俺の恋なんて、ずっと叶うはずないんや。
アイツとは・・・仲間であり、友達で。
アイツとは・・・ただの友達。
そして、2人は・・・付き合うてる。
そんな2人を邪魔するなんて、できひんし・・・壊す事すら、俺にはそんな勇気ないわ。
ただの友達のままやとしても・・・それでも、俺は・・・・・・―――――。
片想いの恋を続けることにしたんや。
「は?お前の友達?・・・侑士、友達おったんか?」
『人聞きの悪いこと言いなや謙也。友達くらいおるわボケ』
「何やと!?」
それはある日突然かかってきた電話やった。
電話の主は、東京に引っ越した従兄弟の忍足侑士。
何でも、俺に頼みごと?あるから電話してきたらしい。
『まぁ聞け。そっちに俺の1年のときからの友達が行ってんねん』
「へぇ〜・・・名前は?」
『言う、えぇとこのお嬢様や』
「うわ!?さすが、氷帝からの転校生。・・・ちゅうか、何でそないお嬢様が府立中に転校なんかしてきたん?」
俺がそう問いかけると、電話元の侑士が黙り込む。
受話器を外して、電話機のディスプレイを見る。
デジタル時計で刻まれた通話時間はちゃんと動いとる。
ということは―――。
「何、心閉ざしてんねん」
『アホ、そんなんちゃうわ。本人から言われてんねん”余計な事喋るな“ってな』
「は?何やそれ?」
余計な事?
余計な事なんか?
私立中から、いきなり府立中に転校してきた事を聞くことが余計なことなんか?
「金持ちの考えてる事がよぉ分からん」
『分からんでえぇと思うで。特にの事は分からんほうがえぇ』
「は?どういう意味やそれ」
『さぁな』
「侑士。自分から言うといてそらないわ」
『とにかく、の事は詮索すんな。あと、アイツの事よろしく頼むで。ほな』
「あっ、ちょっ、待て侑・・・・・・・・・切りよったあいつ」
何や、半分以上押し付けたようなやり方やった。
俺は受話器を置いて、その場で考え込む。
お嬢様で、私立のあの、氷帝から・・・いきなり、府立の四天宝寺に転校とか。
何かわけあって転校するような感じやけど
侑士の口調からして、相当なワケありな感じやな。
「よろしく頼む・・・・・・か。まぁ、頼まれた以上、するしかないな」
どうせ、慣れん環境に
しかもえぇとこのお嬢様なんやろ?
戸惑ってる可能性高いわ。
それやったら、侑士の従兄弟ってだけで俺が
手助けとかしてやったら、多分こっちの生活にも慣れていくやろうし。
「何とか、なるわな・・・きっと」
お嬢様やからきっと、むっちゃワガママなんやろうなぁとか
漫画でありきたりなことばっかり考えとった。
「お蝶夫人みたいな子やったらイヤやな」
何て、バカみたいなこと考えとった。
せやけど、実際逢うてみたら・・・想像を思いっきり覆された。
『アンタが、忍足謙也。似てないわね・・・余計なフェロモン流してるところは似てるけど』
次の日、侑士を介して俺はっちゅうお嬢様と逢うた。
そのとき初めて交わした言葉は最悪やったけど
見た目は、大人しそうで・・・綺麗で、それでいて――――。
何処か、儚げで、寂しそうやった。
取っ付きにくそう・・・と、外見見ればまぁ誰でも思ってしまうかもしれん。
確かに、見た目は綺麗やし誰がどう見ても「美人!べっぴんさん!」言うほどのもんや。
せやけど、口開けたら大変や。
毒の付いた言葉が飛んでくる。
あまりにも的確な言葉が飛んで来すぎて
多分誰も反論できひんと思うほどや。
顔と性格のギャップがあまりにも異なりすぎてる。
それが、っちゅう女の子やった。
「は?休み?昨日の今日でか?」
「何でも風邪引いたんやと。学校来たらそれ知らされてん、びっくりしたわ」
次の日。
友達で、部活仲間の白石蔵ノ介との話になった。
白石はと同じクラスで、しかも席が隣。
ぶっちゃけ、俺に頼むより
白石から教えてもらったほうがえぇやろとか思うけど
まぁ俺侑士から頼まれてるし・・・あんまり白石には迷惑かけられへんわ。
「それにしても、白石お前・・・何や、やけに嬉しそうな顔してんな」
「え?・・・そ、そうなん?」
白石からその話を聞いてる際、何や白石の表情が
やたらと嬉しそうな顔しとった。
のヤツ、休みやっちゅーのに、何でコイツ嬉しそうな顔・・・・・・・・・ま、まさか・・・っ。
俺は考えを辿りつかせた途端、白石を睨みつけた。
「な、何や謙也・・・その眼差しっ」
「お前・・・不謹慎やぞ。いくらが毒吐きな子やからって、休んで喜ぶんは不謹慎や」
「アッ、アホ!そんなんとちゃうわ!!・・・じ、実はな・・・俺・・・」
俺が「不謹慎」というのを言葉にすると
白石は「ちゃう!」という言葉の後に、何やら照れ始めた・・・・・・キモイ。
「白石・・・何照れてんねん、キモいわ」
「いや、あんな・・・俺・・・・・」
「昨日、に告ったんや」
白石の言葉に、俺の心臓が一気に跳ね上がった。
え?何で?何で俺・・・こんなんで、心臓動いてん?
白石が、に・・・告白した、だけやろ?
中学生男子にとっては、普通のことやんか。
それなのに、何で
こないに・・・胸が・・・締め付けられて・・・痛いんや?
「でも、から・・・その、考えさせてくれ・・・言われて・・・」
「せ、せやからアイツ・・・今日休み、なんか」
「皆には、内緒やで?謙也は特別や・・・お前は俺の友達やからな。それに、お前口堅そうやし。
ほれ、小春とかユウジに言うたら、言いふらす可能性あるやろ?せやから、謙也・・・言うんやないで?」
「お・・・おう」
白石は意気揚々と、俺にそう言うてくれた。
でも、本人「考えさせてくれ」言うてるのに
何でコイツこないに嬉しそうなんや?
いや、俺はもう気づいてたんや。
の答えは【YES】ということ。
せやから、白石はこんなに嬉しそうにおんねん。
嬉しそうな、白石を横目に
俺は気づかれんようにため息を零した。
ん?何でため息?
てか、何で俺ため息ついてん?!
いやいや、えぇ事なんとちゃうんか?!
友達に、彼女出来たんやぞ!?それだけでもえぇ事や!幸せなことや!!
それやっちゅうのに、何で俺ため息なんか零してんねん!!!
「謙也、どないしたん?」
「え!?・・・あぁ、いや・・・何でも」
白石の声に、俺は言葉を濁した。
多分、明日が来たら白石、真っ先に俺らに自慢してくるやろうな。
そう思たら、何やまたため息や。
別に惚気ても構わんとか思てねんけど・・・幸せなことやから、しゃあないねんけど・・・けど――――。
胸ん中・・・モヤモヤして、気持ち悪いわ。
「は?蔵に聞いたの?」
「いや、本人がそう言うたんや」
白石が俺らテニ部にを彼女だと言いふらして
しばらく経ってから、俺はに言いふらす前の日の事を話した。
するとは無表情で俺を見ていた。
「そう」
「何や、怒らんのかいな」
「別に、怒る必要なくない?本人がそうしたいなら、させとけば?」
「自分、あっさりしてんなぁ」
「そういうわけじゃ・・・ないけど」
少し、目を伏せては答えた。
――ドクン――
その表情に俺の心臓が、動いた。
でもこの動きは、白石の発言のときに感じたものやない。
あの時のは締め付けられるのと刺されるみたいな痛みやった。
せやけど今はちゃうねん・・・何や、こう・・・跳ねるっちゅうの?
そんな感じに俺の心臓は動いとった。
「ねぇ、謙也」
「お・・・おん・・・何や?」
「これからも、友達で居てね」
は切なそうに、俺にそう告げた。
そのとき確信したんや。
俺・・・の事”好き“なんやって。
でも、は俺のこと”友達“としてで、俺が望んでる関係やない。
それに、俺は友人を裏切る事はできひん。
そう、白石の事を裏切るなんて・・・できひん。
アイツとはえぇ友達やし、部活仲間や。1年のときからバカやってる・・・友達や。
そんな友人から奪うなんて、俺には度胸もない。
むしろ、が「友達で居て欲しい」そう望んだセリフを口から零した時点で
俺は叶わん恋をしとったんや。
白石に頼れん部分を、俺に頼る。
から時々白石に対する愚痴みたいなことも聞いたこともあった。
俺はそれでもえぇって思てた。
きっと白石の知らん顔とか俺の前ではしてると思てる。
それはきっと”本人が望んだ友達“という関係にあるから
俺にそないなこと、言うたんやと思う。
「なぁ、侑士」
『珍しいな、お前から電話してくるなんて』
ある日のこと。
俺は自分から珍しく、侑士に電話をかけた。
あまりにも珍しいことやから、侑士本人もそれなりに驚きの声をあげた。
「・・・よぉ分からんやっちゃ」
『分からんくて当然やって前にも言うたやろ』
「そやけど・・・俺、アイツの事・・・分からんヤツやと思うけど」
「側におりたい気持ちあんねん」
好きやけど、それが伝えきれんで
でも、伝えきれんくても、側におりたい気持ちがある。
気持ちが矛盾しまくってて
わやくちゃ状態なんやけど、自分でもはっきり言えるんは
「俺はの側に居って、助けてやりたい」っちゅうことや。
何を「助けたい」のかよぉ、分からん。
けど、何かしらの救いの手を差し伸べてやりたい。
『お前・・・の事、好きなんか?』
「なっ!?・・・そ、そういうわけと・・・っ!!」
『動揺してる時点で、アホ丸出しや謙也』
「や、やかましいわ!!えぇやろ別に、俺の勝手や!!」
侑士にそう言われ、俺は動揺する。
動揺したのを突かれて、更に俺は正直な気持ちを吐き出さざる得なかった。
「せやけど・・・俺は、無理や」
『どういう意味や?』
「には・・・好きなヤツ、おんねん」
『ほぉーん。なるほど・・・淡い片想いやな、謙也』
「やかましいわ!お前に電話した俺がアホやったわ」
『俺にこんな話する事自体、お前の人選ミスや。次からはもっと別のヤツにせぇ、白石とか居るやろ』
――チクッ――
侑士の言葉に、胸に棘が刺さった。
の好きなヤツこそが・・・白石や、何て言えるわけないわ。
『どないした、謙也?』
「な、なんでもないわ!ほなもう寝るわ、切るぞ」
『に告って失恋して泣きながら電話してくるんやないぞお前』
「せぇへんわボケ!!」
そう言って侑士との電話を切断した。
言えるはずない。
言えるはずないんや。
の事、好きや・・・せやけど、俺が関係を崩してしまえば
白石を悩ませ、を苦しめる羽目になる。
ましてや、2人は付き合うてる。
俺の言葉と行動一つで、2人の関係を崩してしまうと思うと・・・俺には出来ひん。
せやから、片想いでえぇねん。
両想い望まんでも、片想いでもえぇ。
この想いが、片恋でもえぇねん。
ずっと叶う事のない恋だとしても・・・俺はえぇねん。
ただ、近くで、どこか遠くに居るお前を見つめる事が、守る事ができたら・・・それで、えぇねん。
「・・・・・好きや」
俺の片想いの恋は、ずっと、叶う事はないねんから。
(ある日、突然やって来たキミ。其処から始まった僕の片恋)