、主役どこ行ってんねん!!
もうちょっと此処居れや。せめて、俺の姿見てからどっか行くとかせぇや。
なんて悪態を付いてる場合とちゃうねん!!
俺はとにかく、の後を追うべく人ごみを掻き分けて行く。
すると、が何やら外に・・・ベランダへと向かう姿が見えた。
俺は足を急がせ、そちらに向かう。
もちろん声掛けられたけど、全部スルーや。今俺の目にはしか映ってへんから。
ベランダに出た。
白基調のミディアムドレスに施された黒のレースが同時に揺れる。
上には薄手のショールを羽織って、ベランダの手すりに掴まり遠くの景色を見ていた。
何か、その後姿がやたら寂しそうで・・・――――。
「お嬢様、こないとこ居ったら風邪引きますよ」
思わず後ろから抱きしめたくなった。
いや、もう抱きしめてるわ。
「えっ?・・・え?・・・く、蔵っ!?」
「はーい。お嬢様の愛するダーリンの白石蔵ノ介くんやで」
「え?なっ・・・何で、あんたっ・・・此処に」
「ん〜企業秘密、やな」
はそらぁもう驚いてる。
むしろ、後ろから抱きしめとる時点で
心臓飛び出るくらい驚いとるやろの場合。
「何で此処に居る?」って言われて素直に「自分のお母ちゃんに連れてこられた」とか
言えるわけないやろ。のお母ちゃんがせっかくサプライズで俺を連れて来たんやから。
「てか・・・何で、スーツ・・・」
「こういう場所で制服不釣合いやろ?スーツの方がえぇやん。それに
スーツの方が俺が中坊なんて分からんやろ?髪型も完璧(パーフェクト)にして変装完了や。
どや?大人な感じやろ」
「ていうか、アンタの場合存在自体が大人っぽいから」
「それはも一緒や。ドレスむっちゃ可愛えぇ、似合とるで」
「お、煽てても何もしないんだから」
「自分の誕生日やもんなぁ」
俺はを未だに後ろから抱きしめたまま。
せやけど、チラッとの顔を見る。
すると、目がかすかに潤んで、涙が今にも目から零れ落ちそうやった。
「?・・・自分、泣いてたん?」
「ち・・・違っ・・・目が、乾燥して・・・っ。ない、泣いてないもん」
こうやって、強がる素振りは完全に泣きそうな証拠。
何泣いてんねんこいつ。
自分の誕生日やっちゅうのに・・・泣く必要ないやん。
抱きしめる体を離し、を俺の方向に向かせる。
俺の方に体を向けるも、は顔を伏せて俺の顔を見ようとしない。
「、何で泣くねん。自分の誕生日やろ?嬉しいのに、何泣いてん?」
「ちが、違う・・・っ。泣いてないってばっ!」
そう言うの顔から、涙がポロポロ零れてきよった。
俺はそっと彼女の頬に触れた。
の顔は上がらない。
「」
「・・・ら」
「え?」
「蔵が・・・来て、くれた・・・か、ら・・・っ」
「、お前」
の口から零れた、震える声で紡がれた言葉。
零れた涙は純粋に喜んでいた証。
俺が、今、此処に居る。
此処に居って、の生まれた日を祝うという事に。
彼女はそれに嬉しくて涙を零しとった。
「何か・・・なん、か怖かった。蔵に”誕生日おめでとう“って言われないって分かってた。
だって、誕生日・・・教えてなかったから。でも、でも・・・此処に、今・・・居てくれて・・・居て、くれて・・・
それで・・・わたし、あのね・・・ゴメン・・・言葉が、上手く・・・出て、来ない」
「えぇて、別に。もう分かったから」
俺が優しく言うと、はゆっくりと顔を上げる。
目にはたくさんの涙が溢れとった。
俺はそれを優しく唇を落とし、頬を伝う涙を舌で拭った。
「せや。に、渡したいもんがあんねん」
「わ、私・・・に?」
「あ、ちょっと待っとき。ちゅうか寒いやろ、ホレ上着着とけ」
俺はまず自分のジャケットを脱いで、に羽織らせた。
10月言うてももう夜は寒いし、薄着で外出たりなんかしたら風邪引く。
俺はにジャケットを羽織らせ、ポケットから小さな箱を出しての前に出す。
「え?何これ?」
「実は・・・ホレ」
「ネックレス?」
箱の蓋を開けると、小さなネックレスが其処には収められとった。
真ん中にはハートマークの小さな石が輝いてた。
「わ、私・・・に?」
「誕生日やからなぁ。プレゼント」
「あ・・・ありがとう」
はそっとそれを受け取った。
未だにネックレスをマジマジと見とる。
「真ん中にあるちっこい石なぁ、オパールっちゅう宝石らしいで」
「へぇ〜・・・・・・えぇええ!?ちょっ、宝石っ・・・た、高いのに、どうやって・・・っ。
ね、ねぇ・・・もういい加減白状しちゃいなさいよ。スーツといい、宝石のネックレスといい・・・どうしたの?」
もう、無理・・・かなぁ。
まぁ元々嘘付くつもりはなかったし。
俺は髪の毛を少し掻き、ため息を零し
の頬を再び包み込み、おでこをつけた。
泣いた可愛らしい顔が、近くてちょっと心臓が跳ねたわ。
「実はな、俺・・・自分の誕生日知らんかったんや。自分のお母ちゃんに言われて初めて・・・知ったんや」
「でも、それは私が言ってなかったことだし・・・っ」
「それでも、俺やっぱり・・・準備もしときたかったし。、俺の誕生日のとき一生懸命考えて
プレゼントくれたやん。せやから俺もって思たのに・・・知ったの、つい数時間前で・・・。
それで、のお母ちゃんが、あれこれしてくれたんや。スーツも買うて、プレゼントも・・・」
「やっぱり、か」
「ゴメン。別に騙すつもりはなかったんや。俺は、ただ・・・・・に、喜んで、ほしゅうて・・・。
でも!でもな!!プレゼントのお金はのお母ちゃんから出してもろたけど
選んだのは俺や。それだけは履き違えんでほしい」
そう。
確かに、のお母ちゃんに何でもしてもろた。
せやけど、プレゼントの選択だけは俺がした。これは絶対に受け取って欲しいものやった。
スーツ着せられて、あの後連れて行かれた場所は宝石店。
俺はよりどりみどり、ケースの中で光り輝く宝石たちを見ていた。
でもどれをに贈ればえぇんか正直悩んどった。
でも、店員さんに「今日彼女が誕生日なんです」と伝えると
「そんならこのオパールなんかどうですか?」と言われあれやこれや話を聞いて
すぐにそれにした。
「オパールは・・・10月の誕生石でな。昔、これは虹色に輝く事から
希望を象徴とされて、幸せを招く”天使の石“って言われとったそうや」
「天使の、石」
「せや。幸せを運ぶ石としては有名で・・・他にもな、愛の宝石って言われてんねん。
それでな、何でハートマークにしたか分かるか?」
「す、好きって伝えたいから・・・?」
「ちゃうちゃう。これはなぁネックレスにしてハートマークっちゅうのにもこだわりがあんねん。
ネックレスは、自分の魅力アップや。それでハートマークっちゅうのは――――」
「二人の愛を育むっちゅう意味や」
「っ、く、蔵・・・っ、アンタまたそんな恥ずかしい事を平気で」
「自分ともっと愛を育みたいねん俺は。・・・イヤか?」
ハートの形は愛の象徴。
自分を好きな気持ち、そしてもっともっとこれからも好きで居りたいっちゅう気持ち。
俺のその気持ちと、宝石との気持ちが合致して、今此処にあんねん。
「いいの?貰って」
「貰って欲しい。の誕生日やもん・・・貰って、俺の愛の結晶」
「バ、バカっ」
俺はちょっとお茶目を言うと、はすぐに顔を赤らめて言う。
あぁホンマ可愛えぇやっちゃ。
「」
「ん?」
「誕生日、おめでとう。生まれてきてくれておおきに」
「蔵。・・・・・・ぅん、ありがとう」
そう言って俺は優しくの唇に
自らの唇を重ねた。
(君の生まれた日に贈るよ)
−オマケ−
「ほな、後は」
「?」
「蔵ノ介クン、お嬢様のためにご奉仕でもしたろかな」
「は!?えっ、ちょっ・・・何考えてっ」
「プレゼントがネックレスだけと思わんといて欲しいわ。自分の目の前に居る男もプレゼントやで」
「アン、タ」
「シンデレラの魔法が解けるまで、たっぷりお嬢様にご奉仕させていただきますわ」
「ちょっ、えっ、きゃっ!?だ、抱き上げるなバカっ!!」
「ほなお部屋に行こうか」
「く、蔵離しなさい!!」
「そういうの性格大好きやで。神様、をツンデレにしてくれておおきに〜」
「お前やっぱり死ね!」