しばらくして、俺はの家に着いた。
門前で既に色んな人がバタバタと行き交ってる。
「あっ、白石様っ!」
「ど、どうも」
俺の姿に、運転手さんが足を止めて俺の所に慌ててやってきた。
「お嬢様の事は・・・?」
「テニス部のメンバーから聞きました。すんません、俺・・・っ」
「とにかく中でお話伺いますから、どうぞお入りください」
「は、はい」
そう言われ、俺は中へと慌てて入る。
運転手さん、めっちゃ焦ってる。
そらそうやろ・・・多分、この人二度目やを見失ったんは。
一回目は、全国ん時。
そして二回目は、今や。
それだけやない、の家中の人が焦ってる空気を纏ってる。
いや、家中の人もそうやけど・・・多分のお父ちゃんやお母ちゃんが一番焦ってんねん。
ホンマにあの親不孝娘が。
見つけ次第、二人の分まで怒らなあかんな。
「旦那様!奥様!・・・白石様がいらっしゃいました!!」
「白石くん!」
「白石くん、ちゃん・・・ちゃん、は・・・っ」
のお父ちゃんとお母ちゃんの居る場所に案内された俺に
2人は慌てた表情をしてやってきて、の居場所を尋ねてきた。
せやけど、俺――――。
「すんません、俺・・・が何処行ったとか・・・分からんのですわ」
「そ、そんなっ」
「仕方ないじゃないか。白石くんはをウチに送ってくれただけなんだ・・・その後は知らなくて当然なんだ」
「そ、そうですよね。ごめんなさい、白石くん」
「い、いえ・・・。すんません、何のお役にも立てんくて」
俺が申し訳なさそうに謝ると、のお母ちゃんは「ごめんなさい、取り乱しちゃって」と言いながら
頭を抱え、お手伝いさんらしき人たちに支えられながら
奥の部屋へと入って行った。
おいおい、・・・マジ何処行ってん。
自分のお母ちゃんぶっ倒れる寸前かもしれんぞ。
「すまないね、白石くん」
「いえ、あの、俺のほうこそ・・・すんません。何やお2人に期待させてしもて」
「謝らないでくれ、私たちも君に頼ってしまった部分がある。
白石くんはが私たち以外に唯一心を開いている。いや私たち以上かもしれない・・・」
「え?」
「私たち以上に、は君に心を開いているのかもしれない。だから君を頼ってしまった・・・すまないね」
「え・・・あぁ、い、いえ」
何や、親子なんやけど・・・俺がそういう存在になってえぇんか?とか
思わずそんな風に思てしもた。
「すまないね、白石君。わざわざ来てもらったのに」
「いえ。あの・・・俺、昨日・・・を此処に送ってる最中に気ぃついたことなんですけど」
俺は、昨日不審に思ったことを
のお父ちゃんに話した。かの人は黙って俺の言葉に耳を傾けて
話を終えると、少し考え込んだ。
「、そんな事を」
「見つける参考にもならんのに、すんません」
「大丈夫だ。・・・・だけど、昔のを思い出すなぁ」
「え?」
ふと、のお父ちゃんは窓の外を見る。
俺も同じように視線を映すと、雪が昨日同様に静かに降り、木に小さく雪を積もらせとった。
「引き取ってきた頃も、雪が降った外を窓から覗いたがとても切なそうに見ていたんだ。
あの頃、後ろから少しでも優しく抱きしめてやったらあの子はどれだけ救われたんだろうと
今更だが・・・少し後悔している。大きくなっても、雪が降るたびにあの子は外を切なそうに見ているんだよ」
俺と、同じやった。
この人は俺と、同じや。
俺も昨日、そんなの姿を思て・・・抱きしめてやっとけばよかったって、後悔した。
でも、ふと、思った。
「あの、何で・・・そんな表情・・・」
そう、が何でこない表情せなアカンのか分からんかった。
「あぁ。それは、多分あの子の育った環境が招いたことだと聞いてる」
「育った環境?」
「跡部さんの息子さんか、から聞いてないかい?あの子は寒い冬の日、施設の前に紙切れに書かれた
名前と誕生日と一緒に置かれていたんだ。それからあの子は雪が苦手みたいでね。
たまにそのときの事を思い出したりすると、腕を抱えて寒い寒いって言ってるんだよ。季節関係なく
それを思い出したは突然寒さを感じて震えるんだ」
のお父ちゃんは苦笑いを浮かべながら俺に言う。
そういえば、4月。
保健室で寝てた迎えに行ったら、アイツ・・・寒い言うてた。
部屋は十分ぬくかったし、別に布団羽織るほどのものやなかった。
せやけど、は「寒い」言うてた。
あの時の”寒さ“は、きっと、昔の事思い出してたせいなんやと今更ながら俺は思った。
昔の・・・こと?
「あっ、あの!!」
「どうしたんだい、白石君?」
「く、車出してもらえませんか!?」
「え?どうしたんだい急に?」
「あの、俺・・・・もしかしたら、の居場所分かったかもしれへんから・・・車出してもらえませんか?!」
多分、俺・・・が今、何処居るか分かった気ぃする。
俺がそういうと、のお父ちゃんは急いで運転手さんに車を出させる準備をさせ
それに俺は乗り込んで、黒いベンツが大阪の町を走る。
「本当に・・・」
「は、はい?」
車を走らせてる運転手さんから、疑問の声が飛んできた。
「本当にお嬢様は、其処にいらっしゃるのでしょうか?」
「俺の勘ですけど・・・多分、其処に居ると思います。まぁそれで間違ってたらホンマに
骨折り損のくたびれもうけっちゅうやつですわ」
「ですが、白石様がそうおっしゃっているのでしたら私は信じて其処にお連れするまでです。
此処で間違っていたとしても、誰も白石様を咎めたりは決していたしません。
むしろ咎められるのは私のほうなんですから」
そう言いながら、車が赤信号で止まる。
運転手さんはため息を零しながら、座席に深くもたれかかる。
「ギシッ」と、ふと重くもたれかかれた音がした。
「あ、あのっ・・・!」
「何でございましょうか、白石様」
俺は思わず、運転手さんに話しかける。
「その・・・あの、運転手さん・・・悪ないです!俺、そう思います!」
「え?」
「人間、皆・・・上手くいかん事ってあるやないですか。今回の事に限らず
前、が姿消したことやって・・・運転手さんかて、分からんかったことやないですか」
「白石様」
「せやから、あんまり自分のこと責めんといてください。悪いのは俺も同じですから」
「白石様・・・・・・ありがとうございます」
信号が青に変わった。
車が発進する。
運転手さんは安心したのか・・・ただ、ただ俺に「ありがとうございます」って
そうお礼を言うてくれた。
何て言うたらえぇんか、よぉ分からんかったけど
あんまり自分責めたらアカンって思ってたし、俺かて、が居なくなるの止めれんかったんやから。
誰が悪いとか、そんなん関係ないねん。
ただ、が黙って出て行くのはアウトや。
心配する分かってんのに・・・あのお嬢様は、ホンマに。
「しかし、早くお迎えにあがらなくてはいけませんね」
「え?どういう、ことですか?」
大阪市内を出て、少し雪の降り方が激しくなった。
まぁ吹雪ってまでいかん程度の降り方。粉雪が風に吹かれてる程度や。
俺、車ん中に居るからよぉ外の寒さとか分からんけど
結構寒いと思う・・・雪降ってるくらいやし。
「お嬢様、ポーチと軽いジャケットとそれと・・・」
「それと?」
「明るい、緑色をしたマフラーをお持ちでお出かけになったんです。
アレはお嬢様が持っているお色のマフラーにしては珍しくて。よく覚えております」
明るい、緑色をしたマフラー・・・それは俺のマフラーや。
昨日、・・・厚手のコートは着てたけど
マフラーもしてへんかったから俺が、自分のをあいつの首に巻いたんやった。
携帯持っていかんと、何で俺のマフラーは持って行くねん。
「お嬢様・・・とても、大事そうにそのマフラーだけはしっかりお持ちになっておられました」
「え?」
「きっと、旦那様か奥様がお嬢様にプレゼントしたものでしょうね」
「え?・・・あぁ、はい、そうやないですか?」
大事そうに、マフラーだけは・・・・・・・・・か。
ホンマ、あのお嬢様・・・どんだけ俺を困らせて、夢中にさせたいねん。
ふと、窓の外を見て―――――。
「待っとれよ、」
そう、呟いたのだった。
melt-君が溶けてなくならないように-
(雪に埋もれそうな君の心。僕がそっと包んで温めてあげたい)