全国大会も終了し
ようやく平穏が訪れた。

でも、蔵たち3年生は下級生である
光や金ちゃんたちに教えなきゃいけない事が
まだまだあるらしく、残り少ない時間を
練習へと注いでいた。


私はというと、2学期が始まれば
本格的に受験生になるのでそれにむけてしっかりと
勉強に打ち込んでいた。




机の上で、ペンを走らせていると
ふと目線が右の小指に止まる。





蔵から貰ったピンキーリング。



今まで首から提げていたものだったのに
指輪へと形を変えて、私の指にしっかりと嵌っている。








『好きやで







貰ったのが昨日で、脳裏にリングを渡して
私に微笑みながら告白した蔵の顔を思い出して思わず顔が赤くなる。





「バ、バカッ・・・な、何私顔真っ赤にしてんのよ!勉強、勉強っ!」




ふと我に返り、私は再びペンをノートの上を走らせる。
それでも、目に止まる・・・ピンキーリング。

そして、脳裏を過ぎる蔵の顔。



手を上へと持ち上げ、改めてその手に嵌ったリングを見る。






「新しい、形・・・新しい、思い出・・・・・・か」





ネックレスの時も、十分に詰まっていた。
だけど、リングにしたら・・・その思い出がもっと、もっと詰まっていったような気になった。


これから、さらにこの中に・・・私と蔵との思い出が
たくさんたくさん・・・詰め込まれていくんだ。


悲しい時も、苦しい時も、嬉しい時も、楽しい時も・・・ずっと、ずっと――――。






「ずっと、一緒に居れたらいいね・・・・・・蔵」




リングを見て、そう呟いて私は微笑んだ。







------コンコン!




お嬢様。魁です』





「魁さっ・・・っと、きゃっ!?」





外から魁さんの声がして、私はそれに答えようとした途端
椅子を後ろ半分で体重を支えていたので、思いっきり後ろに倒れた。

頭ぶつけたわよ思いっきり。





「お嬢様!?いかがなさい・・・ました、か?」


「アハハハ・・・椅子から、倒れちゃって」






スゴイ物音に、ビックリした魁さんが部屋に入ってきた。
私は椅子に座った体勢で、床に倒れたまま苦笑を浮かべ魁さんを出迎えた。

そんな私の体勢を見て、魁さんはポカーンとした表情を浮かべていた。






「お、お怪我は?」

「大丈夫です。ただ、頭をぶつけただけですけど気にしないでください」




私は椅子から離れて、頭を支えながら立ち上がる。
そんな私に魁さんは慌てながら近寄ってくる。




「本当に、大丈夫なんですかお嬢様?」


「平気です。あ、それより何ですか?」




魁さんはよっぽどの事がない限り、私の部屋にはやってこない。
まぁ多少の声掛けとかそういうのはあるけれど
何をしにこの人は私の部屋に来たのだろうと、すぐさま魁さんに問いかけた。




「あぁ。旦那様と奥様がお呼びです」


「お父さんとお母さんが?あれ?今日仕事じゃ」


「一旦お戻りになられて。何でも、重要なお話があるとの事でお嬢様を呼んで欲しいと」


「重要な、話?」



朝方2人で仕事に行ったのに、わざわざ一旦戻ってきて
私に重要な話しがあるなんて何事だろうと思ったが。

とにかく、私は話を聞かなきゃ分からないというので
私は二人が待っているリビングにと向かった。













「旦那様、奥様・・・お嬢様をお連れしてきました」



「ありがとう、魁」

「もう下がっていいわよ」


「はい、では」




リビングに連れられてやってきた私。
魁さんは連れてきた私をお父さんとお母さんの前に出すと
すぐさま引っ込んだ。

あれ?魁さん抜きで話をするという事は・・・相当重要なことらしい。


魁さんが居る時は、大体そこまで重要視とする話ではないのだが
かの人がこの場から外されたとなると、やはり・・・何か重要な話に違いないだろう。





「すまないな、。急に呼び出して」


「え?・・あぁ、いや・・・別にいいけど。話って、何?」






お父さんがソファーに腰掛けながら、私に謝る。
私は別に気にすることではないと、言葉ながらに簡単に言った。


私が話の内容を問いかけると、お父さんとお母さんは顔を見合わせる。


え?何・・・そ、そんなに重い話なの?

だ、誰か亡くなったとか?お父さんのご両親?お母さんのご両親?とか
自分の中で色々考えを張り巡らせていると――――。






、聞いてくれ」



「え?あ、はい」



「とても重要なお話なの。ちゃんの考え無しに私達だけじゃ
やっぱり決め兼ねないから、ちゃんも聞いてほしいお話なの」



「ぅ、ぅん」



私にも聞いて欲しいって・・・一体、どんな話なのだろう?





「実はな――――」







「え?」
























1時間後。

私は自分の部屋に戻ってきた。
扉を閉めて、顔を伏せ・・・ため息を零した。

ため息を零すには理由があった。
先ほど・・・お父さんとお母さんと話をしていた。
とても重要な話というから、私は絶対に聞き逃すことなく聞いていた。

だが、あまりにも今の私には酷な内容過ぎて
言葉が出てこなかった。



『すまない。だが、焦らなくていい・・・。少しだけ、考えてくれないか?』

『お父さんもお母さんも、今は無理に答えを出して欲しいなんて思ってないわ。
ちゃんの気持ちの整理がついてから話してちょうだい』



そう2人は私に優しく促して、仕事へと戻って行った。





「何か・・・あぁいう話されたら、顔合わせづらいんだけど」




気持ちの整理というか、正直あんな話されたら
夜とか顔合わせづらいことこの上ない。


何を話せばいいのやら。


そう頭の中で考えていると、机の上に置いた携帯電話がバイブレーションで何かを知らせる。

バイブレーションにしてるから多分電話だ。



とにかく、お父さん達の話は考えておこう。

先に電話・・・もしかしたら蔵?とか思いながら
私は携帯電話を取り上げて電話に出る。





「もしもし?」


『俺だ』


「何だ跡部か」




蔵かと思ったが、元婚約者の跡部だった。
ちょっとテンションが落ちる。




『何だその言い草』


「別に」


『白石じゃなくて悪かったな』


「だ、誰もそんなこと言ってないでしょ!か、勘違いしないで!!」


『そうやって俺に反抗してる時点で、白石からの電話だと思って出たんだろ』




こんのヤロウ。

蔵もそうだけど、時々跡部のあの綺麗な顔を殴ってやりたいと思うときがある。
やっぱり跡部は一発殴るべきだった・・・大阪に戻ってくる前にでも。

私は携帯を耳にあてながら、片方の手、握りこぶしをおさめ
電話元の跡部に話しかける。






「んで、何の御用でございましょうかお坊ちゃま?」


『気色悪い言い方やめろ。・・・それよりも、話は聞いたか?』


「は?何の?」





いきなり「話は聞いたか?」って言われても
主語を言え、主語を!って思わず電話元の跡部に怒鳴りそうになった。




「話って・・・何の?」


『お前の両親が、お前に話したことだ。聞いたのか、聞いてないのか?』


「・・・さっき、聞いた。てか、何であんたが知ってんのよ!」


『呼び寄せたのはウチだ。知ってて当然なんだよ・・・だからお前に電話した』


「意味分かんないんだけど」




跡部の言っている事がよく分からない。

何が言いたいんだ、このお坊っさまは?





『俺はとりあえず、お前にアドバイスをしに来た。これをお前の親たちの
策略かそうでないかはお前自身で考えろ』


「だからどういう・・・っ」
























『こっち(東京)に戻って来るという前提で俺はこの話をするからな。そのつもりで聞け』
















一難去って、また一難?


どうしてこうも神様ってさぁ・・・幸せな時間を多くは与えてくれないんだろう。


もっともっと、蔵の側に居たいんだよ。

もっともっと、蔵と楽しいことしたいんだよ。


もっともっと――――。








、好きやで』







貴方に愛されて居たいのに・・・・・・どうして?





















----------PRRRRRRR・・・ガチャッ!




『もしもし、か?どないしたん?』


「うん。・・・あの、さ。・・・蔵、明日暇?」


『明日?・・・あー、アカン。明日は東京から青学さん来て合同練習せなアカンねん。明後日やったら
オフ入るから、それやったらえぇけど?』


「じゃあ、明後日でいいよ。デートしよっか」


『おまっ・・・どないしたん?自分から俺をデートに誘うとか・・・明日雪でも降るか?』


「ヘンな事言わないで。いいでしょ、私からデートに誘ったって」


『うーん、まぁえぇけど。からデートのお誘いとか嬉しすぎて明日の合同練習張り切れそうや。
ほな、明後日迎えに行くで』


「いいよ、梅田まで行く」


『えぇて。デート誘われたけど大事な彼女迎えに行くくらいデートのうちに入らんやろ?せやから迎えに行く、待っとき』


「ぅ、ぅん」


『よっしゃ。ほな、明後日・・・朝10時でも大丈夫か?』


「平気」


『ほな、明後日の10時に白石蔵ノ介、お嬢様をお迎えに上がるとしますわ』


「バ、バカ」


『アハハハ。俺、明日早いからもう切るで・・・ゴメンな、


「いいよ。電話したの、私だから」


『さよか。ほな、明後日な。・・・おやすみ』


「おやすみ」









私は通話を切断して、携帯をベッドに投げ
蹲って、泣いた。




もう、もう何も考えたくない。


もう、もう誰かの側を離れるなんてしたくない。



明後日で最後なんて、私やだ・・・イヤだよ。










「蔵っ・・・くらぁ・・・やだぁ・・・私、やだよ・・・」










大阪を離れるなんて



蔵の側を離れるなんて





私、そんなこと・・・出来ないよ。







空白の未来のページ
(その先にある未来が、見えない)

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