街に、白い粉が、降る季節が来た。
「うわっ、空・・・見てみ!」
「何?・・・あ、雪」
手がかじかむ寒い季節。
雨が降ってる街を歩いている最中、傘に当る雨粒が聞こえんくなった。
俺は持っていた傘を退かし、上を見上げると
空からは雨粒ではなく、雪が降ってきよった。
「初雪やな」
「・・・・・・」
「?」
吐く息が白く、大気に消える。
隣に居るに初雪が降る喜びを伝えるも
は何も答えん。
俺は思わず彼女の顔を見る。
「?どないしたん?」
「え?・・・あぁ、うぅん、何でもない」
「雪珍しいん?東京じゃあんまり、見ぃひんかったん?」
「いや、東京も降る時は降るよ。珍しくないでしょ」
「ほんなら何でボーっとしてるん?寒くて凍え死ぬで?」
「これしきのことで死ぬバカはいないわよ」
そう言いながらは俺の前を歩く。
いつも迎えやからの首元には何も巻かれてない。
俺は自分の巻いてた若草色のマフラーを解き、の前へと行き
それを彼女の首に巻いた。
「な、何これ」
「寒いやろ、しとき」
「いらないわよこんなの」
「えぇからしとけ。風邪でも引いたらどないすんねん」
「引かないわよ、これしきのことで」
「しーとーけ。俺のぬくもり付きや・・・あったかいはずやで」
俺はそうに言う。
は俺のマフラーを見つめる。
「何や?お嬢様はマフラーだけやったら不服か?」
「そうじゃないわよ、バカね」
そう言って、は俺のマフラーを優しくなびかせて歩く。
少し薄暗い闇に蠢く明るく優しい緑色。
そんな中に降り続く真っ白い雪。
歩くたびに、口から零れる白い吐息。
「初雪やんなぁ〜」
「そうね」
「何やもうちょっと喜んだってもえぇやんか」
「見飽きたのよ」
「はぁ〜。もうちょっと、こう、楽しげにやな〜」
「はいはい」
俺の言葉をばっさりと切り捨てた。
冬の寒さに痛すぎる毒舌や。
「蔵」
「ん?どないしたん」
すると目の前のが立ち止まる。
俺も少し彼女から距離を置いて立ち止まった。
なんやろ、後姿が妙に切ない。
「・・・・・・何でもない」
「え?ちょっ、何やそれ」
「何でもないの、気にしないで」
そう言うては再び足を進めた。
そのときのの後姿が妙に切なくて、抱きしめたくなりそうやった。
せやけど何やアカンって、頭が訴えかけて
できひんかった。
でも、この時俺は抱きしめておけばよかったんやって後悔した。
次の日、雪の降る大阪の町。
愛しい彼女の姿が忽然と消えたのだった。
まるで雪が溶けるのを恐れるかのように・・・そう、静かに。
「白石っ!」
「謙也。それに、ユウジに小春もどないしたんお前ら」
次の日の朝。
学校にやってくると、謙也やユウジ、小春が急いで俺の元へと駆けてきた。
その表情は何やら慌てた表情やった。
3人から吐き出される白い息は、荒々しく外へと出とった。
「何やお前ら、朝っぱらから」
「お前・・・よぉのうのうと居れるな」
「どういうことや?」
「が」
「何や、がどないしたんか?」
「ちゃん」
「昨日の夜からお家に帰ってないねんって!」
「は?」
小春の言葉に、俺は驚きを隠せんかった。
いや、心臓が一瞬止まりかけた。
「ど、どういう事やそれ!?」
「やっぱりお前も知らんかったんか?」
「せやからどういうことやねん!が・・・が昨日から居らんとか」
そんなことない。
だって、は昨日俺と帰った。
それは俺が一番覚えてる・・・せやから居なくなるとか。
「携帯にはかけたんか?携帯くらい・・・っ」
「携帯も部屋置いて消えた」
「は?」
「何でも、ちょっと外に出かける言うて出て行ったらしいねん。夜中になっても
戻ってけぇへんからのお父ちゃんとお母ちゃんが捜索願出したんやと」
「てか、何でお前ら知ってんねん」
「のお母ちゃんが白石のお母ちゃんに電話して俺らに来たんや。お前もう家出た後やったから
多分携帯に連絡入ってんのとちゃうんか?」
謙也は息を切らしながら俺に言う。
俺は言われたとおり、ポケットから携帯を取り出すと・・・着信が入ってた。
開いてみてみると、お母ちゃんからの着信と留守電。
留守電を再生させるため、俺は耳に当てる。
『メッセージが一件です』
『クーちゃん。ちゃんのお母さんから電話あって、ちゃん居らんくなってん。
今謙也くんとか皆さんに連絡して探してもらってんねん。もしクーちゃん、ちゃんの場所とか
知ってたらすぐちゃんのお母さんに連絡してあげて、えぇな?』
お母ちゃんの慌しい声で、留守電にメッセージが入ってた。
アイツ、何処に。
俺の携帯の持つ手が震える。
寒さとかやない・・・わけの分からん恐怖で、が居らんことで
俺の心臓や体中が震えてる。
「白石、お前・・・昨日と帰ったんやろ?何かあいつの様子変わったところとかなかったんか?」
「そんな、急に言われて」
『・・・・・・何でもない』
ユウジに言われ、考えてたら・・・ふと思い当たる節があった。
「昨日」
「何かあったんか?!」
「ケンカとかそんなんとちゃうねんけど・・・昨日、何やのヤツえらい、寂しそうにしとったわ。
雪降り出した途端・・・何や、思い出したくないようなこと思い出して・・・」
切なくて
寂しくて
儚くて
思い出したくない記憶を思い出してたような
は、そんな顔をしとったように俺は思えた。
「あ〜・・・もう何やよぉ分からんわ!とにかく白石、お前の家に行け!」
「は?」
「知ってることあんねんやろ?」
「知ってるっちゅうか・・・・そう俺が感じただけや」
「せやけどこんな寒い中女の子1人は寂しいに決まってるやん。早ようちゃん見つけたらな!」
「せ、せやな」
小春にそう言われて、俺はすぐさま踵を返しの家へと駆けた。
昨日、確かにおかしなことあった。
でもあんまり俺が気にしたりしたら、にかえって
迷惑かけそうやし、あんまり言えんかった。
ただ、抱きしめてあげるべきやったって今更ながら後悔してる。
あの時、あの時もし、の事抱きしめてあげとったら・・・・・・・・。
「あー!!もう、俺のアホっ!!!・・・お前・・・・・何処行ってんっ」
俺がちゃんと、抱きしめてあげとったら
、きっと、いなくなる事もなかったんやないかと思ってしまった。
vanish-消えゆく君-
(寒い、さむい、雪の降る日・・・白い吐息を連れて、彼女が居なくなりました)