2月14日。
女子がざわつき、男子が焦る・・・バレンタインデー。
元々は、キリスト司教のウォレンティヌスっちゅう人が
処刑された日なんやけど、まぁそんな事は置いといてや。
せや、今日はバレンタインデー。
恋人たちの甘い日や!
そのあま〜い日に、俺は胸躍らせながら学校に来た。
ん?受験生やけど、俺部活あるからな・・・卒業までしっかりテニス部の部長や。
ジャージに着替える前、俺は教室に忘れもんを取りにいくついでに
謙也と共に下駄箱まで来た。
「謙也。今日は何の日か知っとるか?」
「やかましいわ、ドアホ。キモイ顔で俺に言いなや、バレンタインデーやろ知っとるわ」
俺は意気揚々としながら謙也に問いかける。
謙也のヤツ、「ウザいわお前〜」みたいな表情で俺に言う。
「せや。今日はバレンタインや!そして――――」
「愛しのから、チョコを貰う大事な日や!」
「思いっきり、は強調やなお前」
当たり前やろ!!!
むしろ、それ待ってます!!!
せや、俺が待ち望んでんのはからの本命チョコ、唯一つ!
毎年チョコぎょうさんもろてるけど
今年は・・・今年こそは、からチョコ貰うんや!!
(去年は貰われへんかったからな、俺ら知り合う前やったし。)
「俺の可愛えぇお嬢様からの手作りチョコレートが欲しゅうて、此処来たんや。
ちなみに、は今日は本を返しに来る言うてたんやで。タイミングバッチリ、パーフェクトや」
「教科書忘れたんはワザとかお前」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さぁ、謙也!下駄箱開けるで!」
「今の間は何や。そしてちゃっかり話逸らすなや、アホ白石」
「ほれ、開けるで!謙也くんも下駄箱開けなはれ」
「キショ。何、京訛り使てんねん」
そう言いながら俺らは、自分たちの下駄箱の前に来た。
今更ながら、俺の心臓めっちゃ動いてる。
あぁこれでのチョコあったら、俺真っ先にそれだけはすぐにカバンに入れるわ。
大量に入ってても多分、俺絶対分かるわのチョコレート。
むしろ「何のチョコ菓子作ったんやろうなぁ〜」とか思って胸が躍る。
「いっせーのせ、で開けるで謙也」
「何でお前と一緒に開けなアカンねん。俺関係ないやろ」
そう言いながら、謙也は下駄箱を開けた。
すると―――――。
「ギチギチに詰めこむとか、何やねんこれ」
謙也が下駄箱を開けると、綺麗に包装されたチョコレートの箱が
そらぁもう、下駄箱敷き詰めるほど入ってた。
上履きの姿が見えんくらいに。
「これ、どないせぇっちゅうねん」
「頑張って持って帰るしかないなぁ〜」
「やかましいわ。お前こそ、さっさ開けれ」
「分かってるわ」
謙也に言われ、俺は下駄箱に手を掛けた。
のチョコレート、のチョコレート、のチョコレート。
のチョコレート、のチョコレート、のチョコレート。
のチョコレート、のチョコレート、のチョコレート。
心で念じながら――――開けた。
ドサドサドサドサドサドサ!!!!!
「溢れとる。恐るべし白石」
下駄箱を開けた瞬間、詰め込まれすぎどころか・・・詰め込まれすぎて、溢れ
チョコレートの箱が、大量に床に落ちた。
俺は、落ちた箱を見て、中を見る。
「こんなんあったら、どれがのか分からんのとちゃうんか白石?」
「・・・・・・・・・」
「白石?」
「ない」
「は?」
「からのチョコレートがない!何で!?」
俺は呆然とした。
からのチョコレート何でないねん!!
「ちょっ、何で!?何でコイツからのチョコないって分かんねん!!つかキモチワル!!」
「普通に分かるわ!!のチョコなんて、の愛が俺に教えてくれるんやから!!」
「お前ちょっと言葉選べドアホ!にしても・・・こんだけ貰て、お前こそどないすんねん」
「どうないするって・・・・」
足元に転がった、無数のチョコレートの包装された箱を見る。
「俺・・・のだけ欲しいんや。の1個で充分やっちゅうーねん」
「おい、こいつの頭誰かどついたれ」
せや、俺はの・・・・からの本命チョコレート1個で充分や。
それさえ貰えば俺、何もいらんのに・・・何で、何でなん。
蔵ノ介クン、めっちゃへこみますわ。
「うるさいわね。下級生は授業中よ、静かに出来ないのあんた達」
「あ、や」
「!!!」
瞬間、後ろからコートを身に纏ったが立っとった。
途端、俺の血の気が引いた。
いや此処はな・・・血の気、引くで絶対。
何を隠そう・・・隠されてへんけど、チョコが下駄箱から溢れて下に零れてんねんから。
「・・・・あの・・・これは、な・・・」
俺が焦った声で言うと、の顔が・・・・・・笑顔になった。
ちょっと「え?セーフ?」とか自分で思った。
が。
「おめでとう、蔵ノ介クン。じゃあ私のチョコレートはいらないね」
笑顔で、俺の心をえぐるような毒の付いた言葉を突き刺してきた。
だが、俺も抵抗。
やって、からのチョコレート欲しいねん!!
「なっ、何言うてん!!欲しいに決まってるやろ!!」
「いらないでしょ、そんだけ貰ってるんだから」
「それでものチョコレート欲しいんや俺は!」
「そんだけ貰えば充分でしょ?」
「いや、せやからっ」
「必要ないよね?」
あ、アカン・・・・これは、完全にのご機嫌を損ねた。
笑顔で「必要ないよね?」って言われて
後ろには何や、黒々しいオーラがある。
次、俺が何言うても、このお嬢様・・・全力で叩き潰しにかかってくる。
俺・・・今、めっちゃヤバイ。
「私、図書室に行く用あるからじゃあね」
「おう」
そう言うては謙也の横を通り、俺の横を通り過ぎ―――――。
「チョコ食って死ねばいい、エクスタ野郎」
俺の心に100万の大ダメージ。
アカン・・・俺、立ち直れません。
の機嫌は完全に損なわれた。
ふと、目に止まったのは包装された箱、その中にはハートのチョコ。
見事にヒビ入って、真っ二つ。
ぶろーくんはーと・・・っちゅうのは、まさにこのことか?
「白石、お気の毒やな」
「俺・・・何かしたか?」
「とりあえず・・・・の機嫌を損ねたのは間違いないな。何かしたうんぬんより
このチョコレートの山見たら、誰だって腹立つわ。特にお嬢様の性格考えたら、分かってることやんか白石」
「でーすーよーねー」
そう言いながら、俺は横目で床に落ちたチョコレートの箱の数々を見る。
はぁ〜・・・こんなん、公開処刑やんか。
バレンタインデーに処刑されたウォレンティヌス司教よりも残酷すぎとちゃうか?
せやけど、俺はめげんかった。
どうしてもからのチョコレート欲しゅて、に何度も
バレンタインのチョコを要求した。
(ちゅうか、メール送ったり、電話したりして本命チョコ欲しい言うただけやけど。)
せやけど、はことごとく俺の要求をスルーした挙句―――。
―――――PRRRR・・・ガチャッ!
「!俺や!!せやから、あの、朝はスマンかったから。そのチョコレート・・・・」
『しつこい、ウザい、チョコ食って、鼻血出して死ねエクスタ野郎』
―――――ガチャッ!!!
凄まじいまでの毒の言葉に、俺の心は立ち直れん。
アカン・・・今年のバレンタインデー、人生最大最悪な気がしてきたで。
そして、部活の休憩の合間。
俺は部室の机で突っ伏しとった。
「何や白石どないした?」
「蔵リン、エライオーラネガティブやね」
「から本命チョコ貰えんかったんやと」
「ご愁傷様っすわ白石部長」
「やかましいわお前らっ!のご機嫌斜めはもうMAX過ぎて・・・アカン」
ユウジ、小春、謙也、財前の4人に言われ、俺は強く言い返すも
からの本命チョコ貰えんショックに気分が下がるだけ。
「なー、このチョコレート食べてもえぇ?ワイ、腹減ったわ」
「食べてもえぇで〜金太郎〜」
「白石。貰ろたチョコレートを金ちゃんの胃袋で処分するつもりや」
「うわっ、それこそ酷くないっすか?白石部長、案外残酷っすわ」
「俺はからのチョコレートだけでえぇねん。何やったらお前らも持って帰れ、俺いらん。のだけでえぇねん」
「白石、そう気ぃ落としなやって」
そう言いながら謙也が俺の肩を叩く。
俺は突っ伏した顔を上げると、謙也の手には可愛らしい箱。
今朝はそんなん、あの中にはなかったような?
「謙也・・・それ、どないした?」
「ん?これか?のヤツがくれたわ」
「なんやと!?」
謙也の発言に俺は思わず椅子から立ち上がる。
「謙也クンも貰ったん?」
「は?小春、どういうこっちゃ?」
「何や、謙也さんも金色先輩も貰たんすか?」
「ざ、財前?」
「俺はいらん、言うたのに無理矢理渡すんやでアイツ」
「ユ、ウジ?」
「あ、みーんな貰たん?ワイも貰たで〜!」
「ねーちゃんからハートのチョコレート!むっちゃ可愛えぇな、コレ!!」
そう言いながら、金太郎が嬉しそうに謙也と、小春と財前とユウジと同じような箱を
嬉しそうに見せた。
俺はそれで震える。
「おまっ・・・お前ら・・・な、何でっ?」
「健二郎も貰てたぞ」
「何やと!?」
「ちなみに銀さんもやで。銀さんは抹茶チョコ言うてたわ〜」
「はぁぁあぁああ!?!?」
更に健二郎や、銀までも貰てた・・・っちゅうことは・・・・・・。
「何ね、皆今休憩中ね?」
「お、千歳や」
すると、其処に珍しく千歳が顔を出しに来た。
俺は恐る恐る・・・ヤツの手を見る・・・その手には――――――。
「うわぁぁぁあああああ!!!!」
「な、何ね白石!?たまがったい!?」
「何で千歳まで貰ってんねん!
からのチョコォォオオオオ!!!」
そう、千歳の手にも謙也たちと同じような箱が持たれていた。
ちゅうことは・・・此処に来る前に、に会うて貰たとしか考えられへん。
俺はあまりのことで更に机に突っ伏した。
「千歳くん、それ何処で貰たん?」
「あ?あぁ・・・これね?さっきから貰ったとよ?何ね、皆も貰ったと?」
「白石以外はな」
「へ?」
「白石。から本命チョコ貰てないねんって、朝からこの調子や」
「そ、そぎゃんね。あ、さっきオサムちゃんもからチョコ貰とったよ?オサムちゃんたいぎゃ喜んどったばい」
グサァアアッ!!!!
ついに、俺・・・オサムちゃんにすら、先越された。
アカン・・・もう、俺・・・立ち直れへんわ。
「やばってん」
「何や、千歳」
「が持っとった袋ん中に、たいぎゃキレか包みが入っとったよ?だけん、俺聞いたと。
”それは白石にやるもんか?“って。そしたら、のヤツ急に表情曇ったったい。んで、はこぎゃん言いよった」
『やるはずだったけど・・・・・・私のなんかより、もっと良いの貰うから、あげるの・・・やめた』
千歳の言葉に、俺は突っ伏した顔を上げた。
「完全にのヤツ、塞ぎこんどるよ白石」
「・・・・・」
俺がいくら言葉を取り繕っても、が俺にチョコレートをあげたい想いに比べたら
絶対俺の方が負けるに決まってるわ。
が、どんな想いで俺へのチョコレートを作ったのか。
が、どんな想いで俺へチョコレートを渡したかったか。
多分、俺の分からんくらいの気持ちでアイツは・・・チョコレート用意したんやろうと思う。
せやから、軽はずみな気持ちで・・・貰おうとしてた、いや貰えると思てた俺が一番・・・・・・アホ過ぎるわ。
「結局夕方になってもうたわ」
「のヤツ帰ったんとちゃうか?もう居らんやろ学校に」
「多分な」
朝、下駄箱に入ってたチョコレートは見事に金太郎の胃袋に入っていきよった。
それでもアイツ「まだ食い足りん」とか言うて謙也のまで食ってたわ。
そして、部活も終わり俺は謙也と肩を並べとった。
ホンマやったら隣に居るはずやったのに・・・・・・・と、考えとったらため息出てきた。
「悪かったなやのぅて」
「人の心読むなや謙也。しゃあないねん、今年は諦めるわ。俺が悪いねんから」
「まぁ来年はちゃんともらえるよう努力はするんやな」
「言われんでも分かってますー」
謙也に悪態を吐いて、ふと目線をあげると・・・・・・。
「?」
数m先、が突っ立てた。しかも何や綺麗な箱持って。
綺麗な、箱?
『が持っとった袋ん中に、たいぎゃキレか包みが入っとったよ?』
もしかして――――。
「っ!」
「!?」
俺はすぐさま駆けた。
アレは・・・多分・・・いや、間違いない!
俺のチョコレートや。
何するか分からんけど、捨てるとかそんなんされたら
それこそ、の想い・・・踏みにじる事になる。
アカン・・・それだけは絶対アカンねん!!!
俺はそれを止めたくて、すぐさま駆けた。
だが、俺の声にが気づいたのかあたりをキョロキョロと見渡し焦り始める。
瞬間、後ろを見て何を思ったか―――――。
「こんなもの・・・水と一緒に溶ければいいのよ!!」
そう言って思いっきり箱を投げた。
箱は宙を舞い、飛んでいく。飛んでいく先は―――――プール。
おいおいおい!!!
そんなん投げて、プール落っこちたら溶けてまうわ!!
「謙也、持っとれ!」
「え?あ、お、おい白石っ!?」
俺は謙也にテニスカバンを預けて、すぐさま走る。
の横を通り過ぎ、フェンスに足を掛け、一番上まで一気に登る。
一番上まで登ったら後は箱まで飛んだ。
箱に届いた俺の手は、すぐさまそれをプールの外に弾き飛ばした。
これで安心や。
何て、感心しとる場合やない。
俺の体は急降下・・・そのまま、真冬のプールに――――。
ドボーーーン!!!!
「蔵っ!!」
「おい、白石っ!?」
と謙也の声が聞こえて、俺の沈んだ体が勝手に浮上していく。
ちゅうか鼻痛っ!
落下していくのがめっちゃ早かったから呼吸する時間もなかったわ。
水の中から顔を出すと、謙也とがプールサイドに居った。
「白石、大丈夫か?」
「おぉ、何とか。すまん、服重たなったから手ぇ貸してくれ」
「おん」
謙也の手を借りて、俺はプールからプールサイドへと上がってこれた。
服重っ。しかも寒っ!
コート着てたから尚の事、水しみこんで重いわ。
俺は着ていたコートを脱ぎ、地面へと座り込んだ。
すると、座り込んでる横にが半分涙目で俺を見とった。
俺はため息を零し、優しく彼女に言う。
「何や?可愛えぇ顔が台無しやぞ、」
「バッ、バカ。何で・・・プールに・・・何で・・・なんっ」
「チョコ・・・無事か?」
「え?」
「チョコレート。自分がさっき放り投げて、俺が弾き飛ばした大事な大事なチョコレートや」
「それならホレ」と謙也が、綺麗な袋に包まれた箱を俺に差し出した。
おぉ、コレやコレ。が放り投げて、俺が弾き飛ばしたチョコや。
「おおきに謙也」と礼を言いながら俺はそれを受け取った。
「コレ。俺のチョコやろ」
「でも・・・蔵・・・私の、チョコより・・・たくさん、貰ってるから・・・」
「あんなぁ。貰う量とか、そんなん関係ないで」
「え?」
俺の言葉に、が目を見開かせ驚いとった。
「貰う量とかよりも、俺は誰から貰って嬉しいかっちゅうのが一番重要やと思うわ。
貰えるんやったら、そらぁ数限りなく貰うで。
せやけど、一番重要なんは誰から貰ったら嬉しいかって事や。
俺は・・・・・・不特定多数の人から貰うより、から貰った方が、ずーっと嬉しいわ」
「蔵・・・っ」
「せやから、捨てるとかせんといてや。そんなん悲しいやろ?
せっかく、俺のチョコ自分が用意してくれたんやから。
それこそ勿体無いわ。それに最初っから俺はのチョコしか貰わんつもりやったし
他のチョコ貰うつもりなかったからなぁ。自分からのバレンタインチョコが一番貰たら嬉しいわ」
「ゴメン・・・ゴメンね。ゴメンね蔵」
「もうえぇよ。泣かんといてや」
隣で泣き始めるの頭を俺は優しく叩いた。
そして俺は咳払いをし、「」と名前を呼んだ。
は涙を拭いながら俺を見る。
「このチョコ・・・俺が貰てえぇですか?」
「・・・うん。蔵のために・・・用意した、から」
「ほな、ありがたく自分の愛情たっぷりの本命チョコいただきますわ」
「ちゃんと、最後まで食べなさいよ」
「もちろんやって。の愛情、残さず食べさせていただきます」
「相変わらず、恥ずかしいことばっかり言うんだから」
そう言うて、が俺に笑った。
人は、量で愛は計れない。
愛は、量で計るものではない。
人が、愛を計れるのは――愛する者からのささやかな贈り物を貰ってこそ知り。
愛が、分かるのは――受け取ってから、笑顔が零れたらそれこそが『愛』だと知る。
バレンタインはそんな日。
愛は、量じゃない。
愛は、たった1つに込められた僕を愛してくれる君からの最高の贈り物だから。
(バレンタインより愛を込めて。僕への君から届く最高の最上級の愛)
−オマケ−
「で、蔵に謙也」
「どないした?」
「俺もか?」
「来月は倍返しね。謙也3倍、蔵6倍ね」
「ろ、6倍!?ホワイトデーのお返し6倍って聞いたことないで!?」
「普通なら3倍返しやろ?」
「倍返しの倍返し、だから6倍。じゃあ、謙也クン、蔵ノ介クン来月楽しみにしてるから」
「えぇ仕事するなぁお嬢様」
「6倍かぁ〜・・・今から3倍返ししたらアカン?俺の体で?」
「断固拒否」
「酷っ」