「よし!とにかくコレでえぇな。後は先生達がコレ抜いて、塩素の水入れるだけやな」



ようやく掃除が終わり、プールには大量の水が溜まっていた。
私はテントの下でそれを見ていた。

ゆらゆらと揺れる水面が太陽に反射して、キラキラと輝いていた。





・・・終わったで、帰ろうか」


「え?・・・あぁ、うん」


「どないした?」





蔵に声を掛けられ、私は我に返った。
だが、まだその揺れる水面に目を奪われた私は「心、此処にあらず」状態だった。




「水面・・・綺麗だなぁって」


「え?・・・あぁ、プールの水のことやな。こうやってゆらゆらして揺れてると確かに綺麗やな」


「うん」


「けど、俺ちょっと残念や」


「何が?」




すると蔵が、本当に残念そうな声をあげる。
一体この状況考えて、何が残念なのだ?




「授業・・・去年は一緒で、の水着姿拝めたんに・・・はぁ〜・・・今年は楽しみ減ったわ」


「今すぐ去年同様突き落としてやろうか?」


「か、堪忍したってや。突き落とされる側は鼻に水入ってキツイんやで?」


「知らないわよ、そんなの。アレは元はといえばアンタが悪かったんだから、自業自得よ」




そう言って私はテントから出て、プールサイドに寄る。


近くで見ると、よりいっそう・・・水が綺麗だった。
塩素の含まれていない、水は・・・まっさらで、透明で・・・匂いもなく
静かに揺れ続けていた。






ーっ、落ちんなや」


「バカね、私がそんなこと」







「金ちゃん、やめぇーや」


「ホレ、ホースの水ーっ!」





ドンッ!




「え?」


「あ?」


「あ」







っ!!」

「ユウくん!!」








ドボーーン!!!!






何が起こったのか分からない。


ただ、覚えているのは・・・ユウジと一緒にプールに落ちたことだけ。


あまりに突然の事で
息する暇も当然のようになく、鼻に水が入る。

プールの中から顔を出し、息をする。






「アハハハハハ、ユウジ落ちたー」

「金ちゃん、ホンマ・・・最悪や」



「どっちが最悪よ・・・ユウジ!!金ちゃん!!」




私は思いっきり声を上げ、二人を怒鳴りつけた。




っ・・・大丈夫か?」


「平気よ。落ちただけだし、怪我もしてないわ」





水に浮かびながら私を心配する蔵に、私は「平気」とだけ答えた。




「はぁ〜それ聞いてホッとしたわ。・・・金太郎、に謝りぃ!」


「うぅ・・・ねーちゃん、ごめんなさい」


「遊ぶのは良いけど、周りはちゃんと見てなきゃ・・・こういうことが起こるんだから。次からは注意してね、金ちゃん」


「・・・はぃ」



金ちゃんが私に素直に謝ってきた。
私の横で浮かぶユウジは「俺にはないんかい」とぼそっと呟きながら
横を通り過ぎ、プールから上がる。




「あー・・・もう最悪や。服ん中まで水入っとるわ。服、重っ」



ユウジは上がってそう言う。
私がため息を零すと、包帯の巻かれた手が私に伸びてきた。




「ホレ、掴まり。引っ張ったるわ」

「蔵。いいよ、制服が水吸い込んじゃって重いからはしご使って上がるわ」

「えぇから、ホレ」




水が服にしみこんで、重みを増していたので
私はプール脇に設置されているはしごから上がろうとしたが
蔵が引っ張ると言って聞かない。

じゃあとりあえずこいつの力を信じてみるか・・・というので、彼の手に自分の手を重ねた。


瞬間、凄い勢いで引っ張りあげられ
私は思わず小さな声で「きゃあっ」と声が出てきた。

ものの数秒で私はプールサイドに戻ってこれた。




「あ、ありがとう」

「どういたしまして。ちゅうか、軽いから全然重たないで」

「じゃあ去年のプールのときどうして私にあんな事言ったのかしらねぇ?」

「あー・・・今年は痩せたっちゅうことで」

「ぶん殴るわよ」

「か、堪忍してくれっ!」




私が握りこぶしを構え、彼を脅す。




「はぁ・・・もう、最悪。ホント、服にまでしみこんじゃってるし・・・」


「・・・・・・」


「な、何?え?・・・・・な、何してんの皆?」



私が服にしみこんだ水気を落としていると
全員が私に背を向けていた。

何をしてるんだこいつ等?と思っていると・・・・・・。





「コレ着とけ」

「く、蔵?え?・・・じゃ、ジャージ?」




上から落ちてきたのは、蔵のテニス部のジャージ(長袖)。





「8組今日、体育あったか?」


「え?・・・う、うん。あったわよ」


「体育服の下に、着替えて来い」


「は?」


「上は俺のジャージ着とけ」


「く、蔵?一体どうし」


「えぇから着替えて来る!」


「は、はい」





蔵にそう言われ、私は鞄を持って
もちろん頭には蔵のジャージを掴んで、そのまま女子更衣室に駆け込んだ。


扉を閉めて、カバンやら蔵のジャージやらを床に置いた。





『見てないやろ、お前ら』




途端、外から蔵の声が聞こえた。
何を?見たというのか?




『み、見てないわ!なぁ小春』
『当たり前やん』

『白石部長が引き上げたと同時に』
『俺らは背を向けたわ』
『当たり前やないですか、白石さん』


『よし』








『ピンクのヒラヒラしたのが見えたで。ねーちゃん、可愛えぇのしてるんやな』








え!?


金ちゃんの声で私は自分の胸元を見た。


す、透けてる。
それだったら、今までの事がよく分かる。


蔵が私にジャージを被せたのも。

皆が私に背を向けてたのも。






『金ちゃん!?』
『遠山アホ』
『自殺行為やで、金ちゃんっ!』
『此処は見てない言うのが筋っちゅう・・・・・・って言うても、もう遅いか』

『へ?何が?』

『金太郎・・・ちょぉ俺とお話しようか?』

『し、白石・・・顔が怖いで。ワ、ワイ・・何かした』


充分しとるわ、この小猿がっ!!!





外から凄まじい断末魔が聞こえてきた。

そうですか・・・見えてたんですね、私のブラの色が。
そりゃあ夏服だし、素材薄いし・・・水だったら簡単に透けるわよ。

とにかく着替えよう・・・と思い、私は制服を全部脱いで
蔵が貸してくれたジャージと、体育服のズボンを着るのだった。








「着たのは良いけど、下着がヤバイ・・・あー・・・もう、迎えに来てもらおう」



外からは未だ騒がしい音が聞こえる。

しかし着替えが完了しても、下着の方がまだ水がしみこんで気持ち悪い。
魁さん、忙しそうだけど・・・流石にこの格好で帰るのはヤダ。
それに蔵のジャージだし・・・使うとなると、借りっぱなしはダメだ。

私はカバンから携帯を取り出し、魁さんに電話をする。





『いかがなさいましたか、お嬢様』


「魁さんすいません。今、大丈夫ですか?」



電話をして、ものの数秒でかの人は出た。



『はい。それでどうか?』

「実はちょっと・・・制服が濡れちゃって」

『こんなお天気に制服が?』

「あの・・・プール掃除してたら、プールに誤って落ちて・・・それで」





いや、私はただかき氷を食べてただけなんだ。
そして水面を見てただけなんだ・・・それだというのに、金ちゃんやユウジのせいで。





『だ、大丈夫ですか!?お怪我は!?』


「怪我はしてません。ただ、制服どころか・・・下着とか全部濡れちゃって。今、上は蔵のテニス部のジャージ借りてて。
下は今日丁度体育があったので、それのズボンを。それで、迎えに来てもらおうと思ってるんですが」


『左様でございましたか。あと30分ほど待っていただけたら迎えにお伺いできますが』


「ホントですか!?」




魁さんの言葉に私は思わず声が大きくなった。


此処で時間潰して正解だった。
迎えに来てくれるのであれば、何時間でも待つつもりだったが
まさかの早さに私の心は安堵した。




「待ちます!30分でも・・・迎えに来てくれるのであれば」


『かしこまりました。あ、では一旦自宅に戻って代えのお洋服をお持ちしましょうか?その方がよろしいでしょう。
上が白石様のジャージとなると、あまり長くお借りできませんし』


「お願いします!」


『でしたら、少し時間が延びて・・・1時間半くらいになりますが』


「大丈夫です!」


『かしこまりました。では、また四天宝寺中のお近くになったらお電話をさし上げます』


「よろしくお願いします」






そう言って私は電話を切った。


ふと、上に着ている蔵のジャージを見る。




「おっきい」



袖から手が出ないほど、彼のジャージが大きいと感じた。
裾だって・・・下の体育服を着てなければ、完全にスカート状態。

思わず襟元に顔を近づけた。






「・・・・・・蔵の匂いがする」





汗臭い・・・とか思ったけど、さすが完璧主義者(パーフェクター)。
清潔にも心がけているとは・・・多分、週1のペースで洗ってあるのか?とか思わずそんな事を思ってしまった。

まぁ部活中身につけるものだし、夏になったら余計洗濯しなければ匂ってしまう。


でも、鼻に入って来たのは
洗剤の匂いもそうだけど、私をいつも抱きしめてくれるときに香ってくる蔵独特の優しい匂い。


その匂いを鼻に入れるだけで胸がドキドキしてしまう。






、着替えたか?』


「ふぇ!?・・・あっ、あぁ・・・き、着替えたよ」


『入るで』


「ど、どうぞ」




すると、外から蔵本人の声がして私は思わず我に返った。

こんなことしてたと思われたら良い笑いものだ。
むしろ恥ずかしくて、知られたくない。


私は何事も無かったかのように
ジャージをはたいて、その場に立った。

ドアが開いて、外から蔵が中に入ってくる。





「大丈夫か?」


「へ、平気。ていうか、ジャージありがとう」


「えぇて。どうせ掃除終わったら帰ってえぇって監督から言われとるし、今日はもう使わんからな」


「ていうか・・・見られてたんですね、私の下着(というかブラの色とかだな)」


「あっ・・・ス、スマン。金ちゃんにはよぉ言ってきかせといた。ホンマゴメン」




まぁもう見られてしまったものは仕方ない。
諦めるしかもう私には手段がないのだから。





「あ、1時間ちょこっとしたら迎えが来てくれることになったから」


「ホンマか?まぁその方がえぇやろ。制服も洋服も全部ダメになったんやからな」


「まったくよ。カバンの中にビニールのバック入れてたから、濡れたもの全部そっちに入れたし」


「さすが。お嬢様のバックは四次元ポケット、何でも入ってねんな」


「下着の替えは入ってないけどね」






私はそう言うと「お、今のは座布団一枚やな」と笑いながら言う。





「でも」


「何?」



すると、蔵が口元を押さえながら私を見る。





「流石にそれで外に出られたら・・・アカンな」


「は?何で?」


「可愛過ぎる・・・から」


「へ?」




蔵の言葉が理解できない。
ドコでどう考えてその言葉に行き着いているのか分からない。






「あー・・・やっぱ迎え来るまで此処から出んといて」

「ちょっ、ど、どういう意味よ」

「知りたい?」

「・・・ま、まぁ」






私がそう答えると、蔵がゆっくりと私に近づいてくる。
あれ?・・・何か、空気が・・・変わった。

瞬間、引き寄せられ抱きしめられた。





「く、蔵っ!?」



「可愛過ぎるやろ・・・男モン着た女の子って。袖とかもブカブカやし・・・足とかも・・・晒しすぎやし。
他の男に見せたくないっちゅうのは、ホンマ・・・俺のワガママや」




抱きしめられて、彼の匂いとジャージの匂いが交互に私の嗅覚を刺激する。

途端・・・何か、下あたりに違和感を感じた。
いや、此処は見ないほうがいい・・・いや、見てはいけない。

見たら最後・・・彼を殴りそうだ。


と、自分にそう言い聞かせるも結局目線が行ってしまった(バカだ私)。





「っ!?」


「あ・・・あー・・・スマン」


「さっ、最低っ!」





敢えて口にはしません。いや、正直なところしたくない。

簡単に言えば、彼は欲情してしまった・・・わけです。
私のこんな格好を見て。





「せやかて、しゃあないやん!が悪いねんから」


「私のせいにしないで!私は巻き添え食らっただけなんだから!
それにジャージ着ろって言ったの蔵でしょ!全責任を私に押し付けないで」


「うん、そこら辺は俺も否定はせん。でも・・・此処まで可愛いっちゅうか・・・その・・・あー、もうアカン!」






























「今、めっちゃ・・・・・が欲しゅうてたまらんわ」






そう言って、蔵が私の首元に顔を埋める。

彼の利き手が、ジャージのファスナーに手が伸びる。
私はそれを何とか自分の手で食い止める。





「やっ・・・やだっ・・・蔵、やだって・・・!外に、皆いる・・・っ」


「先に帰らせたわ。此処には俺と自分しか居らん」


「だっ、だからって・・・や、やだっ」


「どうせ1時間、暇なんやろ?ほんなら、俺の熱冷ましてぇな」


「自分で処理しろ」


やないと冷めん。それに、自分俺に借り作ったまま逃げる気か?」


「え?」





すると、首に噛み付き、歯を立て少し力を込め噛み付く。
そしてこちらを見る。




「引き上げたやろ、プールから。それから、ジャージ貸した」


「そ、それは全部蔵が自分で・・・っ」


「タダで俺がすると思うか?関西人はケチなんやで・・・してもらったら、必ずそれなりに返してもらわなんとな」


「せっ、セコ!!」


「聞こえんなぁ〜。・・・ちゅうわけやから、たっぷりその体で返してもらうで・・・・・・





始めからこうなることが予測されていたのか。

それともこうなることが運命だったのか。


私は逆らいながらも・・・最終的に彼のペースに巻き込まれしまい、体を委ねてしまった。
























「大丈夫ですか、お嬢様?」


「え、えぇ・・・・大丈夫です」




1時間半後。魁さんが迎えに来てくれた。

更衣室を出て、持ってきてもらった洋服を取りに行こうとすると
蔵が「俺が行ってくる」と言って、結局
私はプールに落ちて以降、服を持ってきてもらいそれに着替えた後まで
更衣室を出る事は無かった。

そして現在、私は車の中で反省中。

ホントどうして私・・・あんな変態を本気で好きになったんだろう。





「しかし、白石様のジャージは今日洗わなければなりませんね」


「・・・・・・えぇ」




私は、後部座席の隣。
カバンの前に置いた蔵のジャージを見る。

「ほな、返してもらうで」と言う彼に、私は「借りたんだから洗って返す」と言って
無理矢理彼からジャージを奪い、持ち帰る事に。




「帰って洗濯機に放り込んどきます。後は適当にしてください」


「大分ご機嫌が優れませんが、白石様と何かありましたか?」


「・・・・・・別に何も。ただ、私が少し油断すれば彼がその隙を狙ってくるから、押さえるのだけでも厄介です」


「左様でございますか」




魁さんは笑いながら、運転をする。



ホント、私が油断をすればするほど・・・彼は隙を付いて
その中に入り込んでくる。

押さえようも、押さえきれない。

彼のペースに巻き込まれてしまえば。


私は隣に置いた蔵のジャージを自分の元に持ってきて
服を自分の顔に近づける。



鼻を掠める、彼の匂い。



思い出してしまう、彼の余裕有り余る表情。

「余裕なんてないわ」と言うけれど、嘘だ。
絶対アンタ・・・余裕あるでしょ?と思うほど、ムカつく。






「返すときにでもコレ、蔵に投げつけようと思います」


「アハハハ・・・ほどほどになさってくださいね、お嬢様」





返すとき、投げつけてやるわよ。

私を弄んでる罰なんだから。
私を本気にさせた罰なんだから。



見てなさい・・・ジャージがアンタの所に戻ってきたとき後悔するが良いわ。



投げてやる・・・私の本当の気持ちも届けと願いながら。





プールとジャージと、

(私の気持ちを投げてやる。私を好きにさせた罪は・・・重いんだから)


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