夏。
私達学生にとって、それはいい季節と相成りました。
何かというと――――。
「うわぁ〜さん、スタイルえぇなぁ〜」
「ホンマや。羨ましいなぁ」
「え?あぁ・・・どうも」
体育の授業に水泳というものが混ざり始める時期だからです。
そして本日、私のクラスも水泳の授業。
んでもって私が大阪に来て、初めての水泳の授業。
男子も女子も更衣室に入り、学校指定の水着に着替えて
太陽照りつける日差しの下にやってきました。
更衣室を出る際、クラスメイトから曝け出された肌の部分を見て
何やら声を上げられる。
クラスメイトの子達はワクワクしながら私に近づいてきた。
「あれやろ?やっぱりお嬢様やからえぇもん食べてるからやろ?えぇなぁ〜」
すると、知らない顔の女子の一人がそう大きな声で言いながら
私の横を通り過ぎていった。
「気にせんでえぇで。隣のクラスの女子や・・・ちょぉっとさんが綺麗やからって嫉妬してんねん」
「気にすることないでさん」
「あぁ、うん。気にして無いからいいよ」
氷帝に居た頃はこんなの日常茶飯事。
もう慣れっ子状態だ。
外に出て私はその2人の女子と会話を続ける。
「せやけど、今年ウチらラッキーやな」
「せやせや!めっちゃラッキーやな」
「え?何が、ラッキーなの?」
すると2人は何やら喜んで”今年はラッキー“といい始めた。
私は疑問に思い、すぐさま問いかけた。
「ラッキーやで。何たって・・・・・・」
『白石君が居んねんから!』
あぁ、其処。
何となく蔵の名前が出てくることは予想が付いていた。
そりゃあアレだけのイイ男が水泳ともなると
完璧に無意識なフェロモンの垂れ流し状態になるわね。
女子が喜んで当然か。
「ホンマラッキーやな!」
「あぁ、でも。何や、去年白石君と水泳したクラスで失神者出たらしいで」
「え?・・・そ、そこまで?」
「うん。あー・・・それと、去年体育の教育実習の先生も何や鼻血出したーとか騒ぎになったな」
どっかのバカと同じじゃない。
まぁそのバカは意識して出してるけど
蔵の場合それが無意識に出てるものだから尚悪い。
私は慣れた様なもんだけど、そりゃあお気の毒としか言いようがないわ。
「今年何人出るやろか?」
「ウチのクラスだけやのぅて、他のクラスとの合同やからなぁ。完璧に片方の指超えそうやな」
「さん、失神したらアカンで」
「う・・・うん」
大丈夫です。
もう結構見慣れてます・・・彼の裸には。
なんて言える度胸は残念ながら持ち備えてないし
むしろ此処でそんな発言してしまえば、確実に質問攻めな予感がする。
いや目の敵にされそうだ。
「まぁウチら女子からしてみれば、白石君のそれもやけど〜」
「男子からしてみれば、東京生まれ温室育ちのさんの方に目線行きそうやなぁ〜」
「いや。別にそんなみんなと普通だよ私も」
「えーでも、やっぱりえぇもん食べてんねやろ?」
「アホォ。さっきのヤツと同じようなこと言いなや。ゴメンな、さん・・・コイツ後でシメとくわ」
まぁそう思われても無理はないか。
私はため息を零して、彼女達を見た。
「私もみんなと同じもの食べてるよ。お嬢様だからって良いものばっかり食べてるわけじゃないし。
むしろ私時々食べなかったりするから」
「え!?そらアカンやん!!ダイエットせんでもえぇやろその体やったら」
「いや、ダイエットとかそういうのじゃなくて。本読んでたり、書斎に篭ったりしてると時間忘れてご飯も食べないときあるの。
それに・・・・大阪来て、3キロくらい太ったよ」
『えぇえ!?嘘やん!!』
「あー声大きいよ」
大きな声を上げられ私は思わず2人を宥める。
まだ休み時間とはいえ、生徒はほぼ外に出ている。
もちろん蔵も出ている。
あまり視線を気にせず話していたが、彼から来る視線に耐えるの結構大変。
「ほ、ホントだよ。こっちきて、太ったの」
「ど、何処にその太ったという証拠の肉が付いてんねや?」
「見た目わかんないけど、ホント太ったんだよ。この前もお手伝いさんにちょっと体支えてもらったら」
「ら?」
「『お嬢様・・・少々重くなられましたね』って言われた」
ショックにも程が有る。
出来たら魁さん・・・ストレートで「太られましたか?」と言ってくれれば
まだ私の傷はすぐに癒えた。
もうそれ聞いた瞬間、私は思わず脱衣所に駆け込み体重計に乗ったら
見事に・・・私の体重は東京にいた頃より3キロほど重みを増していた。
「あー・・・そらぁ、痛いわ」
「うん。東京の食べ物より、何ていうかこっちの食べ物のほうが何か美味しくて。運動してないのもそうだけど
まぁ一番の原因は・・・・・・」
「何?何なん?」
「どっかの誰かさんと帰りにお好み焼き食べに行くのがいけないのかしらね」
私は思わずそんな言葉を零した。
迎えが来ない日。
蔵のテニス部が終わるまで待ちぼうけして
自転車で2人乗りして帰る途中、よく蔵の行きつけのお好み焼き屋さんに寄って
お好み焼きを食べてしまうことがもう何回もある。
それだけじゃない・・・部室でたまーに
たこ焼きなんか焼いてるから・・・それも摘んだりと。
いや、私がアイツの誘いに乗るのがいけないのよね。
「なー腹減ったわ」とか言われると、つい「じゃあ何か食べて帰る?」とか返せば
すぐさまいつものお好み焼き屋さんへ直行。
ソースの匂いと香ばしいお好み焼きの香りに負けて
結局私も食べてしまう。
太る要素は完璧に日常、転がってるものだとこの時初めて思い知った。
「え?さん・・・誰かと帰りお好み焼き食べて帰るん?」
「あっ・・・ぅ、ぅん・・・ま、まぁ」
しまった。
思わずそう呟いてしまったから
2人は何やら不思議そうな顔をして私を見ている。
「そーいえば、さん・・・よぉ白石君と居るよね?」
「え?!もしかして2人付き合うてるとか!?!」
「えっ!?・・・あ、いや・・・あのぉ」
色恋モノで追い詰められると
ほとほと私すぐダメになるんだなぁと思った。
普通ならいつでもばっさり切り捨てられるんだが
こういう恋バナっていうのになると、免疫が無いから対処に凄く困る。
「やっぱり付き合うてるの、白石君と?」
「なーどうなん?」
「えーっと・・・あのぉ・・・そのぉ」
「何話してるん?面白そうやな、俺も混ぜて」
『白石君!』
「蔵」
すると、体と髪の毛を微妙に濡らした蔵が
私達のところにやってきた。
私はともかく、私と話していた女子2人は顔を真っ赤にする。
あ、フェロモンに当てられてる。
「あ、自分等・・・何や、先生呼んでたで。係りやろ?」
「せ、せやったな!!」
「あ、ありがとう白石君。ほな、さんまたな!」
「え?あぁ・・・うん」
そう言って彼女達は私の元を離れ、すぐさま先生の元へと走っていった。
「んで。何話してたん?」
「別に。アンタが気にするような話じゃないわよ。女の子のフツーのお話」
話の内容が気になるのか、蔵はすぐさま私に問いかけてきた。
だが、私はいたって普通の話をしていたからバカ正直にそう答えた。
「ふぅーん。何やえらい騒いでたけど」
「騒いでたわけじゃないの・・・それは、触れて欲しくないネタだったから」
「触れて欲しくないネタ?何やのそれ?・・・俺に話せんことなんか?」
「あんまり」
私は目線を明後日の方向に飛ばした。
ホント触れて欲しくないネタよ!!!!
太ったなんて言えるわけないでしょ!!!
「ていうか、自分。何で俺と付き合うてるって言わんかったん?」
「え?・・・あー・・・いや、だって」
そりゃあ、付き合ってるわよ・・・本人達フリだけど。
でも、私の心の中は彼を好きな気持ちでいっぱい。
正直此処で私が彼と付き合ってるって言えば、目の敵間違いなし。
「んー・・・まだ周囲への俺らの愛の見せ方が足りひんちゅうわけやな」
「別に見せなくても良くない?」
「アカンて!俺がイヤや」
「は?」
何が?
何がイヤなの?
「は俺の彼女さんやで?そんな他の男にジロジロ見られたりするんは彼氏の俺としてはイヤや」
「別にジロジロ見られてないじゃん」
「・・・自分、ホンマ・・・気ぃついてないんか?」
「は?何が?」
私がそう言うと蔵は肩を落とす。
え?私何か言った?
コイツが落ち込むようなこと言ったの?
「ホンマ・・・俺、水泳イヤや」
「まぁアンタはね。女子の視線をぜーんぶ受けちゃうから、諦めろ」
「酷っ。此処は嫉妬するところやろ?・・・・・・俺はしてるんに、ズルイわ」
「え?」
ボソッと呟かれた言葉に私は思わず驚きの声を上げる。
「ちゅうか。・・・一応自分の彼氏としては・・・他の男に、彼女の肌見せたくないやん。それに」
「それに?」
ふと、蔵の唇が耳元に来る。
私は思わず強張った。
「自分、太ったやろ?」
「っ!?!?!、アンタねぇええええ」
ムード台無し!!!
耳元で囁かれる言葉は、こう甘い言葉かと思いきや
完璧に私の傷に塩を塗る行為。
私は思いっきり蔵を突き飛ばす。
でも私の力なんてたかが知れてる・・・蔵は少しよろめくだけだった。
「何や、ビンゴか?」
「うるさい!!アンタプールに突き落とすわよ!!誰のせいでこんな風になったと思ってんのよ!」
「えー、俺のせいかいな。酷いわ」
「アンタ以外誰がいるって言うのよ!もぅ〜元に戻すのだけでも女の子は大変なのにっ!」
おかげでいつもしてるティータイムを我慢してる。
上質な紅茶の葉が送られてくるのに・・・おいしいケーキや、お菓子だって
用意されてるのに・・・それ我慢して、何とか己を律しているのに・・・この男と来たら・・・っ。
「まぁ、そこは堪忍堪忍」
「本気で謝れ。土下座して詫びろ」
「もう機嫌直してぇーな。俺が悪かったって」
「知らない!もうアンタとは2人乗りもしないし、お好み焼き屋にも行かない」
「あー・・・でもな、それとはちょっとちゃうねんけど」
「は?まだ何かあるの?」
すると、蔵は頬を掻きながら私を見る。
「言うてもえぇのん?」
「何よ。体重のコトに触れてみなさい、その綺麗な顔ぶん殴ってあげる」
「いや、体重とかそういうのとちゃうねんけど」
「じゃあ何よ」
体重のことじゃなかったら何?
他に何のネタがあるって言うのよ。
ていうかこれ以上私の傷に塩を塗るのだけは勘弁して!という思いだった。
「えー・・・っとな」
「何?早く言いなさい、授業始まるわよ」
「コレ男の子的な事情やで。自分、体重よりも気ぃついてへんやろうけど」
「は?」
再び蔵は私の耳元に近づき――――。
「、色気出すぎ。ホンマ油断も隙もないくらい、色気出てるで。蔵ノ介クン・・・抑えるの、めっちゃ必死ですわ」
「なっ!?」
「誰も居らへんかったら・・・襲って食べたいくらいやで」
「こんっの・・・」
「お、。顔めちゃ真っ赤〜・・・プールに入って頭冷やすか?」
「それはアンタでしょうが!!」
私は思いがけず彼をそのままプールにと突き落とした。
潜って上がってきた彼を見た女子たちは
黄色い声を上げて、挙句失神者続出の大惨事になった。
一方の私はそれに慣らされているため、何ともなかったが
心臓が口から飛び出そうなくらい・・・そして、体が火照って仕方がなかった。
(夏に飛び込め!ある日の水泳時間の彼女の場合)