夏。
プールの時期。
俺らのクラスで初めての水泳の時間。
そして・・・の水着姿を初めて拝める時間。
まぁ男の子としては、好きな女の子のそういう姿見て
こうドキッとするのは名物や。
せやけど――――。
「って・・・ホンマ、スタイルえぇよな?」
「あぁ。温室育ちはやっぱちゃうねんなぁ」
ドキッとするのは俺だけに限らず、他の奴等もの姿に釘付け。
そらぁ初めて出てきた瞬間
俺の体温は上昇していきよった・・・夏間近の気温上昇よりも早いな。
しかし、俺だけやのぅて・・・他の奴等まで
の姿は目を奪い、心を奪っていきよった。
「えぇなぁ〜。あぁいう子・・・彼女で欲しいわ」
「あー俺も俺も」
「頭えぇし、優しいし・・・ちょっと大人っぽいし。見つめられるだけでドキッとするわぁ」
「えぇよなぁ」
「他の女子とはホンマ比べ物にならんで」
あーー耳塞ぎたいわ。
ヤロウたちは口々にの事ばっかりや。
そらぁ、頭はえぇし、大人っぽいわ。
ただなぁ、ツンデレで・・・毒舌娘やで本性は。って言ってやりたいけど
それは俺だけが知ってる姿やから、言いふらさんどこ。
とにかく・・・――――。
「言うとくけど・・・は俺の彼女やで。ジロジロ見んなアホ」
「げっ、白石」
「既に彼氏が此処に居った」
「アカン・・・コイツやったら俺ら勝ち目ないわ」
俺の彼女や・・・いや、正確には恋人ごっこしてる彼女なんやけど
が唯一心許してる相手がこの俺や。
他の奴等になんかそのポジション、奪われてたまるかっちゅうねん!
「ホンマ羨ましいなぁ。あんな可愛えぇ子彼女に出来んねんから」
「白石・・・どないしたらそう出来んねん?俺らにも教えてくれ」
「知らんわ。自分等で考えーよ」
「ケチやな、白石」
ケチとちゃうわ。ホンマに知らんねん!
とは・・・成り行き上こうなってしもて
それで・・・俺が・・・マジになったんや。
マジでの事、好きになってしもたんや。
せやから、もう今は・・・誰の目にもを映しとぉない。
アイツの姿は俺だけに映ってればえぇねん。
なんて・・・変な独占欲まで滲み出てきてしもたわ。
体育の授業が終わって、制服に着替え終わり
更衣室から外に出ると、丁度鉢合わせにあったかのように
女子の更衣室からが、3人ほどの女子と固まって出てきた。
ふと、その中のと目が合う。
が、すぐさま視線を逸らされた。
アカン・・・コイツ、まだ怒ってるわ。
授業始まる前、俺はちょっとしたイタズラと本音をに言い放った。
が、どうやらどちらとも彼女の逆鱗に触れたみたいで
視線すら合わせてくれんようや。
このままやと、話も聞いてくれんぞ・・・この毒舌娘。
「白石君、どないしたの?」
「え?・・・あぁ、いや・・・そのぉ」
「私、先に教室戻るね」
「え?さん?」
そう言うとは女子の間をすり抜け、そして俺の横も颯爽と通り過ぎていく。
「ちょっ、・・・待てって」
逃がしてなるものかと、俺はすぐさま彼女を追いかけた。
「・・・・・・すまんかった、謝る。ホンマゴメンって」
「別に怒ってないから、いいです。謝られる筋合い無いから」
廊下を早歩きで歩くに俺はすぐさま追いつく。
横に並んで歩くも彼女はご機嫌斜め。
あー・・・もう、困ったお嬢様や。
「ホンマゴメン。機嫌直して?」
「怒ってないって言ってるでしょ」
「嘘や。怒ってる・・・、めっちゃ怒ってるわ。俺には分かるで」
「アンタに私の何が分かるって言うのよ」
するとは立ち止まり、俺を見る。
目からかなりの怒りのオーラを感じた。
それ見ただけで俺・・・負けそうや。
いや、もう既に負けてる。
あの発言、言うた時点で・・・俺、負けてるし。
「さっきのことはホンマ、俺が悪かった。・・・どうも、すいませんでした」
「・・・・・・結構あれ、傷つくのよ。・・・・・・その・・・・・太ったとか、言われるとね」
「はい」
「私が傷つかないと思ったら大間違いだからね。分かってんの?」
「うん。せやからこうやって・・・誠心誠意謝ってるんや。ホンマ、ゴメン」
興味、なかったら・・・こんなことせぇへんし
の事、めっちゃ好きやから・・・マジで好きやから・・・こうすんねん。
悪いと思ったら謝る。
今回の事は、俺のちょっとした出来心や・・・いや、最後のはな本音なんやけど。
って今言うたらまた怒られるから言わんとこ。
「あ、せや」
「な、何よ」
「今日、俺の家の近所ででっかい夏祭りあんねん。、おいでや」
「は?」
「俺が何でも奢ったる!それで、許してくれ・・・頼む!!」
俺が両手を合わせ、彼女の頭を下げると目の前の彼女はため息を零し―――――。
「分かった。ちゃんと最後まで奢りなさいよ・・・出来なかったら・・・そうね」
「何?」
「2週間二人乗りしてあげないから」
「ちょっ!?そ、それイヤやって!前もそれ言うて、3日させてくれへんかったやん、2週間はキツイで」
「じゃあ、最後まで奢りなさいよ。私を怒らせた罰なんだから」
そう言うては俺を見る。
俺はため息を零して、答える。
「かしこまりました。ほな、今日はお嬢様のために白石蔵ノ介、誠心誠意をもって
お嬢様を最後までおもてなししますわ」
惚れた弱味やな、ホンマに。
夜。
俺は自分の家の近くの最寄り駅に来とった。
を近くの夏祭りに誘うたからや。
待ち合わせに俺は少し物陰に隠れて彼女を待つ。
それに夏祭りやし
下手に立っとけば・・・声掛けてくる女の子がぎょうさん居るからな。
物陰に隠れて、とりあえずが来るのを待とう。
俺は腕に嵌めた時計を見て、もうそろそろの来る時間や。
すると近くで下駄の軽快な音がした。
俺は物陰から顔を少し出し、其処を見る。
其処には・・・・・・――――。
「!」
「あ、蔵」
ピンク色で、桜柄の浴衣を着たが居った。
俺はすぐさま彼女の元に駆け寄る。
なんや、髪の毛も少し結ってもろたんかな?
二つわけした髪の毛の尻尾が、肩に置かれとった。
アカン・・・めっちゃ可愛い。
「ゴメン待った?」
「いや、完璧(パーフェクト)やったで。まぁ俺の電波時計では30秒ほど早かったけどな」
「何それ」
ちょっとした笑いにはクスクスと笑う。
その姿を見るだけでも・・・何や、ドキドキするわ。
「それ、買うたんか?」
「ん?あぁ、いや・・・お母さんが昔着てたって言うから、引っ張り出して少し直してもらった」
「ふぅーん。・・・めっちゃ可愛えぇな、浴衣着たも」
「煽てても何もでないし、今日はアンタが私に奢るはずでしょ?」
「そうでした」
見事に俺の言葉スルーされた。
ちょっと頑張って言うてみたけど・・・無理やったか。
此処で少しドキっていう仕草欲しかったんやけど
まぁしゃあないねんな・・・そう思われても仕方ないねんから。
「ほな、行こか」
「うん」
「ほい、手ぇ出し。はぐれるで、繋いどこ」
「・・・ぅ、ぅん」
俺が手を差し出すと、は恐る恐る俺の手に
自分の手を重ねてくれた。
俺はそれが乗ったことを感じると、すぐさま手を握り夏祭りへと向うのだった。
ホンマ、小さい手や。
体も小さいけど・・・手も、小さい。
可愛くて・・・離したくない。
俺の、大好きな・・・の手。
「人、多い」
「そらぁ、夏祭りやからな。何か食べるか?」
「じゃあ・・・リンゴ飴」
「よっしゃ。あっちやな・・・でっかいの買うたろか?」
「・・・うん」
「素直でよろしい」
会場に着くと、人がぎょうさん居った。
俺はの手をよりいっそう強く握り、彼女と共に
目的の場所まで行く。
「おっちゃん・・・リンゴ飴、でっかいの一つな」
「あいよー。お、隣のお嬢ちゃん可愛えぇな・・・兄ちゃんの彼女か?」
「お、よぉ分かったな。可愛えぇやろ〜・・・俺の自慢の彼女や」
「ちょっ、く、蔵っ」
リンゴ飴売り場に行くと、気前のえぇおっちゃんが居った。
おっちゃんは俺とを見るなり、俺の彼女か?と言うてきた。
せやから、俺は正直に「俺の自慢の彼女や」って答えた。
いや、正確には・・・本物とちゃうねんけどな。
本物とちゃうから、隣に居るが少し焦った表情で
俺を制止する。
「おぉ、えぇでえぇで。ほな、お嬢ちゃんにおっちゃんから特大リンゴ飴や。店ん中で一番デカイのや」
「えっ・・・あ、ありがとう・・・ございます」
おっちゃんからリンゴ飴を受け取るは恐る恐るそれを手にする。
確かに・・・店ん中で一番デカイかも。
見渡したら、確かにが持ってるものがえらいデカイわ。
「おっちゃん、えぇの?」
「かっこえぇ兄ちゃんと可愛えぇお嬢ちゃんに大サービスや。持っていき。お勘定はえぇ!」
「商売あがったりになるで?」
「えぇから。仲良くしぃや!」
「おう、ありがとうおっちゃん」
「ありがとう、ございます」
そう言って俺とは再び手を繋いで
リンゴ飴売り場を後にし、人ごみの中を歩いた。
「よかったな・・・一番デカイのもろて」
「うん。こんな大きなリンゴ飴、初めて。・・・蔵、ありがとう」
「えぇて。ちゅうか、サービスでもろたようなもんやし」
「だね」
は嬉しそうに笑った。
ホンマ、この笑顔・・・俺好きや。
俺しか多分・・・知らんねん、の笑った表情。
こっち来た時は、棘多くて・・・触るのだけでも
怖かったのに・・・今では、その棘すら・・・何処にも見当たらん。
逆に、触れるのが容易うなって・・・俺の気持ちが溢れそうになる。
フリ、してるだけやのに。
俺は本気で、を好きになってしもた。
「どうしたの、蔵?」
「ん?・・・あぁ、いや・・・何でもないわ。ちょぉ、人ごみ離れよか・・・息苦しいな」
「そうだね」
ある程度2人で祭りをブラブラし、息苦しい人ごみを抜けるように
俺とは祭りの会場から少し離れた近所の公園に着た。
「はぁ〜・・・何か、ようやくまともに息できたって感じ」
「せやな。結構多いな・・・去年其処まで多くなかったんやけど」
「そうなんだ。私、こういう縁日とか来た事無いから」
「お嬢様にはかけ離れた世界やからなぁ」
「事あるごとにお嬢様ネタ持ってこないでって言ってるでしょ」
「堪忍、堪忍」
2人で公園をブラブラしながら、他愛もない話をする。
ふと、俺は思い出す。
「に、渡しそびれるところやったわ」
「え、何?」
俺は一旦から手を離し、ポケットに入れていた
あるものと取り出し、の前に出した。
「ほい・・・プレゼント」
「え?・・・かんざし?」
桜をモチーフにしたかんざし。
はそれをゆっくり受け取った。
「え?でも・・・こんな、高価なもの・・・っ」
「せやろ?高価なもんやのに、さっきの祭り会場の射的の景品やったんやで?」
「え?!」
との待ち合わせ、数時間前。
俺は下見がてら、と姉ちゃん達からのお遣いで
祭り会場に一足先にやって来た。
その時はさきほどまでの客足はなく、人がぶつかり合うほどの多さはなかった。
丁度、お遣いを済ませ
家に一旦帰ろうとした矢先、射的場に目が止まり
一番当てにくい場所に・・・このかんざしがちょこんと立っとった。
いかにも俺に「当ててくれ」と言わんばかりに
其処に立ってるから・・・へのプレゼント・・・とか思て
俺は1回、挑戦した・・・まぁ完璧(パーフェクト)に仕留め、かんざしゲット!
帰って姉ちゃんが
「ちょっ!?それ有名和服ブランドの限定かんざしやん!」とかなり騒いどった。
まぁお生憎とお前にやるもんとちゃう・・・と言い切り、の手に無事渡った。
「俺の姉ちゃんが言うてた。和服ブランドの限定かんざしなんやって」
「いいの?貰って」
「他に誰が居んねん。自分にしかやらんで・・・」
「・・・でも」
手のひらに持たれたかんざしが今にも
地面に落ちそうだったのを、俺はの手ごと握り落ちるのを防いだ。
「持っとき。それで、来年・・・・・・これ、付けれるまで髪の毛伸ばし」
「え?」
「これ付けた、俺は見たいんや」
「蔵」
まだ、ネックレスを外す気配はない。
もしかしたら・・・来年、まだ俺らの関係続いてるのかもしれん。
続いてたらえぇねん。
俺は・・・もう、お前から離れとぉない・・・離したくもない。
もっと、もっと・・・・・・お前の側に居たいんや。
「せやから・・・持っとけ。んで、髪伸ばせ。来年、それ付けて、浴衣着て・・・また夏祭り、来ような」
「髪の毛頑張って・・・伸ばしてみるね」
「おう。ロングヘアーの・・・楽しみにしてるで」
「あんまり可愛くないよ」
「何言うてん。はセミロングでも、ショートでも、ロングでも可愛えぇんや・・・俺が保証したる」
「いや、あんたに保証されても嬉しくない」
「ひどいで〜。其処は照れるか何かしてくれ」
「無理」
「さらにヒドイ」
来年の夏、ロングヘアーのキミ・・・楽しみにしてる。
ちゃんと伸ばしといてくれよ。
そうやないと、かんざしがめっちゃ可哀想や。
自分に逢うために・・・俺に「当ててくれ」って声掛けてくれたんやで。
来年も・・・再来年も・・・ずっと、ずっと――――。
「」
「ん?」
「好きや」
「私も好きよ」
偽りの関係のままでもえぇ。
その「好き」が本物かなんて・・・もうえぇ。
俺は、お前が側に・・・近くに居ってくれればそれでえぇねん。
気持ち、届かんくても
お前が、俺を必要とせん日が来るまで
俺をお前の側においてくれ。
頼むわ。
完璧(パーフェクト)な関係やなくてもえぇ。
来年も、また・・・・・・夏祭り、行こうな・・・・・・俺の大好きなキミ。
(想い秘めつつ、来年の夏に僕の気持ち飛んでいけ!)