「ちょっと、こんなとこに居るのいい加減やめてよね」
「お!やんか。丁度会いたかったんや」
休み時間。
保健室に居った俺の所にがやって来た。
彼女が来た途端、俺のテンションは言わずもがな上がりよった。
に会えた嬉しさに俺はニコニコしながら彼女の元へと駆け、抱きしめようとした。
「会いたかったって言うなら教室に居なさいよ。わざわざ休み時間こんな所まで足運ばせるな」
「す・・・すんません」
抱きしめようとした途端、飛んできたのは言葉の刺。
毒舌お嬢様は安定の通常運転っぷりで、上がったテンションをものの見事に振り落とした。
「ったく。何が面白くて保健室になんか居るのよ?」
「ええやん。消毒薬の匂いに囲まれるっちゅーのは」
「意味分かんないんだけど?」
「まぁお嬢様には分からん世界やからなぁ」
「いや分かりたくもない世界だわ」
「其処はなムスッとした表情で『分からないわよ!』とか言うところやろ?
そしたら俺が後ろからギューって抱きしめたるのに」
「そもそも、私にはアンタの毒薬とか健康マニアとか、そういうのを一切理解したくもないし
理解しようとも思わないからそういう恋愛ドラマみたいな展開は望まないことをオススメするわ。で、反論はある?」
「・・・・・・・・・いえ、無いです」
俺が口でに勝てた事なんて、アイツがこの学校に来てから一度もない。
ツンデレって、皆の前ではツンで好きな人の前ではデレなんやろ?
普通そう考える。しかし!俺の彼女は普通のツンデレとちゃう。
二人っきりになっても、早々簡単にはデレというものを出さん。
挙句、お得意の毒舌攻撃で俺をものの見事にノックアウトするから結果俺の惨敗になる。
でもな、俺かて学習したんや。
はドキドキすると、アイツはコロッと素直になってデレの大放出。
せやからドキドキさせればえぇねん!
クラス離れて、せっかくの休み時間。
男としては好きな女の子とイチャイチャしたいねん!
せやけどお嬢様は「見っともない、やめろ」と毒針攻撃で俺を倒してくるから
イチャイチャどころか、一日2人になる時間すらないときだってある。
カレカノやぞ?
恋人やぞ?
したいやろ?イチャイチャしたいやん!
そう考えたらもう自分でこういうのは作らなアカンねん。
考えが行き着いたら有限実行!
「なぁ、・・・って、どわ!?」
「え?あっ・・・ちょっ!?」
ワザと躓いて、そのままを床に押し倒した。
立っていた時よりも距離が近ぉて、ドキドキさせるつもりが俺がドキドキしてきたわ。
「痛いわね・・・何してんの」
「あ、堪忍堪忍」
どうやらは頭をぶつけたらしく、頭を手で擦っていた。
目が開いて、視線が合う。
凛とした黒い視線とがぶつかりあって、見つめられるだけで心臓が早い鼓動を繰り返す。
「コラ」
「へ?」
ふと、我に返ると目の前のは不機嫌そうな顔を浮かべとった。
「蔵、退いて」
「え?ああ・・・えーっと」
ちょい待ち。
押し倒したまでは良かったんやけど・・・俺、アホや。
その後のこと何も考えてへんかった!!
「何も考えずにワザとこういう事するから、そうなるんでしょうが」
「え?お、おま・・・っ、き、気ぃついとったんか!?」
「アンタの下心なんて見えすぎてて、片腹痛いわ。それで、蔵ノ介君は何が目的でこういう事したんですか?」
床に倒されとるが俺を見つめてくる。
せやけど、俺を見るその視線は・・・先ほどの凛とした目やない。
ひた隠しにされとる、優しい目。
そないな目ぇされたら、考えてた気持ちが全部外へと口を通して吐き出されていく。
「自分・・・あんまりデレてくれへんやん」
「は?」
「ツンデレって皆の前ではツンツンしとるのに、好きな人の前じゃデレてくれるやん。
、俺と二人っきりになってもデレてもくれへんし・・・ドキドキしてへんのかなぁ・・・って」
「聞いた私がバカだった」
「え?な、何やねんそれ!俺の最大の悩みやぞ!?」
「アンタ、私がドキドキしないし、好きな人の言葉にときめかない冷たい人間とでも思ってんの?」
「そういうワケとちゃうねんけど」
「私だってね、本当は毎回アンタにドキドキしてるんだから」
の口から出てきた言葉に俺は驚きながらも、彼女を見つめる。
するとは見つめられるのを拒むかのように顔を横へと逸らす。
しかし、その頬はほんのり赤みを帯びていた。
「ど、どうすればいいのか分からないだけよ。だって、何か・・・恥ずかしくて」
「」
「恥ずかしくて、どう返していいのか分からないし・・・さっきだって、見つめられただけで
何か・・・もう、心臓が・・・熱くて痛いの・・・っ」
「それが、胸を締め付けられるほど俺の事好きやっちゅーわけやな」
「蔵」
頬にそっと触れると、の顔がこちらに向く。
あーあ、茹でダコみたいに顔真っ赤や。
可愛えぇから思わず何でもしたなるわコレ。
せやけどムードは大切にせなアカンから
おでこを付けて、更に顔を近づける。
はこれ以上俺と目線が合わせきらんのか、目をぐっと閉じた。
「お嬢様、やっぱ可愛えぇな」
「や、やめてってば・・・!」
「好きな子に可愛えぇとか言うのは当然やで?が可愛えぇから俺は言うねん」
「く、蔵・・・っ」
閉じていた目が開いて、再び目線がぶつかる。
せやけど今度は凛とした目でもなく、優しい目でもなく・・・愛おしさを感じさせる目。
そして潤んだその目に浮かぶ微かな涙。
アカン。
何や・・・コレ見てたら――――――。
「、堪忍な」
「え?」
「次の時間、自分サボらせてしまいそうや。教室に返したないし、もうちょっと2人っきりで居りたい。
なぁ、アカン?」
問いかけて、戻ってくる言葉を俺は知っとる。
「私も・・・側に、いても、いいの?」
「ええで。大歓迎や」
そう答えたと同時に唇を重ね、チャイムが鳴り響いた。
ドキドキ隠しの天才彼女
(ホンマ。こういうムード持ち込むのに毎回苦労するで)